Milk Tea ~あなたが教えてくれたこと~ 作:ナナシの新人
図書館からの帰り道。普段あまり通らない市立病院の前で
病院の前で会った彼は駅前で別れた時と同じ制服を着て、スクールバッグを持っていた。自宅へ帰っていなかったからで、隠していたのは知られたくなかったからな訳で⋯⋯。もし、寄り道せずにまっすぐ自宅に帰っていれば。図書館を出たあといつもの帰り道を通っていれば――。
「はあ⋯⋯」
思わず、漏れるため息。このキレイな夕空も、この爽やかな夕風も、今は少し憎らしく感じてしまう自分が嫌になる。
「お待たせ」
考えがまとまらないうちに、
「どっちがいい? まあ、どっちも同じなんだけど。どうぞ」
「あ、ありがとう」
「冷たい方がよかった?」
「ううん。ちょっと冷えてきたから。水辺だからかな」
夕風に吹かれて揺れる水面が、夕日に照らされてキラキラと輝いている。「ならよかった」とほっとした感じで言った
「あーあ、結局見つかっちゃったー」
「――っ!?」
受け取った紙コップを落としそうになった。気まずさ全開。さながらゼンマイ式のブリキ人形のようにぎこちなく首を動かして顔を向けた私に、
「やっぱり気にしてた」
「あ、当たり前だよっ」
「まあ、定期的な通院。経過観察ってやつ。気を遣わせたくなかったから黙ってただけ。けど⋯⋯ま、そうだな。秘密にしてくれると助かる」
「そう、だったんだ。うん、言わない」
「ありがとう」
視線を私から外し前を向いた
「あれ? 苦手だった?」
「う、ううん。好き」
「ならよかった」
私は、手の中の紙コップをじっと見詰める。紙コップに注がれているのは、ミルクティー。だけど、ミルクティーはメニューの中になかった。何度も確認したから間違いない。思い出すには充分だった。
このベンチで出会った、あの人のことを――。
たまに飲む缶のミルクティーとも、
「――あの。あ、ちょっとごめん」
言いかけたところで、ポケットの中のスマホが振動した。図書館に寄っていくから遅くなるって連絡したけど、母からかも知れない。そう思って、スマホを見る。ロック画面には、チャットメッセージアプリの通知が表示されていた。ロックを解除して通知をタップ、アプリを立ち上げる。発信者は、
「『月末空いてる? 花火大会いかない?』だってさ」
「隣町のだよね」
この辺りの地域で一番大きな花火大会。小さな頃、家族で行った覚えがある。県内外から多くの観客が訪れる毎年の恒例行事で、数千発の打ち上げ花火もさることながら、日本中の人たちが全員集まってるんじゃないかと思うくらいの人混みと、打ち上げ会場近くの河川敷100メートル以上に渡って軒を連ねる屋台の灯りが印象に残っている。
「二人で行けばいいのにねぇ。
学校じゃ仲良く話してけど。部活の邪魔したくないって言っていたからなのかな。
「何かと多忙だから、あいつ。時間大丈夫? 帰ろっか」
私は、頷いて答える。市立病院の前を通る近道を通って、歩道を照らす街灯と帰宅ラッシュで行き交う車のヘッドライトが明るく照らす、交通量の多い通りへ出た。赤信号の交差点で立ち止まり、送ってくれた
「ここで大丈夫。ありがとう」
「こっちこそ。遅くまで付き合ってもらって」
「花火どうする?」
「まあ、今のところ予定ないし。お節介でも焼きますかね」
「じゃあ、私もそうしようかな」
お互い小さく笑い合う。歩行者用の信号が青に替わった。
「また明日」
「気をつけて」
横断歩道を渡りきったところで振り返ると、
――結局、聞きそびれちゃったな。また、今度にしよう。
そんなことを想いながら、校外学習で一緒に観たプラネタリウムのプロローグのように、東に月が昇り始めた夜空の下を少し家路を急いだ。