転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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配信ジャック! レイドボスと化したメイド

 

 

 

 

 

 2011年12月7日(水)

 

 

 今回のお客さまであるマナカことアーリャ(14)と、湊あくあさん(仮名)こと皆川あずささん(16)と、兎田ぺこらさん(仮名)こと宇多田琴子さん(15)の紹介こそ終えたものの、萎縮する三人の緊張ぶりは彼女たちのLive2Aを見れば一目瞭然だった。

 

 三人とも同じモーションデータを参照しているかのように、小さく縮こまってダラダラと汗を流す姿は、まるでやらかした直後のわたしのようで──冷や汗さんの猛威と闘っているのがわたしだけじゃないことが判って奇妙に安心したが、そうとばかりも言ってられない。

 

 平均年齢も15歳と幼く、配信経験も0と素人丸出しのマナカたち三人をこの場に連れ出したのはわたしだ。ならば、わたしにはフォローする責任がある。

 

 無論、この子たちを素人と承知で招いたのにはそれなりの理由がある。

 

 日曜にはVTuberの申し子としか言いようがない天性のトークと、失敗を恐れない天晴れな芸風で脚光を浴びたマリン船長こと社畜ネキさん(27)。火曜にはNicoichi動画で活躍中の配信者である白上フブキさんこと仲上ハルカさん(19)と、相方の百鬼あやめさんこと進藤エリカさん(19)と、偶然にも歴戦の強者を立て続けにお招きした結果、VTuberの敷居を低くするつもりが、却って高くなってしまったのではないか?

 

 そんな懸念から、今回はアーリャを筆頭に、普通の女の子でもVTuberになれるよって伝えたかったわけだけど……それはあくまでこちらの事情で、この子たちとは無関係だ。

 

 わたしには先輩VTuberとして、この生まれたばかりの小動物のような三人を守護(まも)って育てる責任がある。そう、さながらお母さんのように!

 

「というわけで、『その間、実に2秒!!』の間に考えをまとめたので、まずは今回のお客さまがどんな子か紹介するね」

 

[いや、いま10秒くらい無言の時間があったよ?w]

[その間、実に2秒ってバ◯ネタやんwww]

[どうしたもんかと冷や汗をダラダラのアーニャたんテラかわゆす]

[これが放送事故かっていう沈黙ぶりだったよね]

[ROUND1, Fight! !]

 

 うるさいな、あまり茶化さないでよ。それと最後の人は強引に闘わせようとしないで? ゴングを鳴らせば誰でも闘うってもんじゃないからね。

 

「ええと、まずマナカは、さっきも言ったけど、アーニャがVTuberを始めるきっかけになった子なんだよね。アーニャが図書館でロシア語の本を読んでたら、それなんて書いてあるか解るの? すごいねって話しかけてくれたの」

 

「あはは……あったわね、そんなことも……」

 

「でもアーニャはね、すごいのはマナカのほうだって思ったんだ。知らない子に話しかけるなんて、なかなかできることじゃないよ? だからマナカのように自分から話しかけられる人間になりたいって、アーニャはVTuberを始めたの」

 

「わかる……わかるよ? あてぃしも知らない人に話しかけるのぜんぜんダメだもん!」

 

「ぺ、ぺこーらもそんなとこあるから、マナカちゃんすげーってなったのは分かるぺこな」

 

 そんな裏話を披露すると、マナカは照れるというより羞恥に悶えるような表情になったが、他の二人は大いに共感してくれた。

 

 おおっ……いいねいいね。これは同じ悩みを持つ者同士、話が弾みそうだ。

 

「でもアーニャちゃんがそんなコミュ障だったなんて、ちょっと信じられないぺこなぁ」

 

「うーん、自分ではコミュ障じゃないつもりなんだけど、人見知りはわりとするほうだよ。必要があって話しかけられたんだったら普通に返せるんだけど、自分からどうでもいいことで話しかけるのは苦手みたいな」

 

「あ、それすごく分かる。ぺこーらもそんなところがあるから、すごく共感するぺこ」

 

「あ、あたしもそれ、すごくよく分かる。あたし話しかけるときに、なんて言ったらいいか毎回迷って、気がついたら時間切れになってるカンジで……ずっとそんなことばかりしてたから、そのうち話しかけるのも話しかけられるのも苦手になって……」

 

「うわぁー、わかるわかる。わたしもずっとそんな感じで段々と距離を感じるようになったもん」

 

「ふふ。そうなのね。だったらゆ……アーニャが苦手意識を改善するきっかけを作れて、少しだけ誇らしいかも……」

 

 その予想は外れず──わたしが湊さんとぺこらちゃんの二人と内気系女子あるあるネタで盛り上がると、マナカもだいぶリラックスした様子でそう応じたけど……今うっかり「ゆかり」って言いかけたよね?

 

 忘れたわけじゃないが、マナカの中の子であるアーリャはかなりおっちょこちょいな娘さんである。リラックスするのはいいが、あまり気を抜きすぎないよう、こちらでもよく見ておく必要がありそうだ。

 

 わたしがサーニャに目配せすると、どこか本調子でないこの子もさすがにそのアイコンタクトは見逃さなかったようで、こちらのワイヤレスイヤホンに了解の旨を伝えてきた。

 

 よし……それならマナカの紹介も終わったし、次はぺこらちゃんだね。

 

「で、次のぺこらちゃんは以前、本文書き忘れたメールを送信したお詫びに、2万字もある謝罪文を送ってくれたという、すごくきちんとした子なんだよね。書式も会社の書類かなって感じのお堅いもので、ぶっちゃけスマホで見たときは、なんか大袈裟だなって笑っちゃったんだけど」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」

 

「……なにそれ? 2万字を超えるビジネス形式の謝罪文って、記者会見でもするの?」

 

「触れるな! こっちはやらかしたと思って、ネットで書き方を調べるのに必死で、そこまで頭が回らなかったんだよ!!」

 

「でもわかるよ……やらかした直後って頭の中が真っ白になって、他のことを考えられなくなるわよね」

 

 クスクスと含み笑いを漏らすマナカだったが、この子が調子を上げてきた代わりに今度はぺこらさんが地獄の底に堕ちて、密かに慌てることになった。

 

「えー、それじゃあ最後に湊さんを紹介するんだけど……メールにお菓子を添付するにはどうしたらいいか訊かれたことは、黙っていたほうがいいのかなぁ……?」

 

「それを言っちゃダメぇ!!?」

 

「……なんだそれ? メールでお菓子が送れるわけねぇぺこだろ?」

 

「だってだって! 話しかけるときにお菓子をあげると話くらいは聞いてもらえるから、できるだけ持ち歩くようにしてるんだもん!!」

 

「でもそれって発想が完全に餌付けになってるわね。湊さんは野生の世界に生きてるのかしら?」

 

 なんだこのわたしが紹介すると周りの二人は喜ぶけど、本人は落ち込む導きの地の逆みたいなシステム?

 

 ま、まあ、トータルで初期値より1点加算されてプラマイ0くらいにはなってくれたようだからヨシとするか。

 

「動物じゃねぇんだから、食い物を渡されたくらいで態度変えたりしねぇだろに、よくやるぺこな」

 

「そっちこそ、なにその取ってつけたような『ぺこ』は? 語尾なら語尾らしく文末につけなよ。アーニャちゃんの配信でふざけてるわけじゃないよね?」

 

「うるせぇんだよ、気軽にこっちの闇に触れんな! こうしてキャラを作ってないと正気を保てねぇんだよこっちは!!」

 

「言われてみれば、キャラを演じるのもアリよね……私も今から作ってみようかしら?」

 

「作るにしても、自分のことを『あてぃし』とか、変な一人称を使うのはやめたほうがいいぺこよ。ゆるいと言うよりだらしなく感じるぺこ」

 

「わ、わたしだってきちんと喋ろうと思ってるけど、気がついたら崩れちゃってるだけだもんっ!!」

 

 その証拠に仲良くプロレスしてるもんね。大きな声も出るようになったし、ついさっきまでガチガチに固まっていたことを思えば格段の進歩だよ。相変わらず誰か一人は蹴落とされるシステムになってるけど……。

 

 もちろんやり過ぎを心配するコメントもあったが、そこはわたし。さじ加減は任せてもらいたい。

 

「よし、みんなもすっかりリラックスできたようだから、のんびりゲームをしながら語っていくとしますか」

 

 わたしが促すと、ここまで無言だったサーニャが会釈を返して今回のゲームを表示させた。

 

「こちらは私が開発したパーティーゲームの詰め合わせソフトです。トランプ、リバーシ、UNOなどを自由に遊べて、一部にメーカーの許諾が必要なものも事前に取得してありますのでご安心を」

 

「その名も世界遊戯大全! 現在某メーカーが某ハードで発売を検討中だよ!」

 

 まあ、まんまア◯ビ大全だけどね。

 

 もちろんそんなモノはまだ存在しないが、無いんだったら自分たちで作ろうの精神で(勝手に)用意したけど、それじゃあ本来の製作者に悪いから権利を丸投げしたんだよね。ディスコと宇宙人狼もこの方式で乗り切ろう。

 

[相変わらず配信に合わせて作ってみましたって完成度じゃないな]

[UIもよく考えられてるし、やっぱりサーニャたんって天才だわ]

[Stable maid in Sanya]

[そりゃこの完成度ならどのメーカーでも発売を検討するわな]

[やっぱしアーニャたんの会社から出るんかね?]

 

 呆れているのか感心しているのかよく分からないコメントと同様に、マナカたち三人も目を丸くする。

 

「とりあえず頭を使わないでやれそうなババ抜きからやろっか? 今回は裏方優先だけどサーニャにも参加してもらって、五人で親睦を深めようよ」

 

 サーニャも教会から帰ってきたら落ち込んでる様子だったし、原因がわたしが突っ走ったことにあるならフォローしたいし、ちょうどいいか。

 

 サーニャも参加人数を五人に設定してマナカたちの招待を開始したし、乗り気じゃないけど特に反対もしない感じか。いつも通りではあるんだけど、やっぱり元気がないように思うな。

 

「それじゃあサーニャに親をやってもらって、ルールは一番最初にあがった人が勝ちで、トータルで3回勝った人が出たらリザルトの流れでお願いね」

 

 まあ、あんまりウザ絡みをするのもなんだし、あくまで気にかけるって方向で様子見しますか。

 

 

 

 

 

 そうして始まったババ抜きなんだけどこれが楽しかった。

 

「アーニャちゃんって昨日の配信で大きな犬が好きって言ってたけど、好きになったきっかけってなんだったの?」

 

「うん、なんかね、むかしテレビのCMで、大きなグレートピレニーズが小さな双子の女の子の側にピッタリと付き添ってるの見て、いいなって思ったのがきっかけなんだ」

 

「あっ、それぺこーらもみた記憶がある! なんだったっけなぁ……」

 

「たしか建築関係のCMだったわよね? 新築のお家で双子の女の子が大きな犬と仲良く連れ添ってるんだけど……」

 

「うん、多分それだね。まるで付きっきりで守ってあげてるみたいで、すごく優しそうな顔をしててさ。その場でアーニャも飼いたいっておねだりして、即座にダメ出しされたんだよね。他の生き物の面倒を見るのは、自分の面倒を見れるようになってから考えなさいって」

 

 思えばお母さんの手伝いを毎日欠かさずにするようになったのは、わたしなりのアピールだったのかもしれない。もう犬の世話くらいできるよ、途中で投げ出さないよって。

 

「よし決めた。収益化が達成したら、お母さんを説得してとりあえず一匹飼おう」

 

 むんっ、と気合を入れて隣のぺこらちゃんからババを引く。ファッ◯ュー。

 

「いいなぁ。あてぃしもお母さんに似たようなことを言われて、犬を飼えなかったんだよね……って、ぺこらちゃんがまた霊圧を消してるのはなんで?」

 

「いや、うちはマミーがわりと動物が好きで、犬はいないけど猫がいるから、裏切り者になってないか心配で……」

 

 そんな台詞を口にしたぺこらちゃんだったが、わたしに引かれたババの位置を注視していたようで、湊さんに引かれると小さくガッツポーズした。

 

「って、このババはぺこらちゃんがアーニャちゃんに引かせたんでしょ? 裏切り者とか適当なこと言いやがってよぉ……!」

 

「ふぅ、この終盤でアーニャちゃんにババを引かれて焦ったぺこだけど、あくたんの手に渡ったんだったら一安心ぺこね」

 

「ほらほら、ケンカしないの。アーニャはあまり勝敗を気にしないから、変な気を使わなくても大丈夫よ」

 

 たしかにマナカの言うように、ゲームの勝敗に拘らないところがわたしにはある。

 

 そりゃあ勝ちたくないのかって訊かれたらもちろん勝ちたいけど、こんなふうに楽しくおしゃべりして素敵な時間を過ごせるんだったら、拘るほうがどうかしてると思うんだけど……。

 

「やる気がないだけでは? はい、今回も私のあがりで、持ち札の枚数的にアーニャが最下位ですね」

 

「ギャーッ!!?」

 

 湊さんが露骨に差し出したババを回避し、別の札を引いて3連勝で優勝したサーニャに言わせるとそうなるらしい。

 

「ドンマイ、アーニャ」

 

 残ったカードの枚数的に総合2位のマナカが、わたしがあんまり悔しがっていないこと見越して軽めに言うが、むしろ何かしらのフォローが必要なのは他の二人だった。

 

「ううっ、初戦では最後にババを引かせて最下位にさせちゃったから、最後は勝たせてあげたかったのに……」

 

「って言うかアーニャちゃんが上がれなかったのは、お前が9とJを止めてるからじゃねーか! 人のことをババを引かせたって言うよりそっちを反省しろ!!」

 

 泣きじゃくる湊さんと激怒するぺこらちゃんのお二人は、何やらわたしの負けっぷりに責任を感じてらっしゃるご様子。

 

「いいよ、二人とも。マナカの言うように、わたしがゲームで負けるのはいつものことだし、わたしがぶっちぎりの最下位だからって、他の参加者を叩く視聴者(みんな)もいないしね」

 

 わたしが仲裁するようにそう言うと、コメントは直ちに賛同の声で埋まった。

 

[そうそう。戦犯なんておらんよ]

[ゲームなんだし、忖度するほうが不自然やろ]

[むしろ最下位のアーニャたんが泣かないのが不満まである]

[二人ともええ子さんやなぁ]

[マナカたんもアーニャたんをよろしくね]

 

 そうしたコメントをピックアップすると二人とも納得してくれたが、その後の流れはわたしの配信を盛り上げようとする二人にとって過酷なものだった。

 

「今度こそ行ける。手札は12だから、10以上が来る確率はそんなに多く……あぁあああ!? なんでっ、ここでっ、Qが来ちゃうのっ!?」

 

「負け犬がうるせぇーぺこ。ぺこぉ〜らは10だら、あくたんのような爆死は……2かよ」

 

「フッ」

 

「その笑い方クッソムカつくなお前……見てろよ。頼む。9以下9以下アァアアアッ!!?」

 

「プッ……馬鹿がよぉ。調子に乗ってっからそうなるんだよ」

 

「災難ね。私は16だけど、これ6以上を引いたらダメなのよね。どうしようかしら……」

 

「引け、引くんだマナカちゃん!!」

 

「騙されちゃダメぺこ!! こいつぜってぇー地獄の道連れにする気ぺこよ!?」

 

「ねぇ……わたし13から2と3しか来なかったからもう一枚引いたらKが来たんだけど?」

 

 ババ抜きの次に遊んだブラックジャックでは、ご覧の通り……わたしたちが沼に沈んだのに対して、サーニャが3回連続で21を揃えての3連勝を決め、続くリバーシでも4面の枠でわたしたち全員を同時に相手取っての完勝で、しかも勝負がついたときの盤面は半分近く空だったというオマケ付き。

 

「…………不正はしてないよね?」

 

「するわけありませんね。単純に運と実力が足りないのでは?」

 

 フフン、と鼻で笑うサーニャ。

 

「まあ私が天才ということもありますが、相手の目を見て話すこともできない小娘ばかりではね。……一人ずつでは相手にもなりませんから、何なら四人で結託して、自分たちに有利なゲーム、有利なルールを提案してくれても構いませんよ」

 

 さすがにここまで言われると、わたしの中で眠っていた負けん気が首をもたげる。

 

「言ったね。もう撤回できないよ」

 

 そう宣言してマナカたちに振り返ると、三人とも魔王に挑む勇者のように断固たる決意に満ちあふれていた。

 

「なんだか交流戦がレイドボス討伐みたくなっちゃったわね」

 

 まさにマナカの言うように、わたしたちの名誉と尊厳のため、何としても勝利しなければならない戦いがそこにはあった。

 

「でも具体的にどうしたらいいのかな? サーニャちゃんって頭だけじゃなくて運もいいから、勝てそうなゲームが思い浮かばないかな……?」

 

 そこは湊さんの言う通りだ。ぺこらちゃんも勝てそうなゲームはないかチェックして頭を悩ませてる。

 

「麻雀ならみんなで協力したら勝てるかもだけど、ぺこーらの他にルールを知ってる人はいるかな?」

 

 わたしたち三人は同時に首を横に振ったが、むしろその歳でなぜ履修してるって目を向けざるを得なかった。

 

「貴女たちだけではろくな知恵も浮かばないなら、視聴者(リスナー)に助けを求めたらどうですか? こちらは内容が把握できないように音声とコメントを切っておきますので、準備できたら中指を立てて教えてください」

 

 くっ……サーニャ(サブちゃん)のヤツ、ここまで煽るか? コメントもこのレイドバトルに参加したいというものばかりになったが、大丈夫なのだろうか?

 

 今や人類共通の敵と化した感があるサーニャが何を考えているのか、わたしには内緒で確かめる道もあったが、この舞台から降りるのも勿体無いと思った。

 

 だって何を考えてるのか分からなくても、あの子がわたしの不利益になることは絶対にしないって知ってるし、信じているから──。

 

「でも視聴者のみんなと相談していいって言ったけど、こんなにいっぱい意見があると判断に困っちゃうわね……」

 

「こんなに速く流れてるのに目で追えるの!? マナカちゃんもすげーぺこだな……」

 

 ぺこらちゃんが驚くのももっともである。意味のあるコメントだけ表示するように設定されたこっちのPCでも追うのがやっとなのに、全てのコメントが表示される環境で判断に困る余裕まであるとは、マナカってばすごいね……。

 

 そんなふうに感心したわたしの目に、ある意味見慣れた相手からのコメントが飛び込んできた。

 

[ぺこらでもあくたんでもいい。お前ら雪国民だろ?〉社畜ネキ]

[そうならあのスレを開け! 今こそその時だ!〉社畜ネキ]

 

 社畜ネキさんが何を言っているのかわたしには理解できなかったが、ぺこらさんたちには理解できたようだ。こちらに短く「ごめん、ちょっと行ってきます」と一礼した彼女たちのLive2Aは、追尾が切れたのか動かなくなった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

【電子の妖精】アーニャたんを愛でるスレ232【キャッキャウフフ】

 

286:名無しの雪国民さん ID:TAk6A9SHi

まさにこの世の楽園とでも言うべきアーニャたんの配信に、まさかサーニャたんが立ちはだかるとは……。

 

294:名無しの雪国民さん ID:Go3za81RU

いくらサーニャたんでも、10代前半は確実の女の子の営みを邪魔するのは許されないでござるよ?

 

300:名無しの雪国民さん ID:N301WaCHI

彼女の真意は不明ですが、面白くなってきましたね。

 

303:名無しの雪国民さん ID:M5iy7AP0N

なんか悪の科学者が人類に宣戦布告したみたいに言ってますが、実際には違いますからね?

 

311:名無しの雪国民さん ID:I5KW3KWIR

>>303

メガ=マンかな?

 

312:名無しの雪国民さん ID:AX-2776IT

ター◯ネーターでもありませんね。

このままで勝負になりそうにありませんから、今回は私達の力をお貸しします。

 

316:名無しの雪国民さん ID:MA78sh0WA

頼む! アーニャたんに力を分けてくれ!!

 

322:名無しの雪国民さん ID:BON446ta4

とりあえずぺこらさんがチェックしてるのを見た感じだと、全員で協力していいならUNOが一番勝ち筋がありそうじゃない?

あれならスキップやドローカードを切るタイミングを相談できるから、的確に邪魔できると思うんだけど?

 

328:名無しの雪国民さん ID:M5iy7AP0N

>>322

僕もUNOが一番勝ち筋があると思いますが、ババ抜きやブラックジャックを見る限り、サーニャさんは運のほうも半端ないですからね。

何もできずにストレートで負ける可能性もありますから、何かしら保険となるようなルールが欲しいですね。

 

329:名無しの雪国民さん ID:AX-2776IT

>>328

いえ、M5iy7AP0N様。彼女のアレは運ではなく、純粋な計算です。配信に使われているPCの演算速度から、乱数の揺れ幅まで知り尽くしている立場を利用して超カオス理論に当てはめて、望んだ結果を引き出せるタイミングで処理を実行している乱数調整に近いモノです。

 

336:名無しの雪国民さん ID:DANcho321

なんかAX-2776ITさんのレスの速さと書いてる内容に戦慄するんだが?

 

337:名無しの雪国民さん ID:AX-2776IT

>>336

恐縮です、DANcho321様。

 

340:名無しの雪国民さん ID:N301WaCHI

なるほど。そんなことまで計算できるとなると、天才の名に偽りはありませんね。

 

344:名無しの雪国民さん ID:MA78sh0WA

諦めないでよ! 磐っちに匙を投げられたらどうしようもないやんけ!!

 

347:名無しの雪国民さん ID:N301WaCHI

いえ、彼女が運命の揺らぎのようなものまで計算できるなら、その結果をイーブンにするようなルールを提案したらいいんですよ。

 

352:名無しの雪国民さん ID:MA78sh0WA

どういうこと?

 

353:名無しの雪国民さん ID:AX-2776IT

>>352

UNOには幾つかのバリエーションルールが存在して、その中に好きな相手と手札を交換できるものものありますから、N301WaCHI様が言っておられるのは、まさに彼女が計算し尽くした手札を揃えるのなら、横から奪ってやればいいという戦略でしょう。

 

357:名無しの雪国民さん ID:N301WaCHI

そうですね。もっとも彼女が他人の手札まで計算してカードを配る場合は成り立ちませんが。

 

360:名無しの雪国民さん ID:M5iy7AP0N

それなら他人の乱数は計算してはいけないとルールに追加したらいいんですよ。それなら自分のカードは計算通りに揃えられても、他人のカードはそうでないから計算外の要素が生まれると思うんですよね。

 

369:名無しの雪国民さん ID:SHUBARDdd

よく分かりませんが、ここで対策を講じていても本人に伝わらなかったら意味がないと思うんですよね。

 

373:名無しの雪国民さん ID:M5iy7AP0N

それなら僕から伝えますよ。サーニャさんお手製のグループチャットは危険だから、配信中だということを考えると、無難にスマホへメールするのが一番かな?

 

378:名無しの雪国民さん ID:LA22digPU

なんかこのスレ、吾輩以外関係者しかいなくねぇ?

 

381:名無しの雪国民さん ID:MA78sh0WA

>>373

ちょっと待って! できればアーニャたんには汚れた大人の計りごととは無縁であってほしいし、あくたんとぺこらのヘンテコな日本語はこのスレの書き込みで見たことがあるから、それとなく誘導してみるわ!

 

426:名無しの雪国民さん ID:BUnyU3D16

誰がヘンテコな日本語だよ社畜ネキよお!!

 

434:名無しの雪国民さん ID:AQuA4649N

あ、ぺこらちゃん。社畜ネキがヘンテコ呼ばりしてるのは、たぶんあてぃしの一人称だから落ち着いて……。

 

440:名無しの雪国民さん ID:MA78sh0WA

いや、十分ヘンテコだろぺこらもさぁ……なんだよあのぺこ? 語尾にすらなってないじゃんかよぉ?

 

444:名無しの雪国民さん ID:BUnyU3D16

お前それを言ったら戦争だろうが!!?

 

449:名無しの雪国民さん ID:BON446ta4

はいはい、二人とも落ち着いて? 時間がないから作戦を聞いてもらえるかな?

それじゃあ例の人、だいぶ流れちゃったから概略を伝えてもらえる?

 

450:名無しの雪国民さん ID:AX-2776IT

>>449

了解致しました、BON446ta4様。

BUnyU3D16様、AQuA4649N様、具体的な作戦はこうです。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 ぺこらちゃんたちが別行動をしている間、わたしたちが何をやっていたのかというと、止める相手が不在なのをいいことに禁断の家族トークで盛り上がっていたのだ。

 

「というわけで、何かしてもらったあとの数日間は、弟がやたら気を遣ってくるんだよね。そんなにC社さんからお預かりさん3Gを貰えたのが嬉しかったのかなって」

 

「うふふ、おっかしい……可愛いわね、アーニャの弟さんって」

 

「うん、今日も家に帰ったら『姉ちゃん、肩凝ってねぇか?』って聞いてくるし。おやつも一人分残ってるからどうしたのか聞いたら『おれ今日は腹いっぱいだから、配信中に腹が減ったら姉ちゃん食っていいぞ』って」

 

「いい子じゃない……お風呂で背中を流してほしいって伝えたら、すごく辛そうな顔をしたのも含めて、もう可愛いったら……」

 

「そうだよね。それで妹がさ、弟がおやつをわたしに寄付したのを知って死にそうな顔になったんだ。別に取り上げようと思わないけど、自分のおやつを半分あげると言えないところがお兄ちゃんに及ばない理由かな?」

 

「それはアーニャの弟さんが特にいい子だからそう感じるのよ。あー、私もアーニャの弟さんを甘やかしたくなってきちゃった」

 

「ちなみに二人とも配信を見てるから、今ごろそれぞれ別の意味で羞恥に悶えてるんじゃないかな?」

 

 と、まあそんな感じで、家族の話をしたらこれがウケることウケること。

 

[弟きゅんテラかわゆす]

[イェーイ、弟くん見てるぅ? お姉さんに内情暴露されてどんな気持ち?]

[妹ちゃんもいいのよ? おやつ以外で恩返ししようね?]

[アーニャたん、弟きゅんと妹ちゃんの絵を描いてよ〉社畜ネキ]

[いま帰りましたが、これはいい話を聞かせて頂きましたねぇ〉白上フブキ]

 

 コメントもこの話題一色で、もうサーニャは放置でいいかなって思ったり。

 

 マイクとコメントを切ってこちらの状況が判らないサーニャも、こっちが無関係の話で盛り上がってることには気付いているらしく、表面上はクールで強気な態度を崩さなかったが、付き合いの長いわたしにはあの子の困惑ぶりが手に取るように分かった。

 

「うーん、今度アーニャの家に遊びに行こうかな。仲の良い家族ってね、見てるだけで心が癒やされるから貴重だわ」

 

「そんなことを言うけど、マナカのお爺さま(・・・・)も素敵だったじゃん? アーニャはマナカとは逆で、お爺ちゃんがいないからすっごく羨ましかったな」

 

「あっ、お爺さまね。……たしかに素晴らしい方だけど、ちょっと遠慮があるから、なかなか甘えるわけにもね……」

 

「でもマナカのお爺さまって、マナカのことすごい気にしてたよ? あの子は『はい、お爺さま』以外の返事をしてくれないって、ちょっと寂しそうだった」

 

「お爺さまがそんなことを……そうね、私もアーニャを見習って、配信が終わったら少し甘えてみようかしら? ふふ、本当はちょっと畏れ多いんだけどね」

 

 うーん、いいねいいね。司祭さまにはお世話になったし、これで二人の距離が縮まってくれたらわたしとしても嬉しいよ!

 

[あぁ〜、心がぴょんぴょんするんじゃぁ〜!!〉百鬼あやめ]

[これは癒されますねぇ! 癒されますよぉ!〉白上フブキ]

[what a warm family]

[おれ、さっきから色んな意味で涙が止まらねぇよ……]

[おっ、後輩のハルエリもいるじゃーん。お前らどこ行ってた?〉社畜ネキ]

 

 そんな感じでコメントも賑わい、新しい家族になる予定の犬の話題で盛り上がった頃に、すっかり地蔵と化したぺこらちゃんたちのLive2Aが動きを見せた。

 

 瞬きが復活して、絵に魂が宿ったかのように明るい笑顔になり、こちらを見るや二人揃って親指を立ててきた。

 

「おかえりなさい。二人とも、サーニャに中指を突き立てる準備はバッチリ?」

 

「うん、バッチリ。これなら運も実力も関係なしにアーニャちゃんの勝利だね」

 

「まあ勝利の秘訣はチームワークだから、作戦が大事だけどね。具体的には……」

 

「あ、喋っちゃダメ。知らないことが重要だってあの人も言ってたよね?」

 

「あっ、ごめん。うっかりしてたぺこ」

 

「じゃ、予定通り三人でね。舵取りは任せるから、LEADの合図を見逃さないでね」

 

 手応えは十分なようだけど、詳しい話を聞いたらダメみたいなので、わたしとマナカは二人の邪魔をしないようにした。

 

「よしっ、それじゃ、アーニャちゃんもマナカちゃんも、いっせーの、せで、あてぃしの合図を真似してね」

 

 そうして二人だけの作戦会議が終わったあとに、水色さんが伝えてきたので彼女の手元に注目して合図を待った。

 

「はいっ、いっせーの『せっ』」

 

 直前まで例のポーズを用意していたが、湊さんがサーニャに『おいで、おいで』と手招きしたので予定変更。四人で捨てられた仔犬のようなサーニャを呼び戻すのだった。

 

「…………私の指定した合図と違いますが、まあいいでしょう」

 

 どこか安心したように──それでいてどこか焦っているように応じたサーニャは何もない空間に視線を向け、わたし以外には聞き取れない声で「厄介な」と吐き捨てた。

 

 はてさて……隠れた事情までは分からないが、あの子が魔王の座から転落したのは確実のようだ。

 

 ラスボスじゃないなら、わたしたちが勝ったらどういうつもりだったか聞かせてもらうから、そのつもりでね、サーニャ(サブちゃん)

 

 

 

 

 

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