転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?   作:蘇芳ありさ

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はたして騙されたのはどっちなのか

 

 

 

 

 

 2011年11月25日(金)

 

 

 本日は人生で初めてとなる修行回である。

 

 いや、こんな能力を与えられておいて今さら鍛えるも何もないんだけど、わたしのチートっぷりを検証するのも目的だから、ギリギリ修行回かな?

 

 顔面は普段の引かれ具合で知ってるし、絵もアーニャのバズりっぷりから察するに余りあり、言語分野は機械の感情を読み取れる時点で何も言えず、プログラミングは本当に次元の壁を突き抜けちゃったが、歌はどうか。

 

 サブちゃんが動画の最初と最後で流すPVを作りたいと言うから、即興で4曲ほどでっち上げてみたが、下された評価は逆の意味で辛辣だった。

 

「これを公開したら、世界中の音楽関係者があまりの衝撃に悶絶しかねませんね。その場の思いつきで歌っていいレベルでは……いえ、失礼しました。それはゆかりが適当に歌っていること知っている、私だからこそ思うのかもしれませんが、しかしあの羽根畜生どもはつくづく……」

 

 よく分からないが、チート能力は管轄外ということもあって、かなり憤慨中のサブちゃん。一晩で独自の進化を遂げた画面内のサーニャも悔しそうな顔をして俯くこと俯くこと。

 

「ええと、つまり作り直したほうがいいってことかな?」

 

 わたしが訊ねると、サブちゃんは画面の向こうで両手を腰に当てて不服そうにこう答えた。

 

「いえ、ゆかりに歌わせればどんな曲でも名曲になります。そこはもうどうにもなりませんので諦めましょう」

 

 うーん、なんていうか酷い言われようだね。人生で2回目となるエレクトーンの演奏を、6日ぶりに頑張ったというのに。

 

「ただ保険はかけておくべきです。さすがに人類史上最高の天才を基準にした採点システムで、作詞・作曲・演奏・歌唱の全てが満点というのはよろしくない。他の同業者のためにも減点ポイントが欲しい」

 

「うん、でもどうやって? チート能力さんが手加減してくれないことはサブちゃんも知ってるでしょ?」

 

「具体的には歌詞を書き換えて電波要素を盛り込みます。これでなんとか『上手いんだけどひどい歌だよな』と思っていただければ。それと演奏もこちらで年齢相応の(つたな)さを盛り込めば……」

 

 大変だけど、チートに頼らず音楽の世界で頑張ってる人たちの心を折りかねないと言われては是非もなし。やはりサブちゃんがいてくれて助かったよ。わたしだけじゃどうなってたか……。

 

「それでは順番に行きますよ。まずは一曲目です」

 

「うん、頑張ってチート能力さんに抵抗してみる」

 

 はたしてそれがどれだけ無駄な抵抗だったのか、続くサブちゃんの採点が教えてくれた。

 

『1曲目が90・100・88・100。2曲目が92・100・85・100。3曲目が87・100・90・100。4曲目が96・100・89・100。全体的にマシになりましたが、ゆかりに関しては無駄な抵抗でしたね……』

 

「うん、チート能力さんには勝てなかったよ……」

 

 こうして初めての挑戦は無惨に失敗して、わたしの修行は費やした時間とともに無駄に終わった。

 

「まあ、切り替えましょう。ゆかりの欠点(・・)が早めに知れてよかった。今後もゆかりの新曲は私が調整します。配信中にその場の思いつきで歌うのだけは避けてください。世界中の音楽関係者が自宅を突き止めて勧誘してきかねませんので」

 

「うん。歌ってみた系の配信はカラオケか何かを使うね」

 

 わたしも一つの自覚ができたのはよかったと思う。

 

 今までチート能力さんはあくまで与えられたもので、わたし自身の能力じゃないと思ってたんだけど、もしかしたらそうじゃないのかもしれない。今回歌っているときに奇妙な高揚感があったんだよね。

 

 まるで全力で走っているときなような充実感というか……絵を描いてるときもイメージを完璧に再現してることに満足感みたいのを覚えるから、もしかしたら否定できないほど体に馴染んでいるのかもしれない。

 

「では予定通り、アーニャが自己紹介する動画と併せて、こちらの『祈り』を編集したPVを開設したYTubeのチャンネルに投稿して、Wisperにも告知しておきます」

 

「うん、お願いね」

 

「はい、それではごゆっくりどうぞ」

 

 澄まし顔のアーニャに抱きついて、頬ずりをするサーニャに手を振ると画面が暗転する。いつものようにスリープしたのを確認して、下に向かいながら考える。

 

 いよいよ配信環境が整った。わたしのアーニャは、早ければ日曜にもデビューすることになる。世界で初めてとなるVTuberとして……。

 

「でも何のためにそうするんだろ……?」

 

 VTuberを世界に広めて、あの人たちが歩むことになる道を整備したい? それはあの人の夢であってわたしの夢ではない。

 

 世界中の視聴者(リスナー)さんと繋がって楽しくお喋りしたい? 否定はしないが動機としては不十分だ。

 

 自分の心を探るほど目につくのは自身の臆病さだ。あと一歩を踏み出したい。みんなが距離を取るならこっちから踏み込めばいいじゃないか。

 

 そうすることのできなかったあの子に、いつか伝えられるようになりたい。この前は楽しかったよ。実はね、VTuberになったの。勝手にモデルにしてごめんねって。

 

「日曜に図書館に行ってみようかな……」

 

 もしかしたら会えるかもしれない。そうしたら今度こそ友達になろう。そんな決意が浮かんでは消えていく。

 

「ほんとにダメだな、わたしって……」

 

「あら、お母さんは賛成よ。勉強熱心で結構じゃない」

 

 そんなことを思いながら食器を並べていたら、独り言を聞かれたのかお母さんが食いついてきた。

 

「勉強目的じゃなくても、外に出るのはいいことだわ。ゆかりもね、狭い世界に閉じこもっていちゃダメよ。もっともお母さんの場合、お父さんが無理矢理連れ出したんだから、あまり偉そうなことは言えないけどね」

 

 追求するのではなく、純粋にアドバイスを残して微笑む母を見て、わたしの心は少し軽くなった。

 

「そうだよね。何もないかもしれないけど、何があるかもしれないんだったら行ってみないとね。少なくとも自分の部屋に閉じこもったままじゃ、出会える可能性は0だよ」

 

「そういうことね。あら、お父さんが帰ってきたわよ」

 

 おっと、それは重大事。お母さんのおかげでスッキリしたし、笑顔で出迎えないと。

 

「お父さん、お帰り」

 

「おっ、父ちゃんお帰りー」

 

「お父さんお帰りなさぁーい」

 

「あなた、お帰りなさい」

 

「ああ、ただいま……」

 

 いつものように家族総出で出迎えたんだけど、お父さんの顔色は過去最高に悪かった。

 

「あなた、どうなさったの? ご気分でも悪いの?」

 

 弟と妹は気づかず居間に引っ込んだが、お母さんの目は欺けなかった。しっかり追求されたお父さんは安心させるように微笑むと、玄関に座って靴を脱ぎ始めた。

 

「いや、体のほうは大丈夫だ。少しな、考え事をしていた。あまり愉快な話じゃないから、顔色が悪いのはそのせいだろう」

 

 しっかりした足取りで立ち上がる様子から、お父さんの言葉に嘘はないようだけど……なんでか時々チラチラとこっちのほうを窺うんだよね。

 

 どこか躊躇いがちに、でも訊かないわけにはいかない。そんな感じで食事中もずっとだから、さすがに鈍くさいわたしでも気づく。

 

 もしかしてわたしまた何かやっちゃいました?

 

 

 

 

 

「──ということがあったんだけどどう思う? これぜったいわたしが原因だよね!」

 

 夕食後にお風呂も後回しにして一直線に泣きつくと、わたしの困窮ぶりとは裏腹に、画面の中のサーニャは人の悪い顔を浮かべて満足そうにうなずいた。

 

「もう少しかかるかと思いましたが、この手応え……これは釣れそうですね」

 

「釣れるって何の話? お父さん怒ると怖いんだよ! 笑ってないで助けてよ!?」

 

「落ち着いてください。今から説明しますが、貴女がお父さまに怒られることはありません。ですから安心して、はい、深呼吸」

 

 言われるままに深呼吸すると、画面の中のサーニャが薄い胸を張って得意げに説明してきた。

 

「まずゆかりのお父さまが驚かれたのは、先ほどの動画を確認したと見て間違いありません」

 

「さっきの動画って、アーニャの自己紹介の? あれってお父さんがそんなに驚くようなものなの?」

 

「西暦2020年代の記憶を併せ持つゆかりがそう思うのも無理はありませんが、西暦2011年当時だとかなりのオーパーツですよ、あれは」

 

 そこで眼鏡をかけ、教鞭を手にしたサーニャが問題の動画を流しながら解説する。

 

「例えばアーニャの2Dアニメの一つを取ってもそうです。これほどの精度と滑らかさを兼ね備えたソフトは存在しませんし、3Dモデルも開発に数千万円かかる時代です。N社勤務でそちらの造詣にも明るいお父さまはさぞかし驚かれたでしょう。こんな物を作れるソフトを個人で入手できる筈がない。ゆかりはどうやってこれを作ったのかと、話を聞きたくて仕方ないんですよね、きっと」

 

 なるほど……そう言われてみれば、お父さんの様子が変だったことには説明がつく。でも、それって……。

 

「どうやって説明すればいいの? 個人で入手できる物じゃないなら、自分で作ったって説明するのは無理があるよね?」

 

「いいえ、無理かどうかは関係ありません。お父さまにはゆかりが自分で作ったと説明しましょう」

 

「そんな話を信じてもらえるかな……? お父さんの目から見てもびっくりするようなソフトを、わたしが作っただなんて……お父さんはわたしがパソコンを使い出してから、まだ一週間も経ってないってことを知ってるんだよ?」

 

「信じますよ。お父さまの周りには、この時代を代表する天才が二人も存在しますからね。今から極限まで圧縮したプログラムをUSBに転写します。ゆかりはお父さまが訪ねてきたら、アーニャを動かしてるLive to animationを自分で作成したと説明してから、USBを渡してください。それで上手くいきます」

 

 自信満々のサブちゃんには悪いけど、わたしとしては半信半疑だ。そんな馬鹿な話を信じてもらえるのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻はすでに夜の10時半。着替えと歯磨きを終えて、今日は不発かなと思ったら、扉が控えめにノックされた。

 

「まだ起きてるか、ゆかり」

 

「起きてるよ。なに、お父さん」

 

 返事をすると、未だに煮え切らない様子のお父さんが躊躇いがちに入ってきた。ううっ、緊張するなぁ。

 

 明かりはベッド脇のスタンドと、廊下の照明だけだからバレてないと思うんだけど、現在わたしは冷や汗さんと格闘中である。無言で次の言葉を待つ間も、大好きな父親を騙しているようで内心ビクビクである。

 

 父もわたしを問い詰めるような真似はしたくないのか、必死に言葉を探している感じで、重苦しい沈黙に心が挫けそうになるが──その前にお父さんの口が開いた。

 

「アーニャの動画を見たんだが……あれはどうやって動かしてるんだ? いや、ちょっと気になってな……」

 

「あれは自分で描いて、自分で動かしてるんだよ? お父さんも知ってるでしょ?」

 

「うむ、ゆかりがアーニャの絵を描いてることは知ってるが……自分で動かしてるとは?」

 

「ええとね、あれはモーションキャプチャと連動したアニメーションのソフトで動かしてるの。カメラでわたしの表情とか大きな動きを監視してね、該当の差分が存在する動きならそれに切り替えて、動いてるように見せてるんだよ」

 

「……そんなものが存在するのか」

 

「うん、わたしが作ったんだよ。お父さんが買ってくれたパソコンでね」

 

 驚愕に目を剝くっていうのは、きっとこんなときに使われるんだろう。

 

 わたしの言葉に嘘があったらこの視線には耐えられなかった。でも嘘は言っていない。都合の悪いことを能力のせいにするのはやめた。

 

 今回使われたLive2A(ライブ・トゥ・アニメーション)はサブちゃんが作った。でもサブちゃんはわたしが作った。だから嘘は言っていない。

 

「お父さんも使いたいならあげるよ。ちょっと待っててね」

 

 言って返事も待たずに机に向かって、取ってきたUSBを渡すと、お父さんは頭を振ってから受け取ってくれた。

 

「分かった、受け取ろう。……もしかしたらうちの社長に見せることになるかもしれんが、構わないか?」

 

「え? 磐田社長も自分の似顔絵を動かすの?」

 

「いや、あの変態……社長が考えていることなどお父さんには分からんよ。しかし、ゆかりがなぁ……」

 

 そう言ったお父さんが何を考えているかもわたしには分からなかったが、いつもの優しい笑顔に戻って頭を撫ででくれたので十分だ。

 

 ごめんなさい。いつか本当のことを話すから、それまで時間をくださいね。

 

「今日はこんな時間に押しかけて悪かったな。それじゃあ、ゆかりもしっかり休みなさい」

 

「うん。お父さん、おやすみなさい」

 

 挨拶を終えた父親が、一度だけ立ち止まって振り返ると、廊下の向こうへと姿を消した。その間ずっと手を振っていたわたしは、ドアを閉めたら腰が抜けそうになった。

 

「女優ですね。中々の演技でしたよ。これならVTuberとしてもやっていけそうですね、ゆかりは」

 

「そんなうれしくない評価聞きたくなかったよ!」

 

 元は妹が欲しがったエレクトーンを置いてある防音室であることをいいことに、後ろから聞こえてきた茶々に全力で応じてから頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 

「騙しちゃった、これぜったい騙しちゃったよ! お父さんを騙して利用しようとしてるよ!!」

 

「嘘は言ってませんから騙したことにはなりませんよ。それにお父さまの様子から、もしかしたら磐田社長あたりに『真白くんのお嬢さんはすごいな。これどうやって動かしてるか聞き出してくれよ』と言われたのかもしれませんよ? もしそうなら後ろめたいことがあるのはお互い様です。気に病むなどゆかりらしいですね」

 

「うー、そんなことあるわけないじゃん。都合よく考えすぎだよ」

 

「分かりませんよ? 子煩悩なお父さまが磐田社長にアーニャの話を振られて、ついうっかり自慢してしまったなんて如何にもありそうな話ですし、それならこういう流れになったことも納得できるじゃありませんか」

 

「またそんなことを言って……まだアーニャの絵以外はお試し動画を一本しか出してないのに、そんなことになってるわけないじゃないの」

 

「ゆかりのお父さまも言ってらしたじゃありませんか。変態(てんさい)の考えは誰にも分からないと。あの人類史上恒一等級の天才(へんたい)の考えなど、気にするだけ疲れるだけですよ」

 

「自分から言い出しといてそれ? しかもすっごく失礼なこと言ってるし!?」

 

「まあまあ、落ち着いて。N社を味方につけるメリットは説明したじゃありませんか。これは必要な一手。ゆかりのお父さまがN社の幹部社員であることを逃す手はありませんよ」

 

「それはわかるんだけど……」

 

 ノロノロと床を這ってベッドに縋り付く。どう考えても策謀に類することに巻き込まれて疲弊する。わたしのような小心者には、やっぱり荷が重すぎた。

 

「ゆかりも寝るならベッドの上でお願いしますね? そのまま床の上で寝たりしたら、罰としてヒューマノイド型の端末をタイムリープさせてお説教です。もちろんゆかりがデザインしてくれたサーニャの端末でね。それではおやすみなさい」

 

 言いたいことを言ってのけるサブちゃんのメンタルが羨ましい。どうせならわたしも過剰に振り分けたプログラミングのポイントを、精神面にも振り分けて欲しかったなと思いつつ、ベッドをよじ登って最悪の事態だけは避けるのだった。

 

 

 

 

 

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