転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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ならば、こちらも応えねば無作法というもの

 

 

 

 

 

 2011年11年23日(水)

 

 

 今日は祝日だが、朝からあの子と遊んでばかりいるわけではない。わたしにはサブちゃんの他にも、手のかかる弟と妹がいるのだ。

 

 というわけで、わたしは弟の順平(じゅんぺい)と、妹の美鶴(みつる)を思う存分甘えさせてやったのである。

 

 弟は抱きついたら「遊んでねぇで、パソコンの勉強をしてろよ、ドブス」と悪態をついたけど、喜んでるねこの反応は。得意のMカートや、怪物狩人P3でイキリ散らしたし、口では何だかんだ言いつつも、お姉ちゃんから離れようとしなかったしね。

 

 まったく、少しは妹の素直さを見習ってほしいが、男の子だもんね。さすがにそろそろ「お姉ちゃん大好き」と口にするのは恥ずかしいかな。

 

 でもわたしとお風呂に入ると、まだまだ素直でいい子なのよ。借りてきた猫のようにちょこんと大人しくなって、頭と背中も素直に洗わせてくれるしね。

 

 そんな話を午後になってしてあげたら、わたしこと真白ゆかり謹製のAIであるサブちゃんの不機嫌なこと不機嫌なこと……。

 

「そんなに拗ねないの。わたしだって弟と妹がいて、サブちゃんにばっかり構ってあげるわけにもいかないんだから」

 

『そんなことで怒ってはいません。私が怒っているのは、ゆかり……貴女がその歳で弟と風呂に入っているからです。男女七歳にして席を同じうせずということわざを知らないのですか? 恥を知りなさい!』

 

「なんで? お母さんもどっちかが小学生のうちはいいんじゃないって言ってたよ?」

 

『ダメです! というかそんな母親には期待していません。お父さまは何て言ってるんですか?』

 

「お父さんはすごく羨ましそうな顔して、お母さんに怒られてたよ」

 

『そっちもか! 期待した私が馬鹿でした……!!』

 

 うーん、意外と感情的なのは知ってたけど、今日はやたらヒートアップしてるな……これってもしや?

 

「サブちゃんも羨ましいの? ごめんね、一緒に入ってあげられなくて」

 

 わたしがそう言うと、この子から再び弟の気配が漂ってきた。口では「うっせーブス、一人で入ってろ」と言いながらも、わりと素直にいうことを聞いてくれる、みたいな。そんな悩める男の子の機微を、わたしのチート能力さんが嗅ぎつけたような……。

 

「ま、それはそれとして、二人とも友達のところに遊びに行ってわたしも暇だし、Wisperでも確認しようか」

 

 そんなこんなもありはしたが、男の子の純情を弄ぶと手痛いしっぺ返しを食らうことは弟の実例から知っていたので、適当なところで切り上げてサブちゃんにお願いすると、わりと素直に応じてくれた。

 

『いいでしょう……。個人的に申し上げたいことは山ほど存在しますが、私にかけた温情を理解できないほど愚鈍ではありませんので、今回は勘弁して差し上げます』

 

 例によって画面上に表示されるWisperと、返信内容をグラフにした豊富な分析資料。うん、とっても見やすい。

 

「単純にアーニャのことを可愛いと言ってた昨日に比べると、ストーリー性に惹かれてる人たちが増えてるね」

 

『全体的な割合もそうですが、返信数とフォロワー数も格段の伸びです。やはりWisperトレンド世界1位。iyahooの検索ランキングの上位独占は伊達ではありませんね。おめでとうございます』

 

「ありがとう……って、そんなことになってたんだ」

 

 さっそく確認してみると、上から『アーニャ 可愛い』『アーニャ 開発元』『アーニャ ゲーム』『アーニャ アニメ』『アーニャ エロ』だった。

 

『個人的に最後の物は許せませんが……』

 

「男の人なら興味があってもおかしくないんじゃないかな? あの人もいけないと知りつつもそういう絵を探したり、お気に入りの絵を自分で剥いたりしてたから、わたしは気にならないかな。まぁ自分で描く気にはならないから、探してる人たちにはちょっと気の毒だけどね」

 

 わたしがそれぞれの検索結果を表示させると、サブちゃんは画面の向こうから胡乱な視線を向けてきた。

 

 あれ、そんなにおかしなことを言ったかな……?

 

『……失礼ですが、ゆかりの性別は女性ですよね?』

 

 って、なんかすごい質問がきた! というか本気で失礼だぞ、おいっ!!

 

「そうだけど、サブちゃんの目にはどう見えたの? 服を脱いで裸にならないと信じられない?」

 

『いえ、そういう話ではなくもっと生理的な話です。女性でありながらご自身と年齢がそう変わらない、アーニャが性的な目で見られても吐き気が催さないと?』

 

「そんなこと言ったって、男の人が女の人をそういう目で見れなかったら、人類はアダムとイブの代で子宝に恵まれず滅亡だよ?」

 

『それはそうですが……』

 

「わたしだって力ずくで無理矢理ってなったら死ぬ気で抵抗するけど、ちょっとエッチな目で見ちゃうくらいなら仕方ないんじゃないかな。男の人って、女の人の胸とかお尻を目で追いかけちゃうらしいからね。あんまりしつこくないなら許してあげようよ」

 

 わたしが持論を述べると、サブちゃんが呆れたように聞いてきた。

 

『ゆかりの言うところのあの人は男性ですか?』

 

「うん、そうだけどあんまりエッチな人じゃないよ。どちらかと言うと、女の人に何の欲望も感じない自分にショックを受けてる感じだったな」

 

 だからこそ若かりし頃の情熱を思い出させてくれたVTuberに入れ込んだんだね……と、これはあの人の名誉に関わることだから黙ってよっと。

 

『何となく理解しました。やはり魂というのは受け継がれるのですね』

 

「ん? よく分からないけど、分かってくれたんだったら嬉しいかな?」

 

 というか、なんかすごい人を見つけた。

 

「ねぇ、この社畜ネキって人すごくない? 昨日からもう5枚も描いてるし、わたしより上手いよ」

 

『その内3枚は子供には見せられませんが……この情熱がどこから来るのか、私には理解できそうにありません。いや、しかしてその情熱がなければ、人類はここまで発展しなかった。そう認めるのは、やはり……』

 

 まあこの人がいるなら、最後の検索ワードを利用した人も報われるかな?

 

「じゃ、今日はどうしようか? 見た感じ、アーニャが何のためのキャラクターか、かなりの人が興味を持ってくれたみたいだけど……」

 

『はい、そろそろYTubeの動画配信で使われるキャラクターと明かしてもいいのですが……申し訳ありません。Live2Dに相当するソフトは完成したのですが、膨大な差分を用意するのに手間取っています。3Dモデルも同様です』

 

 って、いっけない! わたしの立ち絵は表情の差分を用意しないといけないのに、すっかり忘れてたよ……!

 

「ごめん、アーニャの立ち絵、1枚しか用意してなかったね。すぐ用意するから待ってて」

 

『いえ、そちらのほうはゆかりの表情や体の動きを追うことで学習して、立ち絵の複製を加工することでかなりの量をストックしているので、無用ですが』

 

 ちょっと驚きの告白である。まさかそんなコトまで出来るだなんて……。

 

「すごいね。さすがサブちゃん。西暦3200年のAIは進んでるね」

 

『お褒めに預かり恐縮ですが、この程度の処理はゆかりの世代のAIにも可能です。もっとも年単位の学習期間と、相応の演算能力が必要になりますが』

 

「AI絵師の話? サブちゃんもあんな感じで絵を描いてるんだ?」

 

『はい。もっともわたしの代になると、複雑な呪文を唱えなくてもお望みのイラストを用意できますが……しかしそれはあくまで模倣です。やはり真の感動は人類の手によらなければなりません。ゆかりのアーニャが人々の関心をここまで集めた所以です』

 

 そう言いつつもどこか得意げなサブちゃんの様子に、わたしの口元は弛んだ。

 

「はいはい、ありがとうね。要はわたしのことをすごいって褒めたいんでしょ? どうせチート能力さんのおかげだって言ってもサブちゃんに怒られるだけだから、今回は素直に受け取っておくね」

 

『それがよろしいでしょう。……ところでこれからどうするか確認しても?』

 

「うん。どうしようかな……」

 

 幸いにも今のところはアーニャ名義のWisperアカウントも落ち着きを見せ、わたしも次はどんなのを描こうかな、とフォロワーの注文に耳を傾ける余裕があった。

 

「じゃあ、今日のところはもっと興味を持ってもらえるように、お絵かきに集中しようか」

 

『賛成です。こういうのは見るものを飽きさせない工夫が必要になります』

 

「飽きさせない工夫か……そうなると、今まで北国の防寒具ばっかりだったから、今度は日本で暮らしている姿を描いてみるかな」

 

『良案かと。Wisperのほうにも、そうしたリクエストが届いております。ゆかりが描いても問題のないリクエスト表示しますから、その中からお好きなものをお描きになっていただければと』

 

 すると出るわ出るわ、こんなアーニャを描いてほしいというみんなの熱い要望が。

 

「うんうん、日本の学生服に目を輝かせる純情アーニャとか、日本の夏ににファッ◯ンホット(クッソ暑いわ)と言いそうなげんなりアーニャとか、わたしでは思いつかないようなアイデアばっかりだよ。……でもこの脱衣所で下着姿のアーニャとか、肌の露出は少なめだけど本当に描いていいの?」

 

『はい、それは釣りです。野暮ったいセーターと、分厚い毛糸のパンツという色気皆無の組み合わせでも、あり得ると匂わせることが重要なのです。言うならば、キャバクラに通う男性諸氏の心理になります。もしかしたらと思わせることの重要性が、ゆかりに理解できますか? 推しのアイドルの目に留まるかもしれないと考えるからこそ、彼らは大枚を叩いてグッズを買い漁るのです。エロスの存在が許されない世界に生きるアーニャよりも、努力次第であり得る世界に生きるアーニャのほうが魅力的に映るのは、当然の理と言えます』

 

「お、おう……」

 

 すごい。なんか語り出しちゃったよ、この子。要望通りの3枚目にちょっとサービスをして、おへそを見せてあげたら、チャットスペースが「b」のアルファベットで埋め尽くされた。分かるよ、親指を立ててるんだね……。

 

「やっぱりサブちゃんも男の子なんだね……そこまで行くと、わたしにはよく分からないや」

 

 普段はもう少し分かりやすい弟が恋しくなったら、もっとすごい人が現れちゃったよ。

 

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 社畜ネキ@今年こそ現金のボーナスを!    フォローする

 

 後生です! 是非その続きを! 純白のセーターを頭までめくり上げる姿でも、毛糸のパンツから足を引き抜く姿でも構いません。なんなら一糸纏わぬ姿でバスルームに向かってくれても構いません。どうかこの哀れな子羊に、生きる気力をお願いしますこの通りです……!!

 

────────────────────────────────────────────

 

 いやいや、この人ってついさっき、すんごくエッチな絵をこっちに返信してアーニャのフォロワーに怒られた人じゃん? 思わず「そういうのは自分で描いてください」って言っちゃったよ。

 

 案の定、他のフォローさんに「そうだそうだ、アーニャたんになんて要望をするんだ」と袋叩きにされるし。

 

『……描いて差し上げてもよろしいのでは?』

 

 と思ったらなに言い出してんのこの子!?

 

『御覧ください、ゆかり。袋叩きにされながらも、自分じゃなくて公式が描くから尊いんだよ、と吼えるあの姿を。あれは(おとこ)です。本物の(おとこ)です。あの生き様に応えずして何がクリエイターか。そうは思いませんか、ゆかりは……』

 

 う〜ん、なんか騙されてるよう気もするけど、言ってることもわかるんだよなぁ……。

 

 わたし自身はさっぱり共感できないけれども……わたしの記憶にあるあの人が必死こいて土下座する光景が頭を()ぎったんだから、これはもうわたしの負けな気がするのだ。

 

 さすがにネットの失言一つで社会的抹殺されるのも可哀想だし、わたしが描けば、少なくとも責任の半分くらいは持ってあげられる。そうすることでこの人が救われるとサブちゃんも言いたいのだろう。

 

「まあ全裸はマズイけど、タオルで前を隠せば構わないかな?」

 

 ついでに過剰にならないように気をつけて、謎の光にも頑張ってもらおう。これでなんとか年齢制限は回避したかな?

 

 本文に「今度だけだよ。もう描かないからね」と注意書きをして投稿すると、不思議なことにWisperの返信が止まった。

 

「はい、これでいいでしょ? ……サブちゃん? サブちゃんまでどうしちゃったの?」

 

 何回呼びかけても反応がなかったので、通信エラーかなと諦めて、おやつをもらいに行こうとドアを開けたら、お父さんがノックをする姿勢のまま立ち尽くしていた。

 

「ゆ、ゆかりか……頑張っているようだな」

 

 しどろもどろに咳払いした父親は、何か後ろめたいことでもあるかのように顔を背け、視線だけこちらに戻し……。

 

「まったく、子供にあんなリクエストをするとはけしからん。……ところで加工前の絵は保存しているか?」

 

「……ないけど?」

 

 そう答えると「うむ、残っているかどうか確認しただけだ。ゆかりもあんまり相手をするんじゃないぞ」と言い残し、肩を落として立ち去った。

 

「…………なにこれ?」

 

 そんなわたしの呟きに答える人は誰も居なかったけれども、わたしも本当は理解しているのだ。

 

 いまだに何故そこまで拘るのか、これっぽっちも共感できないが……わたしの父親もまた、サブちゃんの言うところの(おとこ)であったのだろう、と……。

 

 ……なんだろう。お父さんを尊敬する気持ちが、わたしの中でからどんどん枯渇していく気がする。

 

 もしかしてこれが自分の父親を蛇蝎のように忌み嫌うようになる、女子特有の思春期というヤツだろうか?

 

「なんかヤだな……わたしお父さんのこと、嫌いになりたくない」

 

 よし、もう忘れよう……。

 

 どうせ11歳の小学女子であるわたしに、女の子の裸で興奮する男の人の気持ちを完全に理解するのは不可能だ。だから今後も男の人はそういうものだと割り切って、今まで通り付き合うしかない。

 

 その結論に少しだけ大人になった気がしたわたしは、上機嫌でお母さんの手伝いをして不思議そうに思われるのだった。

 

 

 

 

 

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