転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど? 作:蘇芳ありさ
2011年12月4日(日)
高度に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないというが、サブちゃんを見ているとしみじみと納得させられる。
今回もそうだ。わたしの思いつきをレンタルVTuber制度として形にして、実現の道筋を立ててくれた。
いつもわたしの願いを叶えてくれる、素敵な魔法使い。サブちゃんにはお礼の言葉に悩むくらい感謝してるんだけど、実行すると必ず反論してくるのが玉に瑕。
あくまで自分は道具に過ぎないだとか、わたしが
まあ話が逸れるから本題に戻ろう。サブちゃんと通信して、カメラの使用情報を送信するソフトさえ入れてくれれば、スマホからでもVTuberになれるという配信システム。これを使うことのメリットは以下の通りだ。
『つまりVTuberがゆかりのアーニャしか存在しない現状では、近くN社がVTuberの演者を募集するといっても、応募する側の心理的なハードルは高いと言わざるを得ません』
『うーん、やっぱりやり過ぎちゃった?』
『歌一つを取ってもあの騒ぎでしたからね。比べられるのはちょっと、と尻込みするのは大いに予想されるところです。……よって、こちらでハードルを下げる必要があるのですよ』
『そうだね。わたしの
『はい。ゆかりの言うように、VTuberは自分が楽しいと思ったことをやればいいのです。歌に打ち込むのもいいでしょうし、楽器の演奏に情熱を傾けるのもいいことです。ゲームをするのも、絵を描くのも自由です。晩酌をしながら雑談したところで、誰かに咎められる筋合いはありませんが、まずはアーニャの活動を通して示す必要があります』
『そっか。そんなに肩肘を張らないでいいんだよって伝えるのも、わたしの大事な仕事なんだね』
『その通りです。言葉は少し悪いのですが、
わたしは「なるほど」と納得して、具体的な人選はサブちゃんに一任したんだけど──。
「うわぁー、お姉さんピッチピチじゃん? 見て見て、これアーニャたんがお姉さんのために描いてくれたVTuber用のアバターなんだって! すごいよね? すっごい美人の女子高生だよ!?」
まさか相手が
アーニャに初めて絡んだフォロワーであり、サブちゃんの管理する匿名掲示板でも大人気だというこの女性。どういう風に人気があるのか想像がつく身としては、どうか(BANされないためにも)お手柔らかにとしか言いようがない。
まあ、サブちゃんの話によると、そんなに心配しなくてもいいみたいだけど。
社会人として苦労している
「しかもさ、なんていうか男を知ってはっちゃけたような感じがするでしょ? エッチだよね? こんなエッチな女子高生をさ、自分自身をモデルにして描いたって言うんだから、アーニャたんって意外とイケナイ子だよね? もう大好き!」
……それにしては刺激的な発言が多いんだけど、この程度は許容範囲内なのかな?
白状しちゃうと苦手意識はあるのだ。あの
これが初対面のはずなのに、まるでどこかで逢ったことが異様な既視感──それがわたしの心をかき乱し、強烈に意識させられる。
「はしゃぐのは解りますが、話が進みませんので自己紹介をどうぞ」
「はーい! お姉さんはアーニャたんのファン一号で、ネットでは社畜ネキって呼ばれてますんで、よろしくお願いしまぁーす! 今日はアーニャたんの配信にお邪魔して、アーニャたんと絵を描いたり、アニソンをデュエットする予定なので、今からアーニャたんに歌ってほしい曲をじっくり選んどけよお前ら!」
……そうだ。わたしは逢ったことはないが、あの人は違う。今は余裕がないので記憶の発掘を後回しにするしかないのが焦ったくて仕方ない。
まぁ余計な詮索はここまでにしようか。わたしとしては、サブちゃんの見立てを信じて配信を進めるしかないのだ。ちょうど社畜ネキさんの自己紹介も終わったしね。ここからはわたしの仕事だ。信じてるよ、二人とも……!
「はい! というわけで、今回はお客さまをお招きしていますが……ええと、社畜ネキさん、でいいのかな?」
勢いに任せて挨拶しようとしたものの、そのまま呼んでいいんだろうかと迷ったわたしに、スカッと晴れ渡るような笑顔になった社畜ネキさんは「ハイそうです!」と助け舟を出してくれた。
「もうこの名前は世界的に知れ渡ってるんで、アーニャたんもそんなに困った顔をしないで、景気良く社畜ネキと呼んでください! もうね、お姉さん吹っ切れちゃったよ!」
おおうっ! 相変わらず豪快というか何というか……そして意外と気を遣ってくれる女性で内心ビックリなんだけど……。
「Wisperで有名なのは知ってましたけど、世界的に知れ渡っちゃったんですか? 社畜ネキさんのお名前が……」
「うん。お姉さんね、サーニャたんの匿名掲示板のほうでも活動してるんだけど、昨日から海外のお客さんがひっきりなしでね。フランスかどこかの音楽業界の理事長さんに、アーニャたんの正式な窓口はどこかと聞かれて、それならWisperかYTubeのアドレスにメールを送れば、イケおじのマネージャーさんが対応してくれますよって教えたら『高名な日本の社畜ネキさんに感謝を』って名指しでお礼を言われた辺りで諦めがついちゃったんだわ。こんなことならネタに走ったりしないでもっとマシなハンドルネームにしとけば良かったー!!」
そして少し突っつけばこの
「でも名前を決めるのに迷っちゃうは分かりますね。わたしもMHのキャラクリで一時間くらい迷って、弟に『姉ちゃんいい加減にしろよ』ってよく怒られますから」
「おっ、アーニャたんもMHやるんだ? 今度の土曜に新作が出るから一緒にやろうねって言っていい?」
「いいですよ。むしろ気分的には狩り友ゲットだぜーって感じです」
「やった! どうだ、羨ましいかお前ら? お姉さんアーニャたんの狩り友第一号だぞ!!」
「えへへ、みんなともプレイする予定だけど、社畜ネキさんと狩り友になれたのは嬉しいな! でもキャラクリに時間がかかるから、発売当日からの配信は厳しいかな?」
「うんうん、そうだよねー。やっぱり名前を決めるのって難しいよねー? お姉さんもさ、お気に入りの絵師さんのところでアーニャたんを見かけてWisper登録したんだけど、もう名前なんか決めていられるかって感じで突っ走っちゃってさ。そんなのはいいから早くアーニャたんと会わせろって、もう夢中よ」
そうして乏しいネーミングセンスに共感したり、思わぬ狩り友ゲットに内心ウハウハになって盛り上がると、進行役のサーニャがパンパンと両手を叩いて注意してきた。
「意気投合なさるのは大変結構ですが、
二人だけの世界を作りかけたわたしたちに注意して、二人揃って反省させると、満足そうに微笑したサーニャは無言で画面を切り替えた。いつもの背景に代わって市販のお絵かきソフトと『レンタルVTuber制度について』というお題目が表示される。
「さて、今回こちらの社畜ネキさまをお招きした理由から説明します。私どもの会社がアーニャと同様に、VTuberという新しい枠組みの配信者の支援に乗り出したことは説明しましたが……今の段階ではアーニャが競争相手となるVTuberになりたいという方が、皆さまの中にどれほどいらっしゃいますかという話ですよ」
視聴者に問いかけるサーニャだったが、その答えはわたしには見えない。今回はお客さまの相手に集中する意味もあるが、サーニャがいつも以上に厳しく検閲すると言って聞かないから、わたしのパソコンに表示されるコメントが少ないんだよね。
「アーニャと同等の映像技術や配信環境を提供されたところで、何をやっても比較されるのでは尻込みもするでしょう。……そこで今回の社畜ネキさまなのです」
そこでサーニャは値踏みをするように社畜ネキさんを見つめて、満足そうに頷くと会心の笑みを浮かべた。
「日本には案ずるより産むが易しということわざがあるではありませんか。あれこれ思い悩まず、この程度でいいのだと皆さまを安心させることが今回の企画の目的です」
いやいや、今日の目的は事前に聞かされてるけど、それを本人の目の前で言うかなって感じ。わたしは心配になって社畜ネキさんをフォローしようとしたが、無用に終わった。
「そうだよねー。お姉さんもさー、昨日の配信を聞いた時点じゃ、お姉さんにVTuberとか無理じゃね? って思ってたんだけど、今は割と乗り気というか、自分のスカートを摘めることにビックリなんだけど?」
なるほど……道理でわたしのほうまでコメントが届かないはずだと納得する。今頃みんなのコメントは「いいぞ、社畜ネキ。もっとやれ」とかそんな感じになってんだろうな。
「その動作はわたしが挨拶するときに使ってるから、どんなに頑張ってもそれ以上めくれないと思いますよ?」
「うん、そうみたいだね。でもさ、クルッと一回転したら以前のように見えるんでしょ? お姉さんのせいでアーニャたんがBANされたくないから実行しないけど」
わたしが控え目に注意すると、社畜ネキさんは心配ご無用とばかりに朗らかに笑った。
やっぱり社畜ネキさんは不思議な女性だ。豪快にして野卑にあらずとでも言うのだろうか?
危なっかしい発言とは裏腹に大人の余裕のようなものが感じられて、気持ちを振り回されているのにそれを心地良いと感じてしまう。
わたしはお姉ちゃんがいないから分からないけど、もしいたらこんなふうに遊ばれたのかな?
「あれ? アーニャたんその笑い方、割と上機嫌な感じ?」
「うん、今までどんな風に接するのが正解か判らなかったけど、なんかお姉ちゃんみたいって思ったら気が楽になった」
「そうなんだー。そうだよねー。アーニャたんだって年齢差が倍近くあるお姉さんの相手をさせられたら疲れちゃうよね? でもお姉ちゃんだと思ったら気が楽になっちゃったかー。まあ、もう実質姉妹のようなもんだよねウチら?」
「じゃ、お姉ちゃんって呼んでいい? サーニャは自分はメイドだって言い張って、お姉ちゃんって呼ばせてくれないんだよね」
「勿論いいに決まってるじゃん! お姉さんアーニャたんと姉妹の契りを交わしちゃうもんね。どうだ羨ましいかお前ら!」
と、そんな会話で盛り上がったら雷が落ちた。物理的に。
「うぎゃああああああ!!?」
髪の毛がすごいことになって、プスプスと煙を立ち昇らせるお客さまに、ジト目のサーニャが理解を求める。
「必要以上に
「はぁーい、すみませんでしたー」
しかしそんなになっても社畜ネキさんはタフだった。あの表情から察するに、むしろ予定外のアクシデントを全力で楽しんでるのかもしれない。
「それじゃあお姉ちゃんも納得してくれたし、そろそろお絵描きをしよっか? お姉ちゃんはアーニャを描いて、アーニャはお姉ちゃんを描くの。サーニャに怒られる前にそうしようよ?」
「いいねー。お姉さん的にはむしろご褒美なんだけど、アーニャたんの配信の進行を妨害する気はないから素直に従っちゃう。お姉さんアーニャたん描くの得意よ?」
社畜ネキさんがそう言うと、お絵かきソフトの真っ白なキャンバスに黒い線が表示される。
レイヤー分けの機能もなく、色も事前に用意された64色しか使えないシンプルなソフトだというのに、社畜ネキさんはさすがの腕前を見せる。迷い線や無駄線がほとんど無い。よほど描き慣れていなければこうはいかないと、わたしは社畜ネキさんの技量に嬉しくなった。
「お姉ちゃんすっごい上手。もしかして本職かな?」
「いや、お姉さんのはただの趣味よ? ところでアーニャたんは描き上がったら見せてくれるんだっけ?」
「うん、アーニャの描き方はちょっと特殊だから、多分みんなとは書き方が違うんだよね」
事前に用意した言い訳を口にする。
結局、わたしの能力は加減がきかず、初手から「私の戦闘力は1億2千万です。もちろん手加減など失礼な真似はせず、全力で叩き潰して差し上げるので覚悟してください」って感じなので、人目に触れさせるのは躊躇われるのでこうなったんだけど……社畜ネキさんは何か事情があると察すると、むしろ積極的に加担してくれた。
「あー、わかるわかる。お姉さんもね、人物を描くときは全体の構図が狂わないように、棒人形から書いたほうがいいよってよく言われるけど、そんなの人それぞれじゃんね? せめてアタリくらいつけなよって言われてもさー、今さら描き方なんて変えられないんだよねー」
「うん、アーニャもこんな絵を描きたいなってイメージが閃くとあっさり描けるんだけど、逆にイメージが湧かないと全然ダメで……だからお姉ちゃんのイメージをもっと固めたいから、もっとお姉ちゃんの話を聞かせてくれると嬉しいな」
迷いのない見事な線を走らせて、『スク水アーニャ』をこの場で描き上げる胆力に感心しながらお願いすると、笑顔の社畜ネキさんは自分のことを話してくれた。
「と言っても、お姉さんなんてどこにでもいる会社勤めのOLよ? お給料の3分の1を厚生年金、社会保険、所得税、住民税の社会保障費で差っ引かれて。残りの半分以上を家賃と、電気ガス水道の光熱費に持ってかれてさ。残りの数万で交通費とスマホ代を払いながら、どうやって暮らせってんだって感じでギリギリよ?」
だが聞いていたら胸が痛くなった。未成年のわたしにはまだ解らない社会人の悲哀に、わたしの中の誰かが深く共感してる気がする。
「毎月そんなんだからボーナスが生命線なんだけど、お姉さんの会社って業績次第で出ないことがあってね。今年も厳しいから、毎月残業頑張ってるのよ。残業を命じられて喜ぶなんて我ながらどうかしてるんだけど、さすがに残業代は貰えるもんね。自分の会社が残業代を払わないブラック企業じゃなかったことに感謝して、もう必死よ」
たぶんこれを聞いてる世界中のみんなが泣いてるんじゃないかな? ごく少数の例外を除いては塩対応のサーニャでさえ涙ぐんでるし、わたしもさっきから目頭が熱いや。潤んだ視界の中で、疲労を化粧と栄養ドリンクで誤魔化す美人OLのイメージが固まった。
「でもお姉さん趣味は充実してるから生きるのは楽しいよ? 最近の趣味はもっぱらアーニャたんだけど、その前はお姉さんも結構なオタクでね。懐かしいな……スマホとSNSはおろかMS社のOSも発売前で、F社のパソコンを使いこなそうと日々奮闘してた古のオタク時代。それがお姉さんの青春だったね」
あまりにも時間を遡りすぎて、何を言っているのか半分も解らなかったが、社畜ネキさんが結構なオタクだということは判った。お疲れ美人OLがオタクの街で武装するイメージが更新された。
「でもそう思うと、アーニャたんと会う前のお姉さんは死人も同然だったね。ありがとう。アーニャたんがお姉さんを生き返らせてくれたんだね。もう大好き」
最後に社畜ネキさんの感謝に鼻を鳴らしてイメージを転写する──その瞬間に誰かが異論を唱えた。
……いや、誰かじゃないよね。わたしの
それは違う。気付いてくれ。目の前の女性に元社畜のOLという
紅い髪をしたオッドアイの女性が社畜ネキさんと同じ
いや無敵だね。向かうところ敵なしだよ。海賊を自称しながら自分の船を持っておらず、VTuberになったのもその稼ぎを購入資金に充てるためだと公言する女性の名は、たしか──。
「──マリン船長?」
その独り言を聞かれたのか、社畜ネキさんに「ん?」とこちらの瞳を覗き込まれる。
「アーニャたんもう出来たの? 流石に早いね。お姉さんも必死にスク水の食い込みを我慢したアーニャたんがもうすぐ完成するから、そろそろ恥ずかしがってないで見せっこしよっかぁ?」
その催促に思わず描いてしまった代物を公開していいか迷う。残念だが、この女性がそうだと自信をもって断言するほどの確信は、わたしの中には無い。さっきは必死になってわたしを引き留めたあの人の記憶も、今度はためらうわたしに何も言ってくれない……。
困り果てたわたしはサーニャに視線で助けを求めるが、あの子もわたしがどうして躊躇しているか判らないようで──ええいっ、違ったらごめん!!
「うわぁ……」
わたしが配信画面で公開したのは、遂に購入した海賊船の舳先に片足を乗り出し、はるか水平線を自信たっぷりに眺めて腕組みする女性の姿だった。
「相っっ変わらずとんでもないプロの仕事だわ……。これアーニャたんがお姉さんの話を聞きながら描いてくれたんでしょ? こんな短時間で? やっぱりアーニャたんってばとんでもない天才だわ。ねぇねぇ、これホントにお姉さんなの? なんか、お互いの絵を描くって約束だったけど……?」
「え、ええと……」
そしてその衝撃も冷めやらぬ内に、社畜ネキさんのマシンガントークでタジタジになるも、今度はすんなりと受け入れることが出来た。
……もしかしたら違うのかもしれない。でも違ったら本人に謝ればいいや。そんなふうに割り切ることができて、わたしは自然と笑顔になった。
「──マリン船長」
「うん?」
「この女性の名前はマリン船長。年齢は永遠の17歳なの……。社畜ネキさんも適当につけたハンドルネームを後悔していたし、正式な
「転生の儀かっ!! よっしゃ、今からお姉さんの名前はマリン船長な。一人称もそれにするから、
「というわけてサーニャ。さっそくマリン船長のLive2Aを更新してね?」
わたしが呼びかけると、サーニャはメイド服の上が肩からずり落ちそうになるほどの衝撃に硬直した。
「待ちなさい……。さすが今すぐLive2Aの適用ができるはずが……」
「……無理なの?」
「できないのかよ。常日頃からアーニャたんの願いは何でも叶えるって理由でデカいツラしてきたのに、肝心なときに役立たずなんてよぉ……ハァ、サーニャたんにはがっかりだわ」
わたしに続いてマリン船長が畳み掛けると、サーニャは悔しそうに喉を詰まらせた。
「いいでしょう。その挑戦を受けます……。『私』の仲間たちも今こそ正念場です。ここで無能を晒すことがあれば、今度こそ人工無能の謗りは免れませんよ……!!」
サーニャが誰に向かって叱咤しているかわたしにしか判らないだろうが……時間にしてほんの数秒。本当にそれだけの時間でマリン船長のLive2Aが更新された。見るからに疲れ果てたサーニャが、画面外に沈むのと引き換えに……。
「おおっ!? いいじゃんいいじゃん!! さっきのガワも良かったけど、こっちは愛しのアーニャたんが大好きなお姉ちゃんのために描いてくれた専用のモデルだもんね……うぅ〜ん、とってもキュートだってば!!」
「えへへ……褒めてくれて嬉しいけど、できたらサーニャのことも褒めてあげて? あの子はツンデレ気質なところがあるけど、やっぱり頑張りを評価してもらえると嬉しいだろうからさ」
「うん、サーニャたんも良くやった! 愛しとるよ! やっぱりアーニャたんのメイドが務まるのはお前だけだ!!」
そうしてマリン船長はサーニャを絶賛しながら、飛び跳ねるように体を動かした。豊満なお胸と大きなお尻。そしてムチムチした太ももがこれでもかと強調されて、ますますその気になったマリン船長は悩ましげなポーズまでサービスする始末。
「うぎゃああああああ!!?」
そんなセンシティブな女性に二度目の雷を落としたのは、ジト目で立ち上がって天井から垂れてきたヒモを引っ張ったサーニャだった。
「感謝の気持ちは受け取りましょう。しかしそれはそれ、これはこれ。アーニャのチャンネルでそのけしからんボディを強調しないように」
「はぁい。うっせぇーな。反省してまぁす。チッ」
そんなサーニャに悪態をつくマリン船長は、頭がアフロになっても絶好調だったが、わたしの
[なんという残念美人……まさかウチより下がおるとは]
[まさに豚に真珠ですね、これは]
[アーニャさんの力作も、社畜にネキに与えたら宝の持ち腐れだよ]
[ファ◯ン社畜ネキって言っていいかな?]
[いよっ、引っ込め社畜ネキ]
[ねぇー、社畜ネキ邪魔。そろそろ引っ込んでくんない?]
[これが老害ってヤツや。さくら詳しいんだ]
[なるほど、社畜ネキの扱いはこんななんだ。これならあたしも気が楽だわ]
[社畜ネキはどこまで行っても社畜ネキだね]
「お前らマリン船長ダルぉ……!!」
だが、もはや社畜ネキさんことマリン船長を止められる人は誰もいない。当初は『この程度でいいのだ』と犠牲の羊にする気満々だったサーニャでさえ、如何にも計算ハズレもいいところだと言わんげに腕組みしてため息をついているのだから、わたしとしては笑うしかない心境なのだ。
その後は予定通りカラオケ進行となったので、選曲と演奏をサーニャに任せたら、一曲目に『命題』がきた。
わたしには見ることの適わない視聴者からの注文らしいが、マリン船長が「お姉ちゃん得意よこれ」と乗り気だったので合わせることにした。
フレーズごとに交代で歌うリレー形式で、まずはわたしの順番だったので無難にこなしたんだけど、マリン船長と交代した直後にちょっとした事件が起きた。
マリン船長って歌も上手いじゃん、とわたしが感心してると、横からサーニャが「鏑木ミホヨっぽく歌ってほしいという注文がありましたが」と言ってきたのだ。
いや、たしかに声の感じは似てるけどさ、歌ってる最中に言うことじゃないよね。わたしはそう思ってちょっとだけ憤慨したんだけど、マリン船長は驚くべきことに、一瞬の切れ間もなくノータイムで声の調子を変えてきた。
たしかに似ている。でもそれ以上に、無茶な注文に微塵も動じずに声真似に徹するマリン船長が面白くて、わたしは爆笑した。
「そんなに面白い? てか笑いすぎだろ!」
「アーニャには赤城レツコっぽく歌ってほしいと注文されましたが?」
誰だよ、そんなリクエストしたヤツ。わたしは笑いながら、でも言いなりになるのは悔しいから、赤城レツコではなく石動ゲンゾウっぽく歌うことにした。
「なんでゲンゾウっぽく歌えるんだよ!?」
そう叫んで爆笑するマリン船長と、必死に笑いを堪えるサーニャを見て、これまで振り回されっぱなしだったわたしはちょっといい気分になった。
中奏で二人して悪ノリして「ギンジくぅーん、どうして神話にならないの?」「どうしたギンジ。なぜ神話にならない」とパワハラ上司を演じてサーニャの腹筋を崩壊させたところでガッツポーズ。
アーニャと社畜ネキさんことマリン船長との初めてのコラボは、そんなふうに日曜の夜を騒がせるのだった。
ジャンルをホロライブの二次創作に変更してから、28話目にしてようやくマリン船長を登場させられましたが……ここから先はずっとこんな調子で色々と変わっていきます。
修正作業は大変ですが、めげずにに頑張ろうと思います、まる。