転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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ファンレターを貰って嬉しくなったら、直後に頭を悩ませる話

 

 

 

 

 

 2011年11月28日(月)

 

 

「それって配信中に何をするかってこと? それなら歌って遊んでお喋りしたいってもう伝えたと思うけど?」

 

「はい、ゆかりがどのような配信をお望みかは把握しています。しかし今回お尋ねしているのは、ゆかりの配信におけるアーニャの位置付けをどうするかです。これにより今後の活動方針はガラリと変化します」

 

 学校から帰宅後にいつもの作戦会議と洒落込んだが、イマイチ議論が噛み合っていない気がする。

 

 わたしは「うーん」と唸って、おやつのシュークリームにパクついた。糖分の不足が補われた多幸感に、少しだけ頭部の血流が加速したと錯覚する。

 

「とりあえず活動方針なら、できるだけ間を空けずに配信するってことかな? さすがに毎日休まずは無理だけど……」

 

 今度は苦めのお茶口に含んで答えてみた。

 

 実のところ、配信の準備は目の前のメイドさん(サーニャ)が全部やってくれるので、わたしの負担は驚くほど少ない。やろうと思えばゲームは一日一時間の感覚で、毎日配信することだって十分に可能だが、そうとばかりは言っておれない事情もあるのだ。

 

 と言うのも仲のいい弟たちが、夕食後にわたしの部屋に立ち入ることを両親に禁止されてしまったのである。

 

 アーニャの声はかなり作っているので、わたしの地声を聞く機会の多い学校のクラスメイトも、そうおいそれとは気づかないだろうが……そこに弟妹(きょうだい)の声が配信に乗ってしまえばどうなるかは判らない。

 

 放送事故を避けるため仕方ない判断ではあるものの、生意気な弟はさておき、まだ幼い妹は無理やりわたしと引き離されたように感じて、かなり凹んでいるのだ。なので隔日かそれに近い休養日を設けて、姉妹の時間も大事にしたい。

 

「ゆかりの事情は熟知しています。結構な話じゃありませんか。私も賛成ですよ」

 

 サーニャが自分(サブちゃん)の制御下にあるアーニャを甘やかす。わたしとは無関係の姉妹のスキンシップを見せつけられたわけだが、悪い気はしない。やっぱり兄弟姉妹はいつも仲良くが一番だよ。

 

「ただ、今回の話は……そうですね。具体的な例を挙げて未来予測をしてみますか。そのほうがうまく伝わるかもしれませんね」

 

 うん、と最後のシュークリームをもぐもぐすると画面が切り替わり、お馴染み分析結果が表示される。

 

「これが昨夜の配信終了時におけるリスナーの傾向です。これは動画の視聴者がアーニャに何を望んでいるかを、コメントなどから分析した結果ですが」

 

「うん、アーニャの歌と笑顔に期待してる人が多いね。放送事故やサービスシーンに期待している人もいるのは、ちょっと気になるけど……」

 

 これは昨日のアレか。スカートのアレか。今度から気をつけよう。

 

「そうですね。可愛い女の子のちょっとHなシーンはさておき、露骨にスケベな女の子は評価が分かれますから、その自覚は大切になさってください。さて、話を戻しますが……ここでゆかりがホラーゲームをプレイしたら、このグラフはどう変化すると思いますか?」

 

「ホラーゲームってC社のサバイバルホラー4とか? あれわたし大好きなんだよね。GQ版は何回プレイしたか覚えてないよ」

 

 懐かしい。またやりたくなってきたな。昔のゲームだから弟たちもプレイしてないし、あとで押し入れを探してお姉ちゃんの頼れる姿を見せてやろうかな。

 

「ふむ? 少し疑問ですが、得意そうなのでグラフのほうは楽しそうなアーニャを見守るものが増えましたが……これが本気で怖いガチホラーならどうなると思いますか?」

 

 サーニャが意地悪な顔をした瞬間、画面が予告なく切り替わって実写としか思えないゾンビが群がってきた!

 

「っきゃぁぁあああああああ!?」

 

 思わず叫んで倒れそうになったが、背後の空間から伸びてきた女性の手に椅子ごと支えられ元に戻される。

 

「とまあ、こんな感じです。素晴らしい反応でしたね、ありがとうございます」

 

「心臓に悪いことはやめてよ……特に手……」

 

 前に自身の生体モデルにサーニャを採用したって言ってたけど、さっきのはサブちゃん本人の手だったんだろうか?

 

 今さら確認しても痕跡はカケラも残っていなかったけど、グラフのほうはしっかりと変化していた。

 

「というワケで、今のは数年後にS社のハードで発売されるサバイバルホラーシリーズの新作ですが、実際プレイした場合はこのように変化します」

 

 グラフの中に発生した紫の割合が増加する。それはいいんだけど、なんだこの「ア虐」の文字は。

 

「ア虐とは、文字通りアーニャを虐めることに快感を覚える視聴者(リスナー)のことですね。このようにゆかりがホラーゲームをプレイした場合、彼らがアーニャに望むものも変化するわけです。まあ、それもゆかりの渾身の撮れ高があっての話ですが」

 

 心臓はいまだにドキドキしていたが、サブちゃんが何を言いたいかはようやく分かってきた。

 

「つまりプレイするゲームは慎重に選ばないとダメってこと?」

 

「はい、ゆかりも苦手なホラーゲームばかり注文されるのは苦痛でしょう。考えなしにプレイしてドツボにハマらないように、今回は事前に注意喚起をさせていただいた次第です」

 

 なるほど……性格のほうは日を跨ぐごとに意地悪になっていくけど、サポート面では頼りになる。これで性格のほうもアーリャのように優しかったらなと思うのは、やっぱり贅沢なんだろうな。

 

「そのような事情で、当面は他社のゲームに浮気せず、子供が安心してプレイできるN社のものに絞りましょうか」

 

「うん、それならMカートにしようか。あれなら視聴者のみんなも参加できるしちょうどいいよね」

 

「かしこまりました。頃合いを見て明日の夜8時にMカートの配信をすると告知しておきます。それでは家族の時間を大切になさってください」

 

「うん、いつもありがとうね」

 

 サブちゃんにお礼を言って、言われた通りに家族サービスに熱中する。

 

 おかげさまで夕食後にプレイしたGQ版サバイバルホラー4は好評を博し、弟は若干悔しそうに、妹は掛け値なしに「すごい、すごい」と喜んでくれた。

 

 お風呂のあとも三人で仲良く過ごしていたが、わたしがお父さんに呼ばれたことでお開きの運びになった。

 

 もう歯磨きは終わっているので、二階に上がると笑顔で三方向に分かれて、わたしはお父さんの部屋に直行。ノックの後に返事を待って(これ重要)中に入れてもらうと、自分の机でノート型パソコンを操作してるお父さんに手招きされた。

 

「実はな、アーニャのアドレスにファンレターが届いていたので、ゆかりの携帯に転送した。部屋に戻ったら確認するといい」

 

「ほんとに? お父さんありがとう!」

 

 なんと、これは掛け値なしの朗報である。このSNS全盛期に、まさかメールでファンレターとは。メールで感想をもらったなろう作家のような気持ちだよ。

 

「ああ。……だが一件だけゆかりには見せられないイラストを添付したものもあってな。そちらのほうはお父さんの一存で処分させてもらった。すまないと思うが我慢してくれ」

 

「え? う、うん……」

 

 苦りきったお父さんの顔に、社畜ネキという禁断のワードを連想する。あの人も結構なファンで、Wisperではよく絡んでくれるが……エッチな人だからお父さんを怒らせていないかと心配する。

 

 それが邪推じゃないと判明したのは、部屋に戻ってAiphoneを確認してからのこと。

 

 予想通り社畜ネキ名義のメールがあったので、サブちゃんに見てもらうことにした。

 

「まあメール自体は、思ったほどではありませんね。すっかり友達気分のファンレターといったところですか」

 

「アーニャたんへ。いつもWisperを楽しみにしています。お姉さん日曜出勤だったから会社で見ましたけど、動画もすごかったです。もう大好き。かぁ……うん、わりと普通のファンレターだよね」

 

 なんていうか、文面自体はフランクなんだけど、あくまで敬語は崩していないというか。好意と賞賛を振り撒きながらも、ファンの立場は崩していないというか。

 

「ただ問題は最後のやつだよね。アーニャたんの邪魔をする謎の光をやっつけましたって、なんだと思う?」

 

「さすがに削除済みのものは確認できませんが、想像はつきます。おそらく剥ぎコラを作ったのでは? 例のリクエストに応えたアーニャのイラストから、謎の光とバスタオルを剥ぎ取ったとしたら、お父さまがお怒りになるのも……」

 

「うん、どっちもなくても見えない構図にしておけばよかったね」

 

「いえ、どちらにしろこの方の情熱ぶりを考慮すると、何をしても無駄だと思いますよ。レイヤーで上書きして、見える構図に変化させると思いますから」

 

 なんというか、その情熱はどこから出でくるんだろうかと、それ以外の言葉が思いつかない。理解はできても共感するのは難しいのだ。今のわたしは女の子だからね。

 

「ま、社畜ネキさんのことは忘れて他の二人は……おおっ、Nicoichi動画の生主さんだ」

 

「最近ではYTubeに押され気味ですが、世界的な動画サイトの先駆けであるNicoichi動画の配信者とは。これはまた、やはり注目を集めていますね、ゆかりは。……しかし、この内容は」

 

 うーん、どっちもアーニャの動画をべた褒めだけど、そのうちの一人はぜひ詳しい話を聞かせてほしいと、やけに積極的だな。こっちはまだデビューしたばっかの新人なのに……?

 

「配信のノウハウならこっちが聞きたいくらいなんだけど……」

 

「となるとアレですね。ご自分もアーニャのようなVTuberになりたいと、そういった申し入れをしたいのでしょう」

 

「うん。わたしもそうじゃないかなって、思うよ」

 

 確かにVTuberの普及と発展はわたしたちの目的にある。しかし、現時点でこの人をVTuberに誘っていいかというと……。

 

「サブちゃんはどう思う? お得意の分析結果を聞かせてほしいな」

 

「そうですね。現時点でこの方に必要なソフトを配布したら、まず間違いなく脅し取られますね」

 

「脅し取られる? それはなんだか穏やかじゃないね?」

 

「まあそちらは言葉の綾ですが、Nicoichi動画の問題点として、一部の人気配信者による寡占を許していることが挙げられます。初期に人気を博した配信者が強い影響力を持ちすぎた結果ですね」

 

「うん、その話はわたしも()ってるよ。実況配信は狭い界隈だからね。後発の人はなかなかチャンスに恵まれないんでしょ?」

 

「はい。この方もご自身の状況としては同じようで……Nicoichi動画の人気配信者に寄越せと言われたら逆らえないでしょう。伝手と引き換えなら尚更ですし、そうなったら終わりです。ソフトの著作権など主張できなくなるでしょう」

 

 うん、酷い話もあったものだが、もっと酷いのは、動画配信の界隈ではわりとありふれた出来事だということだ。

 

「ですので、VTuberの普及を急ぎたい気持ちは分かりますが、環境を整備するまで返信はお控えいただければと」

 

「うん、焦っても仕方ないもんね。この二人には、誘えるような状況になったら返事をしよう」

 

 それまで間違って消さないようにメールを保護して、最後の一つを確認しよう。

 

「最後のは、あっ、すごい英文だ。海外の視聴者さんだよ、これ」

 

「そのようですね。翻訳は必要ですか?」

 

「ううん、そっちはチート能力さんが勝手にやってくれる感じ。なになに、ハロー、アーニャ。動画すごかったよ。もう心のキ◯タマにビンビンきて大変って、なんだこれ!?」

 

「スラングですね。おそらく米国籍の女性の方でしょう。あちらの方はそういう表現に抵抗がありませんから。やはりこちらで翻訳しましょう」

 

「うん、悪いけどお願いね」

 

 びっくりした。まさか社畜ネキさんより露骨な表現をする人がいるとは。これも異文化交流かな? ちょっと油断してたよ。

 

「完了しました。どうぞこちらをご覧ください」

 

「ありがとう。ふんふん……」

 

 パソコンのモニターに表示された翻訳を目にすると、気になる箇所はかなりマイルドに変換されてた。ただ性的な表現に躊躇いのないところは国民性の問題なので、少し微妙な気分になったが……それはさておき。

 

「なんかこの子もVTuberになりたいらしいんだけど……アーニャの配信で日本語の勉強をするって出来るものなの?」

 

「さあ……? 英訳を足がかりにということなら、本人のやる気次第としか……」

 

 なんとも情熱的でアメリカンな子だ。彼女の熱意が身を結ぶと信じて、このメールも保護しておこう。

 

「以上だね。……ところで明日の宣伝はもう終わった?」

 

「はい、すでにサムネイルも作って、配信の枠も確保してあります」

 

 こちらです、とYTubeのチャネルを開くと、そこには『アーニャVSサーニャVSダーク◯イ 〜Mカート三国志緊急告知! どっちが本当のお姉ちゃんか分からせてやる〜』とあった。

 

「……………………」

 

「Wisperでの告知も完了しましたが、反応は上々です。すでにネットはこの話題に夢中ですよ」

 

「…………とりあえずダー◯ライさんを巻き込まないであげてよ」

 

 ぐったりと机の上に頭を預けたわたしはそれしか言えなかった。

 

「ゆかり対視聴者の構図では、ゆかりがフルボッコにされる未来予測しか立てられなかったので、私も参加してチーム戦にしてみました。マルチで部屋を立てたら、どちらの陣営か名前で明らかにした視聴者を、それぞれ最大5名まで受け入れる形式ですが、ダークラ◯さんの存在が確認されたときは、第三勢力の存在を認めます。私も頑張りますので、ゆかりもぜひ優勝を狙ってください」

 

 うん、それは無理。わたしはたぶん分からせられる側だ。というかアニメ版の権利はS学館が持ってるって聞いたことがあるけど、勝手に使って怒られないかな?

 

 この件に関してわたしは何もしてないはずなのに、気分はまるでやらかしたときのようだ。でも仕方ないね。サブちゃんを信じて一任したんだもん。自業自得だよ。

 

 そんなことを思いながら、得意げに胸を張ってふんぞり返るサーニャを憂鬱に見つめたわたしは、急速に訪れた睡魔にあくびをするのだった。

 

 

 

 

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