転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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今回の視点は事務所で研修中の兎田ぺこらさんです。




ホロライブ1期生の紹介と兎田ぺこらの憂鬱 〜なんかアーニャちゃんの配信に出た後輩どもが化け物しかいないんだが? え、お前が言うな? いやいや、そういうのはマリンに言ってやってよ〜

 

 

 

 

 

 2011年12月14日(水)

 

 

 放課後に事務所の車に乗って、京都の事務所に通うのもこれで三日目。挨拶は毎度のこと緊張する。そろそろ慣れなきゃいかん頃合いだけど、苦手のコンプラ教育でしっかりとダメ出しされると疲労感が半端ない。

 

 肩を回すとゴキゴキ音が鳴って、自分でもビックリした。この歳でわたしの体はどうなってんだ。二重の意味で泣きたくなる。

 

「はぁ、やっと休憩かぁ……分かっていたけど、女子中学生をやりながら研修を受けるのは大変だな、こりゃ」

 

 だが、弱音ばかり吐いてはいられない。わたしはあの子のようなVTuberになると決めて、家族(ママン)の了解も取り付けたんだ。事務所だって毎日送り迎えしてくれて、スタッフの人たちだって頑張って指導してくれてる。だったら、少しばかし辛いことがあったって歯を食いしばって頑張らないと……。

 

「まぁ、キツいことばかりでもないけどね。あやめさんのゴン太くんもいるし、琴子にも懐いてくれたわけだから、休憩時間は構い倒して癒してもらおっと」

 

 というワケで、いま癒しを求めてヨタヨタ歩いてるわたしは、アーニャちゃんに憧れるごく一般的な女の子。強いて違いをあげるとすれば、アーニャちゃんのお眼鏡に適ったってことかな?

 

 名前は宇多田琴子(うただことこ)15歳。クリスマスの前にはホロライブの0期生としてデビューして、アーニャちゃん達と仲良くやっていく予定だからよろしくなぁー!

 

 そんなこんなでN社の向かいにある五階建ての事務所の階段を上ったわたしは、三階にある演者専用の休憩室にやってきたのだ。ふと見ると、隅っこのソファーに一人の若い女性が座っていた。

 

(ゲッ、社畜ネキ! 今日の午後はボイトレだけって言ってたのに、なんでまだ居るんだ?)

 

 咄嗟に声を出さないように口元を押さえる。ソファーで胡座を掻いて自前のノートパソコンを見ているのは、ネットやアーニャちゃんの配信で有名な社畜ネキと呼ばれる女性だった。

 

 本名は蛍崎海音(ほたるざきあまね)で、アーニャちゃんの配信ではマリン船長と名乗ってる。社畜ネキの忌み名は本人公認の黒歴史、らしい。

 

 20代半ばの明るい美人だけど、自他共に認める人見知りであるわたしとの相性はあまりよろしくないというか、ほとんど壊滅的。

 

 いや、だって話しかけられるのが苦手ってのもあるけど、社畜ネキってば馴れ馴れしいし、図々しんだもん。油断したら速攻で【検閲削除】されそうな気配がプンプン漂ってるから、仕事以外で関わる気は ま っ た く な い。

 

 本人は冗談だって強調するが、社畜ネキときたらどこまで許されるか確かめるようにギリギリの線を攻めてきやがるかんな……。

 

 さすがで事務所でセクハラしてきたりはしないけども、少しでも気を許したら最期。何をしてくるか分からない怖さがコイツにはある。

 

 まぁ意外と親切だったり、わたしも迷惑を掛けた負い目があるから、表面的には普通に接してるが……言うほど空気が読めるんだったら、もっと行動に反映してほしいって不満もある。あんな目の前に立たれて、顔を覗き込まれながら話しかけられたりしたら心臓が爆発しそうなんだよ、こっちは……!!

 

 そんなワケで、こっちに気づいて尻尾を振るゴン太くんには悪いけど、社畜ネキの根城と化したソファーに近づく勇気はわたしにはない。

 

 話しかけられてもなんて答えたらいいか分からないし、二人きりのときにいつもの調子で詰め寄られたら卒倒する自信すらある。

 

 ……とは言っても、社畜ネキに悪気がないことは分かってるし。例の騒動ではついカッとなって酷いことを言っちゃったのに、助けてもらった恩義もある。

 

 ネットの悪評とは裏腹に優しい性格をしていることも分かってるんだし、仲間なんだからいつまでも苦手とか言っていられないか。

 

 ええい、ままよ……女は度胸ってアーニャちゃんも言ってた気がするし、ここは挨拶だけでもキチンとしないと。

 

「おっ……お疲れさまです、海音さん。ノートパソコンで何を見てるの?」

 

「んー、琴子お疲れ。いや、ちょっとね……」

 

 ソファーから身を乗り出して歓迎するゴン太君には申し訳ないが、そこは社畜ネキの絶対殺傷圏内である。迂闊に踏み込まず、いつでも逃げ出せる距離を保ちながら尋ねるも、その反応は予測もつかないほど鈍かった。

 

 ゴン太くんの切ない表情に堪らず半歩だけ近寄るが、社畜ネキは難しい顔をしたまま自前のノートパソコンを覗き込んだままだ。周りに迷惑を掛けないためかワイヤレスイヤホンも使っているので、何を視聴しているのかも判らない。

 

「……口で言うより見てもらったほうが早いね。琴子もこっちに来なよ。一緒に見よう」

 

 ヘッドホンを外した社畜ネキが、自分の隣を手で叩いた。そこに座れというのはわたしにとってかなりの無茶振りだったが、社畜ネキが好意で言ってるのは分かってる。

 

 それに社畜ネキがワイヤレスイヤホンの接続を終了すると、ノートパソコンから楽しそうな声が聞こえてきたのもある。

 

 興味を惹かれたわたしは誘われるままに腰を下ろし、そして見た。

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛!? いるいる、絶対いる! いま足音が聞こえたって! この先にカエルの化け物が待ち構えてるって!!』

 

 社畜ネキが霞むほど大きな声。すでにアーニャちゃんの配信で紹介済みの大空スバルというVTuberが、単独で枠を取って昨日の続きをやってるが、それだけではない。絵柄からアーニャちゃんの仕事だとすぐ判別した5人のVTuberが、実に活き活きと大空スバルのへっぴり腰を笑い飛ばしているのだ。

 

『ほらほら、そんなにビビらなくても大丈夫だって。もっと自分から突っ込んで戦いなよ』

『それ本気で言ってるの? スバルはもうあのヒタヒタっていう足音が聞こえてきただけで怖いんだけど?』

『んー、パッと見た感じでは戦い方が悪いですね。接射の強力なショットガンで引きつけてというのはいいんですが、タイミングを誤って攻撃をもらっているようでは本末転倒です』

『だってあいつらホヒーとか言って飛び掛かってくるんだもん! もうゴリラの首を何回落とされたか不明なんだけど!?』

『だったらマグナムを解禁したらいいんじゃないかな? マグナムならザコは一発だよ。スバルのマグナムが火を噴くぜって中指をおっ立てなよ』

『いや、それをやったら強敵で詰まねぇか? あの直立したカエルみたいなヤツも位置的にはゾンビの代わりに配置されたザコなんだから、切り札は温存しないとさぁ』

『すいちゃん知ってるよ。それエリクサー症候群ってヤツ。クリアしてからこんなに余るんだったら使っときゃよかったってなるくらいなら、とりあえず試し撃ちくらいしてみたら?』

『女は度胸! 狩られる立場から狩る立場になるんだ! 今こそその時だ! 行け、スバちゃん!!』

『あー、もー、さっきからうるせーよ! そんな簡単に割り切れるんだったら、漏らさないように内股でプレイしたりしていません!!』

 

 ……この気持ちは何だろうか?

 

 大空スバルのLive2Aが本人の挙動を再現してよく嘆き、よく怯え、よく怒って見せれば、それを取り囲む野生的な少女も、ドラゴンを擬人化したみたいな女も、サメみたいな女の子も、青とピンクの二人組も魂が宿っているかのように表情豊かだ。

 

「な、スゲェだろコイツら? アーニャたんの絵も格段に進化してるし、どいつもこいつも全然声が途切れねぇの」

 

 悔しいけど社畜ネキの言う通りだ。わたしはいま猛烈に嫉妬してる。

 

 これがアーニャちゃん本人の配信だというなら解る。わたしたちもアーニャちゃんの配信にお邪魔して、それなりに好評を博してきたつもりだ。

 

 でもこいつらはそうじゃない。自分の枠を取った大空スバルの配信に首を突っ込んで、下手な芸人の漫才なんかお呼びじゃないほどのエンタメを供給している……。

 

「しかも17万6千人が視聴中かよ……。ぶっちゃけた話、アーニャちゃんの配信以外でこれだけの数字を出せるのはHi⭐︎KAKINさんくらいだよな?」

 

「チャンネル登録者数も120万超えてるってよ。フブあやちゃんねるが108万だから、チャンネル開設早々に超えられたことになるよね。まぁ、あいつらは正式にデビューするまで事務所から止められてるけどさ。例の飲酒発言の所為で」

 

 社畜ネキの言うように単純に比較はできないけど、いまの時点でこの界隈の話題を独占してるのはこいつらだ。だから悔しい。自分たちも配信したいと焦れる気持ちにもなる。

 

『というわけで、応援に来てくれたホロライブ1期生のみんなと、視聴者のみなさんのおかげをもちましてですね。なんか研究所って言うんですか? 最後の地獄まで到達できましたので、スバルの配信はここで一区切りをつけさせていただきたいと思いますが……いまアーニャさんから連絡がありまして、今夜の配信は1期生が全員集まるということなので、みんなの紹介はそのときまでお待ちください』

『えっ、もう終わっちゃうの? だったらすいちゃんが引き継いでいい? とりあえずアーニャちゃんに呼ばれるまで自分語りするわ』

『星街ばっかズルい! みこもやる! みこにもやらせろ!!』

『お、いいねぇ。メシでも食いながら配信しちゃう?』

『ああもう終わり! 終わりにします! お前らはスバルの手には負えません!! みなさんも速やかにスバルチャンネルから立ち去ってください──だからアーニャさんに呼ばれてっから、お待たせするわけにはいかねぇっつってんだよ馬鹿野郎がッッ!!』

 

 最後に強権を発揮した大空スバルがYTubeとの接続をオフにしたのか、エンディングのテーマソングが流れ出すが……その曲はアーニャの新曲であり、使われているアニメも凄まじい代物だった。

 

 まだ正式なデビューはおろか、研修すら受けていないというのにこの待遇──大空スバルを自身のファンに売り込むアーニャの期待のほどが容易に伺える。

 

「こりゃ、とんでもない後輩どもが出てきたね……」

 

 こんなヤツらがアーニャちゃんの配信に勢揃いするとか、絶対に見逃せない。内心の焦りを抑えて意気込むと、社畜ネキが立ち上がった。

 

「海音さん、どこに行くの?」

 

「中村さんを探して琴子たちの予定を調整してくる。とりあえず琴子たちの研修は7時までにして、それからメシを食って、自宅に届けるのはちょっと遅くなるけどアーニャたんの配信終了後でいい?」

 

 こういうとき、社畜ネキの行動力には感謝しかない。

 

「ありがとう。よろしくお願いします」

 

「いいっていいって。その代わり、ご両親に遅くなるってキチンと連絡しなよ。それと帰ったら風呂に入ってさっさと休みなさいね。明日も忙しいんだから」

 

「はい、そうします」

 

 足元から空いた席に飛び乗ったゴン太くんを抱き止めて社畜ネキを見送る。

 

 この危機感を共有するためにも、今夜の配信は0期生のみんなと見届けないと。やるせない気持ちを噛み殺しながら、わたしはそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 そして配信の10分前。みんなで視るなら広いところがいいと、所属事務所を取り仕切る中村さんの好意でスタジオに案内された琴子たちは、100インチはありそうな超大型液晶ディスプレイ前にパイプ椅子を広げるのだった。

 

 席順はモニターの右側に白上フブキさんこと春日マリナさんと、百鬼あやめさんこと篁蘇芳(たかむらすおう)さんに、愛犬のゴン太くん。

 

 わたしはゴン太くん目当てにその左側に陣取って、あくたんこと皆川あずささんがそれに続いたんだけど、何を思ったのか社畜ネキが間に割り込んでわたしたちの肩を抱いてきた。鼻息も荒く足まで組んで、まるで両手に花と言わんばかりの態度である。

 

 ……二人きりだとまともなのに、人目があるとはっちゃける社畜ネキに頭を抱えたくなるが、もう一人の被害者は何故か幸せそうだった。

 

 わたし以上の人見知りだというのに、満更でもなさそうなその笑顔。まあ話しかけるのも話しかけられるのも苦手だけど、構ってもらえるのは嫌いじゃないっていう心理は解らないでもないが、社畜ネキが調子に乗るから程々にしてほしいと思わずにはいられない。ほら、また胸を触ろうとした!

 

「いやぁー、白上たちも気になっていたので誘ってもらえて助かりました。社長の中村さんも急なスケジュール調整をしていただいたそうで、ありがとうございました」

 

 って、懲りずに太ももに手を伸ばした社畜ネキの手をつねったら、白上さんが大きな声でお礼の言葉を口にした。

 

 本当は必要がなければ他人と関わらないド陰キャと自己申告したが、相変わらずそうは見えない白上さんに、スーツ姿の中村さんが落ち着いた微笑を見せる。

 

「いいのよ。私だってファンの一人として気になるしね」

 

「おおっ、やはりアーニャさんのファンとして見逃せませんか」

 

「ええ、あの子のファンとしても、貴女たち全員のファンとしても見逃せないわね。融通を利かせるのも私の仕事だから気にしないで頂戴」

 

 そう言われると照れくさいものがある。こちらに気づいた中村さんに笑みを向けられると顔の火照りを自覚させられる。

 

「なんだよ琴子、そんなに赤くなって。やっぱり恥ずかしけど構ってほしいんじゃんかよ」

 

「んなワケねーぺこだよ! 触れんな、穢らわしい!!」

 

 それを都合よく解釈した社畜ネキの魔の手と格闘すると、抵抗するそぶりもなく肩を抱かれたままの被害者と目が合った。わたしより一つ年上の女子高生は何を思ったのか、自分のバッグを覗き込むと取り出したお菓子を差し出してきた。

 

「ぺ、ぺこらちゃん……これ、あげる……良かったら食べて?」

 

「あ、ありがとう……」

 

 断ったら確実にダメージになると同類の感覚で察知したわたしは素直に受け取ったが、それだけでは済まなかった。

 

「いいなー、余もほしい、余もほしい。ゴン太もほしいよねー?」

 

「お前は自重しろ! 年下にたかるんじゃない! ゴン太をダシに使うな!!」

 

 普段はもっと物静かなのに、あやめさんが配信中のノリでとても残念なことを言い出して、お目付役の白上さんが声を張り上げる。好きでこうしてるんじゃないというのも本人の弁だけど、好きじゃなきゃやってられないと思うんだが……。

 

「まったくもう。おやつが欲しいならそう言いなさい! ああ、あくあさんも、そんなヤンキーのカツアゲに遭ったような顔でおサイフを差し出さないでください! あやめもおやつはそこの自販機で買うけど、チョコ系統でいいのか?」

 

「チョコレートとクッキーが遺憾なく合体しとるのがいい。つまりたけのこ余、たけのこ」

 

「だからみなさんの好みも知らないのにその話をするんじゃない。血を見たらどうする気だ」

 

「相変わらずクソみてぇな堕落ぶりだな……フブちゃんもあんまり甘やかすと、そのうち自分の代わりに呼吸をしろって言いかねないよ、あやめたんもさぁ?」

 

「それはもう手遅れですね。深刻な顔つきで呼ばれて何事かと思ったら、似たようなことを言われたので遠慮なく張り倒しましたよ」

 

 本人たちの自己申告によると、知り合ったのが運の尽き/ヒモの始まりだという二人組の関係を社畜ネキがケラケラと笑い飛ばし、被害者以外の何者でもない白上さんが席を立つと、中村さんが失笑を漏らした。

 

「本当に愉快ね、貴女たちは。掲示板でもそんな調子だったから磐田社長に目をつけられたんでしょ?」

 

 まさにぐうの音も出ない正論に、社畜ネキともあろう女が苦りきる。

 

「えっ、スカウトの基準ってそれなん? フブキやマリンはともかく、余は掲示板でそこまで暴れた記憶はないんやけど……?」

 

「あ、あたしも掲示板では大人しくしてたほうだと思うけど……」

 

 そして二人が「ぺこらちゃんもそうだよね?」と言わんばかりにこちらを見てきたが、わたしは答えられなかった。

 

 ……何故ならわたしには心当たりがある。主に社畜ネキにツッコミ入れた件で。

 

 そうかぁー、そうだったのかぁー。今まで何で声を掛けられたのか心底不明だったけど、あの辺りで面白いヤツだって目を付けられたのかよ。

 

 後悔はしてないけど、社畜ネキ曰く『ネット弁慶』であるわたしにとって、そのギャップを埋めるのは生半可なことじゃない。

 

「これはたぶんアレだね……ぺこらたちのツッコミが、磐田社長のツボに嵌まったんだよ。諦めな」

 

 わたしが呟くと、二人はますます記憶にないと頭を抱えたが、まあ自業自得だね。うちら5人は。

 

「でもさぁー、そうなるとあいつらも同じ穴の狢になるよね? 誰だよ、1期生の内訳は!?」

 

「それはこれから判るんじゃない? ほら、始まるわよ」

 

 中村さんの言うようにモニターに表示された待機画面が終了して、アーニャちゃんの配信が始まる。

 

 まずはいつもの神がかったテーマソングが流れてオープニングだ。フルアニメーションの雪原を背景に、今や視聴者の嗜虐心を独占してると評判な大空スバルが野生味あふれる銀髪の女性と邂逅する。

 

 挨拶がわりに雑談して意気投合したのか、二人が肩を並べて歩き出すと、その先で藍色の少女に腕ひしぎ逆十字を決められたピンクの女の子が現れる。どうやらケンカになったらしい二人を仲裁して、同行することになった四人が目指す先は、アーニャちゃんのログハウスだった。

 

 普通の雪だるまのフリをする多数の雪国民は、なぜか冷や汗を流していた。必死に雪だるまのフリをしてるんだと思ったが、そうじゃないことはすぐに判明した。ログハウスの前でアーニャちゃんに会わせろと荒ぶるオレンジ色のドラゴンと、海の魔王としか言いようのない怪物が、呆れ顔のメイドが操るSFチックな兵器によって制圧されたのだ。

 

 宇宙戦艦の砲撃で吹き飛ばされ、すっかり弱体化して擬人化した二人が方針変更。土下座して拝み倒すところを目撃した四人の前で、ログハウスの扉が開いて飛び出してくるのは──。

 

「相変わらずいつ見ても異次元としか言いようがないアニメだよね……。これ、毎回直前にその場のノリででっち上げてるって言ってたけど、どうやって作ってるんだろ……?」

 

 わたしが正直な感想を漏らすと、0期生の仲間たちは途端に「うーん」と頭を悩ませた。

 

「マリナたちの3Gも専門のプロダクションが豊富な予算に物を言わせたって出来栄えでしたしねぇ……」

 

「あたしの時もすごかったよね……地獄の底から忌まわしいモノが目覚めるってノリはアレだったけど」

 

「サーニャさんの話だと、Live2Aなら参照するモーションデータと原画さえあれば可能だそうよ。いずれ一般化したら、日本のアニメはみんなそんなふうに作られるようになるかもしれないわね……」

 

 なんていうかため息しか出ない結論だけど、そんなことでいちいち驚いていたらアーニャちゃんの配信はやってられない。これはそういうモノだと割り切るしかないのだ。

 

 ログハウスから飛び出たアーニャちゃんがサーニャちゃんを叱り飛ばして、六人のお客さまを中に招待したところでオープニングが終了する。

 

「あ、ユッカちゃん今日も居るんだ」

 

 そしていつもの配信画面に表示されたアーニャちゃんは、愛犬であるシベリアンハスキーの仔犬を抱っこすると、元気いっぱいに挨拶をした。

 

『今日も電子の世界からこんにちは! インターネットの妖精。北の国からやって来た女の子で、名前はアーニャだよ。今日はアーニャがお世話になってる会社の新しい家族を紹介するね!』

 

「アーニャたぁあああん! その笑顔に癒されるんじゃああああ!!」

 

 すると社畜ネキが立ち上がって叫んだが、気持ちは分かる。うるさいけど。

 

 見ただけで安心するような笑顔。こんな家族がいたらなって思うのはわたしだけじゃないのである。

 

 ま、それはさておきアーニャちゃんが1期生のメンバーを紹介していくみたいなので、見逃さないように集中しよう。

 

『まずはスバルちゃんたちと一緒に、今週末から事務所入りが決まってるホロライブ1期生の獅白ぼたんさんだよ』

『どもー。ただいまご紹介に与りました獅白ぼたんって言います。サバイバルとFPSが得意なので、旅行先で遭難するときは連れてってねー』

 

 なんて自己紹介だよと頬が引き攣るのと同時に、横合いから吹き出すような笑い声が聞こえてきた。

 

「あ、あてぃし誰だかわかっちゃったかも。この人って、あのスレで社畜ネキをからかって遊んでた人だよね、絶対」

 

「あくたん言う通りだね。口調もまんまだし、どう考えてもB子だろ。っていうか、なんだよその挨拶。誰がお前なんかと無人島に行くんだバーカ」

 

 クスクスと楽しそうなあくたんと、天敵と遭遇したかの如くイキリ散らす社畜ネキ。

 

『お次は大気圏に衝突して燃え尽きちゃったけど、彗星のように現れたスターの原石! 星街すいせいさんだっけ?』

『なんで疑問系なの! そこは素直に彗星のように現れたスターそのものでいいでしょ!? というわけで、アイドルVTuberの星街すいせいです。すいちゃんはぁ〜?』

『年上なのに、みこより胸が小さぁ〜い!!』

 

 その言葉に無言で背後に回り込み、ギリギリとこめかみに尖った拳を捻り込む少女の胸は確かに貧弱だったが、世の中には言っていいことと悪いことがあるのだ。

 

『痛い痛い! やめろよお前! みこの晴れ舞台を邪魔するな! 胸が小さいのは本当のことだろ!!』

『不規則発言に加えて、誹謗中傷とは感心しませんね。それと誤解のないように言っておきますが、これは小さいのではなく慎ましいと言うのです。胸に巨大な脂肪をぶら下げたままでは歌えないと、幼少期から厳しい食事制限を課して胸を絞っているのです。そうですよね?』

『ごめん、サーニャちゃん……せっかくフォローしてもらってなんだけど、泣いていい?』

『泣くなら配信後に存分に……というわけで、悪い子は色々と没収です』

『あ゛あ゛あ゛あ゛!?』

 

 サーニャちゃんまで敵に回したピンクの女の子が宣言通り色々と没収される。ポンっていう爆発の後に煙が晴れると、そこには誇るべきボリュームを失った園児が残された。

 

『えー、というわけで、三人目はサーニャの逆鱗に触れた自称エリート巫女のさくらみこさんの紹介だね。ダメだよ、体型とか本人の努力じゃどうにもならない人もいるんだから、からかったら』

『うん、いまのはみこが悪かった。てなわけでですね、たった今、園児にされたみこはさくらみこって言います。いずれ世界を征服する女ですが、ひょっとしてみこってばずっとこのまま? みこは一目でエリートとわかる巫女さんって設定なんだけど?』

『心から反省したと見なしたら解除して差し上げますが、そうでないと判断したらそのままですね。ちなみに小さいや、貧しいという悲しい単語を使ったら刑期は延長されますので、美しいや慎ましいなどの、現実に即した表現を用いることをお勧めします』

『うんうん、そうだよね。そういう人を傷つける表現はVTuberに相応しくないよね! 分かったら反省しろテメェーは! 二度と醜く肥え太った胸を自慢するなよっ!?』

『そんなぁー! みこだけじゃないよ!? 会長だってみこよりよっぽど巨大なモノをぶら下げてるじゃん!!』

 

 がっちり握手するスレンダーボディの二人組を背後に、ピンクの園児が必死に矛先を変更しようとする。

 

「濃いなぁー。この二人、濃いなぁー」

 

 うん、白上さんの言うように濃いね、コイツらも。

 

「ナキリわかったわ。この凶悪さ、あのスレで物騒なセンスを晒してダメ出しされたヤツじゃね?」

 

「あー、Nicoichi動画の宣伝をして、センスが怖いって言われた人か。いたなぁ、そんな人も」

 

「さくらもさ、あのスレに一人称がさくらのヤツがいたけど、ソイツかなぁ。口調しか記憶にないけど、こんなに面白かったか?」

 

「あてぃしもよく覚えてないけど、別にいいんじゃない? 面白い分には誰も文句なんて言わないでしょ……」

 

「それはそうなんだけど、面白いなら面白いで悔しいというか……」

 

 たぶんわたしたちがそうだったように、仕込みじゃなく素でそうなったんだろうってハプニングを横目に意見交換すると、困ったように微笑んでいたアーニャちゃんが咳払いの音を立てた。

 

『んん。とりあえず、すいちゃんとみこちの漫才は後の楽しみに取っておいて、先に言い訳させてね? 次に紹介する女性の胸が大きいのは現実に即した描写であって、アーニャの趣味ってわけじゃないから……というわけでアメリカからお越しの桐生ココさんとがうる・ぐらさんです! それでは自己紹介をどうぞ!!』

 

 それは、本人としてはそうとしか言いようのない心境なのだろうか……? アーニャたんが自棄っぱちな叫びを上げると同時に、先に呼ばれた女が規格外の巨乳をドタプンッと揺らして一歩前に出た。

 

「『……………………』」

 

 今さら言うまでもないが、サーニャちゃんが開発したというLive2Aは、わたしたちの動きを忠実に再現してる。

 

 ならば、この凶悪なまでの女の武器もまた、現実に存在することに……?

 

『えー、ただいま紹介に与りました桐生ココと、従姉妹のがうる・ぐらと申します。ほら、貴女も挨拶なさい』

『うん。わたしぐら。がうる・ぐら。この名前もアーニャがわたしのために考えてくれたんだよ。羨ましい?』

『だから貴女はアーニャさんのファンを煽るな! 悪い子はお尻ぺんぺんですよ!?』

 

 正直、がうる・ぐらとかいうサメっぽい女の子はどうでもいい。桐生ココとかいう女が何かするたびに誇示される二つのスイカに、わたしたちはほとんど同時にお茶を手に取った。どうやら考えることは一緒のようだ。

 

「……ヨシ。とりあえずココさんの胸は誇大表現というコトにしますか」

 

「異議ナシ。ウチらの精神衛生にも悪いから、首から下は見んようにしとこっ」

 

「さすがにコレはねぇ……アーニャたんも漫画みたいな絵を描くんだって、マリンほっこりしちゃった」

 

「でも首から下を見ないとぐらちゃんの顔が……ううん、なんでもない」

 

「ほらほら、もっと集中して? せっかく時間割いたんだから、これも研修よ。ココさんの胸は見ないようにして」

 

 わたしは慎重に口を噤んだが、ほぼ全会一致で以降ココさんの首から下は閲覧禁止に。おかげでサメの子は視認するのも苦労したが、まぁ、隣に立ってるのが悪いんだよなぁ……。

 

『それはさておき、私は由緒正しき赤き竜の系譜ですが、日本文化に魅せられて魂を売り渡した裏切り者なので、祖国に未練はありません。こちらのがうる・ぐらともども、どうか末永くお付き合い願えればと』

『うん、わたしも海の魔王って設定だけど、アーニャに憧れて何もない海底から日本に引っ越したときに、魂は二束三文で売り払ったよ。ご飯も美味しいし、冬も暖かくて日本はすごいね。みんな仲良くしてくれると嬉しいな』

『ちなみに竜王や魔王っていうのはどこから来たのか訊いていいかな?』

『私が英国生まれのブリティッシュだからですね。ご存知かもしれませんが、あの国は赤き竜ことアーサー王の末裔ですから。祖国に未練はありませんが、英国人初のVTuberとして、この名乗りは外せないと思いまして』

『わたしはなんとなくかな? キャリフォルニアは海が近いし、シャチやイルカも好きなほうだし。ココが竜王の末裔なら、わたしは海の魔王かなって。サメも地元じゃ海のギャングって呼ばれてるしね』

『まぁそんな誇りは日本食とオタク文化の前に敗北しましたがね!』

『わたしもたこ焼きが食べたくって売り払ったよ』

 

「濃いわね、この二人も……さすがは貴女たちと同郷ね」

 

 中村さんが感心してるんだか呆れてるんだかよく分からない笑顔になると、恥ずかしくて死にそうになる。掲示板でイキってたときもそうだけど、アーニャちゃんの配信を盛り上げようとしたときも、だいぶ空回りしちゃったからなぁ……アーニャちゃんに恥ずかしいヤツと思われていたらどうしよう?

 

『うはは! どいつもこいつも面白すぎんだろ! なぁ、スバちゃん?』

『その流れでスバルに話を振るのはやめてもらっていいですか? まるでスバルまでおかしいみたいじゃないですか?』

『あんだけ面白い配信をしといて今さらだよね。もう視聴者の中ではスバルにホラーをやらせるのは鉄板になってるんじゃない?』

『だからやめろよ! スバルはさぁ、もっと地球に優しく、スバルに優しくってゲームが好きなの! アーニャさんだってそうだよね!?』

『うーん、そう言われると反論できないけど、スバルちゃんの場合は地の性格が面白いから仕方ないよね』

『えぇー、そんなに面白い? スバルはわりと目立たず、地味な性格をしてると思ったんだけど?』

 

「だからそういう反応をするから面白がられるんだよ。少しは自覚しろや」

 

 小声で吐き捨てるとみんなにびっくりしたような目で見られた。しまったと思ってももう遅い。とびっきりのオモチャに気づいたような顔になった社畜ネキが、再び肩を抱いて頬ずりしてきた。

 

「えー、何なに? 琴子ってばもしかして妬いてるの? 昨日から出てきたばかりの後輩相手にライバル意識剥き出し?」

 

「……そうだよ、悪い? 研修中でアーニャちゃんの配信に出られない中、こんな後輩に話題を持ってかれたんじゃ、誰もぺこらなんて覚えてないよ」

 

 誤魔化しきれないと悟ったわたしは正直に認めた。

 

「マリンはいいよ。こいつらにも全然負けてないもん。白上さんたちも昔からのファンがいるし、自前のチャンネルだってある。でもぺこらには、琴子には何も無い。こんなんじゃすぐ埋もれちゃうよ」

 

 休憩中にあの配信を見たときから、ずっと溜め込んでいたモノを吐き出しながら様子を窺うと、この中で唯一、わたしに共感してくれそうなあくたんが「そうかなぁ?」と首をひねった。

 

「焦る気持ちは、まぁ分かるよ? 配信するのはみんなに迷惑をかけないように、きちんと研修が終わってからになるからね。置いてかれるんじゃないかって気持ちはあたしにもある。……でも忘れられるんじゃないかっていうのは無いんだよね」

 

「……なんでそう言えるんですか?」

 

「だってあたしは元々アーニャちゃんとお話ししたかったんだもん。だからアーニャちゃんの視聴者に誰だコイツって思われるのは最初から覚悟してたんだよね」

 

 それはどこか気恥ずかしそうな、それでいて揺らぐことのない芯の強靭さを感じさせる笑顔だった。

 

「だからアーニャちゃんにおかえりって言ってもらえたら、あたしはそれで十分かな?」

 

 その言葉にわたしは初心を思い出して恥ずかしくなった。

 

 そうだった。アーニャちゃんのようになりたいというのがわたしの願いだった。だから迷いながらも飛び出したというのに、わたしはいつから優劣を気にするようになったんだろうか。

 

「なんだよぺこら(・・・)、お前、M人狼のときに絶賛されて勘違いしちゃったか? うちらはさ、大好きなアーニャたんと楽しくやるのが目的だろ? だったら嫉妬するにしても、後輩どもが、うちらを差し置いてアーニャたんとよろしくやってることだろうに。スバルの数字とか、余計なことを気にしてどうするんだよ。しっかりしろよな、もーっ」

 

 本当に二人の言う通りだ。わたしはなんて思い違いをしていたんだろう。恥ずかしさ申し訳ない気持ちで顔を上げることもできない。

 

「なるほどー、ぺこらさんの様子がおかしかったのはそういうことだったんですね。ですがご心配なく。ぺこらさんの笑顔はキャラ的にも忘れようがありませんよ」

 

「だよねー。っていうかさ、1期生も含めてぶっちぎりで濃いキャラじゃね? 特にあの引き笑い……ゴン太もそう思うよな?」

 

「ワンッ」

 

 白上さんとあやめさんにも笑われた挙句、目の前をグルグル旋回したゴン太くんに顔を覗き込まれると、恥ずかしくて死にそうになる。でも、このままじゃいけない。

 

「うん、みんなありがとう。何もかもぺこらの勘違いでした。心配させてスマン」

 

 ヤケクソ半分で顔を上げると0期生のみんなが笑っていたが、わたしがおかしくて笑ってるんじゃなくて、安心したように笑ってるのが救いだった。

 

 本当にいい仲間だ。自分には勿体無いほど、本当に……。

 

「興味深い話をしているけど、せっかくの配信なんだから見逃すと勿体無いわよ。ほら、挨拶が終わって本題に入りそうよ」

 

 中村さんに言われて慌ててモニターを見ると、ちょうどアーニャちゃんが杏子さんの質問に答えるとこだった。

 

『ところで今日は何をするの? スバちゃんのホラーの続き? それとも3Gかな?』

『どっちもやりたいけど、今日は1期生のみんなも、視聴者のみんなもアーニャに聞きたいことがあるだろうし、雑談を兼ねた質問会にします。特に1期生のみんなは週末から事務所入りするわけだし、聞きたいことはいっぱいあるでしょ? わたしとサーニャが答えるからなんでも訊いてほしいな』

 

「えっ、訊きたい……これわたしたちもコメントで質問していいのかな?」

 

 わたしが訊ねると中村さんが首を縦に振ったので、さっそくキーボードに手を伸ばしたら横から社畜ネキに奪われた。まぁ恩とか借りとかいっぱいあるから、譲ってやるくらいはしてやるけどさぁ……。

 

「おい、アーニャちゃんに下着の色とかくだらないこと訊くんじゃねぇぞ?」

 

「なんでわかった? というか、口調がぺこらになった途端に圧がすごいんだけど?」

 

 やっぱり訊こうとしたのか。本当にコイツだきゃあ……尊敬してるけどぜったい口にしてやんねぇし、さっきのお礼に一回くらい触らせてやろうかと思ったけどそれもナシな。

 

「ほら、他に訊くことがねぇなら代われコラ。それともみんなを代表して代わりに訊くか?」

 

「うーん、マリンはそれでもいいけど……アーニャちゃんがみんなの質問に答えると言った途端にコメントがこれだよ? 普段ならともかく、今は訊くだけ無駄じゃない?」

 

 眉間に皺を寄せた社畜ネキが大画面を睨むが、おいまさかコイツ、あのコメントを目で追ってるんじゃないだろうな?

 

『はいっ! アーニャたんに質問があります!! アーニャたんは視聴者の質問に答えるって言ってたけど、それってあの光の滝みたいなコメントを解読できるってことでしょうかッ!?』

 

 と思ったら、ピンクの園児と化したさくらみこが割と核心に近い質問をしてくれた。

 

『うん。アーニャのパソコンに送られてくるコメントはね、サーニャが『草』とか『W』だけのあまり意味のないコメントは表示しないようにしてくれるから、なんとか目で追えるよ。ねぇサーニャ、ちょっとどんなもんか見てもらいたいから、YTubeのほうのコメントも減らしてもらえるかな?』

『はい、かしこまりました』

 

 そしてアーニャちゃんがサーニャちゃんにお願いして、コメントを減らしてくれると言うからどんなものかと思ったが、肉眼ではまったく見分けがつかなかった。

 

『えっ……なんか全然変わってないんだけど、アーニャたんはこれを目で追えるってことぉ?』

『うん、いま社畜ネキさんのコメントがあったね。これくらいならなんとか目で追えるって言ってるよ』

 

「やった、さすがアーニャたん。やっぱり大好きなお姉さんのコメントは見逃さないね。もう大好き」

 

「『に、人間業じゃない』」

 

 そう漏らしたのは誰だったのか。もしかしたらこれを視ている全員の率直な感想かもしれない。

 

「あっ、みんな見た? アーニャたんに彼氏がいるか訊いた馬鹿のコメントが一瞬で消されたわ。ダメだろ、そんな萌え豚が発狂しそうなことを訊いたらさ」

 

 そして社畜ネキは確実に人類の一員じゃない。さすがに人間離れした動体視力を自慢するためにウソをつくとは思えないから、そうなるとそんなコメントを拾えたコイツも天才(へんたい)の一員になる。本当にどうなってんだ最近の日本人は。

 

『やっぱりすごい眼してんね。あたしなんてスバちゃんの配信に顔を出したときのコメントも全部は追えなかったのに』

『うん、慣れるまでそれが普通だよ。でも安心して? 0期生のみんなも視てくれてるみたいだから言うけど、ホロライブの事務所に預けた配信用のソフトには、サーニャが普段使っているAIと同じものが標準搭載されているから、拾ったほうがいいコメントをピックアップしてくれる機能もあるから』

『はい、他にも皆さまの負担やストレスを軽減するため、私の制作した全自動モデレーターには、答えたくない質問をキーワード方式で事前に設定することで非表示に機能もあります。もちろん面倒ならコメントの選別をAIに委ねることも可能ですので、どうか怖がらず、視聴者のコメントに目を向けていただけたら幸いです』

『なーほーね。さくら完全に理解したわ』

 

 二人がかりの親切な回答に園児はそう締め括ったが、あの顔は何も理解していないと何故か判った。

 

「うーん、これは解ってませんねー。確実に解ってない。あやめの生返事と一緒だ」

 

「フブキひどくね? ナキリ、コメントはサーニャちゃん推薦の金コメだけ追ってりゃいいやって理解したんだけど?」

 

「そうじゃなくて、私の小言を聞き流してるときのお前と同じ返事だって言ってるんだ」

 

 これも個性か。理解度は人によって変わるが、中村さんの表情から、事務所でも把握しきれていない重要な話が続いている。聞き逃しちゃいけないと前のめりになると、今度は若干怖いものがある星街すいせいと、無邪気なフリをするサメの子(名前忘れた)が揃って手を挙げた。

 

 二人は横目で互いに確認したようだが譲る気はないらしく、張り合うように背筋を伸ばした。

 

「ガキか、こいつら……」

 

 これには社畜ネキも呆れるしかなく、わたしも選ぶ立場のことも考えてやれよと思わざるを得なかったが、アーニャちゃんにとっては大した問題ではないのか、素早く主人の顔色を窺った愛犬の頭を撫でると無慈悲に宣言するのだった。

 

「はい、こういうときは小さい子が優先。すいちゃんは終わるまで待ってね」

 

 ああ〜、って泣き崩れるすいコパスを他所に、やったやったとはしゃいで見せるサメの子は、しかし、その清楚な絵柄とは裏腹にとんでもない質問を繰り出すのだった。

 

『ええとね、わたし下ネタとか、セッ◯スの話が大好きなんだけど、配信でやっていいのかな?』

 

「オイィィィ!? 社畜ネキでもないのにナニ訊いてんだお前ェェェ!!」

 

 これは叫ばざるを得ないが、叫んだあとに少しだけ酷いことを言ってしまったと反省した。

 

 社畜ネキはアーニャちゃんにそんなことは言わない。もし言っても、アーニャちゃんを恥ずかしがらせようって意図は、たぶん無い、はず。たんに自分の欲望に忠実なだけ……でもこのクソガキは違う。

 

『アーニャも女の子なんだからそういうのに興味あるでしょ? だからわたしね、VTuberになったら自分の配信でね、イン◯ートしたときの話とか、色んな話を聞いてみたいんだけどいいかなぁ?』

 

 見ろあの顔。コイツ解ってて訊いてるだろ。でも残念だったなぁ。わたしたちのアーニャちゃんはそんなセクハラ程度じゃ揺るがねぇぞ?

 

『YTubeの規約に触れない範囲だったらいいんじゃないかな? もしBANされても、ぐらちゃんの心に恥じるものがないなら事務所に報告してね。もし解っていて言ってるんだったら──』

 

 顔色ひとつ変えず、澱みなく答えるアーニャちゃんの目配せを受け、心得ましたと答えた従姉妹だという女性が、むんずとクソガキの頭を掴んだ。

 

『痛い痛い! やめてよ、リア……じゃなくてココ!!』

『まったくあなたという子は……放送禁止用語に触れなければセーフというわけではありませんよ? こっちに来なさい、悪い子にはお仕置きです』

『やだやだ、児童虐待反対! お尻ぺんぺんだなんて、児童ポルノ規制法が許さないよ!?』

『あなたは海底で2万年以上眠っていた悪い子だから合法です。さあ、解ったら素直にお尻を出しなさい』

 

 そして響き渡るクソガキの悲鳴とリアルな打撃音。いい気味だと思うが、同性でもなかなかに刺激的で、配信に参加しなくて良かったと思うような代物である。アーニャちゃんの弟とか、性癖を拗らせる前にご両親の手で引き留めてもらえるんだろうか……?

 

「……なんか凄いことになっちゃったね」

 

 社畜ネキでさえ気まずそうな顔をする中、何を思ったのか笑顔で話しかけてくる子もいたけど、こんなときだけ人付き合いに積極的になるのはやめてもらっていいですか?

 

『えー、それじゃあさっきの続きですいちゃんどうぞ』

『この流れで続けるの!? どうしよう、すいちゃん、すっごく気まずい!!』

 

 若干サイコパスな気質の窺える星街をしてこれだ。こんな空気の中で平然としてるアーニャちゃんはプロ意識がすごいのか、それとも恥ずかしいけど必死に我慢してるのか、それ以上は、あまり考えたくない……。

 

『大丈夫だよ。ココさんはぐらちゃんの正式な保護者だし、子供が悪いことをしたらきちんと叱ってあげるのはいいことだからね。アーニャだって、サーニャとユッカや、弟が悪いことをしたら叱ってあげるけど、善いことをしたら抱きしめて褒めてあげるからね』

 

 ……うん。言ってることは間違ってないし、共感できる。

 

 わたしだって弟がいたら、年齢的に抱きしめはしないが叱るときは叱る。何もおかしくないし、何も間違っていない。さっきのは気の迷いだと、ようやく吸い込んだ息を吐き出すことができた。

 

『うーん、なら訊くけど……さっきアーニャちゃんさ、すいちゃんのために歌を作ってくれるて言ったけど、本当にお願いしていいの?』

『いいよ! もともとVTuberみんなに、それぞれテーマソングを用意しようと思ってたし、閃いたからいま歌うね? サーニャ、モニターとマイクをエレクトーンの前までお願い!!』

『えっ……いま閃いたって……?』

『はぁ……やはりそうなりますか。仕方ありませんね。音楽関係者の皆さまにおかれましては、どうか天才の奇行でダメージを受けないように、心身を労ってください』

『よし準備オーケー! 名付けて星街すいせいのテーマソング『魂の欠片を集めて』歌ってくよ!!』

 

 そして流れ出す荘厳でリズミカルな演奏と、物悲しく胸に来る歌声。その曲にどんなメッセージが込められているのか理解が及ばないというのに、ただ耳にしただけで熱いものが込み上がる。そんなのを即興で仕上げるなんて、やっぱりアーニャちゃんは反則だ……。

 

「いやー、さすがは奇跡の歌姫。久しぶりに炸裂したね。アーニャたんの天才ぶりがさ」

 

「私にもサーニャさんの警告の意味が解ったわ。これが以前から温めていたものではなく、もし本当についさっき閃いたものなら……やっぱりあの子は人類の至宝よ。そうとしか言いようがないわ……」

 

 泣いているのはわたしだけじゃない。ふてぶてしく言い放った社畜ネキも、クールな中村さんも目尻に熱いものを溜めている。白上さんも堪えきれないのかティッシュを何枚も使ってるし、あやめさんに至っては洟も垂らす始末だ。

 

「『う゛う゛……ア゛ーニ゛ャ゛ち゛ゃ゛あ゛ん゛……』」

 

 そしてモニターの中と外から似たような音声がシンクロする。意外と感受性が強いのか、あくたんはしゃくり上げるような嗚咽を漏らして、画面の向こうの星街も似たような有り様だ。

 

『うん、こんなもんかな? あとでサーニャがカラオケ風にアレンジしたミュージックビデオと、専門的な楽譜と歌詞を送るから大事に使ってね?』

『うん、ありがとう……すいちゃん約束する。いつかこの曲を歌えるようになるって、頑張るから……』

『良かったな星街。アーニャたんに感謝しろよ』

 

 何故か偉そうにピンクの園児が締めくくるが、それを疑問にも思わず、星街すいせいはしきりに頷いている。

 

『あー、次はあたしからいいかな?』

 

 未だに感動が覚めやらぬ中、それでも目元を赤く腫らした銀髪の女性が場を繋ぐように手を挙げる。

 

『いいですよ。ぼたんさんから何かありますか』

『うん、ぶっちゃけね、あたしVTuberがどんなものか理解しきれてないところがあるから、アーニャさんに教えてもらいたいと思ってさ』

 

 その疑問はわたしにとっても他人事ではなかった。むしろ核心と言っていい質問だった。

 

『現状だとさ、VTuberと言えばアーニャさんなワケよ。絵もすごい、歌もすごい。ゲームは上手い下手に関わらず何でもやってみんなを楽しませる。トークも魅力的でみんな惹き込まれるし、どんなに早いコメントも拾って視聴者に参加してる意識も持たせる。宣伝っていうか、製品の魅力を伝えるのも巧くて、アーニャさんが手にしたものは同じものが欲しくなる。凄すぎて、あたしにはとてもじゃないけど同じことはできない。指標がそれだから、どこまでやったら合格ラインかも判らない。そういう不安、うまく伝わるかな?』

 

 そうだ、ぼたんさんのいう通りだよ。アーニャちゃんのようになりたいと思っても、見上げる頂きはあまりにも高すぎて終極が何処にあるのかも判別がつかない。

 

 真似をしているつもりだと口にするのも恥ずかしくて、その偉大さを実感するたびに自信がゴリゴリと削られる。

 

 だからわたしも訊きたかった。どこまで頑張ったら友達だって認めてくれますかって……。

 

『ふふ、アーニャのVTuberの定義は簡単だよ。自分が楽しいと思ったことをするの』

 

 そんなわたしに、アーニャちゃんが真っ直ぐに語りかけてくれたのはいつだったか──返って来るはずのないファンレターの返事を、配信中に受け取ったときだろうか?

 

 その笑顔を忘れるはずがない。わたしたちのために道を拓いてくれたと教えてくれた、あの時の笑顔を……。

 

『アーニャはね、もっと色んなことがしたいの。0期生と1期生のみんなを集めてM人狼もしたいし、これは報告したかな? 今ね、N社の宮嶋さんっていうとっても素敵なおじさまが、ホロライブ版のM人狼を作ってくれてるんだよ。どんな感じになるのか楽しみで夜も寝れないよね』

 

『他にもみんなと一緒に3Gもしたいし、Mカートもしたい。ここで言うみんなはホロライブのみんなだけじゃなくって、視聴者のみんなも気軽に参加できる枠組みを作りたいな』

 

『他にも絵も描きたいし、もっともっと歌ってみたい。でもね、みんながみんな、アーニャと同じことをする必要はないの。みんなの期待に応えなきゃって、余計なことも考えなくていい。アーニャが楽しめたら大成功。みんなも喜んでくれたら万々歳だね。VTuberに勝ち負けの基準があるとしたらそれだけだよ』

 

 深く染み入る言葉に、訳もなく頷き続ける。そうだ、わたしにもある。やりたいことが、なりたいものが目の前にあるんだ。

 

『スバルちゃんもバズったから次もみんなの期待に応えなきゃって、好きでもないホラーゲームをやることはないからね。もともとサーニャに嵌められたようなものだし、嫌になったら投げ出したっていいんだよ。何よりも、誰よりもスバルちゃん自身が楽しめなきゃ意味がないんだから』

 

『いやぁ、そう言ってもらえると助かりますが、スバルは意外と嫌じゃないかもしれないんですよね。もちろん怖くて精神は錯乱寸前ですし、膝はガタガタ震えますが、なんて言うんですかね? 意外と癖になるというか、悪くないと思うんですよ……いざとなったら助けてくれそうな仲間にも心当たりがありますしね』

 

『それあたし? 参ったな、TPSは専門外だけど、しゃーねーから助けてやるよ。感謝しな』

 

 言葉遣いこそ乱暴でぶっきらぼうに吐き捨てたが、その表情を見る限り、ぼたんさんの内心は晴れやかなようだ。

 

『アーニャさんもありがとう。ようはあたしはあたしでいいってことだね』

 

 その言葉に答えるアーニャちゃんの笑顔をわたしは一生忘れないだろう。

 

 演者の表情を再現するLive2Aは断じて虚構ではない。マスコミ対策の際に一枚だけ顔写真が公開されたあの子も、きっとこんな笑顔を見せてくれたと信じられる。

 

『うん、それがVTuberの醍醐味ってヤツだよ』

 

 

 

 

 

 それからも、おしおきが終わった二人組を交えて質疑応答が続けられた。

 

 アーニャちゃんは次々と投げかけられる疑問に自信をもって回答したが、時には返答に詰まる質問もあった。

 

『おい誰だよ男が女性経験を積むことをどう思うか、女が逆にレベル上げをすることをどう思うのかなんて訊いたヤツはさぁ』

『社畜ネキじゃない? アイツなららいけない経験を積んでレベルが高そうだし。アーニャさんにそんな汚れたオトナを肯定してほしいって気持ちもありそうだしさ?』

 

 大空スバルの悲鳴と、獅白ぼたんの推測に疑惑の視線が一身に集中する。もちろん、わたしも社畜ネキを疑ったクチだ。

 

「海音さん……?」

 

「違う、違うんです。お姉さんこの歳で処女なの……小学生の頃から男の子同士の恋愛物が大好物で、現実にはノーサンキューだったから、ホントに経験がないの。お願い、信じてみんなぁ……」

 

 冷え切った中村さんの視線に耐えきれず、社畜ネキが膝を折って訴える。

 

 マジか……中村さんと同年代って言ってたクセして、未経験かよ……モテそうな外見をしてんのに、現実の男に興味がないとか拗らせすぎだろ。

 

「うーん、信じたいところですが、社畜ネキは色々と前科がありますからねぇ。現実の男の人はアウト・オブ・眼中でも、女の人は経験豊富だったというオチが待ってるんじゃないですか?」

 

「違うの、それも違うの……お姉さんがそういう感情を抱いたのはアーニャたん以外だと、女子校時代の親友しかいないけど、そっちは告ったらソッコーでフラれたから本当に潔癖なの。お願い、信じてみんなぁ……」

 

「なぁーにが、信じてみんなぁ、だよっ! 遂に馬脚を現しやがったな……アーニャちゃんを狙うとはふてぇ野郎だ!!」

 

「だからグッと堪えて我慢してるっつったろ! 好きなものが好きで何が悪いんだ、バーカッ!!」

 

 開き直った社畜ネキに正義の制裁を加えようと身構える一方で、モニターの向こうではまた別の動きがあった。

 

『いまこっそりスマホを操作していましたね? 出しなさい。確認します』

『えっ、これは違うよ……これはね、アーニャに頑張ってってコメントを……やめてよ! 本人の承諾がないのにスマホを勝手に見るのは卑怯だよ!?』

『何が卑怯ですか! コメントのログにバッチリ残ってるじゃありませんか!』

『やだ、やだよ……わたしのお尻はもうパンパンだから、お仕置きは勘弁して……』

『なら正座なさい! アーニャさんの配信が終わったら説教です! 今夜は寝られると思わないように!!』

 

「あ、ナキリ思い出したわ。この二人アレだよ。なんか異様に日本語の上手い二人組の海外ネキでさ、片方が純真無垢な文面のわりにセンシティブな話題を振ってきてさ、もう片方のお堅い海外ネキに怒られるのがソックリやわ」

 

 楽しそうなあやめさんの笑い声に、視線で休戦を成立させたわたしたちは中村さんにお願いするのだった。

 

「とりあえず、このマセガキの研修は厳しめにお願いしますね」

 

「そーだねー。言って良いことと悪いことの区別はしっかり付けてもらわないと」

 

「ええ……従姉妹のコーデリアさんの指導を参考に、特別厳しいものを用意させてもらうわ」

 

 中村さんが頭痛に耐えるような渋面になると、白上さんがしみじみと述懐した。

 

「いやぁー、おかげでいい勉強になりましたけどね。事務所としてもこうしたトラブルを避けるために、私どもを教育してくださっているのだと痛感しました」

 

 いや本当にウケ狙いであんな質問を身内からされたら溜まったもんじゃねぇよな。グッタリと疲れきった体を椅子の上に沈め込むと、心配そうなゴン太くんが覗き込んできて、密かに癒やされたが……それとは逆の方向からツンツンと肩を押されて振り返ると。

 

「ねぇねぇ……聞いた? 社畜ネキって、アーニャちゃんみたいな可愛い女の子が好きなんだって……」

 

 だからこういうときだけコミュニケーションに積極的になるなって言ってんだろ、この超ド級のコミュ障のクソ陰キャが!!

 

『ところでアーニャたんって質問の答えはどうなの?』

『アホか! そんなことをアーニャちゃんに訊くヤツがあるかぁ!!』

 

 そして空気の読めないピンクの園児が真顔で質問して、サイコパスの気があるとあらぬ疑いを抱いてしまった星街を激怒させる。

 

 まったく。あの凶悪そうな星街が一番まともってどういうコトだよ……1期生は研修前だから仕方ないかもしれんが、いつ炎上してもおかしくない問題児ばかりじゃねぇか。少しはここまで無言を貫くアーニャちゃんのスルースキルを見習えってんだ。

 

 と、そんなふうに思っていた時期がわたしにもありましたよ!

 

『……わたしとしては、男の人のレベル上げには賛成かな? 男の人のレベルが低すぎると、女の人が苦労しそうだからね。サーニャはどう思う?』

『正論ですね。女性の場合は、レベルを上げる過程で体を損ねる可能性もありますから、くれぐれも避妊にはご留意を。……ただ、それを除けば、男女の情感を育てる意味でも、婚前交渉は悪いことばかりではないかと』

 

 まさに開いた口が塞がらなかった。

 

 なんということだろうか。都合の悪い質問を黙殺するかと思った二人が、まさか真摯に回答するために言葉を選んでいたとは……。

 

「これ、アーニャちゃんとサーニャちゃんにも研修を受けてもらったほうがいいんじゃないでしょうか?」

 

「うん、マリンもそう思う……あんな質問に答えることないってちゃんと指導してあげなきゃ」

 

「アーニャさんはアレですね……純粋培養すぎてご両親が不安になるパターンですね。うちのあやめもそうでした」

 

「えー? そっちのほうは結婚してからするもんだと言われたから、余は普通に興味ないんだけど? フブキに一生養ってもらう気だから、結婚自体する気ないし」

 

「うわぁ……ねぇねぇ、聞いた聞いた? あやめさん、フブキさんとずっと一緒だって」

 

「はぁ……アーニャさんたちはマネジメント以外する必要はないって思ってたけど、これは心配ね。いいわ。今度の日曜にでも、最低限の指導を行うように真白代行に打診してみるわ」

 

 こうして天才にも思わぬ落とし穴があることに気がついた大人たちによって、本来無関係と思えたアーニャちゃんたちを呼び出して最低限のお願いをする日が決定して、社畜ネキが最終日となる土曜以降も事務所に顔を出すことになったが、わたしは様々な事情から大目に見てやることにしたのだった。

 

 

 

 

 

「はい、ご愁傷さま。せっかくのチャンスだったのに、社会的にも名士のお父さまがご一緒で近づくことも出来ないんだから、はい、無様、無様。無様ぺこなぁ〜!」

 

「ぐっ……このクソガキが。代わりに襲ってやろうか? 大人を揶揄うと痛い目に遭うって、その 幼気(いたいけ)なボディに叩き込んでわからせてやりたいけど、さすがに可哀想だから、休憩中に愚痴の相手をしてくれたら許してあげようかなー、なぁーんて」

 

「ぺこらは構わないよ? 社畜ネキは嫌いじゃないし、優しくしてくれるんだったら……」

 

「え゛? それってマジ……?」

 

「んなワケねぇぺこだろ? はい、引っかかった! バーカ、バーカ、エロボケクソ雑魚船長〜! 一生海賊のコスプレやってろ〜!!」

 

「ぺ、ぺこら、テメェエエエ!!」

 

「アハハ、バーカバーカ、その歳でかけっこして追いつけるワケねぇだろ、バァーカ」

 

 

 

 

 

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