転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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みこちは永遠に不滅だよ! そして──!!

 

 

 

 

 

 2011年12月10日(土)

 

 

 一晩眠ってスッキリしたら朝のユッカタイムである。やったぜ。

 

 わたしの気配に気がついて眠そうな眼を開いたばかりなのに、飼い主の姿を発見するや嬉しそうに尻尾を振るユッカの愛らしさときたら……!

 

 やはりユッカ……愛犬はすべてを解決する……!

 

 まあ早起きしすぎて、お母さんに「ゆかりは分かりやすいわね」って笑われたけど、それ、他の家族にも刺さってるからね。

 

 いつもわたしより早く起きてるお父さんはともかく、がさつな弟とずぼらな妹も6時過ぎには起きてきたもんね。

 

 間に合ったと喜ぶ二人と一緒に『待て』と『お手』の真似事をしてから、ユッカが朝ごはんを食べる姿を見守る。

 

 うーん、どちらも一発で覚えたし、ご飯もガツガツ食べ散らさないし、ユッカってばやっぱりおりこうさんだよね。

 

 わたしだけじゃなく、他の家族の言うこともよく聞くから、わたしが犬語を喋ってる説も覆されたし、いいこと尽くめだよ。

 

 まあユッカに構いすぎて、お父さんに「いい加減にしないと遅刻するぞ」って叱られたのはご愛嬌だ。

 

 なんせランドセルを背にギリギリまで粘るわたしたちから、ユッカを取り上げたお父さんも部屋着姿だし、今日は会社も休みだもんね。顔もニヤついてるし、残念ながら家長の威厳はこれっぽっちもなかったかな。

 

 妹に「お父さんだけずるい」とごねられ、弟に「父ちゃん、ユッカと遊びたくて会社休んだんだろ」と呆れられたのもむべなるかな。

 

 困り果てたお父さんが視線で助けを求めたんだけど、洗濯物に大忙しのお母さんは冷たかった。「ユッカはそろそろお昼寝ですから、あなたも構いすぎたらいけませんよ」って言われたお父さんがしょんぼりしちゃって、みんなで遠慮なく笑ったり。

 

 そんなふうに笑ったりはしたけど、お父さんも最近忙しかったから、ユッカのおかげで精神的にも癒されるのはいいことだね。お母さんは休日中のお父さんを手のかかる子供のように扱っちゃうから、これからはユッカに頑張ってもらおう。

 

「それじゃ大変だと思うけど、わたしが帰るまでお父さんと一緒に遊んであげたり、膝の上でいい子にしたりしてあげてね? はい、分かったら『アォン』と返事をして?」

 

「アォン」

 

 お父さんは不満そうだったけど、玄関まで見送りに来てくれたので、三人で「行ってきまぁーす」とたユッカに手を振ったら仲良く駆け足。帰ったらまた遊んであげよう。

 

 ……と、朝からそんな調子だったから、学校でも顔がニヤついて大変だった。

 

 クラスメイトに囲まれて「真白さん何かいいことあった?」って聞かれても正直に答えるわけにもいかない。

 

 ここで「実は最近シベリアンハスキーの仔犬を飼ったんだよね」って口を滑らせようものなら、アーニャの配信と結び付けられる可能性も出てくる。

 

 アーニャの配信は子供にも人気らしく、これまでも休みの時間にそれっぽい会話を耳にしたし、昨日の配信でもその点を考慮して愛犬の話はあまり口にしなかったが、用心するに越したことはない。

 

 わたしは居並ぶ友人たちに「うん、最近ちょっと調子がいいんだよね」と誤魔化したが、いつか本当のことを話せる日は来るのだろうか。わたしの内心は人目を気にする芸能人と大差なく、浮かべる笑顔とは裏腹に心細くもあった。

 

 今や全世界が注目する一大コンテンツに成長したアーニャは、国内外の熱心なファンだけではなく、テレビや新聞でも取り上げられ、世間一般の認知度も急速に高まってる。うっかり身バレをしようものならどんなことになるかは想像に難くない。

 

 だから嘘も方便。アーニャのこととは関係なしに仲良くなれたみんなには、いつか本当のことを報告したい。いつか人目を憚らず、みんなとアーニャやVTuberの話ができるようになりたい。

 

 今はそのための方法を模索し、そうなるように努力してる段階だけど、いつかきっと──。

 

 しかし、そのための猶予はどれだけ残されているのだろうか?

 

 わたしは漠然とした決意を抱いた放課後に、自らの浅はかさを知ることになる。

 

「真白さん、またね」

 

「ゆかりちゃん、またー」

 

「うん、また月曜にね」

 

 途中まで一緒に帰った友人たちと別れた直後に、上着のポケットから着信音が流れ出す。

 

 相手はサブちゃん……なんだろう、こんなふうに連絡してくるのは初めてだな。スマホの通話をタップしたわたしに危機感はまるでなかった。

 

「いいですか、ゆかり。そのまま振り向かず、後ろの騒動には関わらないようにしてください」

 

 硬く切迫したサブちゃんの声。わたしは頼りにする相棒が何を言っているのか理解できず、暢気に質問を返した。

 

「えっ? 後ろに何かあるの?」

 

「以前にゆかりの家まで様子を探りに来たマスコミ関係者に尾行されていましたので、警察に通報して職務質問をしていただきました」

 

 その答えに、わたしの背筋はゾッと冷えた。事態の深刻さをようやく理解したわたしは、振り向いて確認したいという衝動を必死に噛み殺して、言われるままに下を向いて歩いた。

 

 時間の流れが恐ろしいほど遅く感じる。わたしに話しかけてどうするつもりだったんだろう。職質は上手くいったのかな。振り返ってどうなってるのかだけでも確認したい。様々な考えが浮かんでは消え、独り時間に取り残されたわたしは迷子になったように心細かった。

 

 時間の感覚が曖昧になったので断言できないが、歩いた距離からすると10秒かそこらだろうか。曲がり角まで近づいたわたしの耳に、サブちゃんの優しい声が届いてようやく安心した。

 

「……もう大丈夫です。警察も不審者に尾行されただけの無関係な子供を追いかけて、因果関係を確かめようとまでは思わないようですから。しかし今の段階でゆかりに接触を図るとは油断なりませんね」

 

 ホッと胸を撫で下ろすと同時に、手足の異常な冷たさを自覚する。これが知らない大人に声を掛けられそうになったときの感覚か。

 

 どうやら思った以上に危険だったようだ。まさか下校中に話しかけられるところだったなんて……サブちゃんがいなかったら上手く切り抜けることはできなかっただろう。

 

「ねぇ……いま、前に家まで来た人だって言ってたけど、もしそうなら、わたしがアーニャだって思われてるってことかな?」

 

 曲がり角を左折したときに、チラリと後ろを気にして訊ねると、サブちゃんは「まさかそこまでの確信はありませんよ」と笑った。

 

「ですが二度も来た以上、疑われていることに間違いはないでしょう。向こうも今回のことで迂闊に接触するのは面倒だと思ったでしょうが、そう易々と諦めるとは思えません。ゆかりには今後も慎重な行動をお願いしますが、この件は帰ってからもう少し対策をとりましょう」

 

「うん、わかった。午後からその話もしよう」

 

 サブちゃんとの通話が終わり、スマホを上着のポケットに戻したわたしは自身の甘さを痛感した。

 

 今や国内外の企業が利用価値を見出したアーニャを巡って、わたしの知らないところで熾烈な争奪戦が行われていることは知っている。でも、それはあくまでアーニャのことであり、お父さんとN社を通してのことだからわたしには関係ない。そう思い込んでる部分もあったが、どうやら勘違いだったようだ。

 

 アーニャにウンと言わせるなら、わたしに言わせたほうが早い。そう考えるせっかちな大人は、何もわたしを尾行した人に限った話ではないだろう。近い将来、わたしを子供だと侮って、脅迫まがいの犯罪に巻き込まれる危険もある。わたしたちがアーニャの正体を内緒にするかぎり、敵はその弱みにつけ込んでくる。

 

 ならばどうするか。秘密というものは秘密にしているから価値が生じるのだ。誰もが知っていれば、秘密を暴いたところでそれがどうしたである。ちょうどお父さんも家にいるし、この話をするならいい機会か。

 

 帰宅したわたしは自分の考えをサブちゃんに伝えて了解を得ると、昼食後にさっそくお父さんを自分の部屋に連れ込んで報告した。

 

「……そうか。下校中のゆかりに以前の男がな」

 

 お父さんが奥歯をギリっと軋ませて、えらく物騒な顔になった。

 

 わたしがそこまで知ってるのは不自然なので、「下校中に知らない男の人に話しかけられそうになった」としか伝えなかったが、お父さんはそれだけでピンと来たらしく、「うちにケンカを売るとはいい根性だな」って尖った犬歯を剥き出しにして笑ったのだ。

 

 N社と言えば子供向けのゲームを作ってる立場から、わりと穏和な企業体質だと思うかもしれないが、実際には過酷な市場淘汰を勝ち抜いた武闘派の側面もある。

 

 伝説のモンキーコング裁判では金銭目当ての相手企業を完膚なきまでに叩き潰し、海賊版のような著作権侵害には業界を代表する立場で断固たる姿勢を示し、信じるものが折り合わないと開き直った新参者は顔面を蒼白にせしめて全面降伏させる、そんな側面。

 

 先代社長が『組長』と揶揄されたN社の知られざる気質を体現したお父さんの笑顔は、なんていうかとっても物騒だった。

 

 これは相手を土下座させるところまでやるやろなぁと呆れたわたしは、怒れるお父さんをお母さんの代わりに宥めた。

 

「あのね、お父さん。わたしは相手の人をどうにかする気はないからね」

 

 そして、それよりと相談する。

 

「むしろいい機会だし、わたしがアーニャだって公表しちゃえばいいんじゃないかな? そうしてわたしが未成年の子供であることを理由に、アーニャの話は今後もお父さんとN社にお願いしますって言えば、わたしに言うことを聞かせようって大人はいなくなるでしょ?」

 

 わたしが今後の方針を示すと、お父さんは「ふむ?」と首を傾げた。

 

「確かにそれならゆかりとの接触を禁じる口実にもなるし、それでも諦めない手合いには抗議や訴訟をチラつかせて強く出られるが……代わりに学校の友達には騒がれることになるぞ? ゆかりはそうなってもいいのか?」

 

 正直に言うと不安もあった。わたしがアーニャの演者(ライバー)だと公表することで、せっかく距離を縮めたクラスメイトに、また偶像のように扱われるんじゃないかって。

 

 だから今日のみんなの笑顔を思い出して、そうはならない、仮にそうなっても自分から距離を詰められると信じてお願いする。

 

「構わないよ。わたしもアーニャの話をするクラスの友達に知らん顔をするのは心苦しかったし、順平たちにも我慢させちゃってるからね。本当にいい機会だよ」

 

 あの子たちにもわたし(アーニャ)の正体を内緒にしなきゃ、と気負わせてるところもある。学校でわたしのように知らん顔をさせ続けるのは酷だし、今回のことがなくても秘密にするのはどこかで終わりにする必要があった。

 

 だから本当にいい機会なのだ。弱みになる秘密を抱えるのは終わりにする。わたしが好奇の視線に耐えられるならそれが最善だ。

 

「それでもわたしをどうにかしようと思うなら、お父さんと警察の出番だね。そうならないように頼りにしてるよ、お父さん」

 

 わたしがそう締めくくると、パソコンのモニターからサーニャ(サブちゃん)も同意した。

 

「私もゆかりの提案に賛成です。法的な措置はそれでもしつこく接触する無頼漢に限定すればいいだけの話ですし、その間の護衛も、私が契約している民間の警備会社に依頼しますので、どうかご安心を」

 

 視えない何かを構えて見せたサーニャが、先ほどのお父さんと似たような笑い方をする。

 

 うん、この子が契約してる警備会社か……それって絶対どっかの大国の退役軍人の再就職先だよね。

 

 手荒なことをしないか心配なんだけど、それでもサブちゃんが送り込もうとした不可視の護衛(ターミネーター)に比べたらまだマシかな?

 

「確かに君たちの言う通りだな……。解った。この件は入院中に遊び惚けている馬鹿社長にも相談して、月曜にでも社内の了解を得よう」

 

 良かった。お父さんも普通に笑ってくれたし、これで行方不明になる不幸なマスコミ関係者はいないんだねって笑ったら、お父さんが複雑な顔になった。

 

「ところでゆかりはいつもサーニャさんとこんな感じで話してるのか?」

 

「うん、そうだけど?」

 

「そうか……道理でゆかりも日ごとに手強くなっていくわけだ」

 

 どう言う意味だろうとパソコンのモニターに目を向けたら、サーニャが我関せずとお茶を飲んでいた。

 

「まあ、今のは子供の成長を喜ぶ一方で、自分の出番が減ったことを寂しく思う父親の愚痴みたいなものだから気にするな。それより、そろそろ母さんがトレーナーの方と約束した時間になるが、ゆかりはどうする? サーニャさんと配信の話をするなら、今回は不参加でも構わないが……」

 

「冗談でしょ? ユッカを独占しようったってそうはいかないんだからね」

 

 この件では家中で散々ネタにされたお父さんの背中を押すと、顔だけ振り返ってサーニャに「またね」と挨拶したわたしは廊下に向かった。

 

「はい、どうぞごゆっくり」

 

 ドアを閉めるときに振り返ったわたしは、深々とお辞儀するサーニャ(サブちゃん)に手を振って自分の部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 お父さんと下に行って、約束の時間まで愛犬と戯れていると、ちょうど2時前にチャイムが鳴った。

 

 ユッカを抱いて全員で出迎えると、若いというより幼い感じのする女の人が玄関の向こうで待ってた。

 

「あれま。ご家族全員でお出迎えとは、恐縮するでよ千雨さん」

 

 ほんわかとした笑顔と、ゆるめの雰囲気。そしてちょっとキツめの方言が印象的な彼女は、とあるペット会社の社員とのこと。

 

 名前は狛村(こまむら)莉緒(りお)さん。既に面識があるのか、お母さんに「この前はこの子をどうも」と頭を下げた彼女は、さっそく中に入ってユッカの相手をすると途端に仰天した。

 

「これは驚きが止まらんでよ。あのヤンチャでワンパクな末っ子が、この短時間でまるで別人……いや別犬に変貌しとるでな。躾けた人をうちの社員に推薦したいよ」

 

 なんでもお母さんの知り合いのブリーダーさんとも契約してるらしい狛村さんは、ユッカを生まれたときから知っているらしく、わたしの家に引き取られてからのおりこうさんぶりに目を丸くしている様子だった。

 

 シベリアンハスキーは成長すると体重が20キロを超え、過酷な北国の大地でソリを引いていたことから力も強い。そのため穏やかな性格と高い忠誠心を考慮しても、意図せず人間を傷つけないように子供のときから訓練が欠かせないそうだが、うちのユッカはご覧の通りのおりこうさんだもんね。

 

 口の中に手を入れても噛んだりせず、勝手に歩き回って部屋を荒らすこともない。することがないときはわたしを見上げて「クゥーン」と指示を待つ姿に、狛村さんは「こりゃわたしの仕事はないも同然だでよ」と苦笑して見せた。

 

 自然と鼻が高くなるわたしの前で、ユッカも嬉しそうに尻尾を振ったが、そんなわたしたちの余裕は次の瞬間には崩れ去った。

 

「本当にこの子はゆかりの言うことだけはよく聞くのよ。私が家に連れ帰ってくるまでの苦労は何だったのかしらね」

 

「おー、一番上のお嬢さんがゆかりさんですか。……もしかしたらアーニャちゃんでない?」

 

 開いた口が塞がらないとはこのことだろう。なぜバレたんだろうと頭の中が真っ白になる。

 

「あ、やっぱりそうだったんだ。実は一昨日の配信でシベリアンハスキーの仔犬を飼ったって言ってたから、もしかしたらと思ってたでよ」

 

 ああ、なるほど……たしかにユッカのブリーダーさんや知り合いの人たちが見ていたら、もしやと思ったりするもんね。

 

「狛村さん、その話は……」

 

「大丈夫、ゆかりちゃんも安心して? こういうのは守秘義務って言って、職業上知り得た秘密は黙秘権があるでな。警察に連行されて拷問されても口を割らんから安心するでよ」

 

 なんか色々と間違ってる気もするが、ツッコむ気力はなかったので曖昧に笑っておいた。

 

「いやぁー、実は莉緒もね、昨日の配信を見てVTuber? っていうのになろうかと思ったんだよね。ほら昨日さ、なんて言ったかな……そうだ、白上さんの飼っとるあやめさんの愛犬のゴン太くんだっけ? あの子が飼い主の傍ですごくいい子にしてるのを見て、莉緒もやってみたいと思ったでよ。同僚の子も猫好きでさ、すごく羨ましいって言ってたから、こりゃVTuberになってペットと配信するしかないでよって言ってさぁ……わたしでもVTuberになれるのかな?」

 

 なんというか、社畜ネキさんを掘り当てたときと似たような気持ちが再燃する。

 

 とんでもないのに目をつけられたという後悔と、こりゃ逃げ切れそうにないという諦観が、わたしに誤魔化す道を選ばせなかった。

 

「興味があるならN社のホームページから問い合わせたらいいですよ」

 

「おっ? これはお墨付きをもらったと考えてもいいのか? 莉緒は実家暮らしで犬が三匹居るんだけど、今度写真を持ってくるでな。らいぶつーえーっていうので動かすのに参考にしてもらっていい?」

 

 もはやわたしがアーニャであることを一欠片も疑ってなさそうな口調の狛村さんに、お父さんがわざとらしく咳払いする。

 

「いかんいかん、つい夢中になったでよ。仕事はしっかりせにゃいかんな」

 

 よっこらせっと立ち上がった狛村さんがユッカに手招きして仕事の話をする。

 

「まぁ、お嬢さんがしっかりしつけてくれたから、当面は外に連れ出す時期を気をつけることぐらいだでよ。お母さんには説明したけど、来週の中頃にワクチンを接種するまで、この子はヤバい病気に無防備だでな。庭に出すのは構わないけど、散歩に出して他の犬と会わせんように気をつけるでよ」

 

 個人的に興味のある話題になったので、わたしのやる気が復活した。

 

「庭に出すのはいいんですか?」

 

「出しっ放しはいかんけど、ゆかりちゃんらがしっかり見とるなら構わんでよ。この季節は虫もおらんし、外に出して遊ばせれば運動不足も解消できるでな」

 

「わっ。なんか予防接種が終わるまで外に出せないイメージがあったから、すごく嬉しいです」

 

「あくまで病気を持ってるけどワクチンのおかげで平気って犬と会わせちゃいかんというだけでな、さすがに外に出しただけで病気をもらったりはせんから、その点は安心していいんだよ」

 

 狛村さんの話に下の二人も喜び、ユッカも全員の顔色を窺ってから尻尾を振った。

 

 そんな中、わたし(アーニャ)の正体を見抜いた狛村さんに口止めしようとしてから、その必要がなくなって意味ありげに沈黙していたお父さんが「ふむ」と頷いてから手を鳴らした。

 

「そういうことなら、ユッカを気軽に出せるように庭に手を入れるか。具体的にはそうだな、ユッカが庭を掘り返さないように人工芝を敷いて……いや、この広さだと収拾がつかんか」

 

 うん……わたしも庭に手を入れるのには賛成したいけど、お父さんを引き抜いた先代社長が手配したというこの家の庭は広いからね。具体的には家をもう二、三軒くらい建てられるくらい。

 

 それだけ広いとユッカの遊び場としては十分だけど、人工芝を敷き詰めるとなると幾ら掛かるか……お父さんがユッカ可愛さにお母さんに叱られないか心配になる。

 

「それならいっそドッグランを建てたらいいんでない?」

 

「あら、いいわね」

 

 と思ったら、瞳に『¥』のマークを浮かべた狛村さんの提案にお母さんが飛び付いた。おいおい……。

 

「雨が降っても濡れないように、屋根を付けてもウチならこのお値段で……独立後の資金にもなるし、施工はぜひ莉緒の会社に任せるでよ」

 

「ふむ、悪くないが、とりあえずドッグランの見本が欲しいな。決めるのは資料を検討してからにしたいが、母さんはどうかな」

 

「ええ、安かろう悪かろうでは困りますから、お金が掛かってもしっかりしたものが欲しいわね。それと主婦の視点で言わせてもらうなら、リビングからドッグランまでの通路も検討していただけないかしら」

 

「任せるでよ。帰ったらさっそく資料を纏めてメールで送るでな。千雨さんのは知ってるけど、お父さんのアドレスも教えてもらうと助かるでよ」

 

 すっかりその気になった両親に熱く売り込む狛村さんを見て、弟が小声で話しかけてきた。

 

「なんかとんでもねぇのに目をつけられちまったよな、姉ちゃん」

 

「こら、そんなことを言ったら失礼だよ」

 

 嗜めながらも内心では同意した。どうも近い将来、ペットの話題に強い愛犬家のVTuberが誕生するのは避けられない流れだった。

 

 

 

 

 

 時間が午後3時になり、連絡先を交換した狛村さんが会社に帰ると、わたしは自分の部屋に戻って経緯を報告したが、相棒(サブちゃん)はしばらく呆然としていた。

 

「はぁ……たまたまトレーナーの方がアーニャの視聴者で、仕事中でも顧客のプライベートに割り込む性格だったから露見したですか。さすがにそこまで考慮してませんよ。そんな変態的な可能性まで……」

 

 いやいや、まさにサブちゃんのおっしゃる通りで。わたしもまともな大人しか知らなかったから、社畜ネキさんみたいな人が他にもいるって判明してビックリだよ。

 

「しかし、まあ……アーニャの素性を公開すると決めたあとでよかったのでは? そうでなかったら、いまごろ《あえんびえん》の有様ですよ」

 

 おおっ、それこそは今や懐かしのピンクの巫女さんことさくらみこ語録。

 

「あえんびえんは誤字にあらず。むしろみこちの公用語だね」

 

「おや、その方ならわたしも存じ上げておりますよ。現存する並行世界のどこを観測しても、あの方だけは普遍的に存在するVTuberですから」

 

「マジっ!?」

 

 なんと! わたしがどんなに力説しても他の子には心当たりのないサブちゃんが、まさかみこちだけは知っているとは……!!

 

 これはみこちは永遠に不滅ということの一つの証左になるのでは? わたしは意気込んでせがんだが、苦笑したサブちゃんの解説はなかなかに辛辣だった……。

 

「ええ……。多元宇宙論を提唱したシュバインオーグ博士によりますと、並行世界といものは『そんな可能性もあり得る』と肯定されることで無限に分岐するようになってるそうですが、あの方だけは、例えば日本語に不自由しない可能性や、粗忽者ではない可能性を『そんな世界線は有り得んな』と否定されたらしく、あらゆる世界において不変かつ普遍の存在として君臨することになったために、『私』程度の演算力でも割り出すことができたわけですね」

 

「…………」

 

 なんだろう、この気持ち。みこちをオモチャにしていいのはホロメンと35P(ファン)だけという憤慨ともまた違うこの感情は……。

 

「……つまりみこちはどこまで行ってもみこちでしかないってこと?」

 

「ええ。どんな世界に存在しようとも揺るがぬ自己を手にしたと言えば聞こえはいいですが、たんに成長がないとも言えますので、熱心なファンであるゆかりは複雑でしょうね」

 

「いや、まぁ、みこちだしね……」

 

 とりあえず、サブちゃんがみこちの存在にたどり着けた理由はわかった。35Pの一人としても納得しかない解説だったので、ここはファンとして『み俺恥』と嘆いてこれ以上の追求は控えよう。

 

「さて、少しあの方の名誉を毀損した気がするのでフォローしますが、実のところ、こうした方は他にも存在します。汎人類史において不朽の偉業を成し遂げ、後の歴史である人理定礎を確立した方々ですね。汎人類史における普遍的な偉人……さくらみこさまもこうした方々と肩を並べたと考えれば、ゆかりも少しは『み俺誇』な気分になるのでは?」

 

「うん、そうだね……みこち、わたし誇らしいよ……」

 

 つくづく聞くんじゃなかったという事実確認も終わり、サーニャが話を本題に戻す。

 

「……しかしこうも立て続けに計算外の要素が起きると、せめて未来の本体だけでも能力の制限を緩和しないといけないかもしれませんね」

 

「うん? サーニャ(サブちゃん)が疑われないように能力を制限してるのは知ってるけど……」

 

 この辺り分かりにくいかもしれないが、パソコンのモニターに表示されたサーニャと、西暦3200年の未来にいるサブちゃんの本体は、同一でありながら別物でもある。

 

 まずわたしが開発するもハードウェアの性能不足で起動せず、1000年以上経ってから時間を遡って会いに来てくれたのがサブちゃんで、そのサブちゃんがVTuber用のソフトを世に出すと決めたときに、出所を疑われないように経歴をでっち上げたのがサーニャこと、MIT卒のアレクサンドラ・タカマキ博士である。

 

 どちらもわたしがサブちゃんと名付けたAIに制御されているが、この時代に生きる生体アンドロイド(にんげん)でもあるサーニャには、うっかり未来の常識を発揮しないように気をつける必要があった。

 

 よって本体(サブちゃん)から半ば独立させて動かしたときに、サーニャの能力が人類の範疇に収まる程度に低下させられたことは、昨日のリバーシで磐田社長に負け越してたから、なんとなく察していたけれども……。

 

「『私』が知っているのにサーニャが知らないというのは、自己同一性の観点からあまりよろしくない状態でして、以前のように厳密な未来予測は控えていたんですよ。これはゆかりの望む世界線が確定してその必要性が薄れたというのもありますが……こうも立て続けに予想外の出来事が起きると、責任を感じてどうしたものかと。先ほどのマスコミ関係者も未来予測を行っていたら、ゆかりに知られずに対処できたわけですし……」

 

 なるほど、サブちゃんが何を気にしているのかよく分かった。

 

「そこまで気にすることないよ。そもそも今日はマスコミと身バレに気をつけてくださいって言われても、わたしにはどうしたらいいか判らないんだし、本来はあり得ないことなんだから」

 

 わたしは安心させるようにそう言ったが、サブちゃんは他にも気になることがあるのか浮かない様子だった。

 

「ゆかりの気持ちは有り難く思いますが……実は先ほどゆかりが下に行ったあとに思わぬオファーがありまして、こちらもどうしたものかとゆかりの判断を仰ぎたかったのですよ」

 

「思わぬオファー?」

 

 わたしが訊ねると、サブちゃんが観念したように一通のメールを表示させた。宛先はわたしじゃなくサーニャで、送ってきたのは……。

 

「えっ? これってマジ?」

 

「はい、何度も確認しましたが本気のようです。YTubeの運営元であるGlobal LLCの本社から、自社のプラットフォームの刷新を依頼したいと、最高経営責任者のトーマス・ピュフォイ会長から100億ドルで依頼が……」

 

「えっ……今は悪夢の民社党政権で超円高だけど、それでも7700億円!? 払いすぎでしょっ……じゃなくて、普通そういうのは自分の会社でやるもんじゃないの?」

 

 YTubeが日々アップデートしてることはもちろん知っている。最初期は遅くて使いにくいことで有名だったYTubeが、今や世界的な動画配信のプラットフォームとして定着してるのは、そうした自社努力の賜物である。

 

 それがここに来て部外者に丸投げって……いくらサーニャ(サブちゃん)が天才って設定だからって、そんなことがあり得るの?

 

「実は私も知らなかったのですが、どうもこの時代のYTubeは……ゆかりのアーニャのように100万に迫ろうかという視聴者と、毎回数百万のコメントが送られる配信者の登場を想定していなかったようで……これまでも何回かサービス停止の危機があったようなんですよ」

 

 なんと……そう言われると小心者のわたしとしては恐縮する他ない。

 

「そのためアーニャの登場前に予定していたシステムの刷新を諦め、こうして依頼してきたのだと思いますが……私としても責任は感じるもののどうしていいか判断がつかず、ゆかりの英断に期待したかったのですが……」

 

「うん、それって100億ドルの依頼を受けると決断して、サーニャに一晩でやってもらうってこと? ハッキリ言って無茶苦茶だね」

 

 3Gを遊ばせてもらってるC社さんからお礼がしたいと言われて震え上がったわたしだ。100億ドルのビジネスを相談されても勘弁してくれとしか言いようがない。

 

「でもYTubeの危機って言われちゃったらなぁ……。仕方ない。お礼はN社にしてくださいって条件でやるしかないかな」

 

「ですよね。ゆかりのお父さまは苦労することになりそうですが、まあその辺りはワンちゃんの癒し効果に期待するとしますか」

 

 なんかそれだけじゃ済まない予感がするけど……まぁいいや。ついでに金銭でのお礼は不可って条件をつければ、お父さんが数千億円の寄付に目を丸くすることもないでしょ。

 

「なんかG社の会長さんまで味方になりそうな気配がするけど、YTubeのシステムの刷新ってどれくらいで出来るの?」

 

「本体が制限を解除すれば一瞬ですが、それでは元も子もありませんからね。サーニャの縛りを考慮するに一週間前後ですか。それくらいを見ておけば『さすがは天才と名高いサーニャ女史だ』という評価に落ち着くと思いますよ」

 

「うん、だったらそうしようか……お父さんには内緒で」

 

 わたし(アーニャ)とサーニャの関係を思えば知っていてもおかしくないけど、これはサーニャ宛の依頼だもんね。お礼の件もサーニャが勝手にやったことにして乗り切ろう。

 

 なんて薄情なことを考えたら、最近よく見る漆黒の想念を纏ったサーニャが笑顔でジト目を向けてきた。

 

「ゆかり? いま、ひどく姑息で性もない計算を巡らせていませんか?」

 

「……え? 何のこと?」

 

 なんで判ったんだろう……?

 

 セコい魂胆を見抜かれたわたしは戦慄したが、ここは知らぬ存ぜぬで押し切るしかない。

 

「ゆかりがそう言う態度なら仕方ありませんね。面倒ごとだけではなく朗報もありましたが、そちらは私の一存で内緒にしておきましょう」

 

「ごめんなさい。お父さんに何か言われたら、わたしは知らないからサーニャが勝手にやったんじゃないって言うつもりでした」

 

 その間、実に2秒!!

 

 速攻で降参したわたしが素直に謝ると、サーニャはこれ見よがしにため息をついて見せた。

 

「なんでも(サーニャ)の所為にするのは正しい処世術ですが、それならそうと言ってください。ゆかりのためなら喜んで泥を被りますから」

 

 そこまで言われるとなんとも居心地が悪い。そう言えば以前も憎まれ役になろうとしたもんね。サーニャの献身にはどんなに頭を下げても下げ足りないけど、そろそろわたしの首が痛くなるので程々にしてくれると助かるとも思うんだ。

 

「それで朗報ってなに?」

 

「切り替えが早くなりましたね……。まあそれくらいのほうが頼もしくていいですが、一つ目はこれです」

 

 ドドン、とサーニャの背後に『レンタル希望者の続報』と名付けられた資料が表示される。

 

「昨日もお話ししましたが、昨夜の磐田社長の発言によってさらに敷居の下がったレンタルVTuberに希望者が殺到しています。こちらに関しては営利目的の企業、ないし団体に所属する方も含まれているため、審査に時間がかかりますが……以前からメールをくださったこの方々に関しては完全に信頼できると判断して、既にレンタル用のソフトを預けてあります。モーションデータの蓄積が完了次第、こちらに呼べる準備が整いました」

 

「おおっ、それは確かに朗報だね。ええと……日本だけじゃなく海外の子までいるのか。国内だと谷村翠さんに、志村牡丹さん、鴨川昴さんと……えっ? この御子柴さくらさんってわたしより年上だったの!?」

 

 忘れるはずがない。あの衝撃的かつ簡素なメールで、わたしたちの頭に『園児』と焼き付いた御子柴さんの正体が、まさか現役の女子中学生とは思わないよ。

 

「はい、今日の午前中に届いたメールはわりと普通で、私も驚きましたが……どうやら出す前にこの方の部屋を掃除するいらした母親に見られ、添削されたようで、最後に『お母たんに見られた! もうエロゲできない!』と書き殴ってありましたね」

 

「それはどこにツッコめばいいの? 未成年でR-18な大人のゲームをしてること? それともそれと同じくらい見られたくないメールを見られたこと?」

 

 あまりの追加情報にわたしの頭は疑問符で埋め尽くされたが、こんな物は序の口だった。

 

「この鴨川さんの家が燃えたことを磐田社長に相談したら、こちらで使ってもらえることになったのでよろしくお願いしますってなんの話? 谷村さんの今度返事がなかったら許してもらえなかったと判断して、自宅の前で切腹するってなんの話よ!? 一番まともそうな志村さんも、最近社畜ネキさんが調子に乗ってるから、FPSの配信中にリスキルしていいって本当になんの話なの!?」

 

「ゆかりの知らないところで色々あったんですよ……そう、色々とね……」

 

 わたしが嘆くとサーニャが遠い目をして呟いた。

 

「まあ冗談はともかく、VTuberとして売り出すなら個性も重要でしょう。この方々なら今までのお客さまとも被りませんし、埋もれることもないと思われますが……」

 

「それはそうなんだけど、事前にこんなのを知っちゃったら本番でどんな顔したらいいのか判らないよ」

 

 谷村さんと志村さんは物騒な冗談で割り切ることもできなくはないけど、鴨川さんと御子柴さんは、なんだ……ご愁傷さまとでも言えばいいのか?

 

「うん……心の整理がつくまでモーションデータの蓄積に協力してもらって、他の人にしようか?」

 

「それならキャ(・・)リフォルニアから日本に移住予定のグラディス・スチュワートさまはどうでしょうか? この方も以前からファンレターを送ってくださったから、ゆかりでも覚えているのでは?」

 

「あっ、その子なら覚えてるよ! アーリャと同い年の子でしょ? メールも頑張って日本語で書いてくれた子だよね?」

 

 わたしはどの国の言葉でも解るけど、そう公言してるわけじゃないから、読みやすいように配慮してくれた心遣いがうれしい。

 

「はい、私もそう思っていたのですが、実際に連絡を取ってみたら予測以上にフランクというか、実にアメリカンなお嬢さまでして……」

 

 微かに躊躇ったサーニャが左手で輪っかを作り、おっ立てた右手の中指をその中にスポスポと抜き差しする。

 

「これ、ライクというよりラブに近い親愛のジェスチャーらしいのですが、伝わりますか?」

 

「……ごめん。どう見ても卑猥なジェスチャーにしか見えない」

 

 またしても異文化交流か……いくらわたしが言語関係のチート能力を持ってるからって、そういう機微まで読み取るのは限界がある。

 

「最後のコーデリア・コリングウッドさんも、日本の極道ゲームで以前から勉強してるから、日本語には自信があるって言われても、不安しかないから保留で……。この人たちとはもう少し話し合ってから話を進めよう?」

 

「まあ、そうなりますよね……。私は磐田社長との勝負に熱中して、配信終了後にネットを検索するまで知りませんでしたが、アレが事実ならその手の放送事故はしばらく避けたほうがよろしいですし、仕方ありませんね」

 

 あまり朗報でもなかったし、また粘膜の話か……。あれはいやらしい意味で受け取るほうがどうかしてると思うんだけど?

 

 波乱続きでおやつに手もつけずぐったりしたわたしを見て、さすがにマズいと判断したのか、サーニャは努めて明るい声で本題を切り出してきた。

 

「まあ今度は掛け値なしの朗報ですよ。ゆかりは以前、N社の宮嶋常務に預けた宇宙人狼のことは覚えていますか?」

 

「そりゃ、覚えてるけどさ……」

 

 やっぱり朗報じゃないでやんの。あのとき宮嶋さんに配信用のソフト一覧を渡したときに、サブちゃんが勝手にパクった宇宙人狼について尋ねられたわたしの気持ちが分かるかとやさぐれるが、そんなわたしのメンタルはモニターに表示されたゲームを見た瞬間に回復した。

 

「えっ何これ宮嶋さんの新作!?」

 

「宮嶋常務が手直しした宇宙人狼ですよ。その様子だとあの方が手直しすると約束されたことも忘れていましたね」

 

 サーニャが何か言ってるが、頭の中には入らなかった。オープニングの分かりやすいストーリー。親切に生まれ変わったU(ユーザー)I(インターフェイス)に、シンプルかつ奥深い戦略性を宿したルール変更。全てが斬新でありながら、あくまで手直しの範疇に収まる、変更前のゲームに敬意を表するかのような仕上がり。わたしはたちまちこのゲームに夢中になった。

 

「うわぁー、すごいすごい! さすがは宮嶋さん、本当にすごいよこれ!!」

 

「その台詞はぜひ本人の聞こえるところで言ってあげてください。どうやらこのゲームを完成させるのにかなり無理をしたようですから」

 

 うん、そういうことなら宮嶋さん大好きってWisperしとこう、ってよく考えずに実行する。

 

「ところでみんなの予定はどうなってるのかな?」

 

「それならどなたも今日こそラスボスまで行くぞ、と3Gに参加する気でいらっしゃいますが」

 

 よしよし、それならサーニャとマナカも足して合計8人……足りる!!

 

「だったらみんなにこのゲームを送ってルールを説明して? わたしは直接連絡するから……もしもしアーリャ? うん、わたし。今夜は宇宙人狼をやるから、ぜったい参加して? 今度はバケツをひっくり返して謹慎中だったら承知しないよ?」

 

 わたしがスマホを取り出してアーリャに連絡するとサーニャは呆れたような顔になったが、その目はお母さんのように優しげだった。

 

 

 

 

 

 というわけで待ちに待った今夜の配信は、事務所設立前に稼働したVTuber0期生が全員集合して、宮嶋さんの手で生まれ変わった宇宙人狼を遊び尽くす特別企画。

 

 オープニングもこれまでとは趣きが異なり、ゲームでも使われてるムービーの字幕をわたしが読み上げるというもの。それもガ◯ダムのオープニング風に。

 

 そんな異例尽くめの配信になったために、コメントは「なんぞこれwww」と爆笑の渦に包まれたがわたしは気にしなかった。

 

「時は西暦2011年12月10日、望遠鏡でピー◯姫の私室を覗き込んだル◯ージの手違いで発見されたリゾート星にマ◯オたちは旅立ったが、それを望むものばかりではなかった。未知の航路に不安を抱くもの、休日は自分の部屋でダラダラ過ごしたいと望むものたちの不満は、長い航海の間に高まり、そして遂に爆発した」

 

 ここでMシリーズでの悪役キャラ、ワ◯オとワ◯イージが登場し、宇宙船のエンジンに細工をする。たちまち立ち往生する宇宙船に、引くか進むかの大論争。最終的に宇宙船を修理して進むことになったが、反対派の暴挙は止まるところを知らなかった。

 

 エンジンを修理するマ◯オにワ◯オが、ピー◯姫の客室を物色するル◯ージにワ◯イージが、そして浴室に向かうピー◯姫にクッ◯大王が、それぞれピコピコハンマーを手に襲い掛かる。はたして残された仲間たちはこの暴挙を食い止め、反対派を説得してリゾート星への旅を続けることができるのだろうかと締めくくり、0期生全員がリゾート星からポンッと飛び出してオープニングが終了する。

 

 そうして始まった本編は左から白上さん、あやめ殿&ゴン太くん、マリン船長、アーニャ(わたし)マナカ(アーリャ)、あくたん、ぺこらちゃん、サーニャのLive2Aが詰め込まれ、大変窮屈な印象になったが、ゲームが始まればそれぞれの枠に引っ込むから大目に見てほしいところだ。

 

「今日も電子の世界からこんにちは! インターネットの妖精。北の国からやって来た女の子で、名前はアーニャ。今日はN社の宮嶋さんがよかったら配信で使ってくださいって作ってくれたゲームを、もうすっかりお馴染みのみんなと一緒にやっていくよ」

 

[I dare say that Anya-tan is the best!]

[いよっ、待ってました]

[ねえ、あのオープニングなに?w]

[えぇー、まさかN社の宮嶋さんが配信用に作ってくれたのかい?]

[なんという……なんという贅沢……]

[ああ、だから宮嶋さん大好きなのかw]

[相変わらずアーニャたんだけじゃなく、バックアップも異次元の配信だなぁ]

[乗るしかない、このビッグウェーブに]

[これは乗り損ねたヤツの断末魔がますます悲惨になりそうですね]

 

「さて、まずは始める前に説明するけど、このゲームの正式名称は『マ◯オリゾート⭐︎スターシップパニック』で、星の部分は発音しないよ』

 

[ますますN社が正式に売り出さないのが不思議なタイトルですね]

[アーニャ、頑張って]

[Is the compatible home game machine 3DNS? "Or We?"]

[なるほど、聖⭐︎お◯さんみたいなものか」

[せい・ほし・おにいさんって読むと思ってた俺が通りますよ]

[オープニングでル◯ージの扱いが酷かったけど、あれは冗談だよね?w]

[まあ名前のル◯ージからしてマ◯オの類似品って意味だし、残当]

[クッ◯ァ! さすがにそこで襲うのはやり過ぎだろいいぞもっとやれ!]

[There are a lot of comments that are not suitable for Anya-tan's distribution. GJ.]

 

「ジャンルはアクションゲームに見えるかもだけど、人狼ゲームだよ。アーニャがオープニングのナレーションで説明したけど、リゾート星に行きたがってる子が村人陣営で、帰りたがってる子が人狼陣営。村人は人狼が誰かを突き止め、投票で鍵のかかる部屋に全員閉じ込めれば勝ち。人狼は妨害や実力行使を駆使して、正体を突き止められる前に村人の数を自分たち以下まで減らせれば勝ちね」

 

[なん……だと……?]

[あ、ありのまま今起きたことを話すぜ!]

[what a miraculous diva]

[オープニングのナレーション担当がアーニャたんだと……?]

[時は西暦2011年って、完全に長◯一郎やったやん]

[石動ゲンゾウ:構わん、続けろ]

[アーニャたん本当にどこから声を出してるの?]

[だからアゴをしゃくるんじゃないの?]

[You won this. Yes, our Anya-tan wins.]

 

 立ち上がりから上々のコメントを横目にわたしは宣言した。

 

「まあ習うより慣れよって言うし、まずは一回やってみようか。ゲームが始まったらネタバレ防止のために視聴者(みんな)のコメントも見れなくなるし、ロビーを出たら他の参加者(みんな)も自分の枠に引っ込んで、会議中の他には挨拶したときか、ピコンとやられてエクトプラズムになった状態でしか会話できなくなるけど、視聴者(みんな)は他のVTuberの枠をクローズアップすることで視点を変えられるから、頑張って流れを追ってね」

 

 後にN社から正式に許可を得た切り抜き師にとって最大の苦難──そう呼ばれることになる過去最大の大型コラボはこうして始まるのだった。

 

 

 

 





ついに出てきたすいちゃん、ぼたんさん、スバルちゃん、グラちゃん、会長、そしてみこちの登場フラグ。

そして次回は都合8名による宇宙人狼。これを動画じゃなく文字でやったとか今考えても頭おかしいですよね。
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