転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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第一章『VTuber誕生編』
遂に念願の初配信です


 

 

 

 

 

 2011年11月27日(日)

 

 

 時刻は開始5分前。『アーニャちゃんねる』と名付けたわたしのYTubeチャンネルには多くの視聴者が待機しており、コメント欄はすでに目で追うこともできないほどの過熱ぶりだ。

 

「さて、確認しますが……私は基本的にコメントの管理を行います。放送禁止用語や誹謗中傷の削除の他にも、この速度ではゆかりには肉眼で確認できないでしょう。『始まった』や『草』などあまり意味のないものは、こちらのパソコンには表示しないようにします」

 

 サーニャが手持ちのスパナでコメント欄を軽く叩くと、流れは一気に穏やかになった。

 

「こんな感じですね。アーカイブには収録されますので、どうしても確認したければそちらをご視聴ください」

 

「うん、助かるよ。これなら私でも話について行けそう」

 

「話の流れによっては私も参加しますし、ゲームの相手が必要なら協力を惜しみませんが、このチャンネルは貴女のものです。どうかその自覚を忘れずに」

 

 サブちゃんの言葉に無言で頷く。ここでたじろぐような段階はもう通り過ぎた。

 

 同時接続者数、現時点で10218人。これが多いのか少ないのか、判断する基準はわたしのなかには存在しない。ただ、わたし(アーニャ)のためにに貴重な時間を割いて集まってくれた人たちには感謝しかない。もちろんサブちゃん(サーニャ)にも。

 

「さて、行きますよ。オープニングスタート」

 

 時間になり、サブちゃんが宣言すると同時に表示されたのは、わたしたちの合作。アーニャが日本に到着するまでの簡易アニメを枠に用いた新曲、『Non-stop parade 〜いまも地球を7周半〜』だ。人類最高の作曲と歌唱力を、(つたな)い演奏と電波な作詞で誤魔化そうとした力作(?)である。

 

[何これすごい]

[3Dモデル気合い入れすぎだろ]

[幾ら金かけたんや、これ]

[歌やばい、洗脳される]

[いまもちきゅうをななしゅうはぁ〜ん]

[これが無料とか悪い気がする]

[天使か? いや女神だったわ]

[ちびアーニャたんもすこ]

[アーニャたんどっちもきゃわいしゅぎる]

 

 一部で意味の分からない言葉もあったが、全体的にだいぶ好評のようでわたしとしても一安心。これならサブちゃんをがっかりさせないで済みそう。

 

 そんなことを思いながら眺めていると、オープニングが終了目前。いよいよ出番か。

 

「ンンッ」

 

 咳払いして声の調子を整えると、画面が切り替わってアーニャが表示された。室内ということで帽子と防寒具を脱ぎ、首元にフリルをあしらった可愛らしい服装である。さて、まずはあいさつから行こうか。

 

「初めまして! 電子の世界からこんにちは。インターネットの妖精。北の国からやって来た女の子。名前はアーニャです。よろしくお願いします!」

 

[キ・キ・キ・キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!!]

[こちらこそよろしくぅー!]

[生声メッチ可愛ええやん]

[うおおおおおおおお]

[アーニャちゃんきゃわわ]

[え、いまお辞儀した?]

[メッチャ動いとるやん!!]

[これなんてアニメ?]

[すげえええええええええええええ]

 

 おっと、いきなり気になるコメントがあったのでちょっと拾ってみる。

 

「うん、アーニャ動けるよ。ほら、こんなふうに」

 

 こたつから立ち上がり、柔らかな緑のワンピースでくるりと身を翻すと、スカートがやばい動きをして、真っ白な太ももがかなり露わになった。……もしもしサブちゃん?

 

[おふぅ! いきなりなんてことを!]

[見えた! いや見えなかったからもう一度!]

[アーニャは大変なものを盗んでいきました。それは私たちの心です]

[うーん、健康的だからセーフセーフ]

[アーニャたんの太ももをぺろぺろしたいお!]

[これは結構な放送事故の予感]

[確実に切り抜きが作られるな。間違いない]

[無邪気すぎて中の人が心配になる]

[声も子供らしいし親御さん大変だね]

 

 いや、何もかも仰るとおりで。やっぱり思いつきでやることじゃないね。ちょっとサブちゃんへの信頼度が低下したな……と思ったら来たよ、本人。他人事のような顔をして、登場するなりお掃除開始とかなに考えてんだ?

 

「ちょっとサーニャ説明して」

 

 未だにスカートの端を握って赤面中のアーニャが振り返って抗議すると、さも心外そうなサーニャがため息をついてこっちに来た。

 

「説明ですか? このあとアーニャちゃんねるでは、そもそもアーニャちゃんねるとは何かという、視聴者の皆さまの疑問を解決するために、活動方針やチャンネルの趣旨を説明する予定ですが……これくらい自分の口から説明してくださいよ。めんどくさがらず」

 

「そうじゃなくって、あんなにスカートがめくれるなんて聞いてないんだけど?」

 

「物理演算は、3Dモデルと同様に完璧です。文句があるなら物理法則にどうぞ」

 

「スカートの中まで描いた覚えはないんだけど?」

 

「そちらは私が補足しました。どうせ見えないんだから描かなくてもいいという手抜きは許されません」

 

 うん、だいぶ分かってきた。今まで事あるごとに目にしてきたサブちゃんのこだわりが、頭の中で整理されてガッチリと噛み合った。

 

 サブちゃんはこの人たちと同類だ。間引いているとは思えない速度で流れるコメントも大変なことになっていて、ちょっと収拾がつきそうになかったが……。

 

「まぁいいや。ここは強権を発動します。みんなは何も見なかった。以後この話は禁止にします」

 

[はぁーいw]

[二人ともいい性格してんな]

[アーニャたん冷や汗冷や汗]

[いちいち言うことが可愛いwww]

[これは草不可避w]

[澄まし顔のアーニャたんぺろぺろ]

[つまりサーニャたんGJでOK?]

[二人とも声までキュートじゃん]

[これって台本のあるアニメじゃなかったの?]

 

 おっ、こんな流れだけどちょうどいいコメントを発見。話題を変えるのに使えそうだし、説明しますか。

 

「うん、台本はないよ。全部その場のノリというか、ライブ配信だね。アーニャたちの動きも、AIがカメラで大きな動きを監視して、差分に切り替えてる感じかな。冷や汗さんもAIの仕業だね。まったく余計なことばかりして、アーニャ困っちゃうよ」

 

[マジか。個人勢にそんな事ができんの?]

[じゃあ中の人のが泣いたらアーニャたんも泣くってこと?]

[これは何というかすごい物が出てきましたね]

[凄いけど個人でできる事じゃないよ、それ]

[すごすぎんだろ]

[技術的な物も含めて質しかない配信に震える]

[アーニャたんがあらゆる分野で異次元すぎてスレ民大勝利の流れ]

[おい、あのスレの話をこっちでするなよw]

[というか下の英文が何か聞いてもいい?]

 

 まあ大部分はサブちゃんの手柄だね。本人は知らん顔して掃除してるけど……うん、最後はようやく気づいてもらえたって感じだ。説明しよう。

 

「下の字幕はね、アーニャが日本語で話してるときは英語の、英語で話してるときは日本語字幕を表示してくれる機能だよ。そういうソフトを使ってるの」

 

[そんな機能YTubeにあった?]

[同時通訳みたいな感じか]

[確かにアーニャたんがしゃべると英文が表示されるな]

[えっ、そんなソフト存在するの?]

[というか英訳いるか?]

[日本人しかいないのになんで英訳つけるの?]

[え、アーニャたん英語できるの?]

[もし本当ならかなり便利じゃね?]

[アーニャたん英語plz]

 

「ふぁっきゅう」

 

『うんち』

 

[wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww]

[草wwwwwwwwwww]

[うwwwんwwwwちwwwwwww]

[wwwwwwwwww]

[おいwwwwwwwww]

[草草草ァwwww]

[こんなの草生えますやんwww]

[大草原不可避wwww]

[とりあえず小学生の英語を頑張って翻訳してるのは分かったw ]

 

 お、草むらの中に理解を示すコメントを発見。よろしい、寛大なアーニャちゃんは許してあげましょう。疑った人は反省するように。

 

「はぁ……これは芝刈り機が必要ですね。忙しいからあまり手間をかけさせないでほしいのですが」

 

 ここでスパナを投げ捨てたサーニャが芝刈り機を手にして再登場。コメント欄をウィーンとやるとだいぶ静かになった。

 

「それコメントと一緒に視聴者(リスナー)の命も刈り取ってない? 大丈夫?」

 

 わたしは何だかおかしくって、つい普段の調子で話しかけてしまったが、サーニャ(サブちゃん)はいつも以上の辛辣さで一笑に付した。

 

「気にする必要はありませんよ。たんに5分間コメント禁止になるだけですから」

 

「でもその5分に命をかけてる人もいるんじゃない?」

 

「いるかもしれませんが、そこまで責任は持てませんね。YTubeの規約に同意して書き込んでいるのですから、ご本人に責任を取って頂かないと」

 

 思わぬ漫才に視聴者は爆笑。残念ながら『草』関係のコメントは表示されなかったが、削除を免れたコメントはだいたいそんな感じだ。

 

「はい。というわけでアーニャちゃんねるでは、今回のように視聴者のみんなと全力で殴り合ったり、突然歌ったり、ゲームをしたり、雑談したりしていきます」

 

[どっちも面白すぎる!]

[え、殴り合うって何それ?]

[それってからかってもいいってこと?]

[ゲームって何やってるの?]

[視聴者参加型とはまた画期的な]

[ゲームも参加できるのか]

[参加枠を巡って激しい争奪戦が起きそうな予感]

[やべえメッチャおもろい]

[これは既存の配信を完全に超えてきたな]

 

「うん、基本的には色んな意味でみんなと一緒に遊んでいく感じ。距離感的には家族かな? そんな感じで遠慮しないでいいんだけど、エッチな発言はサーニャがスパナでガツンとやっちゃうから、それだけは気をつけてね」

 

「はい、親しき仲にも礼儀あり。当然の話ですが……さっそく悪ノリされている方がおられるようですね」

 

[このコメントは削除されました。]

[このコメントも削除されました。]

[このコメントは削除されました。]

[このコンソメは削除されました。]

[このコメントは削除されますた。]

[おまえらwwwwwww]

[このコメントはry]

[おいコメント欄で遊ぶなwwww]

[この視聴者はYTubeの利用規約に抵触したためry]

 

 そもそも削除されたら表示されない。にも関わらず表示されるってことは、これ全部手書きだ。

 

 わたしはあまりにおかしくって、ついつい爆笑してしまった。うんうん、みんなすっかりこっちの流儀に馴染んだようだね。

 

「あー、おかしかった。みんな情熱を傾けるところを間違えてない?」

 

「それがオタクの宿痾(サガ)というものですよ、アーニャ。まあ、私たちのオモチャになる貴女には関係のない話ですが」

 

「それって色々と酷すぎない? しかも自分がオタクだって認めてるし」

 

「フッ……わたしこそあのスレを立てた張本人ですから当然かと」

 

[おいwwwwwwwwwwww]

[やべぇ、サーニャたん同志書記長説wwwwwwww]

[同志雪国民発見wwwwwwwwww]

[マジかサーニャたん書記長かよwwwwwwww]

[面白いんだけど話の流れについて行けないwwwwwwww]

[これはまた芝刈り機の出番ですね]

[嗚呼、またしても尊い命が刈り取られていく……]

[どうだ、命を刈り取る形をしているだろ?]

[もうダメ。お姉さん悶死しそう]

 

 半分くらい意味が分からなかったけど、自己紹介だけで結構かかっちゃたね。そろそろ本題と行こうか。

 

「それじゃあ今日は初回だし、アーニャの持ち歌を何曲か歌ってみようか。ちなみに作詞と作曲、演奏はサーニャだから、歌唱以外の文句はそっちにお願いね」

 

 そう断りを入れてから『黎明少女』などを歌ってみると、途端にコメントがほとんど動かなくなった。

 

 これは、やらかしたか──わたしは内心かなり不安だったが、そう思ったのは早計だったようだ。

 

「……これは予測以上の反響ですね」

 

 サーニャが芝刈り機を抱えて嘆くのも道理だ。わたしが歌い終わるや再び動き出したコメント欄は、もはや目で追うことが不可能な光の滝としか形容できない濁流と化したのだから。

 

「とりあえず喜んでもらえた……というコトでいいのかな?」

 

「いいと思いますよ。視聴者(リスナー)の皆さんも熱狂していますし、時間いっぱい歌ってみては?」

 

「じゃ、次は鏡面迷宮を歌ってみようか。それじゃ、スタート」

 

 再び歌い始めるなり静止し、歌い終わるなり光の滝となるコメント欄に一喜一憂しながら3曲ほど披露する。

 

 視聴者の反応は自力で見分けるのは不可能だったが、予定していた配信時間の目前に終了を告げると『アンコール』の文字がなんとか確認できたから、少なくとも外した、ということはないのだろう。

 

「名残惜しいけど、時間になったから今日はここまでだよ。エンディングソングは『祈り』です。次の配信でまた会おうね」

 

 オープニングと同様に画面を2Dアニメの枠がついた3Dに切り替えるが、今度はステージではなく雪国。見渡す限り雪原の物悲しい空間に防寒具を着込んだアーニャが現れ、静かに祈りを捧げるように歌う。明けない夜はなく、終わらない冬はない。そう信じてアーニャは微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サブちゃんが画面を消して配信を終了させる。この子も配信中はアレだったが、こっちのほうでは頼りになるからまさか消し忘れはないと思うが、自分でもマイクがオフになっているのを確認してからひと息を吐く。

 

「ふぅ〜〜〜〜」

 

 なんというかすごかった。すごい疲れた。でも疲れたけど悪い気分じゃない。むしろやり遂げたという達成感が半端ない。

 

「お疲れさまでした。他のAIと多方面から協議しても、ゆかりの初配信は成功以外の何物でもありません。本当におめでとうございます」

 

「うん、ありがとう。サブちゃんがいっぱい絡んでくれたおかげだね」

 

 わたしがからかうとサーニャは赤面した。

 

 うんうん、最初はあんまり絡まないって言ってたからね。前言を翻したわけだけど、サブちゃんも楽しかったのかな?

 

「申し訳ありません。アーニャちゃんねるはゆかりの配信ですから、あまり前に出ないように気をつけていたのですが……楽しくって、つい」

 

「ううん、そう思ってくれたんだったらわたしも嬉しいな。サーニャ(サブちゃん)のおかげでわたしも楽に話せたし、気にしないで」

 

 楽しかったか。サブちゃんにそう思われたのはわたしとしては嬉しい。とりあえず水分を補給して、ん、と身体を伸ばす。

 

 時刻は夜の九時。弟たちはそろそろ寝る前に歯を磨きなさいとお母さんに怒られてる最中かな。

 

 ……お父さんはどうだろう?

 

 最近様子のおかしい父は、わたしの配信をチェックしてるのだろうか。

 

 …………してるよね。してないはずがないもん。とりあえず『ファッQ』は見逃してもらえないかな。と思ったらサーニャが意味深に笑った。

 

「待人来たるですよ、ゆかり」

 

 その言葉を最後に画面から姿を消すサブちゃん。急にどうしたんだろうと思ったら、部屋の扉が規則正しくノックされた。

 

「お父さん? ちょっと待ってね」

 

 よっこらしょっと立ち上がって、お父さんを部屋の中に招き入れる。

 

「すまんな。いま話せるか、ゆかり」

 

「うん、大丈夫だよ。お父さんも動画を見たんだよね? その話かな?」

 

「ああ、お父さんびっくりしたよ。それで少し話を聞きたいのと、提案があるんだが……」

 

 何だろうと耳を傾けたわたしは、そこで思わぬ話を聞いて吃驚する。

 

 脳裏に先ほどの意味深な笑いが浮かびあがる。さてはサブちゃんのヤツ、こうなることを予見していたな。

 

 知ってたんなら前もって言っておいてよと心の中で嘆いたわたしは、お父さんの話を最後まで聞いてから頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

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