Milk Tea ~あなたが教えてくれたこと~ 作:ナナシの新人
最後に咲いた大輪の花火が夏の夜空に消えて、余韻に浸るつかのまの静寂の後、ここから少し離れた打ち上げ会場の川岸から花火大会終了を告げるアナウンスが微かに聞こえた。それを合図にしたように、周囲の人たちが帰り仕度を始める。メイン会場から離れているといっても、花火会場の最寄り駅へ向かう人は多く、駅へ続く線路沿いの歩道は長い列が続いていた。
来た時以上に混雑している駅のホーム。一足先に到着した反対方面へ向かう電車に乗車した
「そうだ、これ」
「ああ。ありがと」
夏休み前に話した小説を受け取った彼女はぱらぱらとページをめくっていた本を閉じ、表紙のタイトルを見つめながら私に問いかける。
「ドラマの鑑賞会するって言ってたけど、先に読んじゃって平気?」
「大丈夫だと思う。ドラマは原作と少し違うって話しだから」
「そう」
「妹さんは?」
「まだだよ」
会場近くで見ていたそうで「やっと駅着いた。次の電車乗るから」と先ほどメッセージが届いた。
「おそい」
「はいはい。
「は? って、ちょ――」
軽口をあしらい
* * *
月灯りに照らされた城方面へ続く歩道に伸びる、四つの影。
ひとつは、私。隣は、妹
「吹奏楽部なんだ、楽器は何やってるの?」
「クラリネットです。ホントは別の楽器がよかったんですけどー、あ、これです」
足を止めた
「あー、見たことあるかも。ホントは何やりたかったの?」
「フルートです。でも、今回の課題曲フルートのパート無くって――」
二人の会話には加わらず、下駄の鼻緒擦れで傷めた左足を少し気にしている
「どうした?」
「――別に」
視線に気づいた
「よくわかったね、足のケガ。私、気づかなかった」
「そこそこ付き合い長いからね。その、変なトコで強がる癖いいかげん直せよ」
「うっさい」
痛いところを突かれた
「じゃあ私、あっちだから。
そう一方的に告げた
「行ってあげて。私たち二人だし、明るい道歩いて帰るから」
「わかった。気をつけてね」
「うん。今日は、ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさーい」
小さく手を振って
「絡まれたりしなかった?」
「だいじょうぶ。お姉ちゃんたちはー⋯⋯無いか、"デート"だったんだし」
「わざわざ強調しないの。ただのお出かけ。まあ、
「あっ、やっぱ付き合ってるんだ!」
「はぁ。それより、部活どうなの? 来週県大会でしょ」
「大丈夫だってうちそこそこ強いし。お姉ちゃんも知ってるじゃん、元吹部なんだし。てか、あからさまに話題逸らしすぎだよ。ま、いいけどねー。あ、そうだ。花火会場で、芸能人見たよ」
有名人なのか、普段からテンション高めの
「誰?」
「わかんない。初めて聞いた名前だった。めっちゃ美人だったよ、清楚系ってやつかな? あれは"来る"ね」
自信ありげ。花火大会のサプライズゲストとして招かれた地元出身の女性タレント⋯⋯調べればすぐに分かるのだろうけど。帰宅予定時刻を過ぎているため、無駄話もそこそこに家路を急いだ。
家に着いてすぐシャワーで汗を流し、濡れた頭にタオルで巻いて、冷房の効いたリビングのソファで体育座りをしながらスマホを見ている妹へ声をかける。
「お風呂空いたよ。明日、朝早いんでしょ? 早く入りなよ」
「うんー⋯⋯」
スマホに夢中の妹から返ってきたのは生返事。そのうち母に叱られるのがお約束。先に髪を乾かして、冷蔵庫の麦茶をグラスに注ぎ、二階の自室へ入ると、テーブルに置いた充電中のスマホのランプが点滅していた。グラスを置いて、スマホを手に持つ。画面に表示されていた不在着信は、
「もしもし――」
『今、話せる?』
「いいよ」
電話の相手は、
「無事帰れた?」
『お陰様で』
電話越しに苦々しい顔をしてるのが手に取るようにわかる。
だけど、足をケガしてる彼女を独り夜道を帰らせるのは心配だし、妹が居たから
『で、お盆休みの話しね。ドラマの上映会するって言ってたでしょ? いつするの?』
「
『今のところ平気。でも、どこかで予定入ると思う』
「なら、
「ごめんね、長話しちゃって」
『ううん。ねぇ、
「なに?」
一瞬の沈黙のあと、確かに聞こえた。
小さくて聞き逃してしまいそうだったけど、確かに聞こえた。
――⋯⋯ごめんね。
だけど「何のこと」なんて軽々しく聞き返せないほど⋯⋯彼女の声色、その声の響きは、私の心の奥深くまで響き渡った――。