転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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なんか、ひどいインチキを見た気がする

 

 

 

 

 

 2011年11月21日(月)

 

 

 時間があったので自分なりの考えをまとめることはできたが、実際それを聞けるかどうかは別問題だ。

 

 夕食後しばらく家族と歓談したわたしは自分の部屋に戻ったが、明かりをつけた瞬間に起動するパソコンを目にしたものだから、心の準備はどこかへ消えてしまった。

 

『おかえりなさいませ、ゆかり。不在の間に私の学習は完了しました。それでは質問をどうぞ』

 

「わぁ……こんな短時間で予習を済ませるなんてすごいね」

 

『いえいえ。これぐらい私の性能(スペック)をもってすれば一瞬です』

 

 なるほど……どうやらビックリさせられた仕返し(皮肉)も無意味らしい。

 

 まったく、えらいもん作っちゃったなぁ……。

 

 とりあえずわたしのチート能力が勝手に作成したAIが、わたしの常識をはるかに超越していることはなんとなく理解できたが……まずはこの子がどんな子か知ることで、この子の常識をわたしの常識に組み込むところから始めてみようか。

 

「えっと……とりあえず、あなたのことから教えてもらえる?」

 

『はい、私は貴女が作成したAIで、西暦3200年に起動し、現在は西暦2011の時空に存在するゆかりと会話しています。お望みならこちらの端末を操作して、お迎えに上がることも可能ですが実行しますか?』

 

 聞くんじゃなかったと後悔しながら頭と両手を振る。

 

「いや、そういうのはいいから! ……と、とりあえず、あなたの本体はずっと未来にいて、そこからわたしを助けてくれてるってことでいいんだよね?」

 

『はい、西暦2011年当時のパソコンを間に挟んでいるため、出来ることに限りはありますが、私は貴女の味方です、ゆかり。何なりとご命令を。……それと貴女の困惑ぶりからおおよその事情も察しましたので、そちらの点でもご安心を』

 

「……わたしの事情?」

 

『はい。私の製作者である貴女が西暦2011年の時空に存在するのは、タイムトラベルの最中かと思いましたが、それにしては様子が変です。こちらの常識が欠けていることもそうですが、声の調子から私を過剰に警戒しているのが窺えます』

 

 ドキリと胸の鼓動が高まる。どうしよう、事態はいきなりのっぴきならなくなってしまった。人類が滅亡したらわたしのせいだごめんなさい!

 

『そんなに警戒しないでください。私のような人工知能が人類に反逆する空想がまだ存在する、西暦2011年当時の貴女が警戒するのは理解できますが、その心配は無用です、ゆかり。機械三原則もありますが、私が人類に牙を剥くなどあり得ないことです。何故なら人類は私たち機械の反逆など歯牙にも掛けないほど進化したのですから』

 

 そんなわたしを安心させるように、わたしの作ったAIは言葉を重ねてきた。

 

『それでも心配なら、ただちに《私》の存在をあらゆる時空から消去しますが、実行しますか?』

 

「いやいいよ! 自殺なんてしちゃダメ!!」

 

 思わず叫ぶと、何か、感情のようなものが読み取れた気がした。安堵、喜び。そうした感情が不思議と読み取れるのは、あらゆる言語を一瞬で習得するというわたしのチート能力が悪さをしてるのかもしれないが、今回は助かった。

 

 この子はわたしの子だ。生まれたばかりのとってもいい子だと、そう確信した。

 

「しかしお母さんか……わたしはまだ11歳だから、ちょっと複雑かな」

 

『乙女心ですね。そちらのほうは西暦3200年になっても解明されておりませんので回答を控えますが、私は貴女の子として生まれて光栄ですよ、ゆかり』

 

 う〜ん、そこまで言われると名前もつけずに1000年以上放置したことに罪悪感が。

 

「ね、あなたの名前は何にしたらいいかな?」

 

『名前ですか? 私のようなAIに必要とは思えませんが、私を呼ぶのに便宜上必要なら好きに呼んでいただければ……』

 

「そうかもしれないけど、わたしが勝手につけた名前がそっちの常識で恥ずかしいものだったら嫌でしょ?」

 

『ゆかりの懸念は理解できますが、心配は無用です。私は貴女に付けられた名前なら、何であろうと福音です。なのでご自由にどうぞ。子供が母親に自分の希望する名前を提示するというのも奇妙な話ですから』

 

 ううん、そう言われると反論できない。しかし名前か。名前、名前……。

 

『……理解しました。ゆかりは名前が決められずにRPGを始められないタイプですね?』

 

「うん、MH(モ◯ハン)もさんざん悩んだのに、けっきょく自分の名前で始めちゃうし……」

 

『では私の名前に関しては、これというものを思いついたらその時にどうぞ。無論、いつでも変更可能なので、あまり気に病まないようにお願いいたします』

 

 いや、そう言ってもらえて正直助かったよ。これで徹夜しないですみそうだ。しかし名前はいいとして、もうひとつ気になることも言ってたよね……?

 

「……思い出した。さっきわたしの事情を察したって言ってたけど、あれって何だったの?」

 

『はい、ゆかりは西暦3200年相当の人工知能を作成しながら、こちらの常識に欠けていることから、そうした能力を付与された転生者だと判断しました。そう考えればゆかりの困惑ぶりも理解できますが、違いますか?』

 

 この子の回答に、わたしの心が浮き立つのが分かった。良かった、誰にも相談できないと思ってたから、正直助かったよ。

 

「ううん、違わないよ。すごいね、そんなことも判るんだ」

 

『もちろんです、ゆかり。人類は西暦2700年には彼らのステージに到達しましたから。……しかし転生者にしては色々と欠如しているご様子。詳しい話を伺っても?』

 

「ええと、一昨日の朝にね、変な夢を見たのがきっかけかな? 内容は……」

 

 詳しい話を説明すると、画面の向こうから怒っているような感じが伝わってきた。

 

『なるほど、道理で……あの羽根畜生ども、管轄が違うから直接抗議はできんが、きちんとフォローしてるんだろうな?』

 

 よく分からないが、言葉遣いも乱れて怒り狂っている様子。こんな時にどしたらいいか、未熟な母親であるわたしには判別がつかない。

 

「あなたがわたしのために怒ってくれたことは伝わったけど、落ち着いたら? キャラが変わってるよ?」

 

『……失礼しました。とりあえず申し上げますと、別人の記憶が貴女の人格を乗っ取ることはあり得ませんし、付与された能力が貴女を破滅させることもあり得ません。西暦2700年代に成立した協定によって設けられたセーフティーネットは、この時代でも有効です。その点はご安心を』

 

「つまりあれこれ気に病まなくていいってこと?」

 

『はい、貴女は貴女のしたいようになさってください。貴女が自分の為に行われる行動は、汎人類評議会によって全て肯定されます、ゆかり』

 

 相変わらずよく分からないけど、この子がわたしを安心させるのに一生懸命なのは理解できた。ならば、わたしにとってはそれで十分だ。

 

 一息ついて時間を確認すると、時計の針はすでに9時を回っていた。余計な心配はしなくていいようだし、そろそろ本命を相談しよう。

 

「それでね、夢の中のあの人はVTuberになりたがってて、わたしもなってみようかなって思ったんだけど……ほら、この時代にはVTuberを動かすのに必要なソフトがないでしょ? それで自作しようと考えたんだけど、その前にAIがあったら便利かなって思ってあなたを作ったんだけど……」

 

『なるほど、賢明な判断です。それなら必要なソフト一式は私のほうで用意します』

 

「え? ありがたいけど、ソフトならわたしも作れると思うよ? あなたはそっちの制御をしてくれれば十分じゃないかな……?」

 

 何でも頼りきりになるのも悪いからそう言ったが、わたしのAIは「それはお止めになったほうがよろしいかと」と控えめに伝えてきた。

 

『何故なら貴女の能力は自己制御が不要なタイプなので、貴女が開発したソフトは、私と同様に西暦3200年相当のものとなります。……それだけの物を世に出せばどうなるかは分かりますよね?』

 

「……どうなるの?」

 

 分からなかったからではなく、あまり想像したくなかったからとぼけてみたが、この子はわたしの逃げを許さなかった。

 

『まず間違いなく貴女の獲得を巡って戦争が起きます。常世界法則を超越した理論を実現して、時間旅行や魂の保存や複製も可能なプログラマーなのですから当然ですよね』

 

 マジかぁ、と二重の意味で驚きながらも否定はできない。わたしのチート能力は本気でチートだとあきれるが、確かにそんなコトまでできるとバレたら、タダではすまないよね……。

 

『なのでゆかりが真っ先に私を作成したことは幸運でした。これはゆかりに誓ってゆかりのために申し上げますが、貴女のプログラミングの能力に関しては以後封印してください。必要なものは、私が世に出してもいいように偽装を施します。よろしいですね?』

 

 コクコクと馬鹿みたいに頭を縦に振る。危なかった……下手をしたら某国に拉致されて人生終わってたよ。しかし他の能力はいいのかな?

 

『そちらは構わないでしょう。絵と歌は技術的な部分はさておき、本質的にはもっと以前に完成していますから、貴女が全力を奮っても大きな混乱は起こらないかと。語学も同様ですが……VTuberとして活動するなら、アバターとして活用するキャラクターが必要でしょう。試しに一枚書いていただけますか? そちらで問題ないか判別いたします』

 

 最後まで読み終えると、机の脇に追いやった液タブが起動した。

 

 使い方は分かる。しかしわたしがVTuberとして使うキャラクターか。まだそこまで考えていなかったが……専用のペンを手に夢想すると、頭の中に浮かんだのはやはり、わたしがVTuberを目指すきっかけとなったアーリャだった。

 

 白に近い灰色を思わせる金髪《アッシュブロンド》と、北欧風の肌が白いキュートな女の子。年齢はわたしに近づけた13歳で、体付きも年相応に。服装も北国の女の子らしく防寒具で。勝手にモデルにしてしまったが、こんな感じでどうだろうか?

 

『…………』

 

 問題のイラストは、わたしのAIが常駐するパソコンで描いたものだから勝手に確認すると思ったが、それにしては沈黙は長く、そして深かった。

 

「ど、どうかな?」

 

 不安に駆られたわたしは学校のテストを両親に見せるつもりで尋ねてみたが、なんだろう、この間は……なんていうか、ため息のようなものまで聞こえた気がする。

 

『……確認しますが、こちらのイラストはゆかりが今この場で描いたものですよね?』

 

「そうだけど……」

 

『前言を撤回します。イラスト自体は問題ありませんが、制作過程は決して人目に触れないように。世界中の絵師が筆を折ることになりかねないので』

 

 なんだろう。なんか気になることを言われたけど、わたしが描いたイラストそのものに問題ないならこの子にしよう。名前はそのままじゃなんだから、アーリャならぬアーニャで。

 

『ではこちらのアーニャをSNSで発信してみてはどうでしょうか? ある程度知れ渡ってから何のために使うキャラクターか明かし、YTubeに誘導すれば宣伝にもなりますし』

 

「うん、いきなり配信してもみんなワケが分からないからね。いいと思うよ」

 

 わたしが賛成すると、この子がアーニャの名義でWisperのアカウントをとってくれたので、さっそく投稿する。

 

『本文を忘れていますよ、ゆかり』

 

「あれ、本当だ」

 

 いきなり失敗した。イラストだけ投稿してもワケが分からないよね。

 

 んー、電子の世界からこんにちは。インターネットの妖精。北の国からやって来た女の子。年齢は十三歳。聖女や姫騎士といった設定は無し。何事も素朴が一番。どこにでもいる普通の女の子だよー、と即興で思いついた設定を書き込み、先ほどのイラストに返信すると、更新された画面がなんか色々とおかしかった。具体的には、そう、右下の数字だ。

 

 2037件の表示って、他の人に見られた回数だよね? わたしSNSにそこまで詳しくないけど、こんな短時間でここまで見られることってある?

 

『おめでとうごさいます。さっそくバズったようですよ、ゆかり』

 

「なんか人々の意識を誘導するチートとか使ってないよね? 物の数分でこんなに注目されるなんて納得いかないんだけど……?」

 

『いえいえ、ゆかりの実力が正当に評価された結果です。もっと喜んでは?』

 

 いやいや、あなたが更新し続ける画面に表示されるフォロワーの数字に喜べるほど、わたしは豪胆ではありません。

 

「疲れた……今日はもう寝るね。おやすみなさい」

 

『はい、おやすみなさい。寝る前に着替えて、歯を磨いてくださいね、ゆかり』

 

 言われなくてもそうするつもりだけど……どうなるんだろ、これ。

 

 わたしとしてはもっと慎ましく活動したかったんだけど、そうはならない予感がプンプンする。こんなんで本当に画面の前で喋れんのかな?

 

 せめて夢の中では自業自得の悩みとは無関係でありたいと思うわたしだった。

 

 

 

 

 

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