ようこそスクールカウンセラーのいる教室へ 作:ああ
年上属性のオリ主、心の模様は常に曇り。よろしくお願いいたします。
スクールカウンセラーの朝は早い。
起床時刻は6時30分。シャワーを浴び、朝食を食べて身支度をする。
着替えは適当だ。この学校の教員の通勤時間は5分も無いし、上に白衣を着るからバレないのだ。
家を出る時刻は7時を少し過ぎた辺り。他の先生はもう少し遅い時間に出るが、僕は新人なので古き日本の風潮に従うことにしている。
「おはようございます。綾小路先生」
「おっはー先生! 今日も早いっすね!」
もちろんそれだけが理由じゃない。気が重くなる通勤時間は、こうして生徒とあいさつを交わすことで楽しい時間に変わるのだ。
「おはよう平田君、柴田君。今日も朝練かな?」
「はい。着いたらみんなで走り込みです」
「大会も近くなって来たし、気合入ってますよ!」
ジャージ姿で学校の敷地内を走る彼らはサッカー部の子たちだ。
クラスは違えど、同じ目標に向かって努力する仲間だからか、そこに距離を感じることは無い。
「そっか。最近暑くなって来たし、熱中症には気を付けてね」
「分かってるって! 先生こそ、そんな白い顔して熱射病にならないでくださいね!」
「関係ないし失礼だよ柴田君……」
そんな微笑ましいやり取りを聞きながら、僕は鞄から小分けに包まれたソルトタブレットを2つ取り出した。
「はいこれ。サッカー部の先生には内緒だよ?」
「良いんすか! あざっす!」
「ありがとうございます」
太陽の様にニカッと笑いながら、袋を開けて口に放り込む柴田君と、穏やかに笑ってポケットに飴をしまう平田君。
こういう反応の違いにも、生徒一人一人のらしさが垣間見えて嬉しくなる。
スタスタと走り去っていく2人を見送ってしばらくすると学校へ到着する。
手洗いをしっかりと行い、職員用更衣室で着替えを済ませる。
「おはようございます茶柱先生。今日も早いですね」
「……ああ。テストの採点が立て込んでてな」
職員室に入ると、1年Dクラスの担任である茶柱先生が居たので声をかける。
目頭を押さえて机に肘を突く茶柱先生はとても眠そうだ。
「お疲れのようですね。昨日は何時に寝たんですか?」
「……2時を過ぎてからは時計を見ていない」
3時間ほどしか眠っていないようだ。高校の中では比較的ホワイトと言われている高度育成高等学校だが、忙しい時期の先生方は日付が変わる頃に寮に帰ることが多くなる。
僕は受け持っている科目やクラスは無いため、残業している先生方には頭が上がらない。
「雑用でもいいので、困ったことがあったら相談してください。いつでも保健室に居ますから」
「……いや、大丈夫だ。お前はそのまま星之宮の相手をしててくれるだけでいい」
「まだ雑用している方がマシかもしれませんね」
昨日もたらふく飲んだと聞いている。二日酔いで出勤してくるのはほぼ確定かな。
「ふっ、違いない」
そう言って再び仕事モードへと戻ってしまった茶柱先生に挨拶をし、保健室の鍵を持って職員室を後にする。
普通なら保健室とカウンセラー室は別途で用意されているのだが、少し特殊なルートから就労させてもらったため間に合っていない状況なのだ。
「お゛はよ゛ー綾小路先生……うぅ、きもぢわるい」
そして十数分後、ゾンビを彷彿とさせるうめき声を上げながら入ってきたのは、看護教諭である星之宮先生だ。
ヨレヨレの白衣を身にまとい、フラフラとした足取りで近づいてきたかと思えば、そのままこちらに抱き着いてきた。
「あ゛ー……あれ? また背伸びた?」
「さあ、酔いすぎて感覚が狂ってるんじゃないですか?」
「そんなことないもん……うっぷ」
腰に手を回し、お腹に顔を埋めながら苦しげな声を上げる星之宮先生。
「そんなことだろうと思いましたよ……はい、これ飲んでください」
カバンから経口補水液を取り出し、キャップを開けて先生の口に突っ込む。
わざとなのかそうじゃないのか知らないが、色っぽい声を上げながら中身を飲み干す先生。
「んっ、んんっ……ぷはー。生き返るわぁ」
「お酒は程々にと言ったでしょう? 生徒の手本となる立場なんですから、もっとしっかりしてください」
「むぅ……生意気ー。3年前はあんなに可愛かったのにっ」
いつの話をしてるんだこの人は……高校卒業して変わらない人の方がおかしいだろうに。
「ともかく、職員会議が始まるまでには体調を整えてくださいね。ベッド使っていいですから」
「ん~、いい男になっちゃってー。私のおかげかしら……むにゃ」
白衣のままベッドに飛び込んで、そのまま一瞬で眠りにつく星之宮先生。……よし、これで仕事が捗るな。
ということで仕事を再開する。と言っても、そこまで複雑な事はしない。大体が掃除や片付けなど、保健室を居心地の良い空間にするものばかり。
相談……最近は遊びに来る子の方が多いけど、ストレスの多い学校での生活が苦にならない努力はするべきだ。
そしてそこから30分ほどが経ち、生徒が登校し始める時間帯になった。
廊下に聞こえる生徒達の喧騒に耳を傾けていると、保健室の扉がガラガラと音を立てて開いた。早速お客様が来たようだ。
「おはようございます綾小路先生。今日も暇だと思って来てあげましたよ」
「……おはよう坂柳さん。別に暇じゃないんだけどね、僕」
尊大な態度でずけずけと保健室に入ってくる女子生徒……坂柳さんにそう返す。
「前も言ったでしょう? 昔みたいに有栖と呼んでくださいと」
「……一応先生と生徒って立場だから」
「3つしか変わらないのによく言います。少し見ない間に余裕ぶるようになってしまった……って、それは昔からですか」
どうやって追い返そうか悩んでいたその時、また保健室の扉が開いて、一人の生徒が顔を覗かせた。
「遅いですよ真澄さん。早く入ってきてください」
「……意味わかんないんだけど、何で怪我もしてないのに保健室に連れてこられるわけ」
ひょっこりと顔をのぞかせて、疑いの目で僕と坂柳さんを交互に睨む生徒……確か、神室真澄さんだったかな?
「坂柳さん、もしかしてお友達できたの?」
「まるで私に友達ができるのが珍しいような言い方ですね」
むすっ、という擬音が浮かんでくる程不機嫌そうに返してくる坂柳さん。
「そうなんだ……! 良かったね坂柳さん。……神室さん、坂柳さんをよろしくね。こう見えて結構寂しがり屋だからこの子」
「……何で私の名前知ってるんですか。話したこと無いですよね?」
一瞬だけ目を見開いたのち、警戒するようにこちらに問いただす神室さん。
「生徒の顔と名前は3月の時点で一致させてるから。不安にさせちゃったらごめんね」
そんな神室さんに苦笑いで返す。確かに知らない男にいきなり名字を呼ばれたら怖いよね。
「さっきから黙って聞いていれば随分な言い草ですね。若い教員という立場だけでモテて調子に乗ってるんじゃないですか?」
ヤバい。坂柳さんが怒ってる。面倒なことになる前に追い返さないと。
「ほら、この後職員会議あるから帰った帰った。遅刻したら俺が怒られちゃうって」
「……仕方ないですね。また来ます」
また来るのかい。保健室をカフェテリアか何かだと勘違いしていないだろうか。
「はいはい。またね、
「! ふふっ、最初からそうすればいいんですよ。行きますよ真澄さん」
「ちょ、ちょっと……!」
昔の呼び方をされて一気にご機嫌になった坂柳さんは、そのまま神室さんの袖を引っ張って保健室を後にした。
あんなに小さかった有栖ももう高校生か……背の大きさは昔とさほど変わってないけど。
「生徒に手を出すのは犯罪よ?」
そんな、本人の前で言ったら殺されそうな事を考えていると、いつの間にか起きてきた星之宮先生が背中に抱き着いてきた。
「……誰が言ってんだか」
少なくともこの女だけには言われたくない。マジで。
「えー? 知らなーい。ねえ、私の白衣どこ?」
「奥のベッドの上に畳んでおいてますよ」
「はーい」
そう言って離れた星之宮先生は、俺に見られているにも関わらず、ベッドカーテンの裏で下着姿になって綺麗な白衣に着替えた。
「やばっ、もう会議始まっちゃうじゃん! もっと早く起こしてよ~」
「可愛い来客が居たのでそっちを優先しちゃいました。……っていうか、大人なんですから自分で起きてください」
と言うかそもそも保健室で寝ないでほしい。使い捨てのシーツも安くないんだし。
「よーし、佐枝ちゃんに怒られる前に行くわよ! 怒られたら綾小路先生のせいにするからね」
そう言って保健室を飛び出した星之宮先生を追う、忙しい一日の朝だった。
綾小路先生(息子)
・ホワイトルーム1期生
・綾小路の兄
・ブラコン
・高度育成高等学校の卒業生
・凡人
・コミュ強
・弱メンタル
応援次第で続きます。
生徒をヒロインにすると犯罪になるので、先生から行くことは無いでしょう。逆は分かりません。