Milk Tea ~あなたが教えてくれたこと~   作:ナナシの新人

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第15話

 中間試験よりもいい結果だった期末試験が終わり、夏休み前最後の登校日は、終業式とロングホームのみ。普段通り予鈴の10分ほど前に登校。昇降口で靴を上履きに履き替えて、教室へ。横開きのドアを開けて入った教室には既にクラスメイトの半数くらいが登校していて、長期休み直前独特の浮ついた空気に包まれていた。左肩に担いだスクールバッグを教室後部のロッカーに置いてから自分の席に着き、本鈴の前に教室へ来た担任の高瀬(たかせ)先生の指示に従い、体育館へ移動。全校生徒が集まる体育館は、集まった生徒の体温、ざわざわした話し声も合わさり、まだ気温も上がりきっていない早朝の時間帯のはずが外の気温以上に暑さを感じさせる。

 各学年クラスごと整列して座り、定時から数分遅れで始まった終業式。幕が上がったステージの演台のマイクの前に立った校長先生の話の最中「校長の話しってなんで長いんだろう」とか「昼どうする?」などの私語、雑談がぽつりぽつりと聞こえる。そろそろ生活指導の教員の注意がありそう、と思っていると、つんつんっと軽く背中をつつかれる感触。極力顔を動かさない様にして少し体を捻って、背中をつついてきた人の正体を確かめる。顔よりも先に視界に入った頭の左側で結んだポニーテールで、それが誰かわかった。

 

「話したいことあるんだけど、お昼空いてる?」

 

 どうしてこのタイミングなのかな、と若干疑問に思いつつ「いいよ」と紅葉(もみじ)に返事をして、すぐに前を向き直す。そしてその直後「私語は慎め」と、生徒指導の教員のお叱りの声が響いた。

 怒鳴り声は昔から、苦手。不特定多数に対してで個人的に向けられた声じゃなくても、どうしても気持ちが沈んでしまう。少し憂鬱な気持ちを引きずったまま、終業式終わりの一学期最後のホームルームは巻気味で進んでいる。

 

「校長先生も言っていたけど、長期休みで気が緩みがちになるけど節度ある行動を心がけること。はい、それじゃあここまで。クラス委員」

「起立、礼」

 

 女子のクラス委員八坂(やさか)さんの合図で席を立ち、先生へ挨拶。教壇の出席簿とファイルを重ねて持った高瀬(たかせ)先生は「忘れ物しないようにね」とひと言注意を促して、教室を出て行った。

 

「仕度できてる?」

「ちょっと待って」

 

 呼びに来た紅葉(もみじ)に答えてから念のため、机の中を確認する。机の中は昨日の放課後と同じで、空っぽ。忘れ物はない。椅子から立ち上がって、スクールバッグを肩にかける。紅葉(もみじ)は、隣の席の如月(きさらぎ)くんに声をかけていた。

 

「お昼行くけど一緒に行く?」

「パス。用事ある」

「女子とのランチ即答で断るくらい重要な用事なわけ?」

「補習」

「真面目なのだった。じゃあ、月末ね。待ち合わせ場所と時間はあとで連絡するから。いこ」

「またね」

 

 小さく手を振った私に微笑みながら手を振り返した如月(きさらぎ)くんは右手で頬杖をつき、夏空が広がる窓の方へ顔を向けた。教室を出た私たちはどこでお昼にするか話し合いながら、下校中の生徒で賑わう廊下を歩いている。とは言っても迷うほど選択肢があるわけでもないから、ファミレスとカフェのどちらにするかくらい。一階まで階段を降りると「先に行ってて」と言って、昇降口とは反対方向へ紅葉(もみじ)は歩いて行った。靴に履き替えて、外に出る。焦がすような真夏の日差しを避け、日陰で待っていると名前を呼ばれた。紅葉(もみじ)は違う声、でも、よく知っている声。

 

弥生(やよい)。今、帰り?」

「午後から練習~」

「大変だね」

「地獄の始まり⋯⋯ということで、お昼行こー」

「えっと⋯⋯」

 

 和解したことは伝えてるとはいえ、弥生(やよい)紅葉(もみじ)に対してあまりいい印象は持っていないはず。

 

「お待たせ」

「ん? なんだ先約いた――」

 

 やって来た紅葉(もみじ)と、振り向いた弥生(やよい)が鉢合わせ。二人は一定の距離を保ち、どことなく気まずい空気が二人の間に漂う。二人の共通の友人の私が間を取り持ち、学校から一番近くのファミレスで一緒にお昼を食べることになった。案内されたボックス席で弥生(やよい)は私の隣に、紅葉(もみじ)はテーブルを挟んだ対面の席の真ん中に座った。とりあえず、各々料理とドリンクバーを注文した。

 

「あらかじめ言っておくけど。あたしは、納得してないから」

 

 弥生(やよい)が、先手を打つ。視線を向ける。紅葉(もみじ)の方は、思いのほか冷静。

 

「先に飲み物行っていいよ。荷物は私たちで見ておくから」

「あ、うん。じゃあ、行って来る。二人の分も取ってくる?」

「あたし、コーラ」

「この後部活あるんでしょ? 炭酸はやめておいたら」

「⋯⋯じゃあ、オレンジジュースにする」

「私も、オレンジジュースお願い」

「わかった」

 

 席を立って、ドリンクバーへ向かう。オレンジジュースを注いだコップ、ストロー、手拭きを三つずつ載せたトレイを持って、テーブルに戻る。二人にして大丈夫かな、そんな私の心配は杞憂で終わった。二人は、談笑していた。

 

「あ、おかえりー」

「ありがと」

 

 トレイを置いて、弥生(やよい)の隣に座り直す。

 

「何を話してたの?」

「部活の話し。体のケアとか、スポーツ用品とかね」

「てか、(あさひ)さんめっちゃ詳しいよね。運動部だった?」

「中学まで、サッカーやってたの」

「それでかー」

 

 種目は違うけど同じ球技をしていた者同士、お互い共感できる話題があるみたい。思えば前に街で偶然会った時も、二人はすぐに打ち解けていたし。紅葉(もみじ)が冷静だったことも納得いった。

 明日から始まる夏休みを話題の軸にして、運ばれてきた料理を食べた。会計を済ませて、お店を出る。

 

「食べたー!」

「食べ過ぎじゃない。動けるの?」

「だいじょうぶだいじょーぶ。じゃああたし、学校戻るから」

 

 そう言って私たちに背を向けた弥生(やよい)に「気をつけてね」と私がかけた声に彼女は立ち止まり、半身で振り返る。

 

「二人もね。それと、お盆休みの観賞会忘れないでよー」

「⋯⋯ホントにするわけ?」

「当たり前っしょ。恋の彩空(コイロ)の魅力余さず全部叩き込んであげるから覚悟しときなさいよっ!」

 

 ピッ! と、紅葉(もみじ)を指差した弥生(やよい)は得意気な笑顔を見せて、学校の方へと歩いて行った。私たちも、駅へ向かう。改札を抜けて、駅のホームで電車の到着を待つ。隣で小さなため息が聞こえた。

 

「気進まない?」

「嫌ってわけじゃないんけど、小説読み終わった?」

「あともう少し」

「読み終えたら貸してもらえる?」

「花火大会に持っていくね」

「ありがと」

 

 何か特別な事情があるみたい。詮索はせず、電車に乗ってから別の話題を振る。。

 

「そういえば、話しって?」

「あっ、忘れてた。花火大会のこと。浴衣着る?」

 

 隣町の駅から花火大会の会場まで2キロくらい歩かないといけない。当日どの辺りで観るかはまだわからないけど、長距離の移動は大変そう。でも、こうして聞くということは、きっと。

 

「着ていこうかな」

「そ。じゃあ、私も着てく」

 

 予想通りの反応に思わず笑いが溢れてしまう。

 

「なに⋯⋯?」

「なんでも。ねぇ、時間ある? 浴衣見に行こ」

「うん」

 

 自宅の最寄り駅に到着。駅前のバス停から市内巡回のバスに乗り、ディスカウントショップが入るショッピングセンター前で下車。ディスカウントショップに入ってすぐの場所に設けられた夏祭り、花火大会の特設コーナーで、浴衣や小物を1時間くらい見て回り、市内巡回で最寄り駅前でバスを降りる。

 

「やっぱり、素敵なのは結構いい値段した。予算ギリギリ」

「だね。私は、家にあるのにしようかな」

「どんなの?」

「えっと、こんな感じの」

 

 スマホで画像検索で似た系統の柄の浴衣を着たモデルさんの画像を見せる。

 

「ちょっと大人っぽい」

「着てるのがモデルさんだからだよ」

「そうでもないと思うけど」

 

 バス停隣接の在来線の駅前の歩道を駅前の大通りへ向かって歩いていると、駅の南北を結ぶアンダーパスの出入り口に整備されている噴水近くのベンチに、同じ学校の制服を着た男子生徒を見かけた。

 

「あれって、奏多(かなた)じゃない?」

「あ、ほんとだ。如月(きさらぎ)くんだ。声かける?」

「そう――待って。こっちっ」

「えっ?」

 

 何かに気づいた紅葉(もみじ)に突然手を取られ、駅前のベンチに日陰を作る街路樹の陰へ連れて行かれた。

 

「どうしたの?」

 

 訊いても紅葉(もみじ)は答えず、ただじっと如月(きさらぎ)くんが居る噴水の方を見ている。目を向ける。すると、一人の女性がまっすぐ、彼の元へ行った。私の手を取ったままの紅葉(もみじ)の手に少し力がこもる。

 

「――行こ」

紅葉(もみじ)?」

 

 手を放した彼女は日陰を出て一目散に、駅前の大通りへ。私は一度噴水の方を見てから、紅葉(もみじ)のあとを急いで追う。タイミングよく、それとも悪くなのか、赤信号で立ち止まった。

 

「ねぇ、紅葉(もみじ)――」

「ちょっと驚いただけ。なんでもないから」

「そっか」

 

 紅葉(もみじ)のあの動揺した様子は、ただ事じゃない。

 私は、知ってる。あれは、私と天海(あまみ)くんの悪意のある噂が流れた時、取り乱した紅葉(もみじ)と同じ。だけど、今は――。彼女の手を取る。

 

「⋯⋯なに?」

「別に」

「あっそ」

 

 素っ気ない返事。でも、握り返してきた。その手は冷たい。

 歩行者専用の信号が青に替わる。ピヨピヨと青信号を知らせる音が響く中を渡る横断歩道の真ん中を過ぎたところで、紅葉(もみじ)が口を開く。

 

「あの人は、風見(かざみ)静佳(しずか)さん。ひとつ上の先輩で。それで――」

 

 ――天海(あまみ)透哉(とうや)の元カノ。

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