転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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人間はこうして大人になっていくのかもしれないね

 

 

 

 

 

 2011年12月2日(金)

 

 

 衝撃のアーニャちゃんねる凍結事件から一夜。

 

 お父さんは解決を約束してくれたが、連絡したから解除されたぞ、と簡単には行かないようだ。

 

 通学中のスマホはもちろん、帰宅後に確認したパソコンにもお父さんのメールは無い。今のところ進展はなし、ということだろうか?

 

 焦っても仕方ないが、何もしないでいると悪いことをしているような気になる。思わずWisperに「昨日の後始末に追われるアーニャと雪だるまたち」の絵を何枚か投下してしまった。

 

 たちまちWisperにあふれるネット民に、あれからどうなったかと質問されて返答に詰まる。

 

 そんなわたしに呆れたように、目の前のサーニャがため息を吐いた。

 

「報告できることはまだ何もないのですから、焦っても仕方ないのでは?」

 

「わたしだってそう思うけど、何にもしないと仕事をサボってるみたいで居心地が悪いんだもん」

 

「その歳で何を言うかと思えば、まさか社畜でもあるまいに……いえ、言われてみれば転生者の元社畜でしたね。失礼しました。気質はしっかり受け継がれているようで」

 

 その言葉にドキリとする。

 

 わたしこと真白ゆかりは転生者である。前世の記憶と転生特典であるチート能力の存在が動かぬ証拠。それは認める。

 

 でもわたしとしては、あくまであの人とは別人だと主張したい。いくら生まれ変わったって、その人とイコールではないのだ。

 

 ……しかしこの歳で社畜根性まで発揮したとなると、その前提が崩れる。

 

 わたしがVTuberを始めたのは、あの人の記憶に目覚めたことに起因する。それを認めるなら、あの人の記憶に影響されたとも言えなくはないのだ。

 

 わたしはゲームが好きだが、あの人だってそうだ。食べ物の好みも似てる気がする。

 

 さすがに昨日の配信でドキドキしたのは、あの人の所為だと主張したいところだけど……それを主張すると、あの人の影響をガッツリ受けてるって認めることになるんだよなぁ……。

 

「はぁ……なんだか頭が痛くなってきた」

 

「このところ、ご自分の部屋に篭りきりでしたからね。配信できないのは痛手ですが、休暇ができたと前向きに捉えましょう。今日はご弟妹(きょうだい)と戯れてのんびりされては?」

 

「……うん。そうしよっか」

 

 サブちゃんの言うように、ここ最近はずっと引き篭もりだったからね。妹たちも寂しがってるし、いい機会か。今日は存分に甘えさせてあげよう。

 

「じゃ、行ってくね」

 

「はい、どうぞごゆっくり」

 

 というわけで今日は家族回。みんなで仲良くゲームしようとリビングに行ったら、弟たちがめずらしいものをやってた。

 

「あっ、お姉ちゃん今日は遊べるの?」

 

「うん、今日は美鶴デーだよ」

 

「やった! お姉ちゃん大好き!」

 

 さっそく抱きついてきた妹を抱えてソファーに身を沈めると、弟がジト目で抗議してきた。

 

「あんまり甘やかすなっつってんだろ。これじゃ練習になりゃしねぇよ」

 

 なんの練習よ、と一瞬だけ疑問に思うが、すぐに氷解した。そういえば来週だったね。

 

「そっかそっか。美鶴はこっちはあんまり好きじゃなかったから、なんで今さらやってるんだろうと思ったけど、練習なら納得だね。ちょうど来週だもんね、怪物狩人の新作」

 

 そう、C社の大人気ハンティングアクションゲーム。怪物狩人シリーズの最新作となる3Gが、来週の金曜日にあたる12月9日に、N社の携帯ゲーム機3DNSのソフトとして発売されるのだ。ならば前作にあたるWe版3で練習するのは自然の成り行きというもの。

 

「でも操作の練習ならPtP版の3でも出来ると思うけど、そうしないのは水中戦に未対応だから?」

 

 わたしが訊くと、弟が「それだけじゃねぇよ」とため息を吐いた。

 

「おれらと一緒だと、みつるのヤツは頼りきりになるじゃねぇか。そんなんじゃ3のゆ◯たのように、ろくな大人になりゃしねぇぞ」

 

「いいもん。みつるは立派なゆ◯たになって、お姉ちゃんに養ってもらうんだから」

 

 イーッと舌を突き出して反抗する妹の頭を撫でて仲裁する。

 

「それじゃ間をとってみんなでプレイしてみよっか。基本的に美鶴がプレイして、ピンチになったら3回までお兄ちゃんかお姉ちゃんにチェンジするの」

 

「なにそれ面白そう! やってみるね!!」

 

 と、そんな経緯で妹の狩人ライフを応援することになった。

 

 お相手は冤罪竜ラギアなんちゃらさん。何にも悪いことをしてないのに地震の原因と誤解され、討伐される悲劇の海竜である。

 

 妹は得意の片手剣で軽快に立ち回り、海竜の体力を的確に削っていく。この辺りはやはりわたしたちと同じで、ゲームに囲まれて育ってきただけあって不慣れな印象はない。

 

「あー、水の中に逃げた! わたしやだ、泳げないもん!」

 

 しかしファンの間でも賛否が分かれる水中戦となると話は別で、まだ泳げないという苦手意識もあってか美鶴は悲鳴を上げたが、そこは口の悪さとは裏腹に妹想いの順平である。

 

「これは仕方ねぇな。みつるもここまでおれらに頼らねぇでがんばったし、水ん中は代わってやるよ」

 

 さっそく助け舟を出してバトンタッチ。哀れな海竜を追撃した。

 

 不慣れな武器種が存在しないというほどにこのシリーズをやり込んでる弟は、たちまち海竜を追い詰めて、一度も被弾しないまま陸上に追いやった。

 

「へん、ざっとこんなもんよ」

 

「すごぉーい! お兄ちゃんありがとー!」

 

 そして兄からバトンを返してもらった妹は優位に戦闘を進め、時間にして20分ほどで冤罪竜ラギアなんちゃらさんの討伐に成功した。

 

「やったぁー! やっとラギアなんちゃらを倒せた!」

 

「うんうん、お姉ちゃんより早いね。美鶴にはゲームの才能があるんじゃないかな」

 

「だからあまやかすなっつってんだろ。こんなの毎日やってりゃ誰でも勝てるっての」 

 

 しかしそうは言ってもやはり嬉しいのか、妹の奮闘ぶりにまんざらでもなさそうな印象だ。

 

 そんな二人の成長を喜んでると、こちらに振り向いた弟が急に不機嫌になってぶうたれた。

 

「っていうか姉ちゃんは今さら3なんてしてねぇでちゃんと配信しろよ。ああいうのは毎日配信して名前を覚えてもらうところから始めるもんだぞ」

 

「好きなの? 詳しいね」

 

「好きじゃなくてもそれくらい知ってるし。常識だよ、常識」

 

「常識なんだ。ありがとう、覚えとくね」

 

「別に礼が欲しくて言ってんじゃねーし」

 

 相変わらずわたしには口だけじゃなく態度まで悪い弟が顔を背けるが、大丈夫、お姉ちゃんきちんと分かってるから。

 

「でもHi⭐︎KAKINさんとかすごいからね。わたしも見習わなきゃっていう話なら、ごもっともだよ」

 

「なんだよ、わかってんじねぇか。姉ちゃんがHi⭐︎KAKINを意識するなんておこがましいけど、千里の道も一歩からって言うしな。勘弁してやるよ」

 

「なんでよ? みつるもHi⭐︎KAKINさん大好きだけど、お姉ちゃんはもっと大好きだよ?」

 

「バーカ、動画配信の話をしてんだ。それくらい分かれよ」

 

 むー、と睨みつける妹を、ケンカにならないように引き離しながらわたしは考える。

 

 YTubeの機能充実と、Hi⭐︎KAKINさんに代表されるエンターテイメント系YTuberの活躍より、子供たちが将来なりたい職業にYTuberの名前が挙がり始めた昨今。そんな盛り上がりとは裏腹に取り残された人たちがいる。それはゲーム実況系配信者と呼ばれる人たちだ。

 

 新作・旧作を問わず、ゲームを実際にプレイしている動画を配信するそれは、YTubeより先にサービスを開始したNicoichi動画で確立したスタイルであり、人気配信者の実況となると、文字通り動く数字の桁が違う。

 

 しかしだからこそ、と言うべきだろうか。既にパイの配分がおわっているあちらに新規が入り込む余地はなく、TVで取り上げられるほどエンターテイメント系配信者が大人気のこちらでも、ゲームの実況配信者には「そういうのはあっちでやれば?」と冷ややかな空気がある。

 

 だからわたしが歩んでいるのはそんな道のりなのだ。

 

 VTuberを世界に広めて、あの人たちが歩むことになる道を整備したいというあの人の想いと、純粋に興味を持って楽しんでるわたしの想いは完全に一致しないが、それでも目指してる場所は同じだ。

 

 だからわたしは教えたい。アーニャの視聴者の中にいるかもしれない、あの人たちに。やりたいことがあるなら、わたしのように自由にやっていいんだよ、と。

 

 ……まぁBANされちゃったし、メールでやり方を聞きに来た人たちには返信できる気配すらないけど。

 

「ま、最近はアーニャのほうが面白ぇけどな。BANされちまったけど」

 

「みつるもアーニャちゃん好き。でも見れなくなったのはなんで?」

 

「さぁ? なんでやろね……?」

 

 思わず地元の方言が出るほど動揺してしまった。まさか弟たちの口からアーニャの名前が飛び出すとは……何食わぬ顔で冷や汗さんを始末して証拠を隠滅する。

 

「ところで最近よく聞くけど、アーニャってどんな子なの? お姉ちゃんあんまり詳しくなくって……」

 

「はぁ? チャンネル開設から1週間で登録者が100万人を超えたアーニャを知らねぇとか、アンテナが低いにも程があんぞ? そんなんでYTuberとしてやっていけんのかよ」

 

 なんて誤魔化そうとしたら弟から猛反撃をくらってタジタジになる。

 

「あら、騒がしいわね? 今日は三人で遊んでるの?」

 

 と、ちょうどそのタイミングでお母さんが買い物から帰ってきた。うん、ナイスタイミング。

 

「あ、お母さんお帰りなさい」

 

「母ちゃんおかえりー」

 

「おかえりなさぁーい」

 

 はいはいと答えながら、買い物袋を床に下ろしたお母さんが思い出したように付け加えた。

 

「そうそう。今日はお父さん、少し遅くなるっていうから、それまでにお風呂に入っておいてちょうだい」

 

「『はーい』」

 

 みんなで仲良く答えながら立ち上がる。いつも定時で帰ってくるお父さんにしては珍しいが、原因はたぶん昨日の騒動に対処するんためだよね。忙しいのにごめんね、お父さん。

 

「じゃ、ゲームはいったん休止して、お姉ちゃんお風呂を掃除してくるね」

 

「みつるも手伝う! お兄ちゃんも行こ?」

 

 この流れで拒否する気はないのか、弟は「仕方ねぇな」と腕まくりしたが、喜ぶのは早かった。

 

「でも一緒にやんのは掃除だけだからな。風呂は二人だけで入れよ」

 

 最近はあれこれ理由をつけて一緒に入らなくなったが、面と向かって拒否されたのはこれが初めてである。

 

「なんで? お兄ちゃんみつるといっしょのときは入ってくれるのに、なんでお姉ちゃんがいるとそういうこと言うの?」

 

「おまえはまだガキだからいいんだよ。でも姉ちゃんは来年にゃ中学に行くんだから、いい加減ガキは卒業しろっての」

 

「だからなんでよ! そんなこと言わないでまたみんなで入ろうよ!」

 

 内心でショックを受けるわたしを他所に、子供の正しい入浴の在り方を巡って二人がケンカをする。わたしは採決を仰ぐかのようにお母さんに注目した。

 

「そうねぇ……微妙だけど、ゆかりが嫌じゃなかったら、もう少しいいんじゃないかしら?」

 

 しかし、お母さんはわたしに一任。

 

 順平はわたしと一緒は嫌で、美鶴は三人一緒がいいと言うが、わたしはどうかと聞かれたら答えは決まってる。

 

 女子は男子の視線に気をつけるべしと学んだが、この教訓に弟は含まれない。家族はみんな仲良くが一番。だからわたしは弟を説得することにした。

 

「順平、ちょっとこっちに来て」

 

「なんだよ? なんて言われても一緒に入らねぇからな?」

 

「……順平はお姉ちゃんのこと嫌い?」

 

「は? 誰もそんなこと言ってねーし! 嫌いだったら一緒にゲームをするわけねぇだろ……」

 

「そうなんだ。でも最近ちょっと避けられてる気がしたから心配になって……ごめんね、変なことを聞いて」

 

「……いいよ。別に嫌いじゃねぇし」

 

「うん、お姉ちゃんも好きだよ、順平のこと。だから弟だっていう理由で、順平だけ別にするのはどうかなって気持ちがずっとあった。お風呂でおしゃべりするの楽しいもんね」

 

「…………おれも嫌いじゃない」

 

「だからね、順平がわたしの裸を見たくないっていうなら、お姉ちゃん見られないようにタオルで隠すから……それでもダメかな?」

 

 そんな感じで話し合うこと5分あまり。わたしは廊下に顔を出して聞き耳を立てる妹に朗報を届けた。

 

「一緒に入ってくれるって!」

 

「やったぁー! 二人とも大好き!!」

 

「入るだけだかんな! 自分の体を洗わせんのも、他人の体を洗うのもなしだ! 違反したら、二度と一緒に入らねぇからな……!!」

 

 姉妹のハイタッチを決めたわたしたちは、そんな弟に笑顔で快諾した。

 

 弟も掃除の最中は怒っている振りをしていたが、お風呂に入ると気持ちが解れたのが、普段と変わらずいろんな話をしてくれた。

 

 ただ約束通り体を隠したものの、弟はあまりこちらを向こうとはしなかった。

 

 一度だけ目があったときも慌てて顔を背けたが、もしかしたら弟も昨夜のわたしのように戸惑ってるのかもしれない。

 

 昨日のわたしは男の人の視線に。わたしの肌と触れないように縮こまる順平は女の子の身体に。わたしも妙に意識しちゃって、無理やり説得した弟に悪いことをしたように思えた。

 

 あとから入る両親のために、一人残った浴室を軽く掃除したわたしはつぶやく。

 

「もう子供じゃない、か……」

 

 子供もいつかは大人になる。ある年齢になったら急激にではなく、毎日、少しずつ自覚が出てくる。わたしの我が儘も、そろそろこの辺にしておいたほうがいいのかもしれない。

 

 

 

 

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