「さて、今回設計する銃についてだが、まずはどのような銃種にするか、弾丸をどうするかといった部分から検討を始めよう」
エンジニア部の作業場には何台ものホワイトボードが並べられ、「最高の1発」のためのブレインストーミングが行われる。今はまだ真っ白なフィールドだが、直に僅かな隙間を埋め尽くすことになるであろうことは容易に推測できた。
「大会の趣旨を最大限に尊重するならば、やはりここは──『ロマン』を追求するべきだと思う!!」
「ハイ!装薬量を10倍にするのがいいと思います!!」
「多薬室砲ってのを試してみたい」
「ホムラちゃんはどんなのがいいー?」
「ええ!?えっと……そうですね……」
各々が思い思いにアイデアを出し始めるが、そこに一筋の抗議が飛んでくる。発言者は生産科長、
早乙女ムギホだった。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
行われている議論が信じられないかのように慌てながら、ムギホは声を荒らげる。
「んー?ムギホちゃんどうしたの?」
「何かご意見かな?是非ともお聞きしたいところだが」
3年生2人は困惑をよそに聞き返す。あまりにも平然とした返答にムギホは自分の認識を疑うかのようにおずおずと尋ねる。
「いや、この大会ってそんなに何でもありみたいな感じなんですか?それこそ重量規定とか、全長制限とか、装甲貫徹能力とか、なにより──予算規模はどの程度なんですか!?いくらワンオフだとしても無制限に金をかけられるわけでは無いでしょうに……」
大会の勝手を知るウタハとヒトミはちらと視線を交わした後に無慈悲な返答をする。
「そんなもの」「ない!!」
さらにヒトミは言葉を失って唖然とするムギホの肩を抱いてささやく。
「ムギホちゃん、いつもみたいに何万ロットと作るわけじゃないんだから、そんなに気にしなくていいんだよ?それに審査会通さずに製作できる機会なんて滅多にないんだから、思いっきりやらないと、ね?」
ムギホの苦々しい表情にウタハがさらに追い打ちをかける。
「予算についても心配はいらない。この大会の諸経費はすべてセミナー持ちだ」
「え!?えぇ!!?──な、なるほど、分かりました。おいヒトミ!帰ってからやっぱり作りたいみたいなこと言いだすのは無しだからな!」
「はいはい分かってるってー」
とりあえず降って湧いた疑問は解消されたようだ。替わりにこの大会がユウカの胃を痛めるタイプの大会だということも明らかになったが……
「2人とも、この際ミレニアムを観光でもしてきたら?どのみち期間はまだあるんだし、今からピリピリしてても仕方ないよ」
このまま張り付かせていれば引率の2人──特にムギホは心労で体調を崩しかねないだろう。彼女たちにとって他の学園に出張することは稀であろうし、少しくらい羽を伸ばすのもアリじゃないだろうか?
「いいんでしょうか?少なくとも私は今回監督として来ているつもりなのですが……」
「ある程度だったら私が代わってあげられるし、行ってきなよ」
「そうだよ、制作現場だけ見るのが経験じゃないと思うよ」
副座長のキズナはどこからか取り出したグミを摘みながら同調する。
「は、はぁ……ではお願いしてもよろしいでしょうか?」
「うん、任されたよ」
「はい、ありがとうございます。ああっちょっと副座長!引っ張らないでください!」
ムギホはキズナに引きずられて、ミレニアムの街へ繰り出して行く。
「よし、それじゃあ任されたことはやりますかね」
作業場の様子を伺うと、既にホワイトボードの半分が真っ黒に染まっていた。エンジニア部と銃砲科も打ち解けたようで、誰に促されるでもなく発言しているようだ。
それでもやはり同じ学年の方が喋りやすいのか、3年生と1年生で固まって議論している。
「まずは1年生組から見てみよっかな」
ヒビキ、コトリ、ホムラの3人の議題は弾丸をどうするかについてのようだ。
「弾種だけでも考えることは結構あるね、既製品を使うか、改造弾を使うか」
「思い切って弾も新規設計する、というのもアリではないでしょうか?」
「ホムラさんは専用弾薬も使う派なんですね!」
「いや、単に先輩に専用弾薬を使ってる人がいるからってだけです……私はまだ作ったことはないんですけど……」
へぇ、弾薬にも専用のやつってあるんだね、と素人並みの感想を投げ掛けてみる。
「はい、射撃の目的の違いですとか、根本的な改良のために弾丸が新規設計されることはあります。ただあんまり個性的だと価格が跳ね上がるので、
「量産も大変だしね」
確かプレローマ高専は生産品を売って財政を工面しているという話だった。それを考えれば、商品として稼ぎにくいものを作らせてほしいと言っても通りにくいのは頷ける。
「それはそうと、先生は何かアイデアはありますか!?」
コトリが話の流れを戻す。
「うーんそうだなぁ、私銃にはあんまり詳しくないからなぁ」
実際のところ、シャーレの業務の中で私が銃を触る機会はほぼ無いに等しい。普段から携帯していないというところもあるのだが……
「あっでもね、キヴォトスに来たての頃、試しに撃たせてもらったことがあるんだけど、やっぱり反動が大きいんだね。生徒のみんなは綺麗な姿勢で撃つから、すごいなぁって思ったよ」
「ほほーぅ、なるほどですね……あっ!それなら発射反動を無くしてみるっていうのはどうでしょう!?」
「
ホムラがホワイトボードに図示して見せる。銃口から弾が出ると同時に、後ろからも硝煙が噴き出しているような感じだ。
「なにこれぇ?ロケットランチャーみたいな感じ?」
「先生、ロケットランチャーと無反動砲は違うよ」
「あれっ、そうなの?」
「説明しましょう!ロケットランチャーと無反動砲は前からも後ろからも噴射物が存在するという点では似ていますが発射方式は別物です!ロケットランチャーはその名の通りロケットを飛ばします!即ち弾丸そのものに燃料が付属しており、弾丸そのものが推進力を発生させる仕組みになっています!一方無反動砲は発射薬によって弾丸を飛ばすため、ロケットランチャーとは別の仕組みで動作する訳です!無反動と呼ばれているのは、弾丸の発射と同時にバックブラストを飛ばして反動を相殺していらからなんですね!ちょうど前方向の反動と後ろ方向の反動をかち合わせているようなものと捉えてもらえば良いと思います!ちなみに反動の相殺方式は大きく3つに分かれておりまして──」
「あっでもこれだとバックブラストが射手に直撃しちゃうね」
「それじゃあ採用できないですね……」
コトリの解説を脇に置いてアイデアがボツになっている……やはり私の素人発言では上手くはいかなそうだ。
「なんか邪魔しちゃったみたいな感じでごめんね」
「ううん大丈夫、
「また意見を聞かせてください、先生」
うん、また来るよ、と言ってその場を後にする。
「3年生組はどうかな?」
ウタハとヒトミの2人は絶賛議論中であった。しかし1年生たちと比べると語気は荒く、互いに厳しい批判の応酬になっているようだ。
「やはり発射レートは優先度が高い、多砲身構造にする利点は十分あると思うのだが?」
「いやーどうかなー?そのレートを目指すなら多砲身化は絶対に必要って気はしないなー、それよりも給弾と排莢周りを手堅くする方がいいんじゃない?」
「2人とも、大丈夫?」
2人はよほど集中していたのか、あっと気づいてこちらに言葉を返す。
「すまない、先生、結構話がいい感じに進んでいたものでね」
「そうなの?結構バチバチに見えちゃったけど」
「こんなのが喧嘩に見えたらうちの審査会とか戦争に見えちゃうかもねー」
「そう、適切な批判はより鋭くアイデアを研ぎ澄ませるものさ」
思ったより2人に敵意はないらしい。相手の意見が自分の意見を良くしてくれるという信頼あってのものだろう。とてもいい関係だと思う。
「それはそうとヒトミ、さっきから出てくる審査会ってすごい大変な感じがするけど、どんなものなの?」
「あっ気になりますー?まぁ正式には『基盤研究審査会』って言うんですけど、生徒たちが『これやりたい!』ってなった計画を、座長と副座長、あと学科長のみんなで審査するっていう会ですね。予算とかも審査会突破しないと付かないんで、大事な会です」
「学科長──ってことはヒトミも出るんだね」
「そうですねー、だいたい会議室にエラソーに座って、これじゃダメとか、やり直しとか言ってイジメる仕事ですね」
ヒトミは大げさな素振りをして悪ぶってみせる。もっとも、わざとらしい部分を差し引いても、計画を出す側にとっては辛い場であろうことは想像に難くない。
「へぇ、
「へー、
なかなか興味深い話だ、結果を重視するか、計画を重視するか、それぞれに上手くいく部分とそうでない部分とがあるのだろう。
「あっなんか話を逸らしちゃったね、さっきは何の話をしてたの?」
「先生、気にしないでくれ、どのみち議論は始まったばかりだ。さっきの話題もいずれ記憶の彼方に飛んでいくさ」
「そう?私1年生のところでも適当なこと言っちゃったから、ちょっと悪いなーって思ってたんだけど」
彼女たちが良いなら本当に大丈夫なのだろうが、やはり言ってしまった人間には気まずいものだ。
「まー敢えて話を戻すなら、個人的に内部構造はもっとシンプルで美しい方が良いなーってことだね」
「ヒトミちゃん、君のその美しさへのこだわりは正直感心するよ」
「……銃の美しさって、具体的にどんなこと?」
「うーん、そうですねー」
ヒトミは近くの机に置かれていた拳銃を手に取る。
「銃っていうのは、ただ弾と火薬が入った筒っていうわけじゃないんです。どのように信管を叩くか、火薬が燃えたガスをいかに封じ込めるか、どのように次の弾を装填するか、そしてそれらがどのようにお互いを邪魔せず動作できるか──」
ヒトミは右手でグリップを握り、ゆっくりと射撃の構えを取る。
「もちろん、変に使い手に負荷をかけてはいけません、まあキヴォトス人は多少の反動にはびくともしませんが──」
バァンと呟いて射撃の真似をする。振り上げられた右腕とは対照的に、スラリと伸びた背筋、足、しなやかな黒のロングヘアには僅かな乱れもない。この姿勢の美しさというのも、彼女のこだわりの範疇なのだろう。
「射撃のひとつひとつに関わる要素をいかに簡潔にできるか、というのが私の銃製作のテーマです。複雑な機構はいくらでも載せられますが、上手く動かなければ意味がありませんからね」
ヒトミはうふふと笑って拳銃を机に置きなおす。
「へぇ、エンジニア部と話してるといつもロマンの話ばっかり聞くから、キヴォトスの技術者はみんなそんな感じかと思ってたけど、聞く限りだとだいぶ違う感覚なんだね」
「別に感覚の違いが立場の対立に繋がる訳じゃないさ、同じような造形が、元々は違う設計思想に基づくものだったなんてのも、よく聞く話だからね」
ウタハの話にヒトミもうんうんと頷いて見せる。やはり同じ技術者同士相通じるものがあるのだろう。
「あっそれで思い出したんだけど──」
ヒトミが話を再開させると、再び議論がヒートアップしていく。
「私の出番は、おしまいかな?」
私はヒトミとウタハの会話を流し聞きながらその場を後にする。
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「──いやー宇宙かーいいねー私も行ってみたい!」
「行けるさ、私たちにできて君たちにできないなんてことはないだろう」
「そんなことないよー、私たちがやってるのなんて穴掘りだよ?」
「だとしてもさ、下だろうが上だろうが進んでいけば辿り着ける」
「そうかな……そんなもんかな――」
お読みいただきありがとうございます。
コトリが出てくるからにはちゃんと長文解説させよう!と思いながら書いています。そう、前回今回とコトリの解説ありきの回です。私の銃知識の無さが露呈しますね。
次回もよろしくお願いします。