ウタハからのモモトークを受け取って、エンジニア部の作業場へ向かう。小走りと言う程ではないが、期待と不安の入り混じった足取りは雨上がりの路面を風に乗って舞う落ち葉のようであった。
「どんな感じにできたかな?」
「あまり妙ちきりんでなければ、私から個人的に言うことはありません。ヒトミが関わっていたのならば、そんなに変な出来にはならないでしょうし……」
ムギホはとんでもない代物がお出しされるのを恐れているかのように期待を覆い隠して見せる。エンジニア部謹製となると、絶対に無いとは言い切れないのがフォローしにくい。
「ヒトミの作る銃は普通なの?」
「まあそうですね、というかプレローマで一番真っ当な銃を作るのがアイツですから……他の面々は変な銃ばかり提出してくるので……」
まさかの前例アリ、それでは安易に期待するのも難しい訳だ。
「まあきっとなんとかなるよ」
「随分と楽天的ですね、まあ少しくらいは期待することにしましょう」
「ムギホちゃんリラックスだよ〜リラックス」
キズナもフォローする――ように見えたが、ムギホの「何言ってるんだ?」と言わんばかりの目つきを見ると、どちらかといえば彼女も変な物を作る側なのだろう。
「さ、さあ、見えてきたよ!」
とりあえずその場を宥めて、エンジニア部の作業場の扉を開ける。
「みんな!お待たせ!できたんだって?」
「先生、待ってたよ!さて、お披露目といこうか!」
ウタハが指差す先には、白い1枚の布に覆われた物体が鎮座し、そのベールが剥がされる瞬間を今か今かと待ち侘びている。
「はーい!それじゃあスリーカウントでいきますよ!」
ヒビキとコトリが裾を掴んで構える。
「「「さーん!!」」」
「「「にーー!!」」」
「「「いーち!!」」」
バァッ!
布の下から現れたのは5mはあろうかという巨大な銃身を持ち、移動用の履帯を備えた3mもの巨大な駆体だった。しかし純白のボディには足元から銃口に至るまで継ぎ目の1つもなく、さながら名工の磁器のような美しさからは、不思議と威圧感は感じられなかった。これはまさに――
「これは……何……?」
「これはそう――『荷電粒子砲』だ!!」
「いや銃じゃねーじゃねーか!!!」
ムギホの絶叫が私たちの困惑を打ち破る。
「え!?なんですかこれ!?ちょっと誰か説明してくださいよ!」
「それでは説明しましょう!荷電粒子砲とは荷電粒子、即ち電荷を帯びた粒子を高い電圧で加速させて撃ち出す兵器です!例えばプラスの電荷を帯びた粒子は電場の中で、プラスの電極からマイナスの電極へと引っ張られる力が働きます!この力を利用して加速させた粒子を撃ち出す訳です!今回の砲はミレニアムの最新技術によって700
「いや仕組みを聞いてるんじゃないんだよ!!」
ムギホはヒトミの方へ詰め寄り、襟首を掴んで問い質す。
「ヒトミィィーーッッ!!!これはどういうことだーーっっ!!!お前がいていながらなんでこんなトンチキな代物が出てくるんだ!?」
「えー?別に大きさとか特にしていなかったし?構造も特に制限なかったし?面白そうだしいい機会だなーって思って作っちゃった♡」
「作っちゃった♡じゃないだろ!!」
「まあまあ生産科長さん、とりあえず試運転をしてみないか?規格外と言うのは簡単だが、作品の出来不出来はまず性能で語るべきだろう」
ウタハの反論にムギホはぐぬぬと唸りつつ、その提案に首を縦に振る。
「いいでしょう、そもそも私は口出ししない予定だったのですから、あれこれ文句をつけるのも筋違いというものですね。失礼しました」
そうして、記念すべき試運転の準備が進められた。
「OK、2人とも、準備はいいかい?」
「ばっちり」
「いつでも大丈夫です!」
「よし!それではチャージ開始!!」
キュイイインという音とともに砲身内に眩い光が満たされていく。
「発射!!!」
ウタハの合図と同時に光弾が発射される。その光は澄み渡るような青白さとは真逆の凄まじい熱量を帯び、着弾先のコンクリートをバターの如く溶断し……作業場の壁に見事な風穴を開けた……
「ふむ……これは……」
ウタハは暫しの沈黙の後、試射の感想を口にする。
「素晴らしい出来だ!!」
「やりましたね!部長!」
「まさに完璧」
「フォルムも美しくてサイコーだね!」
「あの加速機構をここまでスケールダウンできるとは……勉強になります」
製作メンバーも思い思いの感想を述べる。
「えっ、この状況になんで誰もツッコミ入れないんですか?壁吹き飛んでるんですけど?」
「ごめんねムギホ、エンジニア部はみんなこういう感じの子たちなんだ」
「ムギホちゃん、たまには諦めも必要だよ」
えぇ……、とムギホは開いた口が塞がらんばかりだ。
「ウタハ、これで完成かい?」
「ああ、後は適宜フィードバックデータを元にチューニングして終わりだな」
外野の困惑をよそに、製作は大詰めを迎えたようだ。ところが……
ガタガタガタガタ……
「ん?なんだ?どうした?」
「見て!荷電粒子砲の様子が変!」
突如として荷電粒子砲が震えだす。放ちきれなかったエネルギーを発散させようとばかりに轟音をあげ――
キュルキュルキュルーーッ!ドガァァーーン!!
思い切り前進し、風穴の空いた壁を粉砕して飛び出して行ってしまった!
「あれ?故障かな?設計に問題は無かったはずだが」
「制御系に穴があったんじゃなーい?知らないけど」
「いや追いかけなさいよ君たち」
状況をようやく飲み込んだのかホムラも先輩たちに呼びかける。
「そうですよ!せっかく作った作品がどっか行っちゃいます!あっでも凄いスピードでしたね……走っても追いつけないかもしれません……」
するとヒビキとコトリがホムラの肩を叩く。
「大丈夫、一緒に追いかけよう」
「5日間の私たちの成果です!無駄にはしませんよ!」
更にムギホも協力を申し出る。
「仕方ない、どのみち最初からケツ持ってやる予定だったんだ、力を貸すぞ!副座長!私たちは車を出します!みんなで荷電粒子砲を追いかけますよ!」
「オッケー!私のドライビングテクニックが火を吹いちゃうよー!」
「ヒトミ、ウタハ、もちろん2人とも協力してくれるよね?」
「当たり前よぅ!行くよ!ウタハちゃん!」
「ああ、こんな事態も想定内さ!」
こうして爆走を始めた荷電粒子砲の追跡が始まった。
ブゥゥゥン
「見つからないね」
「起伏を越えられるようにはなってないはずなので、そんなに遠くへは行けないと思うんですが……」
数分前――
フルサイズピックアップトラックを駆ってムギホが戻ってきた。
「あれ?キズナは?」
「副座長は自前のクルマがあるので現地合流です!さぁみんな乗ってください!」
私は助手席に乗り込み、続いて生徒のみんなも乗り込んでいく。
「直接撃ちたいひとは荷台に乗っていいよー!私も後ろから撃つから!」
ヒトミは自分の身長よりも大きな重機関銃を担いで荷台に乗り込む。ヒビキとコトリも各々の武器を持って荷台の上で構える。
「よし!全員いますね!発車します!」
トラックは1段階大きくエンジンを吹かして走り出す――
「方角的にはこっちなんだがな、あの調子だとそんなに急旋回するとも考えにくい」
ウタハが所感を述べる。すると……
キャーキャー!うわーっ!
「何やら騒がしいですね」
「あっ、みんな見てあれ!」
暴走した荷電粒子砲が群衆を押しのけて突き進む。エネルギーが有り余っているのか、何に向けるでもなく発砲しており、青空の下に光がきらめく。
「ヒトミ!見つけたぞ!」
「こっちも確認!ぶっ放すよ!」
ズガガガガッッッ!!ズドーン!!
荷台にいる3人が集中砲火を加える。
「負けてられません!」
「雷ちゃん、出動だ!」
ズドドドドッッッ!!ダンダンダァーン!!
後部座席の2人も攻撃を加える。それなりに手応えがあったのか、遠目からでも荷電粒子砲の外装は既にボロボロだ。
「よし、このままいけば鎮圧できそうだね」
「はっ、待ってください、先生!」
すると荷電粒子砲はこちらに気付いたのか、衝撃で傾いた駆体を利用して向き直り、こちらに向かって突進してきたのだ!
「まずいな先生、アイツ、もうチャージの構えに入ってる」
「こっちに向かって撃ってくるって言うんですか!?」
「ホムラ!落ち着け!ギリギリまで引きつけてから回避する!」
「荷台にいるみんな!何かに捕まってて!」
「「「了解!」」」
ムギホがハンドルを強く握り直して回避の構えを取る。
「ウタハさん、アレがぶっ放すタイミングって分かりますか?」
「大体はね、なんとかサポートしよう」
荷電粒子砲とトラックが相対し、お互いにかなりのスピードで接近する。荷電粒子砲の砲口からは再び眩い光が満ちていくのが分かる。
「今だ!回避ーーッ!!」
ウタハの合図と共にハンドルが全力で切られる。急旋回したトラックの側面を青白い閃光が通り過ぎる。
「よし、回避成功!」
しかし、荷電粒子砲はすぐさま体勢を整え、次の砲撃の構えに入る。
「生産科長!まだ撃ってきます!」
「このままじゃ埒が明かないな」
「いっそのことやられる前にやってしまおうか……」
「先生らしい賭けだね」
その時、ブゥゥゥンとエンジン音が鳴り響き、物陰から1両のスクーターが飛び出す。跨っていたのはキズナだった。
「やっとお出ましですか」
「はーい!お待たせ!」
キズナは座面に立ち上がり、1本の砲身を取り出して肩に構える。
「これでも食らえーっ!」
ドゴォォォンン!
凄まじい爆音と共に1発の砲弾が撃ち出される。ゆるく放物線を描いた弾丸は見事に砲口に命中し、青白く溜まっていた光を暗闇に帰す。
「みんな今だ!駆動部を狙って!動きを止めるよ!」
「「「「「了解!!」」」」」
全員の集中攻撃の前に、とうとう荷電粒子砲は沈黙した。
「うわぁ、見事に木っ端微塵だね……」
「5日間が台無しだね……」
粉々になった荷電粒子砲を前に、エンジニア部と銃砲科の5人はさめざめとした表情で立ちすくむ。
「しかし何が原因だったのか……どちらにせよ後でまとめておかなければな……」
ウタハは肩を落としながらも冷静に分析する姿勢を見せる。すると……
「ねぇウタハちゃん、これ見て。加速器の部分なんだけど、まだ割と生きてるっぽいよ」
「確かに、それなら元通りとはいかなくても、荷電粒子砲として使えるレベルには作り直せるかもしれないね」
「せっかくまだ2日あるんだし、やるだけやってみない?」
「そうだな……よし!やろう!」
ウタハとヒトミは立ち上がり、再度号令をかける。
「みんな!諦めるのはまだ早い!自走化までは難しいが、基幹システムは機能する!作業場へ戻ろう、形になるまでやるぞ!」
その言葉に肩を叩かれたのか、1年生たちもやる気を取り戻す。
「分かりました!」
「みんなの力を合わせよう!」
「私も最後まで頑張ります!」
その姿に私も少し安心した。ムギホとキズナも横で安堵の表情を見せる。これなら大丈夫だ、最高の成果にはならずとも、最高の経験にはなるだろう。そういう確信があった。
「よーし!最終日まで頑張るぞー!」
「「「「おーーっ!!!」」」」
お読みいただきありがとうございます。
やはりエンジニア部が作るなら暴走しないとねというお話でした。
ただコトリの長文解説は何書くか悩みますね、一番時間かかりました。
次回でエピソード2は最終回になります。
よろしくお願いします。