Milk Tea ~あなたが教えてくれたこと~ 作:ナナシの新人
通学路に架かる橋の中央で彼は独り、川の流れを見つめていた。
そこは、彼女と始めて言葉を交わした場所――。
夏休み前に出会い、春夏秋冬同じ時間、同じ季節を一緒に過ごした二人⋯⋯
二人の出会いの日。彼女がよじ登ろうとしていた橋の欄干に手を触れ、彼女と出会った頃より少し大人びた彼は、どこか儚げな表情を浮かべると、顔を伏せて静かに目を閉じた。
――何してるの?
「何をしていたんだろう」
閉じていた目を薄く開けた彼は、太陽の光が反射してキラキラと揺れる川の流れを見つめながら問いかけた。
――親しくなったら教えてあげる。
「結局教えてくれなかったね」
伏せていた顔を上げた彼の表情は、橋の上を抜ける薫風のように清らかで、初夏の青空の様に晴れやかだった。
欄干から手を離して横を向いた彼の視線の先には、二年前の春の終わり、月灯りが照らす夜桜の下で彼に別れを告げた
おおよそ、3メートル。
二人の間を萌葱色の無数の若葉がひらひらと舞う中、二人は柔らかく微笑み合う。
――おかえり。
白転した画面に言葉が浮かびあがり、主題歌のイントロとエンドロールが流れた――⋯⋯。
* * *
ドラマがエンディングを迎えたと同時に、淡い桃色のスクエアクッションを抱えた
「っ~! エグい、エモいっ! ラスト二話の怒濤の展開ヤバすぎっ!」
これでもかと余韻を噛み締めもだえる
「原作と結構違ったね」
「うん。もっと濁した終わりだった」
原作小説の方はドラマの様なはっきりした再会の描写ではなく、ハッピーエンドともビターエンドとも受けとれて。二人の行く末の解釈は、読者に委ねるような締め方だった。
「へぇ~、そうなんだ。で、二人の感想は?」
恋の彩空――過酷な運命を背負ったヒロイン
体を起こした
「二人的には原作とドラマ、どっち派?」
「私は、はっきりしてるドラマの方が好きかも」
「私もドラマの方かな」
私は、
正直、原作を読んだ私の解釈とドラマのラストシーンは違った。だけど、物語なんだから、悲しい結末よりも幸せな結末の方がいい。ただ、そう思った。
「二人ともドラマの結末派かぁー。とりまあたしは、原作読んでから~」
手にした小説を開く、
汗をかいた飲みかけのコップを持った
「例えばの話しだけど、
「あたし、同じことする。ケーキ、ホールで食べるとかっ!」
「胸焼けしそう。でも、まあそういうことだよね。私も、後悔は残らないようにするかな」
答えた二人の視線が、私を捉える。
もし、残された時間が少ないと知ったら、か。
「私は――⋯⋯」
二人とは、真逆。
きっと、いつも通りの何気ない日々を過ごしたいと思う。
* * *
ドラマ鑑賞会を終え、
ドラマの感想を話していた時、
駅を出て、お城の麓の土産物店前の交差点で、彼女と別れる。
「じゃあ、ここで待ち合わせね」
「うん。また後でね」
お互い、自宅へ帰る。
母に事情を話し、自室で仕度をしていると、妹の忙しない足音が廊下に響いた。手を止めて、廊下に出る。
「あっお姉ちゃん、おかえりーって、またどこか行くの?」
「友達の家に泊まるの」
「いいな~。わたしも、女子会したいっ!」
女子会って、OLじゃないんだから。
「急いでたみたいだけど?」
「あ、そうだった。吹部の友達と夏祭り行くから、お姉ちゃんの浴衣貸してー」
「いいけど。もうすぐ、支部大会でしょ?」
「だから、息抜き。演奏も、メリハリが大事でしょ。大丈夫、結果残して、お姉ちゃんの学校の推薦貰うから。絶対」
コンクール県大会上位常連のうちの学校の指定校推薦を貰うのは簡単じゃないけど、
浴衣の着付けの手伝いに思いのほか時間がかかってしまった。土産物店に着いた、と
不意に、スマホが鳴った。日陰に入って、画面を見る。
待たせることにならなくてよかった。
ちょっとほっとして顔を上げると、水辺の畔のベンチに涼しげな木陰を作る柳が目に入った。時間はある。
「ちょっといってみようかな」
揺れる柳の下二つあるベンチのひとつには、同世代の女性の先客が居た。思わず立ち止まってしまった。
私より少し短い肩にかかるくらいの毛先に少しウェーブがかかったミディアムボブの黒髪、整った横顔、白系でまとめたコーディネート。
私は、ベンチに座っている清楚可憐なその人のことを知っている。
でも、私が思わず立ち止まってしまったのは、それだけじゃなくて。
涼しげに揺れる柳の下、ベンチに座る彼女の姿が、あのベンチで出会ったあの人の姿と少し重なって見えたから――⋯⋯。