転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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視聴者参加型3G開幕 〜さて、気になるゲストの内訳は?〜

 

 

 

 

 

 2011年12月15日(木)

 

 

 時計の針が8時ちょうどを指すと同時にオープニングが起動する。

 

 今夜は視聴者参加型の3Gということもあって、使われるのはPC版にも採用されたアーニャちゃんねる特製スペシャルPV──その続編にあたるものだ。

 

 今回は3Gの販売元であり、製作プロデューサーであるC社の藤本さんに「集会所のラスボス、出しちゃっていいから! それとアーニャたんがデザインした白いドレスの少女、こっちでも使っていい?」と言われているので、過去のPVでは部分的にしか登場しなかった深淵より現れし煉黒龍にのっけから大暴れしてもらった。

 

 まるで海底火山が上陸したかのような大自然の猛威に、厄海にほど近い海岸付近で迎撃する狩人たちは善戦しつつもなす術がない。それもそうだ。煉黒龍の巨体から見れば、狩人の矮躯など虫けらのそれと大差ない。

 

 この怪物をここで止めねば背後の港町はもちろん、故郷の島もただでは済まない。その想いを胸に狩人たちは奮戦するが、やはり根本的な質量の差は埋まらない。

 

 足元にまとわりつく狩人たちに多少は苛立ったのだろうか、煉黒龍が遂に決定的な暴威を解き放たんとする──そんなときだった。

 

 はるか水平線の彼方より放たれし対古龍用の弩が煉黒龍の巨体を穿つ。思わぬ痛撃に苦悶の叫びを響かせた煉黒龍が初めて首を巡らして敵影を求め、窮地を脱した狩人たち(うん、アーニャたちだよね)もそれを見た。

 

 厳かに『英雄の証明』が奏でられるなか、大海原よりギルドの増援である船団が頼もしい姿を見せつける。

 

 ギルドはモンスターの乱獲を防ぐために討伐依頼の参加人数を厳しく制限しているが、今回のように例外もある。煉黒龍が周辺諸国を滅ぼしかねない脅威と認めたギルドは、最大で24名が受注できる大討伐を発動したようだ。ギルドの船団に懐かしい顔ぶれを認めた狩人たちの口元が綻ぶ。

 

 故郷の島の村長に、「ハンターさぁん!!」って両手を振るとっても元気なギルドの受付嬢。その他にも、あれ? なんか本人としか思えないような海賊……じゃない、マリン船長がいると思ったら、その後ろにホロライブの狩人が全員集合してない?

 

 いや、ファンサービスとしてはアリだけどさぁ……マリン船長はしゃぎ過ぎ。これ作った人どんだけこの人のことが好きなのって隣を見たら、サッと目を逸らしやがった。やり過ぎたという自覚はあるのね。

 

 かくして煉黒龍と狩人たちの決戦の幕が切って落とされたところで「copcon presented. アーニャちゃんねる視聴者参加型怪物狩人3G」と表示されてフィニッシュ。

 

 パソコンから音が鳴り始めた時点で直前の悪夢を思い出し、膝の上に避難した愛犬を抱っこしながら、挨拶しなきゃなぁと諸々の不安を飲み込む。

 

「こんにちはぁー! 毎度お馴染み電子の妖精アーニャだよ!」

 

 するとまぁ、コメントが凄まじい勢いで流れること流れること……。

 

 これが純粋な挨拶だけだったらまとめてお礼を言ったら終わりなんだけど、半分くらいはやっぱり「ねぇ、新作のPVに社畜ネキがいたんだけど、まさかもう復帰するの?」ってツッコミの嵐だからね。そんなのいちいち答えていられないよ。

 

 サーニャ(サブちゃん)もさぁ……細部まで凝るのはいいんだけど、みんなの疑問に答えなきゃいけないのはわたしなんだから、少しは手加減してほしかったな。

 

 まぁ、やってしまったことはしかたないか。とりあえず妙な誤解をされる前になんとかせんと……。

 

「ええと、今日はね? ずっとやりたかった視聴者参加型3Gをやっていく予定だから、それにちなんだオープニングPVを作ったんだけど……ギルドの増援にそれっぽい人がいたのは、あくまで演出優先のイメージ映像ってだけね? 別に本人が登場したり、アーニャたちと遊んでくれるみんなをそういう目で見てるわけじゃないから、誤解しないでもらえると嬉しいかな?」

 

[アーニャたん微妙に必死で草www]

[まあ穿った見方をしないで、ギルドの増援=一緒に狩りをする俺らで納得しようぜ]

[社畜ネキがPVに出しゃばったせいでアーニャんが慌てるこの構図よ]

[俺もあのシーンを見て社畜ネキが湧いてくるんじゃないかと緊張したわww]

[ねぇお兄ちゃん、どうして社畜ネキすぐ湧いてくるん?]

[社畜ネキがGのような扱いwwwwww]

[なんでだよ! お前らがどうこう言える立場かよ!!〉マリン船長]

[あー、そこはほら、後ろにあたしたちもいたし〉獅白ぼたん]

[あくまで演出優先のイメージ映像だよ♪〉がうる・ぐら]

 

 そうしたら、うん……本人らしき人物から抗議が来たけど、みんな概ね納得してくれた……かな?

 

 まぁいいや。今度から類似の映像には視聴者に配慮してモザイクを掛けてもらうとして、話を進めよう……。

 

[ちょっとホロライブさん? 収監中の危険人物が脱走してるんですけど]

[ほらほら、帰れよ社畜ネキ。アーニャたんも困ってるぞ]

[congratulations on your release, corporate slave neki]

[いつ放送禁止用語を口にするか分からんヤツが出てきたらダメだろw]

[暴れんなよ……暴れんなよ……]

 

 それにしても……ちょっとコメントに顔を出しただけで社畜ネキさんの話題一色になるんだから、やっぱりすごい人なんだなって感心しちゃうな。

 

「んっ、というわけで今夜は仲間の二人を交えて、みんなと一緒に3Gを遊んでいきます。まずはアーニャと一緒に苦労する人たちの挨拶から」

 

 そうわたしが宣言すると、いつものログハウスの室内にマナカとスバルちゃんが登場する。

 

「みなさんこんにちは。お久しぶりです。アーニャの友達のうるるかマナカです」

 

「ちわーっす! ホロライブ1期生になる予定の大空スバルです。本日もよろしくお願いしまぁーす!!」

 

「えっ? マナカってそんな名前なの?」

 

「そ、そうよ! わたしだけ上の名前をつけ忘れちゃったことに気づいて、慌てて考えたわけじゃないんだからね!?」

 

 真っ赤になって余計なことまで口走る友人に笑い出したくなるのを我慢する。

 

 上の名前が全部ひらがなというのは、いかにも漢字が苦手なこの子らしいエピソードである。おそらくだけど語感だけで選んで、パソコンの文字入力の変換でしっくりする漢字が出てこなかったんだろうな。

 

 単純に『うるるか』じゃなくって『うららか』のつもりだった説もあるけど、まぁこの場で指摘することじゃないかと、事態の収集を試みる。

 

「そうなんだ、素敵な名前だね」

 

「えっ、うん? わ、わたしもね、すごく気に入ってるんだけど、別に漢字が思いつかなかったわけじゃないから!」

 

 だが、さすがは撮れ高の神さまに愛されたドジっ娘聖女だろうか。ますますドツボにハマりそうな勢いに、この短い時間にマナカがどんな子か理解したスバルちゃんが助け舟を出してくれた。

 

「まぁスバルも自分の名前が思いつかなくって、全部アーニャさんにお任せしちゃった経緯がありますからね。どんなお名前でも自力で思いついたマナカさんはすごいと思いますよ、スバルは」

 

「え、ええ……というわけで、アーニャの友達のマナカ改め、フリーVTuberのうるるかマナカです。視聴者のみなさまにおかれましては、これからもどうぞよろしくお願いします……スバルさん、ありがとうね」

 

「どういたしまして」

 

 うーん、やっぱりいいねこういうやり取り。

 

[いま俺はッ! 尊いという言葉の意味を魂で理解したぜッ!!]

[ス虐の子もええ子や……マナカたんもきちんとお礼が言えるなんてえらいね]

[あ〜、心がぴょんぴょんするんじゃ〜!]

[そんなス虐の子にホラーをやらせて喜んでた俺ら、反省してどうぞ]

[まぁス虐はしゃーない。ここまで大きくなったら、気軽にア虐を期待するわけにもいかんし]

 

 将来的に信頼関係が形成されたら容赦なくネタにするのもVTuberだけど、やらかしちゃって本気で困ってる仲間を自然とフォローできるのもVTuberだ。そうした文化に馴染みつつある視聴者の存在も心強い。

 

 今日の配信は内容が内容だけにかなり大変だけど、わたしも二人をフォローするぞっと黒幕に話を振ってみる。

 

「じゃ、みんなきちんと挨拶できたから3Gをやっていきたいんだけど……マルチで部屋を作ってみんなに入ってきてもらえばいいの?」

 

 わたしが訊ねると、我関せずとばかりにログハウスの掃除をしてたサーニャはめんどくさそうにしながらも、よくぞ訊いてくれしたとばかりに口元を綻ばせ、自然な調子で場を繋いでくれた。

 

「当初はそのような形式も考えましたが、残念ながら3Gにはボイスチャットの機能が搭載されていませんからね。下手をしたら、プロハンの皆さまが淡々とモンスターを処理するなか、することがないアーニャたちがボソボソと独り言を口にするだけの配信になりかねない。そのような配信は、視聴者との対話を重視するアーニャちゃんねるとしてはあまりにもお粗末。そこで今回はこのようなものを用意しました」

 

 そこでドヤ顔のメイドが手元のスイッチを押すと、彼女の背後に電光掲示板が迫り上がってきた。

 

 左上から1番、2番と、合計で27番までの番号が横9列、縦3列に並ぶ電光掲示板には、赤・青・黄と、3色のランプが3マスずつ同時に点灯している。

 

「実はご存知の方も多いと思いますが、この日のために某所で募集を掛け、厳正な抽選の結果、27名の参加者を選出いたしました。こちらの1から27までの数字が参加者の番号。そして背後のランプは、赤がアーニャ、青がマナカさま、黄色がスバルさまのお部屋を意味します」

 

 続いて何かしらのボタンが押され、3色のランプが激しく点滅する。まるでそれぞれ3つずつの光が、左から右へ高速で移動しているように──。

 

「もうお分かりですね? それぞれの参加枠は3つずつ。赤いランプが点灯した番号に該当する方はアーニャの部屋に、青の場合はマナカさまの部屋に、黄色の場合はスバルさまの部屋に入っていただき、最大で30分、3交代で楽しくお喋りしながら遊んでいただくことになります。もちろん私の一存でゲストのLive2Aも用意していますから、会話には困りませんよ」

 

 うん、ここまでは問題ない。二人とも目が合うと納得したようにうなずいてくれた。だから問題はこの先なのだ。

 

「なお今回は国賓レベルの方々や、世界的な大企業や団体の重鎮の方々が多数参加しておられますが、過度の礼儀は不要であり、いつも通りに接してほしいとのことなのでよろしくお願いします」

 

 途端に『えっ!?』という顔で凍りつく二人に親指を立てる。

 

「グッドラック、マナカ。フォーエバー、スバちゃん……。二人のことは忘れないよ。永遠にね」

 

『ちょっ、聞いてないにも程があるんだけど!?』

『ほわああああっ! そんなのスバルにどうしろってんだぁあああっ!?』

 

 悲鳴もむなしく『共同配信者のうるるかマナカさんと、大空スバルさんのライブ配信が分離されました』と表示され、パージでコクーンされた彼女たちの配信画面に断末魔の字幕が表示される。なんまいだぶ。

 

「ふむ? どうせですからハズレの番号には判りやすくマークでもつけておきますか」

 

「わぁ……とってもロシアンルーレットだね」

 

 少しずつ遅くなる青と黄色のランプが髑髏のマークが記入されと番号に近づくたびに、二人の配信画面がすごいことになる。

 

『ちょっと待って! その人たちってどう考えてもアーニャに会いに来てるわよね!? わたしに代わりは務まらないわよ……助けて!!』

『スバルはね……なんというか悟りました。友達にお呼ばれして内心ウキウキでお邪魔したら、天皇陛下とかそういった人たちにご挨拶される……これがアーニャちゃんねるのスタンダードなんですね』

 

 うーん、なんという阿鼻叫喚(あえんびえん)──でも作画が崩壊したマナカと、瞳からハイライトが消えたスバルちゃんがおっかしい。

 

[これがうわさのグループ配信機能か……便利な世の中になったねww]

[リアルタイムで字幕が更新されるから、向こうの様子がすぐ判って便利だねw]

[あかん、この展開は予想できたのに面白すぎるwwwww]

[まーたあのスレが悪さしやがって……反省しろwww反省をwwww]

[うはwww面白すぎてス虐の子の配信をクリックしたら鼓膜やられたwwwww]

[なんというリアルバインドボイスwwwwwwww]

[やべぇ、マナカたんの曇らせフェイスがどことは言わんがクリティカルしそうww]

[Is that a Japanese hentai game?]

[これでスー君のところに【検閲削除】がきたら笑っちゃうなぁ〉マリン船長]

 

『あああっ!? 部屋から逃げようとしたら扉の向こうに司祭さまがいて、一度引き受けたことを軽々しく投げ出してはいけないよって言われちゃったわ!!』

『まあスバルはね、どんなことでもやるという覚悟でVTuberになると決めましたから、閻魔大王でも聖なる四文字さんでもドンと来いですよ……』

 

 あまりの惨状にコメントが草に覆われても芝刈り機を発動しようともせず、愉快犯のメイドは満足そうに電光掲示板を見つめ、そして──。

 

「……残念です。今回は誰もハズレを引かなかったようですね」

 

 うん、なんか舌打ちの音もしたし、やりたい放題のメイドを叱らなきゃいけないって分かってるんだけど……もうね、面白すぎてそれどころじゃなかったんだ。

 

 本人は客間から配信しているものの、パソコンのモニターからスバルちゃんの声が聞こえるたびにビクビクする愛犬を膝の上におろして、目元の涙を拭ったわたしは笑いだしくなるような気分で宣言するのだった。

 

「はい、それでは1番と3番と17番の方はアーニャの部屋に。7番と20番と22番の方はマナカの部屋に。13番と18番と25番の方はスバルちゃんの部屋に。それぞれ順番に招待するからちょっと待ってね」

 

 こんなことを言うと、この世の終わりのような顔をしている二人に怒られるかもしれないけど、わたしはこれからどんな素敵な人たちに会えるんだろうって楽しみで仕方なかった。

 

 

 

 

 

 そうして招かれたゲストの方々は、みんな当然のようにLive2Aを適用した現れた。それもわたしが描いたとしか思えないほどよく似たタッチのデザインで、だけど、もちろんわたしは描いた記憶がない。

 

 わたしが描いたんじゃないのに、わたしが描いたとしか思えないキャラクターが目の前に存在する理由。そのカラクリをわたしは知っている。これは未来のAI(サブちゃんたち)が描いてくれたものだ。

 

 人間が描いた漫画やアニメ、イラストを研究して、十分に学習したAIに「こんなイラストを描いてほしい」と注文する技術が存在することはわたしも()っていたが、まさかここまでそっくりに仕上がるとは思わなかったからビックリしちゃった。

 

 思わずこれならわたしも絵師廃業だねと絶賛するも、サーニャ(サブちゃん)はそうした評価に懐疑的だった。

 

『たしかにこうした技術は、ゆかりの識る時代の少し後に一世を風靡しましたが、すぐに廃れましたよ。所詮はどこかで見たことのあるような絵を精巧に継ぎ接ぎしているだけに過ぎませんから。今回は数が数ですので、質より量を優先して私たちが担当しましたが、機械に人類を心から感動させるものは用意できません。ゆかりにはその点を踏まえ、今後もVTuberの魂の器であるデザインを考案するようにお願いします』

 

 うん、それはたしかにわたしの仕事だけど……目の前の看護師のお姉さんと大きなツノを持った小さな女の子と、アイドルのコスプレみたいな格好をした女の子を見ると、十分にすごいなって思えるんだけど……これはわたしが単純なだけだろうか?

 

 まぁいいや。感動するのはこれくらいしてみんなとお話ししようか。

 

「初めまして! お会いできて光栄です。まずは自己紹介をお願いしてもいいかな?」

 

「はい! わたしは札幌で看護師をしている白鷺風香(しらさきふうか)って言って、あのスレではシラ姉とかフーたんって呼ばれてます。年齢は24歳で、マリンほどじゃないけどわりとおばさんかな? 今日はよろしくね!!」

 

「あっ……吾輩は、虚空の皇女ラプンツェル……銀河宇宙帝国のお姫さまで、年齢は完全な不老不死を実現してるから、2011歳って設定で……あのスレではラプちって呼ばれてて、あっあっ、アーニャさん、はっ、初めまして……」

 

「あの、アーニャちゃん、じゃない、アーニャさん初めまして……わたしは、その、ただの一般人で……名前は、ええと、ただのソラでお願いします」

 

 というわけで元気よく挨拶したんだけど、同じくらいに元気よく返事をしてくれた白鷺さんはともかく、ラプちゃんとソラさんは先ほどのマナカとスバルちゃんに匹敵するほど死にそうな顔をしている。

 

 なんという既視感(デジャブ)……そうなると犯人は一人しかいないね……。

 

「ねぇ、二人とも大丈夫? もしかしてうちのメイドに騙されて連れて来られたのかな? もしそうならアーニャからガツンと言ってやるんだけど……?」

 

 何故ッという顔をするメイドにジト目を向けながら訊ねると、今度はラプちゃんの呼吸があやしくなった。

 

 はぁはぁと荒い呼吸を繰り返し、口をパクパクさせる皇女さまの頭に手をおいて、優しく撫でながら、わたしの疑問を解消してくれたのは看護師のお姉さんだった。

 

「あー、この子はねぇ……アーニャちゃんのことが大好きだから今になって緊張してるんだよ」

 

「やめてシラ姉言わないで!?」

 

 思わぬ暴露に真っ赤になって叫んだラプンツェルさんが観念したように項垂れる。

 

「だ、だってアーニャさんってカッコいいんだもん。吾輩、アーニャさんの復帰ライブを見て一目で虜になって……ずっとお話ししたかったけど、実際にそうなってみると、うううううっ……」

 

 おーよしよしと多感な女の子を励ます看護師さんの姿に微笑むと、アイドル衣装のソラさんが「分かる」と言いながら何度もうなずいた。

 

「いや、分かるよ。わたしもアーニャちゃんのようなVTuberを目指して頑張るぞって言ったけどさぁ……兄さんったら、そういうことなら今夜の配信に参加してみたらどうだ? ちょうど視聴者参加枠の抽選に当たったから、代わりに出てこいよじゃないんだよ……こっちには心の準備ってものがあるんだからさぁ」

 

 そう言って縮こまるソラさんの姿は、羞恥に悶える小さい女の子の姿と大差ない。

 

 しかし、なるほどねぇ……この子たちもアーニャ(わたし)に憧れてるクチか。いま思えばぺこらちゃんやすいちゃんにもそういうところがあったな。

 

 わたしとて全く自覚がないわけではない。アーニャの虚像は際限なく巨大化して、今や世界の大半を覆い尽くさんばかりだ。アーニャに憧れる人、女神のように奉る人がいる人も十分に承知してる。

 

 でもそんな関係はわたしの望むところじゃない……ならばわたしのすることは明らかだ。

 

「ねぇ、二人とも……わたしが友達に話しかけるのも躊躇うくらい臆病な女の子だったことは知ってる? そんな自分を変えたくてVTuberになったことも?」

 

 わたしが訊ねると、二人は「うん、その話は聞いたことがある」と首肯しながらもどこか懐疑的な表情になった。

 

「わたしは女神でも偶像でもない、アーニャっていうみんなと遊ぶのが大好きなただのVTuberだよ。みんなのお陰でそうなれた、本当に普通のね……だからね、アーニャと友達になろうよ。あとでサーニャに頼んでわたしのスマホからメールを送ってもらうから、良かったら返事をしてね。それで友達だよ」

 

 わたしが胸を張って手を差し伸べると、膝の上でわたしとパソコンの画面を見比べた愛犬が「ワンッ」と尻尾をふった。まるで二人を勇気付けるように、机に身を乗り出して呼び掛ける。

 

「……うん、吾輩もアーニャさんと友達になりたい」

 

 その願いが通じたのか、モジモジと身悶えしながらも答えてくれたラプちゃんの隣で、観念したように頭を掻いたソラさんがため息を吐いた。

 

「まあ、アーニャちゃんってそういう子だしね……本当に家庭的でさ、みんなが妹や娘のように感じるのも無理はないよね」

 

 ソラさんの優しい表情を見るに友達になれないのではなく、それ以上に身近に感じるってことかな? そう思ってもらえたんだったら光栄だね。

 

「よしっ! 話もまとまったし3Gをやっていくぞ!」

 

「『おーっ!!』」

 

 そこで白鷺さんが元気いっぱいに呼びかけると、吹っ切れたような顔をした二人が元気いっぱいに拳を突き上げた。無論、わたしも。

 

「じゃ、やりたいクエストを順番に貼っていこうか。わたしはGⅢまで解放してるけどみんなは?」

 

「わたしもGⅢまで解放してるよ」

 

「うん、わたしもGⅢ」

 

「あっ……ごめん、吾輩まだ上位のスネ夫にどうしても勝てなくって……」

 

「うん、それじゃクエストはラプちゃんに貼ってもらおうか? それとね、オープニングで集会所のラスボスと戦うPVを垂れ流しておいてなんだけど、別にG級のクエストじゃなきゃダメってわけじゃないから? みんなで雑談しながら採取でも全然平気! だからそんな顔しないで……?」

 

 またしても死にそうな顔をする女の子を立ち直らせるのには骨が折れたけど、とっても素敵な笑顔が見れたからヨシとしよう。

 

 他の二人も上手いことやってるみたいたし、あんまり深刻ぶっちゃダメだよね。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 一方その頃、アーニャの演者である真白ゆかりが「上手くやっている」と誤認した大空スバルこと鴨川昴は、これまでの人生で最大の窮地に立たされていた。

 

「ええと……もう一度お名前をいいですか?」

 

「はい、ウチの名前は畜神ミオといいます」

 

「あの、すみません……チャックがミォーンさんですか? 少し、変わったお名前ですね……」

 

「違います。上の名前は畜産の畜に、神様の神。下の名前は片仮名でミオですね」

 

「あっ、そうだったんですね。すみません、誤解しちゃって」

 

「まあ、あのスレで正論ド畜生と言われたことから着想を得た名前なんですけどね」

 

「ダメじゃねぇかッッ!?」

 

 大空スバルは畜神ミオと名乗った京都美人の名前と笑顔の圧力に退散寸前となったが、しかし彼女の災難はこれに留まらない。

 

「ねーねー、スバルちゃんって女子高生なら当然カレシくらいいるよね? どうだった?」

 

「どうだったって、子供の頃から陸上一筋のスバルに男なんているわけねぇだろ? というか、どんな答えを期待してるか訊いていい?」

 

「えー、モロに言っていいの?」

 

「ダメです。せめてオブラートに包みなさい」

 

 紺野茉理(こんのまつり)と名乗った赤いランドセルの小学生は、明らかに自分から失言を引き出そうとして、大空スバルは気の休まる時間もない。

 

「えー、でもスバルちゃんがさ、陸上をやってるのは知らなかったな」

 

「まあ言ってませんからね。でも結構いいところまで進んでテレビにも映りましたよ」

 

「マジで? 探せばスバルちゃんのお尻がドアップで写ってる写真が出てくるんじゃね!?」

 

 自ら社畜ネキ以上の変態と名乗った四宮ノエルという女傑は、別の角度からの奇襲で特大の戦果を勝ち取る。

 

「あー、これは確実にありますね。京都の高校に通っていると言ってたから、ちょっくら特定してみますか」

 

「わーい! スバルちゃんのおへそ丸出しハイレグブルマ見たい見たい!!」

 

「おいやめろ馬鹿野郎が! そんなもん探してないで3Gやるぞ3Gを! わざわざこっちを見てくれてる視聴者のみんなを待たせてるんだぞ!?」

 

「何を言っているんですか? スバル⭐︎ちゃんねるの視聴者が大空スバルの泣き顔以外に何を期待してると?」

 

「そんな正論聞きたくねぇよ! もうやだぁ、スバルお家に帰るぅ!!」

 

 かくしてスバル⭐︎ちゃんねるは阿鼻叫喚(あえんびえん)を極めたが、最大で70万人を数えた視聴者は大いに満足したとか。

 

 なおその結果、スバル⭐︎ちゃんねるはサポート役のメイドがうっかり投げ銭機能をオンにしたこともあって、実に1000万近い収益を上げることになったが大空スバルを演じる鴨川昴という少女は放心して、色んな意味で素直に喜べなかったとか……。

 

 また、極めて濃厚な『ス虐』を引き出した畜神ミオ、紺野茉莉、四宮ノエルは直ちに称賛され、こちらも世界中で人気を博すのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 それはさておき、同じ時刻に3Gプレイするうるるかマナカのチャンネルは平穏そのもので、哀れな生贄とは真逆を極めるのだった。

 

「わぁ……みなさん女の人なのにゲームがとってもお上手なんですね」

 

「そ、そうでごさるな……それがし、ゲームが趣味みたいなところがありますゆえ……」

 

 そう答える浜村信子と名乗った某国民的RPG風の女賢者は、当然のように女性ではない。アレクサンドラ・タカマキ博士謹製のボイスチェンジーで10代の少女としか思えない声を出しているが、中身は50に手が届こうかというオッサンであった。

 

「どうするよ祥子さん……さっきから罪悪感が半端ないんだが?」

 

「ボクは知りませんよ。言い出したのは奏さんですからね」

 

 そして岩田奏(いわたかなで)宮本祥子(みやもとしょうこ)名乗った赤と緑のドレスのお嬢さまも似たようなものである。

 

 少しでもこの三人の正体に察しがつけば「何やってんだお前ら」と爆笑は必死だと当人たちは思っていたが、恐ろしいほど純真で人を疑うことを知らない少女は性質(たち)の悪いオッサンの冗談を真に受けてしまった。

 

 無論、なんか凄いことになっていることに気がついて覗きにきた視聴者も、ネタばらしをして純心な少女を傷つけるような真似はしない。

 

「最初はどうしようかと思ったけど、みなさんとっても()い人で安心しました。ちょうどアーニャもゲストのみなさんとお友達になってるし、もし嫌じゃなかったらみなさんもわたしとお友達になっていただけますか?」

 

 もはや自身の性別や正体を明かすどころではない。

 

 こうして深みに嵌った中年男性一同は心から反省し──後日、正式な謝罪文を届けて純粋無垢なシスターに首を捻らせることになるのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 すぐ丸まって転がる爆鎚竜の前に陣取っていたラプちゃんが閉口したように眉を顰める。

 

「吾輩、こいつ嫌い。助走もつけないでどうやって坂を登ってんだ。物理法則を無視するな」

 

 誠にごもっともな指摘で、慎重に戦っていたからガードこそ間に合ったものの、鈍重な大槍では転げ回る爆鎚竜にできることは何もなく、それは大剣使いのわたしとて変わるものではないが、しかし──。

 

「はい麻痺った。このときのために温存しといて良かった」

 

「ナイスゥ! よっしゃ、尻尾獲ったどぉー!!」

 

 属性弾で体力を削っていたソラさんが麻痺弾に切り替えて拘束し、すかさずG級の爆破太刀で太すぎる尻尾を刻んだ白鷺さんが部位破壊に成功する。

 

「じゃあわたしも頭部に溜め3を叩き込んじゃって……おおっ!?」

 

 それが致命打になって、上位の爆槌竜はしめやかに爆裂四散、じゃない討伐されたのでしたっ、と。

 

「すごい……吾輩がいつも倒すのに40分くらいかかってるモンスターを、こんな簡単に……」

 

「まー、G級の武器持ちが三人もいるからね。ラプちもいい子いい子、頑張ったねぇー」

 

「あーん、シラ姉しゅき……いっぱいしゅき……」

 

 実はわたしより年下の11歳だと判明したラプちゃんときたら、見ての通りかなりの甘えん坊さんで、そんなラプちゃんを可愛がる白鷺さんを見ているとまあ、口元が緩むこと緩むこと。

 

「仲がいいわね、あの二人も。ラプちゃんが子供なのもあるだろうけど……」

 

「看護師さんっていうくらいだから、白鷺さんも子供好きなんだろうね。ラプちゃんにすっごく優しいし」

 

 なんて話をソラさんとしていると、こちらの会話に気づいた白鷺さんが「そうでもないよー」と首を振ってきた。

 

「採血の時はハーイ、いい子でちゅねーって言いながらガッチリ拘束してさ、ガン泣きした子供に鬼ババアって言われたこともあるから」

 

 ケラケラと朗らかに笑って、そんなエピソードを披露する白鷺さんに悲壮感は欠片もないが、若干ラプちゃんが引き気味になった。

 

「看護師の仕事って大変ねぇ。わたしなら何の為に働いてるんだって鬱になりそう」

 

「まー、他人(ひと)さまの命を預かる大事なお仕事って言っても、実際にはかなり生臭いからね。検温も意識のない患者さんの場合は直腸から取るし、うんちとおしっこの世話は日常茶飯事だし、ボケたふりをしたお爺ちゃんに抱きつかれるのもほぼ毎日だしね。タフじゃなきゃやってられないよ」

 

 本当に明るくて素敵な人だな……いかん、スバルちゃんや社畜ネキさん並みにわたしが好きになる要素しかないぞ、この人。

 

「ううむ……白衣の天使の中身はゴリラしかいないのかっていうくらいの逞しさだな、シラ姉は」

 

「そんなこと言ったらダメだよ、ラプちゃん。でもすごいのは納得。尊敬します」

 

「ありがとう。でも一度気持ちが切れちゃうと辛いものがあるよね」

 

 深刻ぶって言われたら驚いたけど、本当にさっきまでとおんなじ調子で言われたから戸惑っちゃった。

 

 明るく元気で看護師の仕事に誇りを持っている白鷺さんが、モチベを保てなくなって辛いとそう言ってるのだ。

 

「何か嫌なことがあったんですか?」

 

「あー、大丈夫大丈夫。子供の頃にお世話になった病院だから、今度はわたしがお世話するぞってよく考えないで今の職場を決めちゃってさ。全国的に看護師の数が足りないから仕方のないところもあるけど、社畜エピソードには事欠かないマリンがドン引きするぐらいブラックな労働環境だからね。お金は使う暇がないからドンドン貯まってくんだけど、さすがにもう何年も仕出しの弁当とコンビニのご飯しか食べてないわ、前に布団で寝たのはいつだったかなーってなるとね、ふとした切っ掛けで気持ちが切れちゃうこともあるのよ」

 

 相変わらず口にするのはすごい内容だが、そこにある種の悲壮感や(くら)さはない。

 

「そんなわけで、さすがにやっていけないから職場を変えようってなってさ。うちは退職を希望する場合、前年度の3月までに届け出るってルールがあってね。さっきもチラッと言ったけど、代わりの看護師なんてそう簡単には見つからないから、もう随分と放っとかれてさ。実のところ半分くらい諦めてたんだよ。アーニャちゃんの配信を見るまではね」

 

 なんとなく白鷺さんの優しい微笑みから、そんなふうに言われるんじゃないかと思ったんだ。

 

 わたしのアーニャに救われたと、そう伝えられるのはこれで何度目だろうか。そこでわたしは大したことはしていないと言うのは簡単だけど、実際にそう感じた人から伝えられているのだ。ここは素直に喜ぶべきところだ。

 

 わたしの自己満足から始まった試みが多くの人に影響を与え、否が応でも変化させる。それは胸が詰まるほど恐縮で、光栄な話だけど……忘れてはならないことがひとつ。

 

 臆病なわたしが話しかけた人が笑顔で応えてくれた。そうして始まったこの仕事が多くの目に留まり、今度はわたしが応える番になった。小さな笑顔から始まった物語が、今や多くの笑顔に結びつき、人々の幸福に作用している。アーニャ(わたし)の物語は多くの笑顔に彩られている。だからわたしはこう応えよう。

 

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいですね。でも、アーニャだってみんなにいっぱい元気をもらってるんだよ。だからわたしはね、みんなと思いっきり楽しむことしか頭にないの」

 

「だよねー。わたしもさ、そんなアーニャちゃんの笑顔を見て気づいたんだ。病院でさ、忙しくて気持ちに余裕がない同僚の顔を見ると気が滅入るんなら、そのぶんわたしがアーニャちゃんのように笑ってやろうって。だからマリンに今すぐ辞めろそんな職場って怒られたし、過労死は願い下げだから勤め先は変わると思うけど、わたしは看護師を続けるよ。磐田社長に誘われてるし、VTuberになる夢も諦めないけどね」

 

 そうして見つめ合うこと数秒後、わたしたちは同時にプッと吹き出した。

 

「待って、さっきからマリン船長の話がちょくちょく出てくるけど、友達はもう少し選んだほうがいいよね」

 

「それはこっちの台詞。わたし社畜ネキがデビューする前から知ってるからさ、アーニャちゃんがおっかなびっくりしながらも、だんだん絆されて警戒が緩んでるのをハラハラしながら見てたんだから」

 

 共通の知人をよく知る立場から笑い転げると、白鷺さんが「さぁーて」と気合を入れた。

 

「二人っきりで話し込んじゃってごめんねー。時間はもう少しあるから、ラプちのクエストにもう一回行こうか」

 

 その明るい声に気持ちを切り替えると、両目を潤ませたラプちゃんが「うん、うん」と何回も頷いて、傍のソラさんが「あー、はいはい」と大きなツノに挟まれた小さな頭を優しく撫でた。

 

 深刻ぶるのは簡単だけど、こんなふうに笑うのは難しい。だからこの笑顔がある限り心配はいらない。

 

「じゃ、ラプちゃんがクエストを貼ったら速攻でしばき倒そうね」

 

「『おーっ!!』」

 

 予定の時間まであと11分。頑張ればあと2回はいけるかなと、わたしは愛犬の頭を撫でながらコントローラーを握りしめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[キミたちさぁ、お姉さんのことをオチに使うのはそろそろ卒業しない?〉マリン船長]

 

 そんな楽しい時間によく知るあの人のコメントを見つけたわたしたちは一斉に吹き出し、遠慮なく笑い転げるのだった。

 

 

 

 

 

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