筋金入りのコミュ障ラスボスがRPGの無口系主人公だと思われる勘違いモノ。   作:勘違いモノ大好き!

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第三話

 

 冒険をするには先立つものが必要だ。

 金やら物資やら移動手段やら。

 しかし、今の俺達には何もなく。

 そこら辺で拾える木の棒と、菓子代にもならない小銭50Gしか無い。

 故に、金を稼ぐ必要がある。

 冒険者のように、モンスター退治やダンジョン攻略などの依頼をこなす必要があるのだ。

 そのため、俺達は冒険者ギルドでゴブリン討伐の依頼を受けて、指定された場所へと向かっているのだが……。

 

「こんな装備で大丈夫か……?」

 

 俺やマオが着ているのは、冒険用の物ではない。

 そこら辺の通行人が着用しているようなTHE・普段着といった衣服。

 モンスターの攻撃を喰らったら、速攻で破けてしまうような布の服だった。

 おまけに、剣も盾もなく。

 唯一の武器はちょっと頑丈なひのきの棒。

 ……馬鹿な俺でも分かる。

 この装備でモンスターと戦うのは、自殺行為そのものであると。

 

「問題は、あるだろう」

 

「やっぱり!? じゃあ、孤児院から装備を持ち込むのを許可してくれよ!」

 

「それは出来ない。ツアールール第8条に、勇者の初期装備は支給された物に限る。既に所有している物資の持ち込みは許されない……と記載されているからな」

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべながら、チョロイラはそう告げる。

 それなら、仕方ない……とはならない。

 ならば、どうしろと。

 一体、どのようにして、旅の資金を稼げばいいんだよ!!

 初っ端から詰みじゃねぇか!!!

 

「…………」

 

 マオはふるふると首を振った後に、ポンと自身の無い胸を叩く。

 心配する必要はない、自分に任せて欲しい……とでもいいたげに。

 なんて、頼りになるのだろう。

 心なしか、輝いているように見える。

 というよりも、本当に輝いていた。

 昨日まで付けていなかった胸元のペンダントの石が、煌々と光を放ち続けていたのだ。

 

「何だ、その綺麗な石。どっかで拾ったのか?」

 

「…………」

 

 マオはこくりと頷く。

 それにしては、随分と綺麗な石だな。

 まるで宝石のようで、売ったら高そうだけれども、彼女が大事にしている可能性がある。

 なので、そんな事は決して口に出さないが。

 

「見るからに高価そうな石だな。売却したら、結構な額が手に入るんじゃないか?」

 

 それでも、チョロイラはぶちこむ。

 躊躇う様子すら見せずに淡々と。

 あくまで合理的に、そう提案したのだ。

 もう少しこう、何というか、気遣いというか。

 彼女には、人の心とかないのだろうか。

 

「…………?」

 

 しかし、マオは動じなかった。

 寧ろ、別に売っても良いよ……とでもいいたげに首をこてんと傾げている。

 宝物という訳でもないのだろうか。

 そういう事なら、遠慮なく。

 この石を売却して得た金を旅の資金に充てよう、と発言しようとした刹那。

 

「うおっ、眩しっ!」

 

「……!?!?」

 

「目がっ、私の目がぁ!」

 

 ペンダントの石が異常なほどの光を放ち始める。

 まるで、売られるのを拒否するかのように。

 距離があった俺はともかく、首にぶら下げているマオと、しげしげと眺めていたチョロイラは直撃。

 方や、声を上げずに目を手で覆い。

 方や、某大佐のような台詞を吐きながら、地面をのたうち回る。

 いずれにせよ、双方とも悶え苦しんでいた。

 

「悪かった。絶対に売ったりしないから、光るのやめてくれ!」

 

「すまない……じゃなくて、ごめんなさい! もう売るなんて言わないので、許してください!」

 

 マオ以外は光る石に向けて、懇願するように許しを乞う。

 たかが石に敗北している姿は惨めそのもので、とにかく情けない。

 チョロイラに至ってはキャラが跡形もなく崩壊しかけている。

 栄えある勇者パーティの姿か、これが……?

 

「…………」

 

 唯一懇願していないマオが、何かを訴えかけた。

 すると、光は収まり、視界は元に戻る。

 改めて、石を見てみると、勝ち誇るようにチカチカと点滅していて。

 その様子が少し癪に障る。

 

「まさかとは思うが、意思を待っているのか? 石だけに……なんてな!」

 

 そう呟くと、またもや光り輝く。

 予想だにしない反撃を喰らった俺の視界は真っ白に染まり、眼球にとてつもないダメージが入る。

 ……やはり、石は意思を持っていた。

 俺のギャグをつまらないと思う程度には、人らしい感性を有していたのだ。

 

 

「それでは、ゴブリン討伐に向かうぞ。覚悟はいいか? マオ、センシ」

 

「…………!」

 

「おう!」

 

 そんなこんなで俺達は今、如何にもモンスターが住み着いていそうな穴倉の前にいる。

 冒険者ギルドにて受けた任務、ゴブリン討伐を果たすために。

 旅をするのに必要な金銭を稼ぐために。

 正直に言うと、装備的に不安ではあるが……。

 

「案ずるな、二人共。私は幾度となく実践経験を積んでいるし、単独で上級モンスターの討伐に成功した事もある……ゴブリン程度の下級モンスターには遅れを取らないと断言しよう」

 

「…………!!!」

 

 チョロイラはこう言ってるし、マオはやる気だ。

 それに、いざとなれば、俺が肉壁になって2人を死ぬ気で守れば良いだけなので何とかなるだろう。

 耐久性皆無な布の服はともかく、長年鍛え上げた筋肉は堅牢極まれり。

 もしも、ゴブリンに敗北したとしても、時間稼ぎくらいなら出来る筈だ。

 

「ゴブリンは性欲旺盛な能無しモンスターだと思われがちだが、その認識は誤りだ。実際のところ、奴らは高度な知能を有しており、狡猾な手段で人間を陥れようとする。非力ではあるものの、決して侮ってはいけない相手なんだ」

 

 三人揃って、穴倉の奥へと進んでいく。

 マオの光る石が光源の代わりとなっているので、たいまつを持つ必要がないのが有難い。

 だが、それよりも。

 

「横穴には必ずと言っていいくらい、ゴブリンが潜んでいる……このように」

 

「グギャ!!!」

 

 言われなければ気が付かないほどの窪みに向かって、チョロイラが風の刃を放つ。

 すると、穴の中に潜んでいたゴブリンの悲痛な叫び声が響き渡った。

 

「丹念に周囲を見渡した方が良い。ここは奴らの根城。至る所に罠が仕掛けられているからな」

 

「…………??」

 

 先頭を歩くチョロイラが、マオを制止する。

 目を凝らすと、足元には不自然な隆起があり、壁際には矢を射出する装置が仕掛けられてあった。

 恐らく、隆起を踏んだ不注意な者を自動的に矢で射る装置なのだろう。

 

「おっ、宝箱だ。早速中身を拝見……」

 

「無視しろ。大抵の場合罠な上、罠でないとしても中に入ってるのはゴブリンが溜め込んだガラクタ。碌なものは入ってない」

 

 宝箱を見て一目散に飛びかかろうとする俺の服の裾を掴むのは、案の定チョロイラ。

 彼女は驚くほど冷静で頼りになる。

 判断はとことん正確で、ゴブリンの行動を悉く先読みしていて。

 ちょっと前の……光る石に負けて、キャラ崩壊していた少女は何処へやら。

 今この場所に居るのは、幼いながらに経験豊富な優秀な魔術師そのものだった。

 

「凄いな、チョロイラ。ゴブリンの考えてる事が何でもお見通しで……もしかして、お前ってエスパーなのか?」

 

「えすぱー? それは知らんが、ゴブリンの行動パターンを把握しているのは経験の賜物だ。お前やマオも実践経験を積めば、自ずと分かるようになる」

 

「…………!」

 

「ふふふ。マオも私を凄いと思ってくれてそうだな。褒めてくれるのは嬉しいが……気を引き締めた方が良い。間も無く、穴倉の奥地。ゴブリン共のリーダーが待ち受けているに違いないからな」

 

 その発言を耳にした俺とマオは息を呑む。

 これまで、戦闘も索敵も罠の探知でさえも、全てチョロイラに頼りきりだった。

 しかし、これからはそうはいかない。

 ゴブリンのリーダーとやらがどれほどの力を持っているか分からない以上、彼女1人に相手をさせるのは酷だ。

 必然的に、俺達も戦うことになる。

 そう考えると、少しビビってしまう。

 マオはひのきの棒で、俺はステゴロで。

 魔物に太刀打ちできるのかと考えてしまうのだ。

 

「…………」

 

 そんな俺の気持ちを感じ取ったのか、マオはいつもよりも大きく頷く。

 頑張ろう、とでも言いたげに。

 ……そうだよな。

 俺達は魔王を討伐する事を志す勇者パーティ。

 ちょっとやそっとの困難で弱音を吐いていたら、絶対に務まらない。

 怖かろうが何だろうが、敵に立ち向かう以外の選択肢はないのだ。

 

「ありがとうな、マオ。もう大丈夫だ」

 

「…………!」

 

「それでは行くぞ、2人とも。しっかりと覚悟の準備をしておけよ」

 

 それぞれ臨戦体制に入り、瘴気が漂う広間へと足を踏み入れる。

 すると、そこで待っていたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「………………」」」」」」

 

 揃いも揃って、地面に頭を擦り付けている大量のゴブリン達だった。

 これは、紛う事なき土下座。

 誇り高き日本の文化。

 何故、奴らが知っているんだ、という疑問よりも先に……目の前の光景の異様さに目が奪われた。

 人間を見境なく襲うモンスターが、人間を前にして平伏する。

 こんな事例は見たことも聞いたこともない。

 

「な、なんで、こいつらは体を地面に擦り付けているんだ? もしかして、地面に欲情しているのか……? だとしたら、何と破廉恥な……」

 

「…………?」

 

 マオもチョロイラも困惑を隠せないでいる。

 そうなるのも致し方ないだろう。

 戦闘が始まると思っていたら、待っていたのは微動だにせず土下座する大量のゴブリン。

 拍子抜けしてしまうのは当然だ。

 

「ワタクシドモハアナタサマヲズットオマチシテオリマシタ」

 

 土下座している集団の先頭にいるゴブリン。

 ボロ切れを身に纏い、頭には奇妙な飾りを付けている偉そうな奴が、物凄い早口で言葉を紡ぐ。

 息継ぎもせず、抑揚もない。

 おまけにカタコトなので、俺には聞き取れなかったが……人間の言葉なのは確かだった。

 

「メガミニヨルシハイヲオワラセワレワレニシンノナヲアタエテクダサイ、ドウカサダメラレタウンメイヲカエテクダサイ……ワレラガオウヨ」

 

 相変わらず、良く聞き取れない。

 だがしかし、ワレラガオウヨというフレーズだけは耳に入ってきた。

 ワレラガオウヨ、われらがおうよ。

 ……我らが王よ?

 もしかして、このゴブリンは……俺たち三人の中に魔物の王が。

 魔王が存在するとでも、言いたいのか……?

 

「何て言ってるか分からないけど、人間の言葉を喋るゴブリンだなんて! お姉様に報告したら、必ずや褒めてくれるに違いない! 絶対にゲットしよう。センシ、マオ!」

 

 チョロイラはきゃっきゃとはしゃいでいる。

 その姿はまるで、女児のようで。

 ちょっと前の……実践経験豊富で俺達を導いてくれる少女は何処へやら。

 今この場所にいるのは、ちょっとポンコツで抜けてるところのある女の子であり。

 到底、魔物の王のようには見えない。

 そもそも、国が送り込んだ監査役が魔王である可能性は0に等しいだろう。

 となると……。

 

「…………………」

 

 チラリとマオの様子を伺う。

 いつも通りの無表情に無言だが、俺の目にはどこか焦っているように見えて。

 心の中にとある疑念が生じたのを感じた。

 やっぱり、こいつ……魔王なんじゃね?

 ……と、思ってしまったのだ。





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