クリスマスには間に合わなかったものの、何とか年内に出すことができました。
やったぜ。
稚拙な文章ですが、最後まで見てもらえたら嬉しいです。
よろしければ感想・評価お願いいたします!
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気が付けば、何も無い真っ暗な闇に囲まれた場所にいた。
先が見えず、永遠に広がっているのか、はたまた一寸先は壁なのか。見えるのは自分の体とただの黒だけだ。
この景色を見るのは久方ぶりである。
「...またここか。確か前に来た時はホシノに撃たれた時だったか?」
おおよそ2年前、例の
この悪夢を。
「...行きたくないな」
おそらく、たった一回の前例に倣えば...この後、俺はゼナ先輩に会える。
いや、会ってしまう。
今の俺には、先輩に合わせる顔がない。会いたくない。何とか表面上は取り繕う様に努力しても結局内面までは向き合えていないのだから。そんな状態で、先輩には会いたくない。
先のことを考えると、思わずため息を吐いてしゃがみ込んでしまう。
「...クソッ、辛い...」
『どーしたのかな? 我が自慢の後輩くん?』
突然、自分以外の声が後ろから聞こえ、立ち上がりバッと振り返る。
「...先輩」
『君が料理以外で悩んでるところ、初めて見たかも。あ、私が死んだ後はずっとそんなんだった?』
「...」
『冗談冗談! ちょっと揶揄っただけだって! だからそんな怖い目で見ないでって、ね?』
ケラケラと笑う先輩の姿は、どう見ても俺が都市にいた頃に見た先輩そのものだった。懐かしいというより、ただただ虚しさだけが心を穿った。
『それで、お友達ごっこは楽しい? ユメちゃん...だっけ? 良い子だよね』
「...」
『あはは、だからそんなに睨まないでって。私だって別に君と、かる〜く雑談したいだけなんだって!』
「...俺は...」
つい、言いかけた言葉が頭で澱み、消えていく。いや、消してしまう。
きっと、言ってしまえば俺は俺を殺したくなるから。
『...あーあ、やっぱりまだか』
「...何がですか」
『いーや? ただの独り言』
何か言ったかと思えば、にへらと笑って誤魔化す先輩。昔から、先輩は誤魔化す時はそうやって笑って誤魔化した。その顔が、どうしてか面白くて、今は寂しい。
『...それにしても、君は2年前と変わらないね』
「...それって、どういうことですか」
『背中を預けたいなーって子がまだ見つかってないところとか、なんでも一人で抱え込む癖とか』
内心チクリと刺されるくらいには思い当たる節がある。だが、俺はそれでも良いと思っていた。
「...俺は、絶対にあいつらにはアレのことは言えないんです。アレを知ったら...きっと、どう頑張っても不幸に落ちるしかなくなる」
『そうだねぇ、そうかもしれないねぇ。君が一番分かってるはずだもんね? だって、私が死んで、君が殺した理由がアレなんだからさ!』
「......俺、は...」
『...うんうん、別に言わなくても良いからね。君が私を殺したことも、君が一番分かってるはずだもんね』
「...」
思わず俺は視線を外した。辛い。現実が腹を針で刺してくる。
『...君はさ、別に守らなくてもいいんだよ』
先輩が優しい声で囁く。
『誰も君を守れない。守ってくれやしない。だから君も守る必要はない。対価があって初めて対等な関係ってのは築かれるからね』
『誰も信じないで、誰にも信じられないで生きていくのが、君にはお似合いなんだよ? 一人で、孤独に、飢えることもできずに...』
『救われることなんてない。君も、周りの子達も、誰も彼も救われない』
『君は愚図で木偶の坊で、疫病神なんだからさ』
嫌に撫でるような声が、耳に残る。諦めてしまいたいと言う気持ちが喉の奥から迫り上がってくるのをどうにかして抑え、毅然と先輩に言い放つ。
「...だとしても、俺だけが不幸になるなら、それでいいんです」
『...あっそ、そういうこと言っちゃうんだ』
意を決して放った言葉は、フンと不満げに鼻を鳴らしたような言葉で返された。
面白みの無い奴だとでも思ったのか、先輩はおもちゃに飽きた子供のような顔をして、暗闇の奥へと消えていってしまった。
「...頼る、なんて...俺には......」
そんな誰にも聞かれない独り言を呟いて、俺は闇にもたれかかった。
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「...見慣れ過ぎてる天井だ」
ロキが目を覚ますと、目の前にはもはや見飽きるほどの天井が映っていた。紛れもない、いつもお世話になっている病院の病室である。
窓からはカーテンの隙間から日差しが差している。今は朝なのだろうか。
時間を確認するべく壁の時計を見ようと首を動かすと...
「すぅ...すぅ......」
ベッドの横に、椅子に座ったまま眠るユメがいた。よほど快眠なのか、口からギリギリ涎が垂れそうになっている。
よく椅子に座ったまま寝れるな、なんて呑気なことを考えつつ時計を見てみると、針は5:00を刺していた。
『こんな時でも早起きする習慣は変わらないのな』なんてまたも呑気に考えていると、寝息を立てていたユメが目を覚ました。
「んぁ......ふあぁ.....あれ、ろきさん?」
「おはよう、ユメ。とりあえず言っておくけど涎出てるぞ」
「んぇ...あっ、ほんとだ!」
急いでポケットの中からハンカチを取り出して口を拭くユメ。ロキはなんとなく、憎めない奴だ、と心でつぶやいた。
「おはようございます、ロキさん。なんでもう起きてるんですか?」
「それは俺に起きてほしくないって意味か?」
「違いますよ! だってロキさん、頭から流血してて頭蓋骨も骨折してましたし、その上高電圧で感電状態になってたんですよ? 一昨日入院して即手術、それで今日起きてるんですもん」
どうやら少女からの襲撃は一昨日のことらしい。よく1日で起きれたなという感情と体が普通より頑丈だと自負してるとはいえ少し怖いという感情が複雑なロキだった。
「そうか...ちなみに入院する原因になった時のことを部分的にしか覚えてないんだが、ユメが俺をここに送ってくれたんだよな?」
「そうです!」
「ありがとな、助かった。ちなみに────
「ああ、言わなくても大丈夫です! 私が何とかしたので!」
「まだ何も言ってない...」
ロキが質問する前にそう答えたユメはどこか誇らしげでドヤ顔だった。
「あの女の子のことですよね? とりあえず細かく状況を話しますと────
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あの後。ロキが謎の少女にスタンガンで気絶させられ、撃たれそうになっていた時。少女は確かに引き金に指をかけ、ゆっくりと引き始めていた。
そう、ゆっくりと。
そして、1発の銃声が路地に響き渡り、
「っぁ!?」
突然の横槍に少女は戸惑いつつも、驚異的な反射神経で即座に弾丸が放たれた方向へと銃口をなぞらせた。その間、約1.26秒。おおよそ常人では出せない力だ。
そのあまりにも素早い切り替えでさえ。
「なっ!?」
ヒュン
ガァン!
飛来してくるナニカを避けるには至らなかった。飛来物は少女へと直撃し、その衝撃で持っていたライフルを弾き飛ばす。
薄暗い路地、背後から差す夕焼けという逆光と飛来物の衝撃による痛み中で少女が目にしたもの、飛来してきたものは。
折り畳み式の特徴的な盾であった。
「ロキさん!!」
路地に叫び声にも似た呼び声が響く。その声は倒れていた彼が耳にタコができるほど聞き慣れた声だった。
その声と共に、再度複数回の発砲音が鳴る。
弾丸が少女目掛けて飛んでくる中、当の少女の心中は余裕であった。彼女の得物であるライフルが無くなったことにより身軽になった少女にとって、明らかにこちらへ飛んでくる弾丸を避けることは造作も無いことだったからだ。
「どいつもこいつも、アタシの邪魔しやがって...」
油断、余裕。しかし、それよりも彼女の心中には怒りが湧いていた。
自分の邪魔をする者が相次いで出現し、うち一人には1発喰らわされた。その事実は、彼女の神経を逆撫でし、逆鱗に触れるには十分な理由だった。
『コレを避け切って、アタシに一発入れやがった奴も嬲って殺す』、彼女はそれほどの怒りを孕んでいた。
しかし。怒髪天一歩手前のその怒りが、彼女の視野を狭めた。
弾丸を避ける為に素早く回避行動に移る少女。反射速度も申し分無い、このままなら確実に避けられる。
『勝った』
しかし、彼女が右足を引っ込めようとした瞬間、違和感が走る。
何かに引っ張られている感覚。
少女がその違和感の元を辿る。
彼女の足は、先ほど電撃を喰らわせたはずの男の手に掴まれていた。
そう、ロキはずっとチャンスを待っていたのだ。薄れ行く意識と抜けていく力という迫り来るタイムリミットの中で、最小の動きで最大限のリターンを得るための、最高のチャンスを。
少女はそれに気づいた瞬間、先ほどまでの怒りを追い越すほどの焦りが心中に広がった。
受け身か? いや、倒れる前に弾丸が確実にアタシに当たる。避ける? 無理...被弾覚悟? 無事に!? 出来る!? いや、狙い所が良過ぎる! 当たったら確実に怯んじまう! どうする、どうすれば!
驚異的な速さで解決策を算出しようとする思考。
だがしかし、それも虚しく。
「ガっ!?」
放たれた弾丸たちは、少女の眉間、そして胸のド真ん中に命中した。
あまりの痛みに視界が眩み足がよろめく少女。その時、ロキと少女の揺れる視線が重なった。
ロキは知らない、彼は既に意識が途切れた状態にも関わらず、無意識に『やってやったぞ』と言わんばかりの表情をしていたことに。
少女は知らない、彼女自身も無意識に『やりやがったな』と言わんばかりの表情をしていたことに。
「そこ、どいてッ!!」
少女のよろめきをチャンスと見た
少女の体が二転三転して床に倒れる。かなり強い力だったのだろう。少女は倒れた後すぐには起き上がることはなかった。
「ロキさん! ロキさん大丈夫!?」
ロキの名前を呼びかけ意識があるか確認するユメ。しかしあの最後の足掻きで力尽きたようで、既に意識が無くなっていた。急いで脈を確認し、まだ生きていると分かると、ユメは先程の勢いとは一転しロキを担いで路地の奥へと走り去った。
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────って感じです」
「なるほどな」
場面は病室へと戻る。
ユメがことの経緯を話し合えると、思い出したかのようにどこか申し訳ない顔をしていた。
「...どうしたんだ?」
「...いえ、話してたらつい気付いちゃったんです...そういえば、あの女の子から話を聞くの忘れてたな...って...」
しょぼんとした顔をするユメであったが、俺は別に悪い選択だとは思っていなかった。むしろ...
「いや、それで正解だ。あの時俺を抱えて逃げずに戦うことを選択してたら...多分こっちの分が悪かっただろうな」
「えっ? なんでですか?」
「奴の着てたパーカーのポケットには、まだ膨らみがあったんだ。多分だがスタンガン以外にも武装をしてたのはまず間違いない」
ロキは、あの危機的状況でも冷静に相手を分析していたのだ。いや、冷静というよりかは、頭から血を流したおかげで多少冷静になれた、という方が正しいか。
「格下相手ならいざ知らず、互角かそれ以上の相手と戦うなら、相手の手が分からないまま無闇に戦うのは悪手も悪手。あそこで撤退したのは大正解だ、よくやったなユメ」
「そ、そうですか? ありがとうございます。えへへ...」
これ以上落ち込まないようにと、ロキが頭を撫でつつ褒める。少しばかり笑顔になったユメを見て、ロキが『まるで犬みたいだ』と思ったのは内緒だ。
「それに、奴は俺たちに明確な殺意を向けていた。殺意はアドレナリンみたいなもの。それがあれば無茶ができる場面だって少なくない。殺す気がある奴にはこちらも殺す気で行かないと、手痛い思いをするぞ」
「殺す気で...って、物騒ですね」
「それくらいが丁度良いってことだよ」
これは経験則である。格下だからと油断していたら名を馳せるフィクサーでも路地裏にのさばる奴らに殺されることだってあるのだ。それほど、殺意というのは恐ろしく、そして便利なものだということ。
「まあ、
「それって、ロキさんが元々いた『都市』ってところと比べてですか?」
「ああ。あそこは、キヴォトスとは大分常識が違うからな」
「ロキさんの人生って普通の人より10倍くらい過酷そうですよね」
『そうかもな』と苦笑いしながらロキはそれに答えつつ、テーブル上のコップを手に取り口に水を含んだ。
空になったコップが朝日を反射して壁を彩る。
「...あ、そう言えば。話してたらもう一つ思い出したことがあるんですよね」
「なんだ?」
「路地裏の入り口に人集りが出来てたじゃないですか?」
悪寒。
喉元まで上がってきた言葉を、ロキは声を抑え切れなかった。
「忘れろ」
「...ぇ」
自分でも思ってもみなかったのか、予想外に大きくなった声量に思わず手で口を塞ぐ。
が、時すでに遅し。ユメは困惑と少しの恐れを顔に滲ませながら、おずおずと聞いてきた。
「えっ...あ、あの、ロキさん...? 『忘れろ』っていうのは...?」
「...すまん、少し声が荒らげた。あと、あそこで見たものは全部忘れろ」
「いえ、見たも何も...人集りがあったので、
「...あ......」
やってしまった。ロキはつい心の中でぼやいてしまった。本日2度目の失態である。
確かに、よく考えればあれだけの騒ぎになっていればマーケットガードがすぐに動いて処理するはずである。
まずい、どう誤魔化せばいい。焦りが心中を伝う。
「...いや、何でもない。何も見てないなら「はぐらかさないでください」...」
「また、隠し事ですか?」
「...お前には関係ないことだ、気にするな」
「嫌です。決めたじゃないですか、私たちはお互いに隠し事はしないって」
「ダメだ、言えない」
「何でですか!」
「何でもだ! お前たちは知らなくていい!」
どんどんとお互いがヒートアップしていき、語気が強くなってくる。
「なんで隠すんですか!」
「言いたくないんだよ、それ以上でもそれ以下でもない! 下手なことに首を突っ込むな!」
「なっ...! そんなに私たちが頼りないですか!?
自慢じゃないですけど、私たちだってロキさんと初めて会った時よりは成長してるんですよ!!」
「そういう問題じゃないんだよ! お前が今知ろうとしてるのは、碌なもんじゃない!!」
「だとしても、それでロキさんが悩んでるんだったら! 私たちだって手伝いたいんです!」
ユメがロキの手を掴む。
「不幸なんて百も承知、それぐらいで怖気付くような私じゃないです! どんな地獄を見るとしても、私は絶対に挫けません! だって、私は振り子事務所の代表補佐...ロキさんの仲間なんですからっ!!
...ですから、お願いです。私を頼ってください...!」
ユメの、震えながらも決意の籠った声に、ロキの決意が揺れ動く。差し伸べられた手が、どうにも眩しく見える。
「お願い...します......」
その最後の言葉が、ロキにどれだけの揺らぎを与えたのか。今の彼女には分からないだろう。
「...すまない、今は帰ってくれ」
冷たく突きつけられた言葉が、ユメの心を荒くなぞる。
だが、ただ突き放したわけじゃない。そう確信できる材料は無いが...ユメは、直感的に分かった。
「...分かりました」
その直感を信じ、大人しく引き下がったユメは掴んでいたロキの手を離し、病室を後にした。
先ほどの喧騒が嘘かのように、静まり返る病室。チクタクと寂しくなる時計、窓の隙間から聞こえてくる風の音。
言い合いに白熱しすぎていたのか、頭が冷えてきたロキは、頭蓋を傷つけられていたことを忘れていて頭が痛み出していた。
しかし、そんなことを気にする気配もなく、ハンガーにかかっている彼のコートを手にする。
着るわけでもないそのコートのポケットを弄り始めた彼は、手に当たった感触から何かを見つけ出し、取り出した。
「...馬鹿か、俺は」
ライターは無い。だが、確かに赤く燃えている幻視をした。