筋金入りのコミュ障ラスボスがRPGの無口系主人公だと思われる勘違いモノ。   作:勘違いモノ大好き!

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第二話

 

 ……ひのきの棒と50Gの衝撃は凄まじく、王様の話は耳から耳へとすり抜ける。

 『ワクワクドキドキ! 聖剣を手にするのはどちらの勇者になるのか!? レース形式で世界各地を巡り、勇者パワーで世界中を盛り上げちゃおうツアー』の詳細だとか。

 回らないといけないチェックポイントだとか。

 聖剣を手に入れるレースの勝者がやらなければならない事だとか。

 本当に、何一つ頭に入らなかった。

 いつの間にか、話は終わり……俺は今、城の前で呆然と立ち尽くしている。

 

「…ぃ……おい! 聞いているのか!?」

 

「な、なんだ!?」

 

 大きな声を出された衝撃で、意識を取り戻す。

 カッと目を見開くと、見慣れない少女が怪訝そうな視線をこちらに向けていた。

 癖のある長いエメラルドグリーンの髪。

 小柄な背丈。

 ジトっとした緑色の眼。

 黒いローブを着用している魔術師然とした格好の彼女は、一体何者なのだろうか。

 

「貴様、王の話を聞いてなかったのか? 私は、貴様らの旅路に同行する監視役。チョロイラ・スグオチールだ」

 

 チョロイラ・スグオチールか。

 結構変わってる名前だな。

 まぁ、センシ・ノーキンナなんて名前の俺が言えた話ではないけれども。

 だが、それよりも……監視役だと?

 何故、俺達を監視するんだろうか。

 素性が自分でもよく分からん転生者孤児の俺はともかく、マオは聖剣を抜いた勇者だぞ!?

 

「そう身構えるな。私に貴様らを害しようとする意思はない。とは言っても、そっちの少女が勇者の称号に相応しい存在である限りの話ではあるが」

 

「…………」

 

 チョロイラは鋭い目つきでマオを見据える。

 しかし、マオは相変わらずの無表情。

 頷きも首振りもせず、ただただ無言で見つめ返しているだけだった。

 心なしか、不穏な雰囲気だな。

 マオが勇者たり得ないなんて事はあり得ないから、いがみ合う必要なんて無いのに。

 ……よし、ここは俺が話題を振って、和気藹々とした感じに持っていくとしよう。

 折角、旅路を共にするのなら、少しでも仲良くなった方が良いに決まってるからな。

 

「そういや、なんで俺達のプレゼントはひのきの棒と50Gだったんだ? ユーシャちゃんのプレゼントとは雲泥の差だったぞ!」

 

 これだけは聞きたかった。

 俺達のプレゼントはひのきの棒と50G。

 対して、ユーシャちゃんのプレゼントは、剣だの盾だの服だの杖だの馬車だの魔導書だのバックパックだの飯だの大金だの……。

 もう、本当に盛りだくさんだった。

 思わず、王様主導の虐めか何かだと思ってしまう程に格差があったのだ。

 

「……あー、それはだな。先日、どっちの勇者がレースの勝者になるか、予想大会があったんだ。王国の重役の中で」

 

「ふむふむ、それで?」

 

「貴様の連れが圧倒的な人気で、内気そうな勇者が圧倒的に不人気だった。それを哀れに思った国王が貴様らに最小限の物資を渡し、内気そうな勇者に最大限の物資を渡す事を決めたんだ」

 

「随分と酷い理由だな、そりゃ。因みに、マオが人気だった理由は?」

 

「重役の方々曰く、『選ばれてないけど、純粋な力で聖剣を引き抜いてそう』だとか『裏でこっそりと聖剣を脅してたりしてそう』だそうだ」

 

 何なんだ、その言い草は。

 やはり、『勇者パワーで世界中を盛り上げちゃおうツアー』なんて物に賛同するような奴らの目は節穴なんだな。

 マオがそんな事するわけない。

 争いを好まない彼女がパワーで剣を引き抜いたり、聖剣を脅す筈がない……って、そもそも聖剣を脅すって何だよ。

 聖剣が自我を持つわけないだろう。

 本当に意味が分からん。

 それ以前に、重役の奴らがレクリエーション感覚で勝利者予想なんかするな!

 

「…………!?」

 

 ほら見ろ。

 あのマオが、いつもより1mmほど目を開いて驚きを隠さないでいる。

 恐らく、根も歯もない印象を持たれて、ショックを受けているのだろうな。

 可憐で可愛い少女が、悪い大人に手段を選ばない脳筋のような扱いをされて、可哀想に……。

 

「……あの、ちょっと良いですか? センシさん、マオさん」

 

 不意に、無限大の荷物を背にしているユーシャちゃんに声をかけられる。

 彼女の側には、見慣れない少女が控えていた。

 どうやら、監視役を付けられるのは俺たちだけではないみたいだ。

 

「………?」

 

「お願いがあるんです。えっと、旅先で長い金髪の女の子……ヤミ・オチルカって名前の女の子が居たら、私に教えて欲しいんです」

 

 表情は真剣そのもの。

 恐らく、ヤミって子が、前に言っていた仲違いした友達なのだろう。

 その上で、家出でもしているのだろうか。

 いずれにせよ、詳しい事情は分からないが、記憶に留めておく事にする。

 

「分かった。絶対に連絡するよ」

 

「ありがとうございます。その代わりとは言っては何ですが、私の物資を……」

 

「ダメだ。ツアールール第124条を参照すると、勇者間での物資のやりとりは認められていない」

 

 ユーシャちゃんの好意に甘えようとした瞬間、チョロイラが口を挟んでくる。

 ルールがあるなんて初耳だ。

 それに、124条もあるのかよ。

 

「そのツアールールってのは、いくつあるんだ?」

 

「151、だな。全てツアーガイドブックに書いてあるから、後で目を通しておくと良い」

 

 初代ポケ○ンの数と同じじゃねーか。

 いくら何でも多すぎるだろう。

 絶対に覚えきれない自信がある。

 なんたって、俺は現時点で九九の7の段が怪しいレベルの馬鹿だからな。

 鶏並みの記憶力だと、良く言われたものだ。

 

「…………」

 

 なんて事を考えていると、マオに肩を叩かれる。

 くるりと後ろを振り返ると、彼女は自信ありげに無い胸を張った。

 こいつ、もしかして……。

 

「全部覚えたのか!? 無駄に多いツアールール151条を……!」

 

「…………!」

 

 マオはこくりと頷く。

 なんて賢い子なのだろうか。

 可愛く聡くステゴロも強い。

 尚且つ、性格も良いのが俺の幼馴染であり、聖剣に選ばれた勇者だった。

 

「ふん。口では何とでも言える。本当に覚えているのか、私がテストしてやろう……勇者は民家から物資を調達できるが、家主の許可をえる必要がある。この旨が記載されているのは何条か分かるか?」

 

 マオはひのきの棒を用いて、地面に67と書く。

 

「……正解だ。では、勇者は野晒しにされているタルやツボの破壊が認められているが、必ず破片を掃除しなくてはならない。この旨が」

 

 問題文を言い終わるより先に、マオは地面に139と書く。

 すると、チョロイラは露骨に悔しそうな表情を浮かべる。

 

「…………中々やるじゃないか。では次……」

 

「あ、あ、あの、皆さん。クイズ大会は、そろそろ終わりにした方が……」

 

「これは神聖な決闘だ!!! スグオチール家に生まれた者として、引くわけにはいかない!!!!」

 

「ご、ごめんなさいぃぃ……」

 

 ユーシャちゃんによる制止を、凄まじい気迫で遮るチョロイラ。

 ただのクイズだった筈なのに……いつから、神聖な決闘になったんだろうか。

 スケールが大きくなりすぎだ。

 正に、負けず嫌い極まれり。

 ここまで、彼女が感情的になるタイプだとは思わなかったが、対抗意識を持ち、切磋琢磨するのは良い事。

 ……良い事だとは思うのだが、今回ばかりは俺も止めておいた方がいいと思う。

 なぜなら。

 

「チョロイラ」

 

「申し訳ないが、今の私は何者にも止められ……」

 

「公共の場所で大騒ぎするのは人の迷惑になる。貴女は……こんな事が分からないほど、お馬鹿になってしまったの?」

 

「お、お姉様……」

 

 ここは城の前。

 大勢の人が往来する場所。

 割と目立つ場所でやりとりしている勇者達の姿は沢山の人の注目を浴びており。

 偉そうな女の人……チョロイラのお姉さんが怒りを露わにして、こちらを見つめていたのだから。

 

 

「そ、それでは、私はこの辺で……センシさん、マオちゃん。お互いに冒険、がんばりましょうね」

 

「ああ。ユーシャちゃんも困った方があれば、何でも言ってくれよ!」

 

「…………!」

 

 相変わらず、私は何も言えないけれど、手をぶんぶん振る事で気持ちを伝える。

 ユーシャちゃんは最初から最後まで良い子だった。

 乗り気ではないのに、弱音を吐くことなく旅に出るのだから、何だかんだでメンタルも強い。

 ……まぁ、私達の前で弱音を吐かなかった理由は、他にもあるけれど。

 

「うぐ……ひぐ……やらかした……今まで、一度もボロを出さなかったのにやらかしちゃった……」

 

 かれこれ1時間。

 監視役である少女、チョロイラはずっと泣き続けている。

 実の姉に叱られた事が相当ショックだったのか、初対面の厳格さは露ほども感じられない。

 寧ろ、実年齢よりも幼く見えるくらいで。

 こんな少女の姿を前にしたからこそ、ユーシャちゃんも愚痴を我慢したに違いない。

 

「折角、これまで頑張ってきたのに。優秀な妹と思われたくて、精一杯努力したのに……」

 

「まぁ、そんな落ち込むなよ。人間なんだから、失敗する事の一つや二つあるって。大切なのは、同じミスをしないよう気をつける事じゃないか?」

 

 センシが声をかける。

 やっぱり、いつだって彼は優しい。

 

「…………」

 

「センシ……マオ……貴様ら、いや、君達は良い人達だな……!」

 

 センシに乗じて、私もハンカチを差し出す。

 そうすると、チョロイラは目を潤わせて、感嘆するような言葉を口にした。

 

「実を言うと、今まで私は……堅苦しそうな言動や規律に厳しい点が相まって、友人と呼べる存在が一人も居なかったんだ。だから、その……」

 

「何言ってんだよ。俺達は仲間、とっくに友達を超えた仲じゃないか!」

 

「…………!」

 

 私もこくりと頷く。

 やっぱり、いつだって彼は良い事を言う。

 いつの日か名言集を世に出したいくらいだ。

 きっと、多くの人が救われるに違いない。

 他でもない私が何度も救われているのだから。

 

「二人共……私、頑張るからな。国が送った刺客ではなく、一人の友人として君達を守ってみせる!」

 

 チョロイラはそう告げて、屈託のない笑みを見せてくれる。

 最初はどうなる事かと思ったけれど、良い関係を築けそうで安心した。

 折角、旅をするのだから、ギスギスするよりも楽しい方がずっと良い。

 これからも三人で仲良くやっていけたらいいな、と心の底から思う。

 ……それはそれとして、気になる事がある。

 ちょっと前のチョロイラの発言。

 

「重役の方々曰く、『選ばれてないけど、純粋な力で聖剣を引き抜いてそう』だとか『裏でこっそりと聖剣を脅してたりしてそう』だそうだ」

 

 センシとの会話の中で、このような発言があった。

 この言葉を耳にした私は、一つの疑念を抱く。

 聖剣は私が魔王である事を知っている。

 故に、彼女?を野放しにしていると……その内本当に、私が魔王である事を他の人にバラしてしまうのではないかと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

『……だから、来ちゃった』

 

『いや、来ないでよ!!!』

 

 私は今、聖剣が置かれている王都の広場を訪れている。

 因みに、センシとチョロイラにはお手洗いと言ってあるので、変な疑いを向けられる心配はない。

 その上、念話とやらを用いているため、他の人に会話を盗み聞きされる心配もない。

 

『私が魔王って事、誰にも言ってないよね。誰にも、言わないよね?』

 

『今は言ってないけど……どうしようかな〜。あたし、あんたに折られかけたしな〜。勇者ちゃんにポロッと漏らしちゃおっかな〜』

 

 何故、ここで勇者の名前を挙げるのだろう? 

 私とユーシャが仲良い事を知らない筈なのに。

 ……もしかして、聖剣は、ユーシャや私以外の人とは念話出来ないのだろうか。

 私が初めて念話した時、やけに驚いてたのも、そう考えれば辻褄が合う。

 

『そんな事しても意味ないよ』

 

『え、どうして? 意味あるでしょ。だって、あんたは魔王である事がバレたら……』

 

『ユーシャは多分、貴女の言葉よりも私の方を信用すると思う……貴女は、ユーシャと仲が良さそうじゃないから』

 

『なんで、そう言い切れるのよ……まぁ、その通りなんだけど。あの子、良い子なのは確かだけれど内向的すぎて、あたしとあまり気が合わないのよね』

 

 ユーシャちゃんと聖剣は、明らかに正反対の性格をしている。

 水と油が相容れないのと同様に、親しくなれると思えない。

 取り敢えず、聖剣から魔王である事が露呈する可能性が低いことが分かって良かった。

 なんだかんだで心優しい彼女の性格上、本当に私が困るような事はしなさそうだから。

 

『それじゃあ、私はそろそろ行かないといけないから……選定の儀式の時、助けてくれてありがとう』

 

 ……ならば、もうここに用はない。

 そう考えた私は身を翻して、センシ達の元へ帰ろうとする。

 

『ちょ、ちょっと待ってよ。もっとお話ししましょうよ。あたし、ずっとここにいて暇で暇でしょうがないの』

 

『ごめん。申し訳ないけど、急がないといけないから。旅立つ準備とか資金集めとか、色々とやる事がある』

 

『ならさ、あたしも連れてってよ。あんたの旅に』

 

『……聖剣争奪レースに勝利しないと、ダメ。今、貴女を連れて行ったら窃盗罪で捕まってしまう』

 

『聖剣争奪レースって何なの……? ちょー気になるんですけど。まぁ、そういう事なら少しだけ待ってて。確か、こうすれば……』

 

 そう告げた途端に、地面に突き刺さっている聖剣が光り輝く。

 これから、何が起きるのだろうか。

 先程、聖剣は私について行きたいと言っていた。

 ということは、分身のようなものを出したり、精霊のような存在を出したりするのだろうか。

 そう考えると、ちょっとだけワクワクする……なんて事を考えていると、目の前に何かが出現した。

 それは、分身でも精霊でも、聖剣が擬人化した姿でも何でもなく。

 

『丁重に扱いなさいよね。何と言ったって、聖剣たる私の分霊なのだから!』

 

 眩いくらいに光り輝く、ただの石ころだった。





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