良き銃のためのイントロダクション
「至高の魔弾賞」!!
……それはここミレニアムサイエンススクールで行われる銃設計コンテストだ!!
ルールはいたって簡単、期間中の1週間で最高の銃を製作すること!!
形態は自由!!
ただし……美しく、独創的で、何より「最高の一発」が撃てることが条件!!
いざ!!持てる技術の
「──それで、エンジニア部はそれに参加するんだ?」
「ああ、単純な銃設計の経験というのももちろんだが、ミレニアムの生徒の銃に対する『美観』というものも学べるからね」
曰く、美しさにはロマンが宿る、んだそうだ。
「今回のコンテストについてだが、私たちは特別ゲストをお招きすることにした」
「へえ、エンジニア部がどこかと共同で何か作るって珍しいね」
「前回大会で知り合った生徒がいてね、個人的に馬が合ったから一緒に作ろうって誘ったのさ。そろそろ来てもいい頃合いなんだが……あっいたいた、ヒトミちゃーん!!」
名前を呼ばれた生徒がこちらに気付くと、表情を輝かせて駆け寄ってきた。
「ウタハちゃーん!!ひさしぶりー!!」
積年の思いを晴らすかのように2人は強くお互いを抱き留める。
「ほんとに久しぶりだね、2年ぶり?」
「ああ、あったのが前の大会だからそうだね、2年ぶりだ。元気そうでよかったよ。今は何してるんだい?」
「ふふーんそれがですねぇ、なんと銃砲科の学科長になっちゃいました!」
「プレローマの学科長っていったら相当上の方の人じゃないか!やるねぇ」
「えっへん、ウタハちゃんはずっとエンジニア部?」
「ふふふそうだね、でもそれなりに職責が増えちゃったからね、そんなに自由にやれてるわけじゃないよ」
ほんとにそうだろうか?傍から見ている分には今も十分自由にやっているように見えるのだが……
「そういえば座長さんはお元気かい?」
「そりゃもう現役バリバリ座長3年目だよ!まあスケジュールが空いて無かったから来てないけどね」
「ん?座長3年目?今何年生なの?」
「ああ、先生は知らないだろうね。プレローマ高専は5年課程なんだ」
「今の座長は5年生だけど、生徒不足で3年生から座長やってたって感じだよ」
なるほど、キヴォトスは広い、そういう制度もあったりするのか。
「ああそろそろこちら側の紹介をしないといけないね」
「ちょっと待って、せっかくのいい機会だから、うちも連れがいるんだよね」
どこいったっけ~?と歩き回って、1人の生徒に大声で呼びかける。するとその生徒はやっと見つけたとばかりに小走りでやってくる。
「先輩〜やっと見つけましたよ〜勝手にどっか行かないでくださいって〜」
「ゴメンゴメン、ミレニアムは久しぶりだったからテンション上がっちゃってね」
2人は息を整えたあと、こちらに向き直って喋りだす。
「それじゃあ自己紹介だね、プレローマ高専3年、銃砲科学科長をしています神谷ヒトミと申しまーす!よろしくお願いしまーす!」
彼女は明るくキャピキャピとした喋り方とは裏腹に、膝まで届く長い黒髪をなびかせている。前髪で右目を隠したスタイルには、ミステリアスな雰囲気をもまとわせている。
「は……ハイ!プレローマ高専1年、銃砲科に所属しています
深々と頭を下げる1年生の頭には丁寧に編み込んだ髪が留められており、おしゃれへの意識が窺える。だがその影から現れた背中には物々しいボンベが背負われており、ただの女子高生とは思えなかった。
続いてエンジニア部の3人が自己紹介する。
「部長の白石ウタハだ、よろしく」
「1年生の猫塚ヒビキです」
「1年生の豊見コトリです!」
3年生が2人に1年生が3人か、これはなかなかやりやすいバランスかもなと思った。変に上下関係で委縮してはできることもできないだろう。そういう意味で、自由闊達な議論が行われそうな感触がした。
そして私も名乗り出る。
「あーっ!噂の先生だ!こーれはうちらの腕を見せつけてやらないといけませんねーっ」
ヒトミはホムラの肩を抱いて意気込んでみせる。
「じゃあそろそろエンジニア部の工房に案内しよう。ついてきてくれ」
「あぁー待って!ちょっとうちらの引率がいるからせめて挨拶だけさせて!」
「引率?」
「あんまり私たちが変なことをしないようにっていう、実質お目付け役です。別に今回の製作に口突っ込むわけじゃないんで、そんなに気にしないで欲しいんですけど……」
「どっちかって言うと変なことをするのは
「先生、それは流石に私たちに対して信頼がなさ過ぎじゃないか?」
ははは、言葉の綾だよ……と誤魔化していると、ヒトミが2人の引率を連れて戻ってきた。
「はいはーいお待ちどうさんでーす」
「この人たちがお守りの人?」
引率の1人が、また変なこと吹き込みやがってとばかりにヒトミを睨みつける。するとヒトミはそんな変なこと言ってないってーと苦い表情をする。
「おっほん、それじゃ紹介するね。こっちは早乙女ムギホちゃん、生産科っていううちの工場運営とか会計とかをぜーんぶやってくれてるとこの学科長だよ」
「よろしくお願いします」
彼女はうやうやしく名刺を取り出して1人1人に配っていく。鋭い目つきにシワ1つ無い制服も相まって、とても厳格そうな生徒だ。
「んで、こっちは魚住キズナ先輩、副座長っていう、要するに
「んぐっ、よろしくお願いしまーす」
こちらは齧っていたスティックパンを飲み込んて挨拶をする。小柄で正直肩書の割に威厳が感じられなかったが、敬称を使われるくらいの尊敬はあるのだろう。
「これで面子は全員かい?」
「うん、お待たせしましたー」
「よーし、それじゃ行こうか!」
私たちはぞろぞろとエンジニア部の作業場へと歩いていく。
やはり他の学園からの来訪者となると好奇心に火をつけるのか、次から次へと質問が飛んでいく。しゃべり好きなのか、ヒトミは雨あられのように降り注ぐ興味の矢面に立って答えていく。
「やっぱり銃砲科長ってなると山ほど銃作ってるんですか?」
「うーん、いくつぐらい作ったっけ?確か制式採用が8丁くらいだったかな?んでライセンス出してるのが3丁くらい?」
「それって多いの?少ないの?」
「在学中に制式採用になるのが4~5丁くらいって言われてるから、1人で通した計画としてはまあ多いんじゃない?」
後輩としてはどうなんだろう?とホムラの方を見やると目を逸らされてしまった。どのような意味にしても、後輩にとっては規格外の存在なんだろうなということが窺えた。
「まーなんだかんだ余所の学校とかにも採用してもらえてありがたい限りだね。最近はどこだったかな?あーそうそうSRTに1丁採用してもらったりしたね」
「へー、それじゃあ私も見たことあるかもしれないな」
銃を使う人がいれば銃を作る人がいる。思ってもみない繋がりが生まれたりするものだ。
「そうそう、確か
ヒトミはホムラの銃をひょいと掴んで周りに見せる。短機関銃……のようだが、野太いパイプとホースが伸びている。
「何これ?短機関銃と……火炎放射器?」
「ほほう、ニコイチ銃か、なかなかユニークだね」
「火炎放射器か……私は使ってるの
「説明しましょう!火炎放射器とは可燃性の液体に火をつけて噴射する機構を備えた武器です!装備としては片方に燃料、もう片方に噴射用の高圧ガスを詰めた2つのタンクを使います!焼き払うという目的がそれなりの距離と範囲に渡るため、一般的に連想されるガスバーナーのような炎ではなく、燃える液体燃料を浴びせかけるような炎になります!ちなみに燃料が液体とガスに分かれる点についてですが、単純な直鎖構造のアルカンを例に挙げますと、炭化水素の鎖状構造が長くなるに連れ、分子間力が増大して揮発するために必要なエネルギーが──」
マシンガントークに花が咲くコトリをウタハとヒビキがひとまず退かし、話を戻す。
「はーいそれじゃあホムラちゃん説明してあげて」
「わっ、分かりました!」
突然振られたためか暫し狼狽えつつも、ホムラはすぐに口頭説明に入る。
「この銃は弾丸の撃ち合いになると弱いという火炎放射器の欠点を補うことを目的としました!短機関銃との組み合わせは、取り回しのしやすさの他、30m前後の戦闘距離という点で火炎放射器には十分と判断した結果になります!長距離攻撃には弱いですが、それは近接戦闘武器には広く言えるので、度外視できるとしました!」
「ほほう、なかなか良いコンセプトじゃないか?」
「Bluetooth付けると、もっと良くなると思う」
「それはヒビキの趣味じゃない?」
銃1丁だけでも小さな議論の花が咲く。それなりに好意的な反応にホムラも緊張の糸をほぐす。
「ねー良いでしょー?この設計ね、ホムラちゃんが1から考えたんだよー?まー、形になるまで紆余曲折あったけどね、50回くらいボツにしたんじゃなかったっけ?」
「43回です……」
ホムラの表情があっという間に曇る。43回もダメ出しを食らったら流石に私も心が折れてしまうかもしれない。
「それにしてもボツなんて出るもんなんだね。エンジニア部はどんな案でもすぐゴーサイン出してるから、ちょっと以外」
「むむ、先生、それはまるで私たちが節操なしみたいじゃないか?別にそんなことはない、彼女たちの出すアイデアが常にロマンに溢れた素晴らしいものだからだぞ?」
「そ、そうだね……」
「まー
それもそうだろう、別に手段に絶対的な良い悪いがある訳ではない。良い結果のために進む道が違うだけなのだ。
「それはそれとして、今回はミレニアムで作る訳だし、私たちもミレニアム流で作ろうって思ってるよ。たまには違うやり方でやるのも、刺激になるしね」
そう言ってヒトミはホムラの頬をプニプニとつつく。きっと可愛い後輩のために、いろんな経験をさせてやろうとしているのかもしれない。そう考えると、彼女たちの間にはエンジニア部とは違う、師弟愛のような関係性があるのだろうと思えた。
「さあ着いたぞ、今日からここで作業だ!ぜひとも最高の1丁を作り上げることにしよう!」
「「「「おーーーっ!!」」」」
ここに、かけがえのない共同作業の幕が上がった。
お読みいただきありがとうございます。
今回からエピソード2つ目です。うまくわちゃわちゃ感を書いていけるといいですね。
次回もよろしくお願いします。