転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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N社との話し合い 〜VTuberの枠組みを広めるにあたって〜

 

 

 

 

 

 2011年12月3日《土》

 

 

 その日の昼、自宅の和室で天下三傑ならぬ、N社三傑と面会したわたしは、金縛りにあったように硬直した。

 

 

 ──磐田肇(いわたはじめ)

 

 N社の代表取締役社長にして、現代ゲーム史に燦然と名を刻む偉人。

 元はN社のサードパーティであるHALO研の社員で、天才の異名を欲しいままにするプログラマーとして名を知られていた。

 HALO研の経営が傾いた際、支援を求めたN社に交換条件として自社の社長就任を求められ、再建に尽力。

 見事な経営手腕を示したことでN社の先代社長に目をつけられ、2000年6月にN社の取締役経営企画室長に就任。

 2002年5月に先代からの指名を受け、代表取締役社長に就任以降は、常識にとらわれない発想と図抜けた行動力をもって、数々の大ヒット商品を生み出すなど、現在でもその伝説は継続している。

 

 

 ──宮嶋本春(みやじまもとはる)

 

 磐田が現代ゲーム史の偉人ならば、宮嶋はさしずめ巨人か。

 Mシリーズの生みの親にして、N社が世に送り出したゲームソフトの全てに何らかの形で関わっているという、天才クリエイターにして天才プロデューサー。

 N社が世界最高のソフトメーカーと呼ばれるのは、宮嶋の功績と言っても過言ではない。

 宮嶋を超えるクリエイターは存在しないとまで言われ、社長である磐田から最大限の敬意と、その天才ぶりの解析を常に受け続ける天才中の天才。

 

 

 ──大谷秀昭(おおたにひであき)

 

 最強を冠するN社の法務部長。

 伝説のMコング裁判にこそ関わっていないが、業界を震撼させたT裁判でその名を知らしめ、U裁判もN社の勝利に導く。

 現在は事実上ゲーム業界の代表として、模倣品・海賊版撲滅裁判を取り仕切っており、重大な権利侵害をしでかした関係各所を恐怖のどん底に叩き込むN社きっての武闘派である。

 

 

 ……そんなインターネット百科事典の記述を思い出したわたしの心境は、歴史上の人物が画面の向こうから出てきたのと大差ない。

 

 緊張のあまり、右手と右足が同時に動くというレベルでは済まない。一歩も動けず、冷や汗さんの一個師団に成す術もなく蹂躙されるレベルだ。

 

 誰か一人でも緊張のあまりやらかす自信があるのに、三人同時にだもんね。お客さんの挨拶に何にも返せなくて失礼だとは思うんだけど、肉体が動かないことには如何ともしがたい。

 

 この場の状況をスマホを通して確認しているはずのサブちゃんも、さすがに不自然な沈黙の原因までは掴めないようで、アドバイスに困っているような印象だった。

 

「ゆかりさんが緊張するのもよく分かりますわ」

 

 そんなわたしのバッドステータスを解除してくれたのは、D2の中村さんだった。

 

 いかにもやり手のキャリアウーマンって感じの、すごくきれいな女の人が立ち上がって、萎縮するわたしを落ち着かせてくれた。こんな間近で笑いかけられると、なんていうか気恥ずかしいんだけど、ある種のプレッシャーは消えてくれた。

 

「私も入社一年目にN社の担当として磐田社長と面会したときは、とんでもない人を押し付けられたと、仲介した先輩社員に心の中で罵詈雑言を投げつけましたもの。そんな人に自宅まで来られたら、ゆかりさんだって緊張してしまいますよね」

 

 優雅に微笑みながらも中々にキツイことを言ってのける。そんな中村さんの冗談(?)に、法務部長の大谷さんが吹き出した。

 

「まあ、こんな子供のように目を輝かせたオッサンに絡まれたらそうなりますよ。まったく、ゆかりさんとの契約は法務の仕事だというのに、あれこれ理由をつけて自宅まで来られたんじゃ堪りませんよね?」

 

 茶目っ気たっぷりにからかった大谷さんに話を向けられると、今度はやや焦った様子の社長さんが反論した。

 

「いや、ちょっと待ってくださいよ大谷くん。たしかに契約は法務の仕事ですがね、当社がなぜその決断をするに至ったのかを説明するのは、社長である私の仕事だと思うんだよね」

 

「それなら僕にもゆかりさんと話をする時間を作ってくださいよ。約束でしょ? 今回は社長に味方したでしょ? ねぇ?」

 

 そして宮嶋さんが社長さんの袖をつかんで催促するにいたると、わたしはすっかり弛緩して吹き出してしまった。

 

 お二人の漫才に、視線でどうしたものかと問いかけるとお父さんが「つけ上がるからこいつらの相手をするんじゃないぞ」って顔をしたもんだから、おかしくって、つい。

 

「ほら、笑われたじゃないですか。あんまりワガママを言うようだと、外の若いのを呼んで、簀巻きにして会社に送り返しますよ」

 

 今度はちょっと強めに圧をかけられると、日本のゲーム業界を代表する二人は形成不利と判断したのか、何食わぬ顔で引き下がったが……うん、反省したふりをする弟にそっくりだな。緊張して損した。

 

「すみません、緊張して。お父さんの会社の人が来ることは最初から分かってたんですけど、雑誌やテレビでよく見かける磐田社長や宮嶋さんたちを生で拝見したら、なんだか異世界に紛れ込んだ気がして脳が混乱したようです」

 

「ほらやっぱり社長と常務が原因じゃないですか。だから付いて来るなって言ったんですよ」

 

「ちょっと待った。ゆかりさんは私と宮嶋たち(・・)って言ったよ? 君だって数に含まれてるだろ」

 

「そうですよ。この中で断トツでヤバイのは大谷さんじゃないですか。嘘だと思うなら、訴状を持ってお隣さんを訪ねてみてくださいよ。この世の終わりのような顔をされますから」

 

 そしてわたしが冗談を口にするなり始まるのは、汚い大人たちの責任転嫁という名前の漫才だった。

 

 わたしは初めて目にするが、N社では見慣れた光景なのだろう。ンンッと咳払いしたお父さんが、取り止めのない口論に収拾をつけた。

 

「社長と常務もどうかその辺で。……もし本気で主導権を争っておられるなら、お二人にはお帰り願って、ゆかりへの説明は私が引き継ぐことになりますが?」

 

 お父さんが最近よく見る表情で訴えると、醜い争いはピタリと止まった。まるでそんな事実は存在しなかったような何食わぬ顔で、退去要員に数えられなかった大谷さんが腰を浮かせた。

 

「ゆかりさんもお座りください。お昼もまだでしょうから、どうか存分にお食べになって、社長の小遣いに少しでもダメージを与えてやりましょう」

 

「ええ、大谷さんのおっしゃる通り、どうか部外者(・・・)のお二人は気になさらず、置き物だと思っていただければ」

 

 大谷さんと中村さんが着席すると、和室の中は自然と和やかな雰囲気に包まれた。まだ知り合ったばかりなのに、まるで親しい家族との団欒のような。そう思えるだけの空気がこの場所にはあった。

 

「はい、頂きます」

 

 お父さんに目配せしてから空いてる席に腰を下ろす。

 

 頂きますと一礼して料理を口に運ぶと、どれも美味しくって、舌鼓を打つたびに気分が高揚する。

 

 箸が一巡する頃には、当初の緊張は何だったのかというほどリラックスして、気がつくと大人たちの会話に参加すらしていた。

 

「ところでゆかりさんは、どこからアーニャのような配信スタイルを思いついたんですか? まったり茶番劇のように創作のキャラクターに代弁させるスタイルは以前からありましたが、やはりその辺を参考にしたんですかね?」

 

「いえ、その辺は特に意識していませんでした。むしろNicoichi動画の生主のようになりたかったんですけど、顔出ししたらお父さんたちに迷惑をかけるかなと悩んでいたところを、友人にアドバイスされて……」

 

 宮嶋さんの質問に答えると、磐田社長が唸った。

 

「ゆかりさんは、動画配信には以前から興味がおありでしたが、顔出しすることには抵抗があったと。なるほど、必要は発明の母とはよく言ったものですね。そうしてアーニャが生まれたわけですか」

 

「でもそうしておいて正解だと思いますよ? 今の時代、ネットに顔を出すのは相当なリスクが付き物ですからね。しかもゆかりさん美人じゃないですか。去年か一昨年あたりに、急な出張になったお父さんの荷物を、お母さんの代わりに届けに来たときは、どこのアイドルかって思わず二度見しましたもん」

 

 磐田社長と宮嶋さんに褒めちぎられ、お父さんがまんざらでもなさそうな笑顔になる。

 

 気に入らん連中だが、人を見る目の正確さだけは、まあ評価してやらんこともない。

 

 そんなふうに思っていそうなお父さんのドヤ顔が面白くって、わたしはついつい余計なことまで言ってしまった。

 

「いや、褒めすぎですよ。磐田社長も、アーニャの枠組みはわたしだけの仕事じゃありませんから」

 

 舌を滑らしたことに気付かぬほど、わたしはすっかり油断していた。

 

 ここにいるのは人間的には信用できても、矛盾があるならそれと気づく知性の持ち主ばかりだ。わたしの失言にこれまでの前提を覆すものが含まれていたことを、彼らが見逃すはずがなかった。

 

「うわさのサーニャさん、ですか。これまでの会話から、アーニャさんがキャラクターの原案を担当し、実際に動かしているのはサーニャさんだと思われますが、権利関係はどうなっておられるのでしょうか?」

 

 わたしの心臓がドキリと跳ね上がる。

 

「ゆかりさんがお父さんに持たせたLive2Aは、これまで特に説明がなかったので、ゆかりさんの手によるものと判断して書類のほうを準備してきましたが、開発したのがサーニャさんとなると、この前提が崩れます。なのでLive2Aの出どころと、権利関係を説明願いたいのですが……」

 

 大谷さんの笑顔は変わらなかったが、追求はするどかった。さすがは敏腕弁護士。なんて説明しようと言葉に迷ったが、そこはサーニャ(サブちゃん)が助け舟を出してくれた。

 

『Live2Aを含めたVTuber用のソフト全般の製作者はサーニャ(わたし)ですが、権利はゆかりに一括で譲渡していると答えてください。それを証明する書類も用意してあります。何も問題はありません』

 

 心に響く優しい声だ。この声を聞いただけで、あの子がわたしをどれほど大事にしているか解る。今は伝える手段がないが、自分の部屋に戻ったら、ありがとうと感謝しないと。

 

「Live2Aの開発者は友人のサーニャですが、権利はわたしに一括で譲渡すると。そのことを証明する書類もあります」

 

 わたしが答えると、大谷さんは納得したというより、心配事がなくなったような笑顔になって大きく呼吸するのだった。

 

「ああ、よかった。ここまで来て前提を間違ってたんじゃ洒落になりませんからね」

 

「無駄骨なら無駄骨でいいじゃないか。ゆかりさんにLive2Aを営利目的で使用する気はないだろうし、それはうちだってそうだ。あくまでLive2Aを入手した無関係な第三者に特許を申請され、制作者の意に反した使用料の徴収を防ぐための予防的な措置だ。あんまり子供を脅かすもんじゃないぞ?」

 

「いや、そんな気は全然なかったんですけど……そう見えましたかね?」

 

 他の誰かがからかう前に、わたしは元気よく首を横に振ってみせた。

 

「ああ、よかった。ゆかりさんを怖がらせていたらどうしようかと……」

 

 安心したように胸を撫で下ろした大谷さんが周りを見回すと、お父さんが心得たように空になった出前の容器を片付ける。

 

「さて、食事が終わったのでゆかりさんとの契約を進めたいのですが、よろしいですか?」

 

「はい、お願いします」

 

 わたしが大谷さんに向かって頭を下げると、お父さんが申し訳なさそうに待ったをかけた。

 

「誠に申し訳ありませんが、大谷部長、娘はおそらく社長が添付した資料を確認していないと思います。時間的に帰宅直後だったので……」

 

 わたしはお父さんの指摘を認めて、もう一度頭を下げた。

 

「すみません。お父さんの言うように、確認する時間がありませんでした」

 

「いえ、構いませんよ。こんな早々に押しかけたせっかちな大人が悪いんです。同じ物を用意してあるので、どうか頭を上げてください」

 

 大谷さんが契約書の写しの他に、N社のキャラクターが漫画形式で説明する資料を渡してくれた。これか、サブちゃんの言ってた子供向けって。

 

「正式な契約書は、お父さんの真白情報開発本部長代行が確認していますが、あらためてゆかりさんに説明して、ご納得されたうえで契約したいと思いますので、まずはそちらの資料を開いて概要をお聞きください」

 

 言われたとおり資料を開くと、1ページに「アーニャのマネジメント業務の委託」とあった。

 

「これは現在ゆかりさんのお父さんがなさっている、アーニャのマネジメント業務を、弊社が引き継ぐという契約ですね。アーニャの配信で使うゲームや楽曲の使用許諾の請求や、トラブルの対処……」

 

 その話となると、やはりアレか。アーニャたちがえっち過ぎてBANされちゃった事件。

 

 ついに進展があったかと思わず身を乗り出すと、大谷さんが浮かべた笑みを物騒なものに変えて説明した。

 

「こちらは直近では木曜の事例になりますが、通報を行った人物が海外の人権団体の幹部であったことから、G社が過剰に反応して、過去の基準を逸脱したアカウントの凍結をおこなった事件があります。この件は弊社が抗議して、本日の16時をもって解除される予定で、すでに謝罪もいただいていますが、こうしたトラブルに対処するのも契約に含まれます」

 

 うん、なんかお父さん聞かされた話より一方的な展開になってきたぞ? 資料でもK大王がポコンとやられちゃってるし……。

 

「すみません、その節は大変なご迷惑を……この契約に関しては何の異論もありません。むしろそこまでしていただいて、わたしとしては、ええと、その……」

 

「いえいえ、いいんですよ。その件に関しては、うちの宮嶋が余計なことを言ったのが原因ですから」

 

 大谷さんが朗らかに笑うと、磐田社長が「だよな。反省しろよ」と宮嶋さんをからかった。

 

「ではマネジメント業務の委託は合意に達したものと判断して……二つ目は弊社がVTuberの事務所を設立して、ゆかりさんが必要なソフトを提供するという契約ですね」

 

 ──来た。

 

「ゆかりさんがアーニャの活動を通して、VTuberというまったく新しい動画配信のスタイルを広めたいと願ってらっしゃることは、すでにお父さんの真白さんから聞いていますが……少なくとも現時点で、希望者全員にゆかりさんのソフトを無償で配布することに、弊社は反対の立場です」

 

「それは、どうしてでしょうか……?」

 

「はい。今の時点でそれをやってしまうとね、悪意ある第三者に特許を押さえられて、最悪、VTuber全員から法外な使用料を徴収されかねないんですよ。ですからゆかりさんの要望を叶えるには、二つの手順を踏む必要があります」

 

 大谷さんが二つの手順を明確にする。

 

 ひとつ。悪意ある第三者につけ込まれないよう、ソフトの所有権を明確にする。

 ふたつ。ソフトを一元管理するためにも、専用の部署を設立するのが望ましい。

 

「と言っても、ゆかりさんの活躍ぶりを考えると、専門の事務所は芸能人プロダクションのような性質を帯びますが、そちらに関して弊社は門外漢ですからね。中村さんに相談したわけですよ」

 

「はい。芸能界に太いパイプを持つ弊社ならば、VTuberの事務所設立に必ずや貢献できるものと確信しておりますわ」

 

 なるほど……D2の中村さんがこの場にいるのはその為だったか。D2がN社と共同でVTuberの事務所を立ち上げ、業界の先駆けとなる。

 

 うん、無敵じゃね? わたしとしては願ったり叶ったりで、飛びついてもいいんだけど、サブちゃんはどうだろう? そう思ったらさっそく応答があった。

 

『私も望み得る限り最高の条件だと判断します。ここは快諾してもよろしかと思いますよ、ゆかり』

 

 サブちゃんがそう言うなら、いい話だというのは間違いない。でも……。

 

「それだとN社の利益がほとんどないんじゃ……?」

 

 それでもわたしは確認せずにはいられなかった。

 

 そうなのだ、この契約はあまりにもわたしが有利になるよう作られていたのだ。手元の資料から読み取れるものをまとめると……。

 

 まず、わたし──アーニャはN社公認VTuberになっても、これまで通り自由に活動していい。N社はアーニャのゲーム配信の許諾申請等の支援はするが、その活動に口を挟むことはなく、収益等の分配も不要であるとのこと。

 

 次にわたしたちが目的とするVTuberの事務所も、N社がD2社と共同で立ち上げるが、こちらの内容も、所属するVTuberの活動から、収益を上げることを目的としているとは思えない。

 

 近く事務所の目処が立ち次第、一般公募や推薦を経て、研修生を確保。コンプライアンス教育とボイストレーニングは必須として、演者の適性ごとに歌やダンス等のトレーニングを施し、デビュー後は収益の2割のみを徴収すると。

 

 もちろん、将来的なグッズの作製・販売は全面的に請け負うが、そちらでも利益の大半を渡す予定だと。あまりの都合の良さに、N社とD2さんが赤字にならないか心配になる。

 

 将来的に収益化が通ったら、せめてわたしだけでも、アーニャの稼ぎを全部渡したほうがいいんじゃないか?

 

 わたしがそう訴えようとすると、大谷さんが磐田社長に目配せして、意味ありげに咳払いした。

 

 それがここから先は説明していいぞという意味だと判ったのは、続く社長さんの言葉があったからだ。

 

「いえ、この内容で当社にも計り知れない利益があります。もちろん、D2さんにも。そのあたりの事情は私の口から説明していきましょう」

 

 わたしの正面で身を乗り出して磐田社長が説明する。

 

「まずは弊社に限らず、家庭用ゲーム業界全体の問題として、YTubeやNicoichi動画での行き過ぎた配信、これを懸念する声があります」

 

「うちは中古騒動のときは、中古に売られるようなゲームを作るメーカーが悪いってスタンスだったんですけど、さすがに発売日にクリアすることを売りにする配信者がでてくるとね。エンディングまで配信された程度で売れなくなるゲームを作ったメーカーが悪いと、いつまでも言ってられないわけですよ」

 

「なんだよミヤポン、俺のセリフを奪うなよ」

 

「これくらいいいじゃないですか。ひがまないでくださいよ。いい歳こいて」

 

 そんな二人のやり取りに口元から力が抜けると、中村さんが説明を代わった。

 

「ゲームだけではなく、映画や音楽も無断配信が横行しています。著作権者が削除申請しても転載され、手に負えないというのが現状ですわ」

 

「そうなんですよ。なのでゆかりさんのアーニャを通して新しい枠組みを提供したいと思いまして。隠れてコソコソやるより、許可を取って堂々とやった方が得だぞと、そういう枠組みを用意したいんですよ」

 

「なるほど……」

 

 わたしのようなケチな小娘にはよく分からないが、さすがは磐田社長。随分と先を見越してるな……。

 

「もちろん、ゆかりさんのアーニャが非常に魅力的なキャラクターだというのもあります。そのうちコラボ配信をしていただいても?」

 

「はい、むしろこちらこそよろしくお願いします」

 

 自然と頭がさがる思いだ。うわぁ……天下のN社とコラボ配信をしちゃっていいのだろうか?

 

「それとサーニャさんが開発され、ゆかりさんに譲渡された画期的なソフトに関しては、申し訳ありませんが、お父さんの真白くんの名義で当社が特許登録を申請しますが、宜しいでしょうか」

 

 そして磐田社長が本当に申し訳なさそうに確認してきたが、わたしとしてもそうした方がいいと思っていたので大助かりだ。完コピされて売りに出されたらわたしでは対処できないもんね。サブちゃんなら犯行現場にター◯ネーターを派遣して解決しそうだけど、そういうのは避けたい。

 

『そうですね。ゆかりの危機とあらば、ゆかりが何と言おうと平和的に解決しますが、ゆかりは時空を超えた交流には抵抗があるようで。ゆかりをこちらの時代に招くのや、逆に《私》をゆかりの傍らに派遣するのはもちろん、辻褄合わせの干渉も最小限にしないといけませんね』

 

 サブちゃんもわたしの傍らにありたいという願望はあるみたいだけど、こちらの時代を乱すことは望んでいないようで理解してくれた。

 

「分かりました。Live2Aの他にも使ってるソフトがありますから、自分の部屋から持ってきます。権利書も一緒に」

 

「ああ、その話なんですが」

 

 わたしが快諾すると、磐田社長が待ったをかけた。

 

「権利関係は疑っていませんが、できれば開発者のサーニャさんから直接話を聞きたいんですよ」

 

 その言葉に、立ち上がりかけたわたしの動きがピタリと止まった。

 

「というのも、ソフト関係の特許申請となると、申請書に肝となるプログラムの仕様を書かないといけなくて。……こちらで解析してもいいんですが、こういうのは開発者に直接話を聞けるなら、それに越したことはないんですよね」

 

「いいんじゃないですか? 磐田さんがこいつを作ったヤツは天才だって、絶賛したプログラマーですからね。僕も興味ありますよ」

 

 僕の仕事も手伝ってくれないかなぁ、と宮嶋さんが味方すると、大谷さんも賛成票を投じた。

 

「まあ法務としても、申請書は早めに完成してもらえるのが一番ですが、あちらさんにも事情があるだろうし、二回もアポなしで踏み込むのはどうなんですかね?」

 

 それでも一応はブレーキを踏んでくれることも忘れなかったが、そちらのほうはお父さんに解除された。

 

「それならこの場にお呼びしたらよろしいかと。……ゆかり。どうせ隠れて連絡を取っているんだろう? ワイヤレスイヤホンを装着するなら、少しは見えないように気をつけろ。そんなことでは将来車を運転したときに違反切符を切られるぞ」

 

 しかもバレてる……。

 

「私も個人的に興味がありますから、サーニャさんをこの場に呼ぶことは賛成ですわ。Sky ptpを使ったオンラインでの参加になるでしょうが」

 

 中村さんも乗り気で、これは避けられない流れだと思ったら、珍しくサブちゃんが弱音を吐いた。

 

『……たすけて』

 

 うん、そうしてあげたいのは山々なんだけど、たぶん無理じゃないかな?

 

 わたしのチート能力が基礎となる概念を生み出し、以後、数えきれないほどの自己進化を経て西暦3200年代に覚醒したという未来のAIが、この時代で初めてわたし以外の人の目に触れる瞬間が近づいていた。

 

 うっかりやらかして、ボロが出ないといいんだけど……。

 

 

 

 

 

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