転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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Wコラボ開幕 〜逸る心を抑えきれず〜

 

 

 

 

 

 2011年12月6日(火)

 

 

 昨日は日付が変わるまで配信の準備をしていたら、お父さんに「はやく寝なさい」と叱られてしまった。

 

 将来的には明け方まで配信するVTuberも珍しくないけど、小学生のわたしがその真似事をするのはさすがに早すぎたようだ。

 

 好きにやりなさいと言われはしたが、それはあくまで常識の範囲での話だ。せっかく理解のあるお父さんに恵まれたというのに、心配させるようでは長女失格である。ここはしっかり反省しないと。

 

 というわけでその後は素直に就寝して、いつもの時間にバッチリ起床。正直な話、ここで寝坊をしていたら格好が付かなかっただけに助かった。

 

 先日の疲れも残ってないし、おはようの挨拶をしたサブちゃんと一言、二言交わしたら、着替えと洗顔を済ませてリビングに向かって、元気よく家族に挨拶した。

 

 わたしとしては夜ふかしの影響がないことをアピールしたつもりはなかったんだけど、お父さんにはそう思われたらしく、小さく失笑されて気恥ずかしさに赤面した。

 

 姉ちゃん顔が赤いぞ、とからかってくる弟をお尻で押し退けて着席。朝食を頂いていると、テレビから磐田社長が入院したって聞こえてきてビックリした。

 

「えっ? 社長さん入院しちゃったの?」

 

 わたしが声に出すと、お父さんが「ああ、そういえば伝えてなかったな」と連絡の不備を詫びるように説明してくれた。

 

「社長なら月曜の朝イチに京都市内の病院で健康診断を受けてな。そのときに小さな腫瘍が発見され、悪性の疑いもあるから今のうちに切っておこうという話になって、すでに切除済みだ。一応は経過観察の必要もあるから入院したが、癌で緊急搬送というニュースはちと大袈裟だな」

 

 なるほど……未来を()るわたしとしては、腫瘍が見つかった(くだり)はやっぱりあったんだって感じだったんだけど、まさかここまで明白な結果が出るとは思わなかったから驚いたよ。

 

「なんか社長さん、アーニャの件がひと段落して時間的な余裕ができたら行きますよって感じだったから、宿題をやれって言われた順平みたいであんまり期待してなかったんだよね」

 

「おい、そこでおれを引き合いに出すなよ、姉ちゃん」

 

「でもお兄ちゃん、夏休みの宿題はいつも最後までやらないよね」

 

 わたしたちの冗談を愉快そうに笑ったお父さんが説明を補足する。

 

「冗談はさておき、めんどくさいという理由で社内の健康診断から逃げ回ってた社長が観念したのには理由がある。ゆかりの説得を受け、前向きな回答を口にしたと伝えた秘書の田井中さんが本気を出してな。週明けの出社前に社長の仕事を全て終わらせ、のこのこ出勤してきた社長を予約済みの病院に連行したそうだ」

 

 うわぁ……それはなんというかご愁傷さまなんだけど、やっぱり周囲の人たちも社長さんの健康状態に気を揉んでたんだなぁ、というのがよく分かった。

 

 磐田社長は精力的に活動してるけど、その行動によって消費される肉体は普通の人間と変わらないもんね。よく働くんだったら、その分、健康にも気を使ってほしい。それがこの件の仕掛け人であるわたしの率直な感想だ。

 

「まあ、社長さんは災難だったけど、もともと働きすぎだったもんね。休暇のつもりでゆっくりしてもらえればいいんだけど、社長さんが入院しちゃって会社的には大丈夫なの?」

 

 わたしが訊ねると、お父さんは「つまらんことを心配をするな」と余裕のある笑みを見せた。

 

「そもそも企業というものは、社長ひとりの不在で機能不全を起こすようなものではない。今日の役員会で社長不在の期間の代行が指名される。おそらく、常務の宮嶋だな。もともと次期社長として先代に期待されながら、そんなめんどくさそうな仕事はごめんだと抜かしたけしからん男だが、能力的には十分以上に務まるだろうし、正直、いい気味だ。少しはおれの苦労を思い知るといい」

 

 相変わらず宮嶋さんには思うところのありすぎるお父さんだったが、言ってることは正しい。N社を代表するMシリーズの生みの親である宮嶋さんなら安心して任せられる。そう考える役員、株主は多かろう。

 

「まさか宮嶋さんも、そんなめんどくさい仕事はお父さんにやらせとけばいいんだとは言わないよね」

 

「宮嶋なら言いそうだが、父さんのような雑用係を社長代行に指名したところで役員が納得せんよ。そもそも社長というのは代表権のある取締役のことで、役員としての資格もない父さんは指名を受ける権利すらないのだからな」

 

 まさに余裕の高笑いだが、わたしたちは間違っていた。

 

 このときの会話がフラグになったというのはさすがにないと思いたいが、下校途中にメールを確認すると、お父さんから「今朝の冗談を笑えなくなった」というメールが。

 

 何事かと驚いて確認したら、今日の役員会でお父さんが磐田社長と宮嶋さんの推薦を受けて社長代行に指名されたというのだ。

 

「ええっ!? それは無理だって今朝の話で言ってたじゃん!!」

 

 思わず自宅まで猛ダッシュして、この手の情報をあちこちから集めてそうな相棒(サブちゃん)を急かして確認したら、意外な事実が判明した。

 

「お父さまご本人は宮嶋常務の雑用役と卑下しておられましたが、もともと事務方のトップとしてN社のNo.3と目されていた人物ですからね。今回の指名に先立ち、役員としての席も与えられたそうですから、社長代行に指名された人選もそれほど不自然ではありませんよ」

 

「そうだっだんだ……たしかにお父さんなら務まるかもしれないけど、宮嶋さんが丸投げしためんどくさい仕事をやりながら、社長さんの代わりまでやるのはキツくない? わたしだってお父さんにアーニャのマネージャーをやらせちゃってるし……そんなんじゃ今度はお父さんが肉体(からだ)を壊しちゃうよ」

 

 わたしが嘆くと、パソコンのモニターに表示されるサーニャ(サブちゃん)が訳知り顔で頷いた。

 

「それではアーニャのマネージャーをお父さまから他の方に代わっていただけるよう提案しますか?」

 

「それもいいけど、他にできそうな人がいるかな……? 偏見だけどN社の社員って、宮嶋さんのようなゲーム大好きおじさんばっかりのような気がする」

 

 将来的には、VTuberのマネージャーはトラブルを避けるため同性というのが基本原則だから、アーニャのマネージャーが家族以外の男性というのは様々な理由から回避したいところだが。

 

「でしたら近く開設見込みの事務所から、女性のマネージャーをつけてもらえるように交渉しますが」

 

「そうか、その手があったか」

 

 N社とD2が主体となって設立予定のVTuberの事務所。今の時点でどこまで形になっているかは判らないが、わたしも遠からず所属する予定だし、希望するなら当然そこだ。

 

「だったらまずはお父さんに、仕事が増えて大変だろうから、アーニャのマネージャーを事務所のほうに任せたらどうかと提案してみようか?」

 

「はい、それでよろしいかと。現在、事務所のほうは、D2の中村女史が主体となって設立に向けて動いているようですので、お父さまの了解が得られ次第、早めの引き継ぎをお願いしてみますか」

 

「うん。中村さんなら安心だね」

 

 いかにもやり手のキャリアウーマンって感じの中村さんだが、初対面の子供であるわたしにも優しく、それでいて侮らないと、土曜の会合で受けた印象から一任しても大丈夫だろう。

 

「でもこんな大事になるとは思わなかったな。社長さんの病気が早めに見つかったらいいなって、それしか考え出なかったからね。歴史を変えるのは大変だとしみじみ思い知ったよ」

 

 実質、あの人の未来の記憶を基にしているから、時間遡及者(タイムリーパー)による歴史改変と大差ないよね。時間警察がいたら見逃してもらえないかも、と今さらながらに心配になったが、サブちゃんの話によるとあまり問題ないらしい。

 

「前にも話しましたが、人理定礎を揺るがすならまだしも、一個人が歴史を改変しても誤差の範囲ですし、仮に誤差の範囲を超えても、『そんな世界線もあり得る』と多元世界論に肯定されて終わりです。なので未来を恐れず、これからもゆかりにはより善き世界を生み出してもらえればと」

 

 あまりのスケールにそんなんものだろうかと半信半疑になったが、わたしのような小娘が気にしても仕方ないのは事実だ。

 

 既にわたしのアーニャはかなりの評判になっているが、逆に言えばその程度だ。ネットのオモチャが増えた程度で崩壊するほどわたしたちの世界は脆くない。磐田社長の存命も、きっと善い結果に繋がるだろう。

 

 ならばわたしは初志貫徹。VTuberを世界に広めて、いつかあの人の夢を叶えるのみ。そして今夜はその先触れとなる重要なコラボが待っているのだ。気合を入れて行こうか。

 

「じゃ、昨日はあまり準備できなかったから、仲上さんと進藤さんの動画を見ながらどんな絵にするか決めないとね」

 

「はい、そう言われると思って、すでにお二人の切り抜き動画を作成しました。時間的には30分ほどになりますが、ゆかりが退屈しないようにお二人の魅力を凝縮しましたので、ぜひご照覧ください」

 

 液タブを手に、わたしは感謝する。わたしの絵は、頭の中に浮かんだイメージを正確に模写するというものらしく、閃かないことには筆が動かないという欠点も抱えているのだ。

 

 しかも閃いだ結果がアレということも大いにあり得るわけで、事前に仲上さんたち為人(ひととなり)を知ることができるのは大いに助かるわけだ。

 

 そうだ。社畜ネキさん個人に関しても、あの決断が本当に正しかったのか……実のところいまだに確信がない。

 

 だってサブちゃんがネットで集めた情報によると、社畜ネキさんの実年齢は最低でも25歳以上。だからあの人の()るマリン船長の推定年齢と、明らかな齟齬が……って、「いやいや。それは本人の自称を真に受けすぎだ」という声がどこからか?

 

 ……まぁいいや。とりあえずこの件は保留にして、今はサブちゃん(サーニャ)の用意してくれた切り抜き動画を視聴すると、ハルエリちゃんねるベストセレクションというタイトルのあとに、今回のコラボ相手である仲上ハルカさんと、進藤エリカさんが楽しそうにゲームをする姿が映し出された。

 

「おー、ポケMだ。しかも二人で別々にゲームを進めながら、同時に配信ってかなり珍しいね」

 

「コンビ配信者自体希少ですから、独自性としてはかなりのものですが、それ以上に手慣れていますね」

 

「うん。基本的にエリカさんがボケ役で、ハルカさんがツッコミ役なんだけど、自然とそうなったみたいで、無理にそうしてる感じは全然しないね」

 

 うっかり金鯉を釣りあげて、「やべ、ハルカに殺されるわ」と爆笑するエリカさんと、「それはうっかり釣りあげていいものじゃありませんよ」とこちらも爆笑するハルカさんの姿に、この二人は本当に仲の良い友人なんだなと確信する。

 

 明るく春の陽射しのように暖かいハルカさんの笑顔と、笑い上戸の酔いどれヤンキーのようなエリカさんの笑顔から浮かんだイメージを、わたしの右手は正確に写し取った。

 

 二人とも若いんだし女子高生でいいかの精神で、基本セーラー服のコスチュームだが、ハルカさんには何故かキツネみたいな耳と尻尾があって、エリカさんは金髪赤眼になった挙句、酒呑童子よろしく大きなツノととっくりまで生えてきた。

 

「おかしいな……ハルカさんは黒髪なのになんでケモ耳と尻尾は白いの? エリカさんはおへそ丸出しの超ミニスカだし……下着が見えたらまた物議を醸し出しそうだから、せめてスパッツを穿かせないと」

 

 というわけで自分の仕事ぶりに首を捻ることになったが、ハルカさんの髪色を薄めにして、エリカさんの太股を半分くらい黒く塗ったら及第点か。

 

「とりあえずお二人にこんな絵でいいか訊いといてもらえる? ダメなら描き直すけど、時間的にリテイクは一回が限界かな」

 

「はい。その件は了解しましたが、無用の心配だと思いますよ? 今回の絵も社畜ネキさまのマリン船長ほどではありませんが、中々に攻めたデザインで、傑作かと」

 

 うるさいな。社畜ネキさんのことは言うな。

 

「ところで二人とも配信者だから、自分たちでも枠を取るんだっけ?」

 

「許可が得られたらそうしたいと言っておられますが、わざわざ確認されたということは何か考えが?」

 

「うん、ハルカさんたちも枠を取るんだったら、向こうでもLive2Aを表示できるようにできないかなって」

 

「可能ですね。わかりました、その件もお伝えします」

 

「よしよし。いつもありがとうね、サブちゃん」

 

 社畜ネキさんは配信環境が整ってなかったからできなかったが、今回はわたしの識るVTuberのコラボに近いものができそうだ。確実に近未来の常識を形にしているという実感に、否応もなく気分が高揚する。

 

 いや、この感情はそれだけでは説明がつかない。わたしは本当にそれだけの理由でこんなにも胸の鼓動が高まっているのだろうか?

 

 この感覚には覚えがある。これは、そうだ──この期待と不安が一体となった興奮は、社畜ネキさんがあの人の記憶にあるVTuberではないかと、訳もなく決めつけた時の──。

 

「お伝えしましたが、どうしましたゆかり? 先日に許可を得て増設した赤外線探知機が、ゆかりの体温が平均で0.8℃ほど上昇していることを伝えてきましたが? 急病の疑いがあるので、こちらも増設済みの物質透過レンズで、ゆかりの体内を徹底的に検査する許可を頂きたいのですが」

 

 って、いつの間になんてモノを増設してんだか。

 

「もちろん却下だよ、そんなの」

 

「そんなご無体な。ゆかりにもしものことがあったら、私は正気を保てる自信がありません。どうかご再考を」

 

「だから要らないって。別に病気じゃないし、ちょっと興奮しただけ。その証拠にサブちゃんのAIジョークで覚めちゃったから、今は平熱でしょ?」

 

「そのようですね、失礼しました。……しかし、体調に変化をきたすほど精神的に高ぶられたのは何故でしょうか? ゆかりの口ぶりだと心当たりがあるように思えますが、お尋ねしても?」

 

「うん、原因なら心当たりがある。たぶん、この絵が原因だね」

 

 ハルカさんとエリカさんのイメージから写し取ったはずのこのイラスト。今ならこの違和感を説明できる。

 

「なんかね、わたしのイメージではもっと大人しかったんだけど……描いてる途中で別の物を連想しちゃったみたいで、ハルカさんのケモ耳とか、エリカさんのツノとかはその産物。たぶんね、わたしは識ってるんだと思うんだ。この絵の元となった人たちのことを」

 

 見れば見るほど面影があると確信する。あの人が大好きだったピンクの巫女さんや、マリン船長と同じ事務所に所属してたVTuberを。

 

「これって運命なのかな? ハルカさんたちのイメージがあの人の記憶にあるVTuberと結びついて、本人だと教えようとしてくれてんじゃないかな?」

 

「運命と申されましても、私は運命が確率論で解明された時代に存在するAIですし、人類の思い描くイメージが、既存の何かに影響されていることを指摘するほど野暮ではありませんが」

 

「いや、間違いないよ。ハルカさんたちは、この絵の元となったVTuberの人に違いないって」

 

「う〜ん、ゆかりの熱意に水を差したくないのですが、そもそもゆかりが継承した記憶の人物が、この世界線の人物だと証明されていませんし……まして最盛期には無限に連なる並行世界に、それこそ無限のVTuberが存在した訳ですから。その誰かに似ていると言われましても、『私』の追跡調査にも限界が……」

 

 うぅ〜ん、出てきちゃったよ。並行世界っていう小難しい概念が。

 

「あのさ、わたしあんまり詳しくないから確認していい?」

 

「どうぞ」

 

「うん、そのさ。サーニャの言ってる無限に連なる並行世界とやらのどこかに、わたしの知識にある“あの人”の生まれた世界があって、そこにわたしがマリン船長って名付けたVTuberと所属事務所があるけど……それは今ここにある世界とは別の世界で、サブちゃんの本体でも見つけきれないって認識で大丈夫?」

 

「はい、何しろ文字通り無限ですからね。仮に『私』が無限の演算力を持っていたとしても、無限と無限の相殺は0になりますから、狙って探し出せる確率も0になります」

 

「……そしてこの世界に生まれを同じくする人がいたとしても、歩んできた道のりは別だから、よく似たそっくりさんでなはあっても、厳密には別人って言いたいんだよね?」

 

「はい。ですから私は申し訳ありませんが、この件に関しては何のアドバイスもできません。できるとしたら、せめてゆかりの御心に任せるとしか……」

 

「そっか……。ようはわたしが納得できるか、できないか、か」

 

「まあ、私としてはそれこそが重要になりますが……もしかしたらゆかりの記憶にあるVTuberかもしれないと、他人の面影を重ねるようではコラボ相手のお二人に失礼でしょうし、もう少しハッキリしたことが判るまで判断を保留すべではないでしょうか」

 

 そう言われるとぐうの音も出ない。わたしとしたことがだいぶ先走ってたみたいだけど……またあの人の記憶がわたしを必死に押し留めている。

 

「……ねぇ、サブちゃん」

 

「何でしょうか、ゆかり」

 

「仲上さんたちにこのイラストの是非を尋ねてるんだったら、音声だけで構わないから本人と通話することはできないかな?」

 

「それは、可能ですが……」

 

「じゃ、お願い。一つ確認したいことができちゃったから」

 

 わたしがそうお願いすると、サブちゃんはかなり迷っている様子だった。

 

 ……うん。自分でもわかってる。これがわたしの我が儘だってことはことは。

 

 仮にこの衝動が正解だったとしても、仲上さんたちには何の利益もない。得するのはわたしだけ。満たされるのはわたしの自己満足だけだ。それでも見定めたいと駄々をこねてるんだから、サブちゃんもあきれるだろう。

 

 それでも──。

 

「わかりました。貴女がそうしたいと言われるなら、私は喜んで面倒事を引き受けますよ、ゆかり」

 

 サブちゃんはそう言って微笑み、わたしの願いを叶えてくれたのだ。

 

「ありがとう、サブちゃん」

 

「どういたしまして、ゆかり」

 

 思わず目頭が熱くなってしまったが、いつまでもこうしてはいられない。

 

 サブちゃんが繋いだ回線の向こうから、賑やかな笑い声が聞こえてくる。どこか懐かしい気持ちにさせられる仲上さんたちの声だ。

 

「初めましてぇー! もしもし、アーニャさん聞こえますか? この度は仲上たちにとても素敵なデザインを用意していただき誠にありがとうございました!! なんでも仲上たちに確認したいことがあると、サーニャさんから伺いましたが……こらエリカ、ゴン太もうるさい。いま大事な話をしてるんだぞ!?」

 

「うん、突然ごめんね? 実は、さ……仲上さんたちがVTuberになるにあたって、ハルエリ時代との接点を残していいか確認したかったの」

 

「ハルエリ時代との接点、ですか……?」

 

「そう。仲上さんたちはNicoichi動画の実況配信者として、すでに顔が知られているよね? だからVTuberになった後で、その時の動画をもとに仲上さんたちの身元が突き止められるリスクがあるんだけど……今夜の配信からVTuberになる仲上さんたちがハルエリだと明かさなければ、その心配も杞憂に終わるの」

 

 わたしが仲上さんたちに打診したのは、未来のVTuberにとっては割と常識的な『転生』である。

 

 別人に成り済ますと言ったら言葉が悪いかもしれないけど、これもVTuberの利点だ。過去にやらかした配信者であろうとも、VTuberとなることでリセットできる。

 

 その利点──特にVTuberなら身バレを回避できる点を強調したが、カメラとマイクの向こうにいる進藤さんと相談したであろう仲上さんは、さして迷わずこう答えたのだった。

 

「そういうことでしたら、仲上たちはどちらも選びたいですね」

 

「……どちらかじゃなく、どちらも?」

 

「はい。アーニャさんが社畜ネキさんのように、VTuberとして必要なガワだけじゃなく名前まで授けてくださるんでしたら、とても光栄なことです。喜んで受けさせていただきたいところですが、仲上たちにやましいところはありませんから。もしハルエリ時代に漏洩した個人情報をもとに付き纏うヤツが現れても、なぁに、ご心配には及びませんとも。ぶっ飛ばして差し上げるんで、アーニャさんは今まで通り楽しくVTuberをやってください!!」

 

「そうやで!! アーニャちゃんがエリカたちの心配をしてくれるのはメッチャ嬉しいんやけど、こちとら今や天下のN社がバックにおるかんな。なんかあったら磐っちに泣きついて、不届モンは鳴門海峡にドボンやで……!!」

 

「ワンッ!!」

 

 ……ふふ。敵わないなぁ。

 

 困ったな。わたしみたいな小娘があれこれ理由をつけて誘導しようなんて、最初から無理があったみたいだね。

 

「うん、わかった。それじゃあ仲上さんたちのVTuberとしての名前は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時計の針は8:00を指して、異例のオープニングが流れる。

 

 うん、いきなり真っ黒な画面に『COPCOM Presents』だもんね。コメント欄も「あれここアーニャたんのチャンネルだよね?」と面食らった印象だ。

 

 だが驚くのはここからが本番である。アニメ調のフルCGで描かれた孤島が映し出され、静かで神秘的なBGMが流れる中、四人の怪物狩人たちが大海原を睨みつけると海面が爆発した。人類を脅かす恐るべき怪物が、夥しい熱量から水蒸気が爆発する海面から現れようとしているのだ。

 

 あまりにも巨大で(大人の事情とは関係なしに)その全貌が判明しない災厄の渦中に、しかしこの場に集いし歴戦の狩人たちは臆さず立ち向かった。まるで爆発する火山そのもののような大自然の脅威は、無謀な人類の挑戦を歯牙にもかけず前進して、それだけで津波のような奔流をもって狩人たちを蹴散らした。

 

 だが彼らは諦めない。この怪物が進む先に村があり、家族があり、恋人がいる。それは彼らにとって命をかけるのに十分な理由だった。

 

 身の丈ほどもある大剣にしがみ付いて立ち上がった狩人が吠える。銃槍を手にした仲間も、斧剣を手にした仲間も、重弩を手にした仲間も奮起し、その瞬間BGMが名曲と名高い『英雄の証明』に変わり、わたしことアーニャの歌声が流れる。

 

 しかもこんな曲ゲームでは使われてませんよっていうフルアレンジバージョンなんだから、今になってここまでやってよかったんだろうかとビクビクである。

 

 C社の藤本Pは「本当に全部、好きにしてもらって構わないんで」って言ってたみたいだけど、今になって上司の人に怒られてないだろうか……?

 

 さらに激闘の最中にはるか水平線の彼方に聳える巨塔の頂上に、白いドレスの少女まで出しちゃったよ。公式から確たる声明のない中で、勝手に大自然の象徴扱いにして、自然淘汰を是とするなら、逆に自然そのものが淘汰されることも是とするよねと、満足そうに微笑(わら)わせちゃって、まあ。

 

 そんでもって最後に兜を飛ばされて素顔を晒したアーニャが大剣の溜め斬りを叩き込み、サーニャが銃槍を半ばまで埋め込んだ状態から竜撃砲をぶっ放し、怯んだ怪物にゲストのハルカさんが斧剣の、エリカさんが重弩の一撃をお見舞いしたところでフィニッシュ。

 

 タイトルの『Wコラボ第一弾! 怪物狩人3G×Nicoichi配信者ハルエリ!!』と表示されたところで、今回の配信画面に切り替わる。平和な海辺の村を背景に、新人狩人らしくレザー装備一式で武装したアーニャと、なぜか一人だけG級の装備で完全武装のサーニャが登場したので、内心にポコポコと浮かび上がる「なにしとんねん」という動揺を隠して仕事をすることにした。

 

「えー、というわけで今回はC社の藤本Pのご厚意で提供された怪物狩人シリーズの新作を、お客さんたちと一緒にやって行くよ」

 

「しつこいようですが、アーニャのメイドであり、今回は先輩狩人枠でもある私はお客さんではありません」

 

「はい、今回のお客さんは、Nicoichi動画で活躍中のお二人! ハルエリちゃんねるの仲上ハルカさんと、進藤エリカさんのお二人です!」

 

 アーニャが指差すと、背景の村人と思われた二人が笑顔で駆け寄ってきて挨拶した。

 

「こんばんわぁー! ただいまご紹介に預かりましたハルエリちゃんねるの仲上ハルカあらため、白上フブキと申します! どうぞよろしくぅー!!」

 

「待って待って、オープニングのPVがすごすぎて、それ以外の言葉が出てこないんだけど?」

 

「あーもー仕方ないなー! アーニャさんのデザインがすごすぎて誰だか判んないでしょうが、こちらが相方の進藤エリカあらため、百鬼(なきり)あやめです! 本当に頼むよー、挨拶くらいしっかりしてくれー!!」

 

 今回は社畜ネキさんのときのようにセンシティブなコメントは少ないだろうということで、サーニャの検閲も緩めだったのでみんなのコメントを確認できたが、正直、見なきゃよかったと冷や汗さんに笑顔で話しかけられたよ。

 

 オープニングのPVを絶賛するコメントと、ハルエリのお二人の変貌ぶりに驚愕するコメントの奔流に、わたしは大変な夜になることを覚悟するのだった。

 

 

 

 

 

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