転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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M人狼とVTuberと頑張る女の子の話

 

 

 

 

 

 2011年12月10日(土)

 

 

 今夜の配信は予定を変更して、宇宙人狼ならぬM人狼を徹夜でやっていくぞ!

 

 いや、徹夜っていうのはただの冗談だけど、お父さんに怒られる寸前までは粘るつもり。明日はお休みだし、みんなすっごい乗り気だしね。マナカ(アーリャ)以外。

 

 本当は3Gでス◯夫を倒すところまでやりたかったけど、宮嶋さんのサプライズを活かすのは今しかない! 0期生の全員でM人狼をやり尽くさないでどうするのか!!

 

 というわけでオープニングの後にM人狼がどんなゲームか説明したら、まずはオンラインに参加者(みんな)が集まるロビーを開いてみよう。

 

「待合室の作り方は簡単だよ。オープニングの画面でAボタンを押せば『ゲームを開始する』って出るから、こっちを選んで部屋を作るの。みんなは『ゲームに参加する』を選んで、アーニャの作った部屋を選んでね」

 

「はぁーい、わかりましたぁー」

 

「うわっ、人生初の人狼ゲームとかメッチャ楽しみなんだけど?」

 

 白上さんたちの了解を耳にしながら、キャラとマップを選んでいく。

 

 キャラクターは特にこだわりがなかったので、単純にキャラ被りを避けるために人気のなさそうなキ◯ピオを選び、色は判りやすいように薄めのグレーを選択。最後に名前を訊かれたので『アーニャ』と入力。まずはこれで良し。

 

 マップはシンプルで分かりやすい作りのスタンダードと、ちょっと広めで複雑な構造のゴージャスに、上級者向けのMワールドがあるんだけど、今回は初めてだし、取っ付きやすさを優先してスタンダードを選択すると、パスワードを設定するかどうか訊かれた。

 

 うーん、まだ他にプレイしてる人もいないし、要らないんじゃないかと思ったけど、サーニャから「一応でいいですから設定してください」と言われた。

 

「忘れているかもしれませんが、このゲームはN社の内部でもテストプレイ中ですからね。パスワードの設定を忘れたら、うっかりN社のゲーム大好きおじさんたちが入ってきて収拾がつかなくなりますよ」

 

「あー、やるやる。磐っちなら絶対やる。すみません間違えましたとか言ってぜったい居座るね」

 

「うん……磐田社長ならやりかねないね」

 

 いや、むしろN社のゲーム大好きおじさんたちがこの機を逃すまいと殺到することも……。

 

「はい。ですがパスワードさえ設定しておけば、まさか鍵がかかっていないとは思わなかったという事態(いいわけ)を防げるわけですから、ようは自己防衛です」

 

 なるほど。この配信をチェックしなければ知りようのないパスワードを入力しておいて、うっかり間違えましたはさすがに通らないよね。

 

 というか、そんなに参加したいんだったらVTuberとしてデビューさせてやろうかって思わなくもないけど、それはちゃんと手順を踏んで視聴者(リスナー)の了解を得てからの話であって、前回のように乱入されるのは避けたいところだ。今回は諦めてもらおう。

 

「じゃ、パスワードを設定して……よしよし。みんな、わたしの部屋を選んだら、この数字を入力してね? あと配信に無関係の人が入ってきたらキックするから、N社のゲーム大好きおじさんたちは勝手に入ってきちゃダメだからね?」

 

 適当に誕生日を逆にした『8021』をパスワードに設定したわたしは、そのことを口頭で伝えるも思わぬ反応に見舞われた。

 

「ね、ねぇ、アーニャ? アーニャたんカモソっていう部屋がいっぱいあるのだけど、何なのかしらこれ……?」

 

 マナカが無理筋のある半笑いで訊ねると、全員が似たような顔付きになった。

 

「うん、こっちでも確認したけど、本当に何をやってるんだろうね、あの人たち……もういいや。サーニャお願い。お父さん(マネージャー)に配信の邪魔をしないでってクレームを入れといて」

 

「はい、アーニャのマネージャーに伝えれば一発で……あっ、ごっそり消えましたね」

 

「おおっ、効果は抜群だね」

 

 やっぱりN社の二大問題児の面倒を見ているお父さんの雷名は社内に鳴り響いてるのか。反省したならクレームは勘弁してあげよう。

 

「それじゃあちょっとグダッちゃだけど、上から三番目の部屋にさっきのパスワードを入力してね」

 

 ようやく微妙な表情から引きつったものが消えた参加者一同に呼びかけると、表示された宇宙船のロビーの内部でオプションからアクセサリーを閲覧する。

 

 アクセサリーとは、二つまで自由に選べる装備品のことで、宇宙人狼では見た目が変わるだけだったけど、M人狼ではキャラごとにそれっぽいものが個別に用意され、歩くのが速くなったり色々な効果があるらしい。次々に入室してよろしくお願いしますと挨拶するみんなにもそのことを伝え、しっかり厳選する。

 

「足の速さが重要みたいだから、あたしはこれかなぁ……」

 

「尻尾マ◯オ! スターも使って無敵ぺこなぁ!」

 

「もうね、マリンはネタに走っちゃう。一人だけ仕事する気0とか最高だろ」

 

 そうしてワイワイ盛り上がりながら、みんなの選んだキャラクターとアクセサリーは以下の通り。

 

[アーニャ:キ◯ピオ・ライトグレー、エプロンと中華鍋を装備]

[サーニャ:デ◯ジー姫・ストロベリーブロンド、メイド服とはたきを装備]

[マナカ:ワ◯イージ・ノーマルカラー、太陽とかき氷を装備]

[白上フブキ:ワ◯オ・ノーマルカラー、成金グッズA・Bを装備]

[百鬼あやめ:クッ◯大王・シャンパンゴールド、王冠とワ◯ワンを装備]

[湊あくあ:ル◯ージ・ノーマルカラー、ノ◯コノコとテ◯サを装備]

[兎田ぺこら:マ◯オ・ノーマルカラー、尻尾とスターを装備]

[マリン船長:ピー◯姫・クリムゾンレッド、水着とパラソルを装備]

 

 このゲームは配色を変えられることから、実はキャラ被りもOKだったりするが、それだと見てる視聴者(みんな)も混乱するからね。事前にそのことを伝えておいたが、うまい具合にバラけてくれたようだ。感謝、感謝。

 

「それじゃあ準備ができたら、こっちの扉の前でAボタンを押したらスタートするんだけど、その前に説明しておくね」

 

 宇宙人狼からM人狼になって大きく変更された点が三つある。キャラごとに用意されたタスクが順番に表示されるようになったことがまず一つ。

 

「今はちょうどオープニングでやってた、引くか進むかの議論が終わって、まずは故障した宇宙船を修理しないとどうにもならないって結論が出たとこなの。だからみんなが選んだキャラごとに割り振られたタスク……ミニゲームをやっていくんだけど、同じものはないみたいだから、手分けしてやっていかないといけないのね」

 

 わたしが説明すると、この仕様のいやらしさを察したらしいマナカとあくたんの顔色が変わった。

 

「えっ? それだと人狼に襲われないようにみんなで集団行動をするとロスが生じるのかしら?」

 

「えっと、あてぃしは人狼に襲われないように、みんなと一緒に行動したかったんだけど……」

 

「ある程度行き先が同じなら一緒に行動するのもアリだけど、会議中以外はボイスチャットが使えないから意思の疎通も難しいし、全体タスクと猶予時間の兼ね合いもあるしね」

 

「全体タスクと猶予時間ですか?」

 

 わたしの答えに白上さんが首を捻ると、サーニャが実際のゲーム画面を表示してくれたので、これを使って説明していこう。

 

「みんながタスクをこなすと、画面の左上にある緑色のゲージが上昇するんだけど、これが全体タスクって言うの。これが一番右まで緑色になれば宇宙船が直ったということで、リゾート星に行きたがる村陣営の勝ちになるのね」

 

 フンフン頷くサーニャ以外の面子を眺めながら、その下の猶予ゲージとの関連についても説明する。

 

「で、その下の赤いのが猶予ゲージで、これは時間経過でも減っていくし、自分の家に帰りたがる人狼陣営がタスクを消化しても減っていくの。当然、これが0になったら人狼陣営の勝ちだね」

 

「なるほどー、制限時間付きですかー」

 

「うん、素の制限時間は30分で、人狼陣営がタスクを消化することでも減ってくけど、逆に村陣営のタスク消化が順調だと回復するらしいんだよね。だから安全第一にこだわり過ぎてタスクの消化が遅れるのは、あんまりよろしくないんだ。……あっ、会議中は猶予ゲージもストップするから、その点は安心してね」

 

 全員でぐるっと一周しながらタスクをこなす、チキンな戦法を制限するための二つ目の変更点がこれだ。

 

 これだけなら集団行動を禁止したことで、隙を突きやすくなった人狼陣営が有利になるかもしれないが、三つ目の変更点がそれに歯止めをかける。

 

「そして重要なのが挨拶だね。ゲーム中に他のキャラが近寄ってきたら、頭の上に『!』っていうびっくりマークが表示されるんだけど、そのときにRボタンを押すと『Hi』って挨拶するのね。そうして相手も挨拶すると20秒だけ会話ができるようになって、何時何分に誰々と何処どこで会話したってログが三件まで残って、会議中に証拠として提出もできるの」

 

 これにより、マップの左側でピコンとやりながら、そっちには行っていないと偽証する人狼の矛盾点を追求できるようになったし、村人が潔白を証明しやすくもなった。これだけでも村人陣営が挨拶するメリットは計り知れないが、実は他にもある。

 

「で、挨拶を返さない相手には、キャラクターも警戒しちゃうの。なんか怪しいぞって警戒してね、このとき人狼がハンマーでピコンとやっちゃうと、激しく抵抗されて犯人の特定につながる証拠を落としちゃうの。1回目は10%だけど、2回目は50%で、3回目は100%だね」

 

「それは人狼サイドにとって無視できない制約ですねぇ。そう簡単にハンマーでピコンとできないゲームデザインなのでしょうか?」

 

「挨拶を返して警戒を解けば、チャット終了の15秒後にピコンとできるけど、それだけ長いこと一緒に行動すると、他の人に目撃される危険はあるね。ただ、タスク中のキャラクターは挨拶できないから、狙うならそこだね。逆に村陣営は誰か来たらタスクを中断しても挨拶するのが重要かな」

 

「なるほどぉー。分かりやすい説明ありがとうございました」

 

 こちらこそ。おかげで説明しやすかったよ。

 

 白上さんの質問に答えて一同の顔ぶれを確認すると、みんな早くやってみたくて仕方ない顔になってるね。

 

「それじゃあ扉を開けてM人狼の世界に行こうか。始まったら基本的に会議中以外はチャットできなくなるけど、独り言は歓迎だから、視聴者(みんな)をたっぷり楽しませていこうね」

 

「『おーっ!!』」

 

 こうして参加者と視聴者の全員でルールを共有したら、未知の人狼ゲームを始めていく。

 

 宮嶋さんの作った人狼ゲームの世界にどんなドラマが待っているか楽しみで仕方なかった。

 

 

 

 

 

 初戦の舞台となるスタンダードのマップは単純だ。上下左右の4つのブロックで構成され、マップの右側が船首になり、管制室とデブリ撃墜用の兵装管理室、酸素室、通信室の四つの部屋がある。

 

 そしてマップの右側が船首なら、二つのエンジンルームと一つリアクター、電気室の四つの部屋を抱える左側は船尾で、どちらも上下の二つのブロックに分かれた船体に接続されている。

 

 船体の上部は客室、食堂、浴室、ボイラーから成り、船体下部は貨物室を中心に、医務室と遊戯室、管理室が配置されている。

 

 基本的にそれらのブロックや部屋の間を移動するには通路を使うことになるが、人狼陣営のみダクトを使っての移動も可能だ。

 

 村陣営に見られたら人狼陣営であることが露呈するも、犯行現場から速やかに立ち去れるこのシステム。人狼役を割り振られたら上手いこと利用していきたい。

 

 ……さて、そんな船内に解き放たれたみんなは自分のタスクを確認したのか、思い思いの方向に散り散りになる。

 

 よしよし。わたしも村人役を引いたし、まずは狼さんを警戒しつつ自分のタスクをこなしていこう。M人狼の記念すべき1回目ということで解説役も兼任する身としては、なんとか生き残って定石らしきものも示したいところだ。

 

「確認した限りだと、白上さんが船首に、あやめ殿とぺこらちゃんが船尾に、マリン船長とあくたん、それにサーニャとマナカが貨物室に向かって……あれ、なんか戻ってきたね?」

 

 一度貨物室に向かったはずのマナカのワ◯イージが食堂に戻ってきて、しきりに挨拶してくる。新手の白アピールかな?

 

 怪しいといえば怪しいけど、人狼サイドがこんなことをするメリットもないので、わたしはRボタンを押して返事をすることにした。

 

「どうしたの? 何か聞き忘れたことでもあるのかな?」

 

 一時的にマナカのLive2Aとボイチャが復活したので訊ねると、彼女は露骨に安堵したような表情で首を振った。

 

「ううん、そうじゃないけど、一緒に行動できないかなって思って……ダメ?」

 

 ダメじゃないけど、どんなつもりで言ってるのかな?

 

 考えられるケースは二つ。マナカは村人で、たんにわたしと一緒に居たいだけか、あるいは潜伏を選んだ人狼が、アリバイ作りをしようとしているかのどっちか。

 

 村人なら人狼に襲われにくくなるメリットもあるけど、タスクの消化に手間取るデメリットもあり。人狼ならアリバイ工作に利用されるだけでメリットはない。それなら……。

 

「マナカの最初のタスクは下の方だよね? わたしはみんなのご飯を作らないといけないから一緒には行けないかな?」

 

「うーん、どうしてもダメ?」

 

 と、そんな会話をしていたら20秒が経過してボイチャが終了。マナカのLive2Aも非表示になったが、諦めきれない様子のマナカは食堂の調理室に向かったわたしの後を追いかけてきた。

 

 これは本格的に怪しむべきかと思ったら、警報が鳴って緊急会議が開催された。

 

「いや、早いよ」

 

 まだ始まって1分も経ってないのに、さっそく人狼の誰かが実力行使に打って出たようだ。

 

 会議の冒頭に哀れな犠牲者と、無惨な亡骸を発見した人物の報告が表示される。第一犠牲者はマリン船長のピー◯姫で、発見したのはサーニャのデ◯ジー姫。場所はマップ下側の貨物室と左側の電気室の中間付近とのことだ。

 

「うーん、マリン船長、哀れ」

 

 まぁマリン船長(社畜ネキさん)なら、と心理的抵抗が少なかったのは解る。わたしだって人狼なら、人目のないところで社畜ネキさんを見かけたら、日頃のストレスを込めてわりと気軽にピコンとする自覚がある。

 

「うーん、これは開始早々に狙われましたね。しかしそうなると、白上は右側のビームを撃つところで、隕石をピュンピュンしてましたから、容疑者はそれ以外の方になりますか?」

 

「白上さんが一人で右側に行ったのは見てたし、アーニャとマナカはスタート地点の食堂に居て、挨拶したときのログも残ってるから公開するね」

 

 時間と場所、相手が記録されたログが会議中の画面に表示されてアリバイが証明される。いきなり役に立ったけど、やっぱり挨拶って重要だね。

 

「うーん、アーニャちゃんとマナカちゃんが今回の件とは無関係で、フブキもほぼ無関係か。それだと容疑者はそれ以外の四人になるけど、余はぺこらと挨拶したときのログがあるから出すね」

 

「いえ、それには及びません。実はマリンさまのピーチ姫は激しく抵抗したようで、頭にたんこぶを作って目を回す彼女の手にこんなものが……」

 

 エリカさんのログ提出に待ったをかけたサーニャが、現場で発見したという証拠品を提示する。

 

 なんという豪運だろうか。まさか初回の10%でこうも決定的な証拠をもぎ取るとは。

 

「これってル◯ージの帽子だよね?」

 

 マナカがまじまじと見つめて呟いたのは、真ん中に『L』と書かれた緑の帽子であり、緊急会議に表示された持ち主はその帽子をかぶっていない。ならば犯人は……。

 

「あ、あてぃし? あてぃしは左側に行ってなかったと思うんだけど……?」

 

「ウソついてんじゃねーよ! ぺこらしっかり見てたかんな!!」

 

 あくたんの言い逃れをぺこらちゃんが封じる。ぺこらちゃんが挨拶を無視されたというログを提出したことで、あくたんの進退はここに窮まった。

 

「もしかして湊さん、初回から人狼を引いちゃってパニックになっちゃったのかな?」

 

「う、うん! あてぃしどうしたらいいか解らなくって、ウロウロしてたら目の前に社畜ネキのピー◯姫がいて、挨拶してきたから返事をしなきゃってボタンを押したら、なんか昭和のケンカになって……」

 

 わたしが尋ねると堰を切ったように自白したので、あくたんは全会一致で外から鍵のかかる部屋に閉じ込められることになった。

 

「まあ閉じ込められても不貞寝すれば幽体離脱して、同じく幽霊状態のマリン船長とボイチャできるし、タスクもできるから頑張ってね」

 

「う、うん。色々とありがとうね……あてぃし、頑張るから」

 

 その言葉を最後に、マリン船長さんのピー◯姫に続いて、あくたんのル◯ージが表舞台から退場する。裏で仲良くやってほしいが、マリン船長の性格を考えるとどうかなぁ……。

 

 まぁいいや。これで人狼はあと一人。最後の人狼が誰か、今から推理しないと。

 

 個人的に現場を発見して、決定的な証拠を提出したサーニャのデ◯ジー姫と、人狼の言い逃れを封じたぺこらちゃんのマ◯オはかなり白くなったと思う。

 

 もちろん身内切りの可能性を完全に否定できるものではないが、今から追うような線でもないだろう。

 

 白上さんとあやめ殿は半々。今の段階では疑うべき根拠もなければ、信じるに足る根拠もないグレーの状態。

 

 逆にマナカは……かなり怪しいね。さっきの潜伏じみた動きもそうだけど、あくたんが吊られたらあっさりわたしから離れていったし。

 

 相方が吊られて潜伏を解除した人狼に見えなくもないけど、まだなんとも言えないから、しばらく様子を見よう。

 

 食堂で料理のタスクをこなしてから、貨物室におやつの材料を取りに行き、どうなることかと構えていたら二回目の警報が鳴り響き、緊急会議の冒頭に表示された犠牲者と報告者の内訳に驚かされた。

 

「えっ……まさかこう来るとは……」

 

 二人目の犠牲者はサーニャのデ◯ジー姫で、発見者はマナカのワ◯イージだった。

 

 思わぬ続報に事態は混迷の度合いを深め、犯人である人狼役の特定は予断を許さなくなるのだった。

 

「ええと、貨物室の右下にある遊戯室から上に行ったら、通路のところでサーニャさんのキャラクターが目を回して倒れていたんだけど……」

 

 緊急会議でそう報告したマナカは誰ともすれ違ってないらしく、確たるアリバイの提示はなかったが、それは他の全員にも言えることだ。

 

 貨物室からおやつの材料を取りに行ったときを除いて、食堂の台所に篭りきりだったわたしは距離的にも疑われる立場だったし。

 

 白上さんとあやめ殿にぺこらちゃんの三人も、挨拶を交わしたログはだいぶ前のもので、時間的にサーニャのキャラをピコンとすることは、挨拶の前後ともに不可能ではないと自己申告されたし、これはどうなんだろうか?

 

「うーん、ごめんなさい! 白上には分かりません!」

 

「うん、余もさっぱりワケ分からんわ」

 

 頼みのゲーマーコンビも全員グレーという状況に匙を投げ、ぺこらちゃんも「情報が少なすぎて絞り込めねぇぺこだよ」と頭を抱えた。

 

 わたしはこの中でマナカのことを黒めに見ていたが、それとて根拠となるのは最初の一件しかなく、告発の材料になるようなものではない。

 

「そうなると今回は保留かな」

 

 結局のところ、今回は村陣営が自分のタスクに集中しすぎたということだろう。おかげで猶予ゲージを3分の2近く残した状態で全体タスクを半分ほど消化できたが、このままタスク勝ちを狙うのは危険かもしれない。

 

 時間的に余裕があるならもう少し外に目を向けて、村陣営の結びつきを密にしたほうがいい。あらためて挨拶の重要性を確認したわたしは、緊急会議の終了後に全員の動きを確認してからその後を追った。

 

「個人的に二回ともアリバイのある白上さんはかなり白めで見れるから、同じ右側に行ったあやめ殿のことは任せられると思うし、それなら左かな?」

 

 左にはぺこらちゃんとマナカが向かったはず。これでどっちかが気絶していたら、もう片方が人狼陣営と見て間違いない。そのまま追いかけてもいいけど、あの二人が同行する過程で挨拶したらしばらくは行動に移せないから、わたしは下から回り込んで左に行ってみるか。そう思い、貨物室を抜けた辺りで忘れていたものがやって来た。

 

 既存のタスクが全て凍結され、制限時間内にクリア出来なければ、強制的に村陣営の敗北となる緊急タスクの発動が、鳴り止まない警報とともに表示される。

 

 以前の宇宙人狼なら妨害工作から狙って起こせたが、こっちのM人狼では人狼陣営が妨害タスクを頑張らないと発生しないはずなのに、一人になった人狼にそんな余裕があるのだろうか。

 

 あるいは外から鍵のかかる部屋に閉じ込めれ、不貞寝して幽体離脱したあくたんが、気絶して同じ状態のマリン船長とサーニャの相手をしながら頑張ったのかもしれない。

 

 そんなことを考えながら下部エンジンを通り抜け、緊急タスクの発動したリアクターに向かうと、入り口の通路でぺこらちゃんが待ち構えていた。

 

 やられた──わたしは内心かなり緊張した。

 

 仮にぺこらちゃんが人狼だった場合、他の三人の動向が判らない今の状態で仕掛けてくる確率は低いと思うが、その三人が間に合う保証もないのが正直なところだ。気絶したわたしを発見した三人が動揺して時間を無駄にしたら、よもやもあり得る。

 

 そう警戒し、足踏みするわたしに焦れたように、ぺこらちゃんは、しかし必死に話しかけるように挨拶を連打してきた。戸惑いつつも挨拶を返したわたしの耳に、切羽詰まった様子のぺこらちゃんの言葉が響き渡る。

 

「アーニャちゃん! ぺこらが上をやるから下を頼む!」

 

 リアクターの緊急タスクをクリアするには、二人が同時に上下のコンソールからパーソナルデータを送信しないといけないが、初見であるにも関わらずそのことを知っているということは既に試したのだろう。

 

 言われるままにリアクターの下に向かいコンソールにタッチすると、ほどなく警報が停止して緊急タスクが解消されたと表示された。

 

「なんだ、やってくれるじゃん。ぺこらちゃん白確ボンバーだね」

 

 思わずあの人たちの誰かがよく使った表現を真似すると、遅れてやってきた白上さんとあやめ殿が挨拶を求めてきたので、ぺこらちゃんと一緒に情報交換をした。

 

「なるほどー、アーニャさんとぺこらさんのお二人でやってくれましたか」

 

「ナキリたちは右のほうに行って出遅れたから助かったけど、そうなると最後の人狼は……」

 

「うん、あんまり言いたくないけど、やっぱりマナカちゃんかな?」

 

「ううん、マナカがアーニャの友達だからって遠慮することないよ。緊急タスクをやりに来なかったら、どうしても疑っちゃうよね。もちろん、仕様を理解してない可能性もあるけど……」

 

 どちらにしろ、話を聞かなければいけなくなった。わたしたちは付け入る隙を与えないように四人で行動して、通報以外で緊急会議を招集できるボタンの設置してある食堂へ向かい、そして発見した。ちょうどボタンのある大きなテーブルの下で、目を回しているマナカのワ◯イージを、である。

 

「うわぁー! どうなんだこれ!? 状況的に白上かあやめのどっちかの犯行か!!」

 

 緊急会議が始まると、白上さんが自分自身も容疑者に含める発言を行ったが、わたしに否定することはできなかった。

 

 時間的に緊急タスクの最中だと思うが、そうなると今回の件に関与できるのは、マップの右側から左側に移動してきた白上さんかあやめ殿のどちらかになる。

 

「ええと……実は以前の会議が終わってからこっそり観察してたんだけど、白上さんはあやめさんを追いかけて右のほうに行ったんだよね?」

 

「はい、前回はその、アリバイのほうが不十分だと思いましたので、今回はぐるっと一周してログを貯めようとしたんですよ。それであやめとは、船首部分の管制室ですか? そこから出てきたところを挨拶して、白上は貨物室に向かったから、以後の動向はお互いに不明なんですよね」

 

 わたしの確認に白上さんがそう条件すると、あやめ殿が観念したように項垂れた。

 

「一応余もそのあと上のほうでデータの転送みたいのやってから下に行ったけど、左に行ってマナカちゃんをピコンとしなかったって証明はできないよね……」

 

「うーん、これはどっちもグレーだね。二人の内どちらかが人狼であることは間違いないと思うけど、残り四人という人数を考えると……」

 

 下手に吊って2対1になったら最後、緊急会議を再招集する前に、キルボタンのクールタイムが終わって負ける可能性も出てきた。

 

 でもここで足踏みしていても状況は何も変わらない。人狼もあれから挨拶を無視する強硬策を使っていなかったら、多少強引にでも攻められる。

 

「……吊りましょう。もう白上かあやめのどちらかが人狼なのは確定ですから」

 

「そうだね。余とフブキがお互いに投票して、アーニャちゃんとぺこらちゃんが人狼だと思うほうに投票して? ゲームなんだし、恨みっこなしで行こうYO」

 

 白上さんとあやめ殿のお二人が、努めて深刻にならないよう明るい口調で言いながらお互いに投票するが、わたしには決断できなかった。

 

 それはぺこらちゃんも同じようで、「そんなこと言われてもなぁ」と頭を抱え、時間だけが過ぎていった。

 

 残り5秒。投票画面に変化はなく、わたしが安堵にも似た溜め息をついたとき、唐突に鍵のかかる音が聞こえてきた。

 

 この音は知っている。あくたんの幽閉が決定したときに聞いた音だ。

 

 見れば直前にぺこらちゃんが投票して、表舞台から退場したのはあやめ殿だった。

 

「えっ……?」

 

 そしてそれでもゲームは終了せず、船内の照明が全て消える緊急タスクが発動して、解決するまで緊急会議の再招集が不可能になり、最後に勝ち残ったのは──。

 

「ええっ!! ぺこらちゃんが人狼だったの!?」

 

 誰よりも白っぽい行動をしてきたぺこらちゃんのマ◯オが、勝利画面で喝采を叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 人狼ゲームが始まり、画面に自身の配役が表示されたとき、兎田ぺこらは爆笑した。

 

『あなたは駄々っ子です。でも仕方ないじゃないか。今になって未知の冒険が怖くなったんだ。あらゆる手段を駆使して自分の部屋に引き返そう』

 

 そんなメッセージを目にした瞬間に崩れ落ち、非常に個性的な笑い声を漏らした彼女の姿は多くの視聴者に目撃され、強い印象を抱かせた。

 

「くっ……なんだよ駄々っ子って? おい、マ◯オ、お前言い出しっぺだろ? 今になってビビってんじゃねーよ! ぺこーらはな、人狼になりたくなかったからお前を選んだのに、どうしてくれんだよこれ!?」

 

 コメントが同意するものであふれたが、ゲーム中はネタバレ防止の観点からコメント欄が非表示にされていたので、残念ながら彼女には届かなかった。

 

「こうなったらやるしかねーんだけど、アーニャちゃんとマナカちゃんをピコンとするのはヤだな。マリンなら、まぁ……。相方が何を考えてるのか分かんねーし、序盤は様子見でいいかな?」

 

 とりあえず様子を見ようと決めた彼女は知らなかった。もう一人の人狼役が盛大なパニックに陥っていたことを。

 

「えっ……あたしが駄々っ子? 人狼役……だよね?」

 

 永い自失から立ち直った湊あくあの顔色が加速度的に悪化する。

 

「えっ? 相方って誰だっけ……? あてぃし、どうしたらいいの……?」

 

 そんな少女の枠を確認した視聴者が『あかん』とコメントする。まさかの主役コンビが人狼役になってとある匿名掲示板が祭り状態になるが、彼女だけが何も判らず混乱するのだった。

 

「どどど、どうしよう? ねぇ、どうしたらいいのこれっ!?」

 

 途中ですれ違った相方にも気づかず、視野狭窄に陥った彼女は、装備品のク◯ボーとテ◯サに追い立てられ、移動速度が20%も上昇した健脚ぶりを発揮して突き進む。

 

 上部エンジンからリアクターを抜け、下部エンジンを当て所もなく突き進み、電気室を通り過ぎたところでやがて発見する。

 

「あれー、どうしたのよあくたんったら? もしかしてマリンに会いにきてくれたのぉ?」

 

 薄暗い通路にも鮮やかな金髪と紅い水着。黄色と赤のパラソルを手にしたマリン船長のピー◯姫を発見したとき、湊あくあに犯行の意思はなかった。

 

「あっ、船長が挨拶してる……返事をするのはどれだっけ? どのボタンだったっけ?」

 

 カチャカチャとコントローラに触れた指が、不幸にもXボタンに触れる。もしこのとき触れたのがRボタンなら不幸は起きなかった。

 

 だが人狼サイドのXボタンに割り振られていたのは、不幸にもピコピコハンマー。

 

 よって、湊あくあのル◯ージは、返事がないことから警戒状態になったマリン船長のピー◯姫に襲い掛かり──それでも初回10%の確率は高くなかったが、ここで標的のアクセサリーが悪さをした。

 

 人狼ゲームで水着とパラソルというこのオプションは、テストプレイをしたN社内で反撃装備と呼ばれ、警戒状態の反撃確率を20%上昇させるという代物だった。

 

「あくたぁあああああん!!!!」

 

 激しく抵抗したマリン船長のピー◯姫が決定的な証拠をもぎ取ったのは、彼女の豪運だけではなかったのである。

 

 あまりの事態に犯行現場から逃走した湊あくあのル◯ージは、またも途中ですれ違った相方にも切り捨てられ、幽霊部屋で己の手にかけた被害者とよろしくやることになった。

 

「あ、あの、船長……さっきはごめんね?」

 

「うん、怒ってない。ゲームなんだし、マリン怒ってないよ。二人っきりだし、仲良くタスクをやって行こうね?」

 

 自分の配信画面に湊あくあのLive2Aが表示されたのをいいことに、社畜ネキは器用に身を寄せて頬擦りする。

 

「だ、だれかたすけて……」

 

 こうして湊あくあは次の犠牲者が来るまでのあいだ、針の筵より居心地の悪いマリン船長に包まれて過ごすことになったが、残された相方の苦労を思えば如何ほどであろうか。

 

「お〜のぉ〜! どうしたらいいぺこなの、これぇ〜?」

 

 こんな序盤で6対2から5対1になっては地道に妨害タスクをこなしていても勝てない。結局どこかで仕掛ける必要があるのだが、その隙が見つからない。

 

 左のリアクターで見かけた白上フブキのワ◯オもタスクを中断して挨拶してきたし、電気室に入ろうとした百鬼あやめのクッ◯大王も、アクセサリーのワ◯ワンがぺこらのマ◯オに気づいて威嚇してきて、思うように近づけなかった。

 

「隙がねぇぺこだよ。挨拶を無視して攻撃したらあくたんの二の舞だし、なんだよあのワ◯ワン。ぺこらに気づいて噛みついてくるとか反則だろ」

 

 天を仰いで嘆いた彼女は知らない。いつしか不遇の主人公に同情した視聴者が某スレの祭りに参加し、盛んに応援している事実を。

 

 未知のゲームの初見プレイなのだから、そこまで勝ちにこだわらなくてもよかったのに、圧倒的に不利な状態でも最善を尽くす彼女を応援せずにはいられない、そんな空気が形成され、世界的に注目されたのだ。

 

 そんな中で貨物室を抜けて船首部分に到達した彼女は、薄く赤みがかった金髪のデ◯ジー姫を発見した。何やら通路を清掃中で、プレイヤーであるサーニャは画面をよく見ていないのか、タスクを中断して挨拶してこようとしない。

 

「これはチャンスなのかな……? いやでも、サーニャちゃんをピコンとやったら、あとが怖いんだけど……」

 

 気づかれていないなら反撃はないにしても、未だに遭遇していない残り二名の動向が怖いところだ。現場を見られるか、あるいは別の場所でアリバイが成立していたら万事休すだ。

 

 だがこの機会を見逃せば……咄嗟に兎田ぺこらという少女は決断した。

 

「ええい、ままよ」

 

 無防備なデ◯ジー姫に忍び寄ったル◯ージが、背後からピコピコハンマーを振るった。ピコンという軽快な音。たんこぶを作って目を回したデ◯ジー姫が腰を抜かし、犯人は荒い息を吐きながら逃走した。どうか誰にも出会わないようにと、ただそれだけを祈って。

 

「………してやられましたね」

 

 自身の状況にようやく気づいたサーニャは、憮然とした表情でそう呟くのだった。

 

 実はこのとき彼女はゲームに集中できない状態だった。

 

 今も昼間の二大案件──G社との交渉と警備会社との打ち合わせに加えて、今回の配信に参加したがるゲーム大好きおじさんたちを宥めていたのもあるし、ネタバレを防止するため、アーニャの演者(ライバー)である真白ゆかりとの通信を切断したことが多大なストレスになっていたのもある。

 

 しかし、そうは言っても油断していたのも事実だ。マ◯オの接近を見落としていたわけではないが、操作するのがあの弱気な少女では何もできないと高を括っていたらこの始末。

 

「どうやら私は彼女をみくびっていたと言うより、彼女の頑張りを甘く見ていたようです。……やはり人間の成長ほど見ていて気持ちいいものはありませんね」

 

 なんて負け惜しみを口にするサーニャの前に、マナカの操るワ◯イージが現れる。

 

 なんとも間の悪い話だ。もう少し早かったら勝負が決まっていたし、遅ければ疑われずに済んだというのに。

 

 後の会議で彼女は窮地に立たされるだろうが、どうかぺこらさんを見習って強く生きてほしい。独り言をそう締め括ったサーニャことアレクサンドラ・タカマキ博士は、哀れな犠牲者だけが利用できるチャットルームに入室して、予想通りの光景に苦笑するのだった。

 

「おや、これはお楽しみ中に失礼しました。私は邪魔をしないように退室したほうがよさそうですね」

 

「いやぁーん、もうサーニャたんったらぁ……お姉さんたち普通にガールズトークをしながら実況してるだけじゃん。ねー、あくたん?」

 

「ちっ、ちが……たしゅけて……」

 

 ダバーッと号泣する湊あくあには申し訳ないが、嘘は言っていないと判断する。たんに昭和のガールズトークが平成の女子高生にはセンシティブなのと、どこで実況してるか明言してないだけ。

 

 どうせあそこでしょうね、と社畜ネキのマルチタスクぶりに感心したサーニャは、お礼の意味も込めて、彼女の興奮を鎮める特効薬を投入した。

 

「ここはチャットルームか。チャットルームはチャットルームだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「うっ!?」

 

「償えマリン船長! お前が捨てた罪はあまりに重い!!」

 

「ぐはっ!?」

 

 器用に吐血したマリン船長が消えたほうを見つめてから、湊あくあは怖いもの見たさで訊ねた。

 

「ねぇ、いまのって、なに?」

 

「今のはマリンさまが高校時代に自作したゲームに登場する台詞ですよ。さすがは小学時代から漫画をかいていたというマリンさまです。言葉選びのセンスが秀逸ですね」

 

「なんで知ってるの!? お姉さんその話は墓場まで持ってくつもりだから誰にもしてないんだけど!!」

 

 即座に復活して抗議するマリン船長に、サーニャは冷淡に応じた。

 

「それはもちろん自作ゲームの作成に関わったからですよ。お忘れですか、貴女がプログラミングを依頼したネット上の友人S子のことを……」

 

「ウソでしょ!? サーニャたんがS子だったの!?」

 

「私だってまさかこんな繋がりができるとは思いませんでしたよ……とにかく、未成年の迷惑になるような真似はやめなさい。違反したら自作ゲームをあのスレで公開しますよ?」

 

「すみませんもうしませんそれだけは勘弁してくださいお願いします!!」

 

 今になって謝るがもう遅い。某スレは一時的にこの話題で持ちきりになり、マリン船長はほとぼりが冷めるまで利用を控えるのだが、それはさておき。

 

「ああ、やっぱりマナカちゃん疑われてるね……」

 

 アリバイもなく、他の参加者も白に近いグレーの中、比較的軽率な行動の目立った少女は疑われる立場となった。

 

「まあ人狼じゃないんだけどね。お姉さん途中から見てたけど、マナカたんが現場を発見したとき、サーニャたんは既に暴行済みだったからね」

 

「言い方」

 

「アッハイ! 既に事切れていらっしゃいましたから、マナカたんは無実だと思います!!」

 

「でもそうなると、もう一人の人狼って誰なのかな? あたしテンパっちゃってよく覚えてないんだよね……」

 

「湊さまの相方はぺこらさまですよ。あの方が最後の人狼(ラストウルフ)です」

 

「へー、ぺこらなんだ……ってぺこらァ!?」

 

 社畜ネキが驚くのも無理はない。身内切りと複数のアリバイ証言から、現在、最も白く見られているのが兎田ぺこらだ。

 

「ウッソだろアイツマリン船長白確ボンバーしちゃったわ」

 

「ぺこらちゃん、すごーい」

 

 今や完全に人狼ゲームの主役となった少女に熱い視線が集まる。こうして彼女の動向から目が離せないのは霊界の二人組だけではない。よもや全体の半数近い視線を集めるとは、彼女はいずれ大成するとサーニャは確信した。

 

 二回目の緊急会議が終わり、当て所もなく駆け出したマナカのワ◯イージをペこらのマ◯オが追いかけると、世界中が興奮した。

 

「やるんか? お前やるんかぺこら!?」

 

「あたしもぺこらちゃんのために妨害タスクを頑張らないと……」

 

 だが、ここで次の犠牲者になると思われたマナカが不思議な行動に出た。左上の通路から上部エンジンに向かうと思われた少女が医務室を過ぎたあたりで反転し、食堂へ戻ったのだ。はたして如何なる理由かとマナカの枠がピックアップされ、世界中が仰天した。

 

「まずいわ。やっぱりどう考えてもぺこらちゃんが犯人よね。一回目は湊さんを身内切りして信用を集め、二回目は隙を見てサーニャさんを始末したんだわ。だって私は違うし。アーニャが人狼だったら、一回目の前に私は消されてるし、白上さんと百鬼さんは二回目のときに、ずっと左でタスクをしていたもの。なら消去法でぺこらちゃんしかいないから、手遅れになる前に、彼女のアリバイが完璧じゃないことだけでも指摘しないと……」

 

 状況に翻弄されているだけだと思われた少女がまさかそこまで考えを巡らせていようとは。

 

 そうなのだ。二回目に関する限り兎田ぺこらのアリバイは0だというのに、初回の身内切りがあまりにも鮮やかだったために過剰に信用されているのだ。

 

 その盲信は危険だとマナカが緊急会議を招集して指摘しようとするが、ここで運が別の人間に味方した。

 

「あっ」

 

 湊あくあが三度目の妨害タスクを達成した瞬間に緊急タスクが発動した。これにより、緊急会議の招集は一時凍結される。

 

「えっ? なんで? なんでボタンが反応しないの?」

 

 そして緊急会議の招集に固執したマナカの視界は狭まり、呆れたように近づいてくる敵の存在に気が付かなかった。

 

「なんで行かねぇのかな?」

 

 医務室に用があるように見せかけて、Uターンをしたマナカをやり過ごし兎田ぺこらがXボタンを押すと、無防備な後頭部にピコピコハンマーが叩き込まれた。

 

 そしてマナカのワ◯イージを気絶させたぺこらのマ◯オは、一回しか使えない代わりに無敵になって移動速度が50%加速するスターを発動させ、誰よりも早くリアクターの前に到着した。他の三人はマップ下部を移動していたためこのカラクリに気が付かず、ぺこらの信用は盤石になった。

 

「ほらぁやっぱりぺこらちゃんだったああああ!!!!」

 

 悔しそうに頭を机に叩きつけて、台パンならぬ台ガンを敢行する少女を呆れ顔のメイドが制止した。

 

「マナカさま。悔しいのは分かりますが、どうか落ち着いてください。教会の備品を破壊したら司祭さまに叱られますよ」

 

「そうだった!?」

 

 このサーニャの発言により、以前から教会の子と噂されていたマナカの属性がドジっ子からドジっ子聖女に進化し、世界中で根強いファンを獲得することになるが、それはさておき。

 

「うん、マナカたん惜しかったね。真相に近づき過ぎて消されちゃったけど頑張ったよ。お姉さんなんて第一犠牲者だもんね。端役だよ」

 

「そんな推理小説じゃないんだから……」

 

 マリン船長の冗談と、湊あくあの楽しそうな笑顔を見て、少しだけ気分が楽になったマナカはホッと息を吐いた。

 

「でもこうなったら村は負け確かなー。ぺこらのことマナカたん以外誰も疑ってないし、白上なんて自分たちをどっちも吊ればとか言い出してるもんね」

 

「ま、それだけ今回のぺこらさまが神がかっているということですよ。これで白上さまか百鬼さまのどちらかが吊られ、それでもゲームが終わらず呆然としているところをキルされて終わりですか。その前に緊急会議が間に合えばいいんですが」

 

 二人の言うように、まさに緊急会議終了寸前に百鬼あやめのクッ◯大王が幽閉され、呆然とする下界が闇に包まれた。

 

「あっ、直前に終わらせた妨害タスクのボーナスが発動しちゃった」

 

 うっかりやらかしたように舌を出して笑った湊あくあに一同が感嘆する。ゲームを開始して早々に退場したが、それでも腐らず地道に妨害タスクをこなした彼女の働きがなければ、今回の勝利はなかったと誰もが認めたのだ。

 

「来ちゃあ〜! 神の采配! あくたんナイスぅ〜!」

 

 そしてそのことを誰よりも肌で感じていたのが兎田ぺこらだった。

 

「次はマナカちゃんって決めてたけど、原子炉の緊急タスクがなきゃ疑われていたからね。おかげで目障りなワンワンも始末できたし、もう感謝感激ぺこ。いやぁ、あいつ本当にヤベーんだよな。ぺこらを見かけると噛みついてくるし、キャラ的に人狼特攻を持ってるんじゃないの?」

 

 実はクッ◯大王のアクセサリーであるワ◯ワンは、他のキャラクターの接近を飼い主に知らせる効果しかなかったが、ぺこらは念には念を入れて投票で始末することにしたのだ。

 

「それじゃあ最後はフブちゃんのワ◯オを始末して……これでアーニャちゃんと二人きり! どうだマリン、悔しがれ!!」

 

 かくして人狼ゲームが終了すると、邪魔者を全て排除して船内を掌握したマ◯オは、愛しの自分の部屋を目指して航路をUターンするのだった。

 

 なおその光景があまりにも衝撃的だったため、『マ◯オ 子供部屋おじさん』が世界中の検索サイトで一位を占めるなど風評被害も発生したが、Mシリーズの生みの親である宮嶋元春が自ら率先してネタにしたことから、大した問題には発展しないのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 あまりの結末にしばらく開いた口が塞がらなかったが、それが収まると自然と拍手していた。

 

「ぺこらちゃん、すっごぉ〜い」

 

「いやぁー、まさかぺこらさんが人狼とは! これは完全に予想外でしたよ!!」

 

「だよね。霊界チャットで船長に教えられて、ナキリ思わず叫んじゃったもん」

 

 一同が口々に勝利を讃えると、ぺこらちゃんは居心地が悪そうに身じろぎした。

 

「いや、褒めすぎだよ。あくたんがいなかったら、ぺこら、リアクターの辺りで詰んでたからね」

 

「そんなことないよ。ね、船長?」

 

「うんうん、絆があるんだってば。コメントを見ろって、あくぺこてぇてぇってコメントであふれてるだろ?」

 

「えっ、マリン船長、目で追えるの?」

 

「うん。こうやって眉間にシワを寄せればなんとかね」

 

 なんというか彼女らしい特技だけど、普通の人には不可能だろう。

 

 そんなわけでサーニャに目配せして、ぺこらちゃん宛のコメントを幾つかピックアップしてもらうことにした。

 

[ぺこらたんすごかったよ!][ぺこらたんSugeeee!!!!][ぺこらたん優勝おめでとう!][おー、ぺこらさんおめでとう。あくたんもナイス船長キル][みんなすごかったけど、あの状況で諦めずに頑張ったぺこらさんに感動しました][Blessings for Pekora-tan!][いやホントすげぇわ][ぺこらっちょおめでとう!][congratulation poplar][おかげでぺこらたんがもっと好きになりました][毒舌系小動物のぺこらたんテラかわゆす][あくぺこてぇてぇぜ][面白すぎて我輩もやりたくなった][いやぁ、これは感動しますね][I just want to say this. There are no war criminals.][あくぺこ最高!]

 

「は、恥ずかしいからやめてください……いや、もう本当に勘弁して……」

 

 画面を埋め尽くさんばかりのコメントにぺこらさんが羞恥に悶えると、マリン船長が手を鳴らした。

 

「でもまあ、負けっぱなしじゃ終われないよね? やるんでしょもう一戦?」

 

 マリン船長の言葉に力強くうなずく。

 

「うん! みんな要領は掴めたと思うから、今度も同じマップでやっていくよ!」

 

「そうこなくっちゃ! マリン今度こそ活躍しちゃうもんね!!」

 

「あたしも今度こそ活躍する!」

 

「ま、あんまり気張らず適当にやったほうがいいんでないの?」

 

「白上も次は別のキャラを使ってみたいですねぇ」

 

「余も次は子◯ッパにする。ワンワン便利だけど、ゴン太の焼き餅がすごいんだもん」

 

「時間的にも二回はやれそうですから、いろいろ試していきましょうか」

 

 みんなが口々に賛同する中、最後に切ない顔をしてみせたマナカがこう頼んできた。

 

「でも一緒に行動しようとしただけで疑うのはやめてね? あれ、地味に傷ついたんだから……」

 

「ごめんなさい」

 

 わたしは本当に申し訳ないと思ってるならの精神で椅子の上に正座して、見当違いの疑いを抱いた友人に心から謝罪するのだった。

 

 

 

 

 

 そうして始まった二戦目は、白上さんとサーニャの最強コンビが大暴れするが、わたしが早々に容赦のないサーニャにピコンとされると、社畜ネキさんが奮起。

 

 中盤にサーニャが寡黙吊りされると、白上さんと壮絶なパッションを経て相討ちに。

 

 結果として村陣営に初勝利をもたらすも、勝利後に「マリン船長ぜったい人狼だと思った」と口々に言われて憤慨するのだった。

 

 そしてさらなる三戦目は、まさかのわたし&マナカの最弱コンビが人狼に。

 

 やってみて分かったけど、人狼の立場になると挨拶が本当にキツい。けっきょくタスクに夢中になってる人を狙うしかないけど、みんな経験を積んで用心深くなってるから、タスク中かなって思って近づいても挨拶されちゃうんだよね。

 

 ただ人狼同士でも挨拶して作戦を立てられるから、一概に不利とは言えないね。

 

 それと妨害タスクをこなすことで緊急タスクが発動するから、これを狙って起こせるように直前で止めておくのも重要かな?

 

 まあ結果のほうは最終的に村陣営のタスク勝ちだったけど、収穫は大きかったとだけは言っておく。

 

 かくして時間が夜の10時を過ぎたあたりで今夜の配信は終了になった。

 

 視聴者からも参加者からもアンコールの声が鳴り止まなかったけど、あんまり遅くなるとうちのお父さんだけじゃなく、あくたんやぺこちゃんたち未成年組の保護者の方も心配しちゃうからね。

 

 わたしとしても後ろ髪を引かれる思いだけど、今後もM人狼はテストプレイとアップデートをしていく予定だって宮嶋さんも言ってたから、さらなる進化に期待してまた来週にやっていこうって約束して、大盛況の内に閉幕した。

 

 

 

 

 

「それはそれとして、磐田社長と宮嶋常務から、お父さまに内緒で遊んでくださいとお誘いが。宥めるのに苦労したんですから、こっそり一回くらい相手をしてあげてください」

 

「うん、そういうのは明日の昼にね……」

 

 けっきょく言質を取られて後悔するわたしだった。

 

 

 

 

 

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