空と夢と星と青春   作:イメージの裏切り

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良き銃のためのオブリゲーション

「至高の魔弾」賞5日目──

 

 今日のみんなはどんな感じだろうかとエンジニア部の作業場へ向かっていると、ユウカにばったり出くわした。

 

「あっ先生、お疲れ様です、今日は何のご用事ですか?」

「うん、エンジニア部が銃作ってるから、様子を見にね」

「あぁ、あの大会ですか……」

 

 そういえば大会の経費はセミナー持ちとかいう話だったはずだ。大会全体で起こりうるであろう種々の事故を鑑みれば、なんとも憂鬱なユウカの表情も理解できる。

 

「だ、大丈夫?」

「は、はい、大丈夫です。開催自体はあらかじめ決まっていたことなので、損害も計算の内です……」

 

 無い方が良いはずの損失を計上しなければならないというのも、なかなか酷な話だ。私はとりあえず、ユウカの気分を持ちなおすこと試みる。

 

「そ、そうだ、せっかくだし2人でお茶しない?」

「えっ……いいんですか……?じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」

 

 どこがいいかと暫し検索した後、2人で近くのカフェテリアに向かった。

 


 

 カフェテリアに着くと、見覚えのある影があった。

 

「あれ?ムギホとキズナ?」

「むっ、先生、どうもこんにちは。そちらの方は?」

「あぁ、セミナーの会計のユウカだよ」

「早瀬ユウカです。あなたたちがプレローマ高専の生徒ですね?お話は聞いています」

「あぁどうもどうも、(わたくし)生産科長をしております早乙女ムギホといいます、どうぞよろしく」

 

 初日と同じく素早い手つきで名刺を取り出してユウカに差し出す。するとムギホは少し考え込んでから尋ねる。

 

「会計のユウカさん……ということはあの『冷酷な算術使い』のユウカさんですか?」

 

 え゙、ま、まぁとばかりにユウカは返答をする。その表情はすこぶる嫌そうだが……

 

「えーっ!本当ですか!?いやーっいいですね!私もそういう異名付きで呼ばれてみたいと思ってるんですよ!うわー羨ましいなーっ!!」

 

 ムギホは初めて見せるような晴れ上がった表情でテンションを上げる。もっとも、私とユウカには困惑しかないが……

 

「えっ、ちなみに、その呼び名、どこで聞いたんですか……?」

「えっ、なんか普通に、ピンクと緑の双子っぽい生徒が話してるのを聞いたんですけど……」

モ──モ──イ──ッッッ!!

 

 これはお説教ルートだな、口は災いの元とはよく言ったものだ。

 

「──なんか私悪いこと言いました?」

「ムギホちゃん、その呼び名はあんまポジティブじゃないと思うから、やめようね」

「あっ、そ、そうなんですか……、ユウカさんごめんなさい、ご気分を害してしまったみたいで……」

 

 いえっ、気にしないでください、とユウカは歯を食いしばって答える。

 

「まーみんな落ち着いてー?おねーさんが飲み物取ってきてあげるからさ、みんな何がいい?」

「キズナ、そんなに気を遣わなくていいよ?」

「まぁまぁムギホちゃんが失言しちゃったわけですし、お詫びも兼ねてですね」

 

 そういうことなら、と私とユウカはコーヒーを頼む。

 

「はーい、かしこまりー、ムギホちゃん?会話は上手く繋いどいてね?」

「了解しました……」

 

 そうしてキズナはカウンターへ向かった。

 

「そういえば、ミレニアムとプレローマってそこそこ交流あるの?ウタハとヒトミは知り合いっぽかったけど」

「細々ながら納入品とかに名前を見る程度ですかね?あんまり大々的に交流するわけではないはずです」

「プレローマの自治区はシンプルにキヴォトスの僻地にあるんですよ、なので外に出向くにも外から招くのも大変なんです」

 

 やはり交流の障害が距離というのは古今東西変わらないらしい。

 

「あとは、自治区内は安全科が目を光らせているので、外から来て自由に観光、みたいなのも厳しいですね……」

 

 そういえばそうだ、それこそあのときの安全科の3人は元気だろうか?

 

「まぁ、交易収入はそれなりに安定しているので、会計的に頭を悩ませる部分は少ないのが幸いですね。なかなかキヴォトスの反対側まで名前は届かないとは思いますが」

「そうなんですか!?、ミレニアム(うち)は毎度赤字にならないようにするのが精一杯ですよ……」

「まあまあ、正直こっちは稼ぎが出なさそうな案は最初から蹴っちゃうので、日和ってるだけですよ」

「いいですねぇ、私もそれくらい厳しくしたいんですけど、みんなイヤイヤ言うので……」

「その気持ち分かります!審査会はいつも私が最後までダメって言うんですけど、愚痴を聞くのも私のことばっかりなんですよねぇ」

 

 会計職はどこも大変らしい。まあ悪役にはなりがちだものな、と納得する。するとキズナが飲み物を持って戻って来る。

 

「はーいおまちどうさまー、はいコーヒーね」

 

 ありがとう、とコーヒーを受け取る。キズナはシェイクを頼んだらしい。

 

「ところで何の話してたの?」

「まぁちょっと会計同士の話ですね」

「ふーんそうなんだ」

 

 キズナは心做しか嬉しそうに見える。後輩が仲良さそうに喋っていると安心できるものがあるのだろうか。

 

「そういえば『基盤研究審査会』?だっけ?っていつもどんなことしてるの?ヒトミにも聞いたんだけど、ざっくりとしか聞けなかったから」

 

 ムギホとキズナは暫し顔を見合わせる。これ喋っていいんでしたっけ?多分大丈夫なはず、と確認作業が行われた後、説明が始まる。

 

「『基盤研究審査会』……単に『審査会』とも言いますが、これは文字通りプレローマで行われる研究開発についての審査を行う場です。各学科の学科長が集まって研究の目的や費用対効果、セキュリティ対策が妥当であるかを審査します。計画が十分であれば承認、不十分なら却下です。シンプルですね」

「それで、2人ともそのメンバーなんだね」

「はい、ただ議題は研究のことだけではありません。政治的な意思決定もここで行うので、まあ他校の生徒会みたいなものと捉えていただければよろしいかと」

「へえ、じゃあキズナは副生徒会長ってわけなんだね」

「うごっ、まあ肩書上はそうですね……でも実際は座長副座長に権限はあんまり無いですよ」

 

 突然話を振られたから、キズナは少し(むせ)ながら答える。

 

「審査会の決定は全会一致が原則ですので、偉い人だけが独断で何かするっていうのはできないんですよねぇ」

「何人いるの?」

「今年は確か、ひぃ、ふぅ、みぃ……8人ですね」

「8人で全会一致ですか……長い会議になりそうですね……」

 

 ユウカが口を挟む。確かに事実上2人で回しているセミナーから見れば大きな会議だ。

 

「委任状出して欠席するやつもいるので、いつも8人というわけでは無いです。ヒトミとか地味にああ見えて審査会には出ないタイプですよ。いつも出るのは座長と副座長と生産科長(わたしたち)、あと安全科長の4人ですね」

 

 どうやら思ったより自由人の多い学園らしい。

 

「それで何の話でしたっけ?」

「座長と副座長は権限が無いって話だね」

 

 はいはい、とムギホは話を戻す。

 

「審査会はそもそも、研究グループのリーダーたちが全体の方針を決めるために開いたものです。そのため『座長』という地位は字義通り司会進行役という意味合いが大きく、伝統的に権力を持つ存在というわけでは無いのです」

各学科(した)、特に安全科は座長(うえ)の言うことを聞かないで有名なんだよねぇ、まあ上に(おもね)ってたら安全なんか守れないっていうのは確かだけど」

「それでも対外的には学園の代表ってことにはなってますけどね」

 

 いろいろなところの生徒会を見てきたが、トップダウン的でない生徒会というのも珍しい。もちろん他に無いわけではないが、その状態を比較的ポジティブに捉えているという点で見れば独特だろう。

 

「ねぇねぇ、この間ヒトミが言ってたのを小耳に挟んだんだけど、穴掘りってどういうこと?」

「あーそのことですか……」

 

 説明が難しいのか、少し考えたあと言葉を紡ぎ出す。

 

「プレローマで行われる研究には、あまり『最新』という形容はされません。これは元々、プレローマが考古学を研究の主軸に据えていたからと言われています」

「先生も聞いたことあるんじゃないですか?キヴォトスの『地下』って物騒なものが眠ってるって」

 

 確かにそうだ、これまで出会った曰く付きの代物は、大体地下にあった。

 

「プレローマはそれを『地下には世界の起源がある』として探究を進めていたそうです。工業に力を入れてからは下火にはなりましたが、今でも発掘調査は重要なものとして位置づけられています。人によってはアナクロだと言いますが……」

「そういう人が自虐的に言うのが『穴掘り』って訳だね」

「はい、まあ課題解決のヒントを発掘品に求めることもあるので、ミレニアムのような『知識のフロンティア』という感じではないですね」

ミレニアム(うち)ってそんなふうに思われてるんですか……」

 

 前にゲヘナで調査があったときも、発掘品の話があったはずだ。何にせよ道を切り拓くのなら誇らしいことのように思うが、自意識というのは繊細だ。

 

「そういえば座長さんは5年生だと聞きました。キズナさんも4年生なんですよね?キヴォトスで4年生以上はかなり珍しく感じるのですが……」

 

 ユウカが私見を述べる。確かに留年でもなしに4年以上生徒として在籍する人物は珍しい。

 

「ああ~そのこと?まあうちでも4年に進級する子は多くはないかな、別に3年で中退しても高卒にはなれるし」

「辞めても食い扶持に困らないのがプレローマのいいところですね」

「まあそれもそうなんだけど、5年で卒業するには成果発表しないといけないんだよね。もちろん試験も普通にあるから、大変すぎてやりたがらないって子は多いね」

「1世代1人いればいいって感じですよね、実際4,5年生は座長と副座長しかいませんよね」

 

 そういうものなのか、大人からしてみれば、2年も余分に学生でいていいなんて羨ましい限りだが、生徒が社会を動かすキヴォトスではそういう訳でもないのかもしれない。

 

「でもキズナはそれでも進級したいって思って進級したんだよね?それはとっても凄いことだと思うなぁ」

「えっ、まあそうですかね?別に私は今の座長が幼馴染みだったので、せっかくだから一緒にいたいなぁって思ってるだけなんで……」

 

 照れ隠しなのかキズナはシェイクを勢いよく啜る。すると何か思ったのか、ストローから口を離してポツリポツリと言葉を口にする。

 

「座長職は権力が無いので、仕事は後輩に投げてもあまり問題にはなりません。寧ろ主役は3年生たちみたいなところもあります。それでも一定の責任は感じるらしくて、プレローマを栄えさせなきゃ、とか、迫りくる危機に対処しなきゃ、とか、そういうことに血道を上げる座長もいたりはします」

「有り体を言えば、今の座長がそういう人です」

 

 そうか、キズナにとっては小さい頃から仲良くしていた友人が、立場と義務に囚われているようなものだとすれば、その心中は容易く推し量ることはできないだろう。

 

「会長……」

 

 ユウカが小さく呟く。そういえばそうだ、自分の為すべきことに一身になって、周囲の人の心配も自分の良心もかなぐり捨てる姿勢となれば、リオと重なる部分も大きい。

 彼女たちを取り巻く霧を前にして、私は何を言うべきか……

 

「──でも君たちは、座長の子が何か悩んでるってことは分かってるんだよね?」

「えっ、ええ、まあ……」

「それなら大丈夫だよ。何も分からない状態でその子を止めるのは難しいけど、悩んでるってことが分かっているなら助けの声も聞けると思うよ」

「そうでしょうか……」

「もしそれで困ったら、シャーレに相談においでよ、待ってるね」

 

 ブブブブブッ、とモモトークの通知が鳴る。

 

「ウタハの試作品ができたらしい」

「ならば私たちも見に行きますか」

「ユウカは?」

「あーっ私はパスで」

「OK、それじゃあ行ってみようか」

 

 私とキズナとムギホはエンジニア部の作業場へと向かっていった。

 ユウカはカフェテリアに残って休憩するらしい。

 

「はあ……せっかく2人っきりでお茶できると思ってたんだけどなぁ」

 

 ちょっと罪悪感に苛まれながら、私もエンジニア部の作業場へと向かった。




お読みいただきありがとうございます。

設定開示回でした。説明は文量が多くなって参りますね。
プレローマ高専は工業系となったところでミレニアムとは被ってしまうので、なるべく対照的な感じにしようと思って設定を生やしました。これからもうまく調理したいですね。

次回もよろしくお願いします。
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