TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第九話「否定させたくありません」

 

 

 

 

「光円寺アヤカが来てたの!? 早く言いなさいよ!!」

 

「いや、そんな報告できるような雰囲気じゃなかったんだって。なんか俺、めちゃくちゃ喧嘩売られたし」

 

「日頃の行いじゃないか?」

 

 フェローシャッフルしながら、草汰は辛辣な一言を放った。意外と毒舌なのである。

 

「なんだかなあ……自分のわかんないところで恨み買ってるの、普通にやるせない気持ちになるわ」

 

「で、でも週末来るなら、その時聞いてみたらいいんじゃない?」

 

「たしかにな」

 

「週末こそはサインを貰ってやるわ……!」

 

 耀は光円寺アヤカのファンだった。意外とミーハーなのである。

 

 

 

 そんなこんなで、週末。『ナッシュ』の狭い店内は大いに賑わっていた。

 

「……参加者何人だっけ?」

 

「64人のスイスドローで上位8人まで絞って、そっからはシングルエリミネーション。いずれも1本先取のシングル戦で開催される」

 

「店のキャパを考えてないとしか思えないわね……」

 

 まったくである。そもそもが全卓合わせて32席なのに、その倍って。ショーケースを移動させて予備のテーブルと椅子も用意したが、それでもキツキツのギュウギュウ詰めである。こんなに快適度の低い大会、普通に参加したくない。

 

 それでもこれだけ人が集まったのは──

 

「……狭いですね」

 

「こ、光円寺アヤカだ──────!」

 

「「「「うおおおおおおお!!!! サインください!!!!!」」」」

 

「順番にお並びください」

 

 金髪黒インナーが見えた瞬間、会場がドッと沸き立った。喧しすぎる。

 しかし光円寺アヤカの方は慣れたもので、手早くサインを書いて列を捌いていく。

 

「ふふん、ゲットよ!」

 

「よかったな」

 

 列はまだまだ並んでいるが、耀は光円寺アヤカを見つけた瞬間真っ先に先頭に動いていたので、余裕で貰えたらしかった。

 

「おーおー、賑わってるねえ」

 

「賑わいすぎだろ」

 

 虎次おじさんが面白い物でも見たみたいに、額に手を当てて列を眺める。名物店長の存在もジュニアチャンプの前では霞むらしく、俺たち以外誰一人目を向けていない。

 

「あのさあ、店のキャパのことちゃんと考えた? 俺らめっちゃ劣悪な環境で紙しばかされるんだけど!」

 

「考えたよ。だからほら、ギリ全員入り切ってるだろ?」

 

「入り切ったというか、入っているだけというか……」

 

 光円寺アヤカがいるから許されているだけで、本来なら暴動モノである。

 

「何言ってんだよ、お前も手伝ったクセに」

 

「まさかこのスペースに64人押し込むためのレイアウト変更だとは思わねえよ!!」

 

「ヤケにスペースを広く取るな〜」とは思っていたが、こんなアホなことをするとは思わなんだ。呆れ返っているうちにアラームが鳴って、「時間だ」とおじさんは大きく手を叩いた。

 

「あー、これより公認大会を始める! 形式はもう言うまでもねえな? トーナメント表配るからテキパキやれ、優勝者にはちょっとした景品と、次の地区予選のシード権な」

 

 手馴れた様子で卓ごとにシートを振り分けて、俺たちはザワザワと着席していく。段々と大会特有の程よい緊張感が出てきて、ワクワクしてきた。

 対面と、よろしくお願いしますと会釈し合う。

 

「全員席に着いたな? それじゃいまから始めるぞ。一戦二十分以内、予選は六戦。時間切れの場合はライフが優勢の方の勝利。んじゃ掛け声いけ!」

 

「『レッツ・ストラグル!』」

 

 

 *

 

 

「みんな順調みたいね」

 

「ああ。次負けても、決勝には上がれるだろうね」

 

「厳しいのは俺と翔だけかよ」

 

 試合が早めに終わったので、待ち時間を俺たち三人はダラダラと過ごしていた。

 耀と草汰は五連勝中。俺は既に一敗しており、決勝トーナメントに上がることを考えると後がない。

 

 翔はまだ必死にバトルしている。だが盤面は優勢っぽいので、順調にいけば勝てるだろう。《ムーンライト・ドラゴン》はライフを稼いでくれるので、時間制限の面でも有利だ。

 が、翔は既に二敗しているので、ここから連勝しても決勝は厳しいだろう。とはいえ初心者に毛が生えた程度でその戦績を残しているのは立派だし、なんだかんだ主人公補正で行ってくれる気もするが。

 

「光円寺アヤカも、流石ね……!」

 

「いや、本当にな」

 

 しっかり五連勝してるし、何だったら()()()()()()()()()()()()()()()らしい。隣接マスにスピリットがいないだけで直接攻撃できるこのゲームにおいて、それが如何にすごいことなのかは言うまでもない。実際、記念受験というか()()()()()()()()()()と躍起になっていたプレイヤーがいたが、まったく通用していなかった。

 

「な、なんとか勝てた……!」

 

「おめでとう。中々やるじゃない!」

 

「シート、持って行くよ。みんなと話してて」

 

「あ、ありがとう!」

 

 勝敗を報告する参加シートを、草汰がレジまで持って行った。基本的に、勝者が持っていくのが慣例である(敗者への気遣いと、シンプルな不正対策)。

 

「翔、初めてで四勝してるのはすげえな」

 

「みんなが色々教えてくれたおかげだよ……それにしても、大会って楽しいね!」

 

「ああ」

 

 知らない人とカードゲームをするというのは、緊張感もあるし、新鮮さがあって楽しい。特にこの世界では、大体みんな違うデッキを使っている。知っているデッキなんて一つもない、その新鮮な驚きが堪らないのだ。

 

「え〜、五戦目も無事終わったな。んじゃ六戦目行ってこいよ」

 

「よろしくお願いしま──」

 

「げ、テメェかよ」

 

「うわ」

 

 向かいに座ったのは、うちのクラスのガキ大将──大昌だった。相手が俺であることへの不快感を隠さず、偉そうな態度を取る。

 

「ラストがお前かよ、萎えるぜ。気持ちよく決勝トナメに行かせてくれよ」

 

「お前、五勝してんの?」

 

「ああ。テメェは……ふん、四勝一敗か」

 

 嫌らしい笑みを浮かべて、大昌は続ける。

 

「なあ焔。お前、負けてくれよ。予選で一敗するような奴が、光円寺アヤカに通用する訳ねぇんだからさ!」

 

『「は?」』

 

 声が、デッキケースの中のそれと重なった。いくらなんでもそれは、それだけは駄目だ。子供の戯言と聞き流すことはできない。

 

「やってみないとわかんねえだろうがよ……さっさとデッキ出せガキ」

 

「な……舐めんなよ! ボコボコにしてやる!」

 

「「レッツ・ストラグル!!」」

 

 

 *

 

 

 実際、五勝という戦績に裏付けられるように、大昌は中々の実力者だ。

 

「《超破壊ロボ MAX・デストロイヤー》を召喚! 『臨時2』発動! このターンだけ、コイツのクオリアとおれのクオリア上限が2上昇するぜえ!」

 

 大昌のエース、《超破壊ロボ》が登場してしまった。『臨時』込みで最大8点出すバ火力モンスターだ。

 彼はロボットテーマの高火力速攻(アグロ)デッキ使いだ。自分の守りなんかかなぐり捨てて、短期決戦で攻め立ててくる……! 

 

「まずは《みにロボ》で《ドラコキッド》を破壊してやるぜ!」

 

「通す」

 

「そして《超破壊ロボ》は『二回攻撃』を持ってる! いくぜロボ、焔に一回目の攻撃だぜえ!」

 

「……受ける」

 

「二回目ェ!」

 

「……何もない」

 

「もう一体の《みにロボ》で焔に攻撃! エロいカードを出させることなくこれで終わりだぜえ!」

 

「クイックスペル、《ヒートブレス》を発動。BP4000以下のスピリットを破壊する」

 

「チッ……命拾いしたな。ターンエンドだ」

 

「俺のターン」

 

 山札に手をかけながら、俺は、引っかかっていたことを口にする。

 

「なあ……大昌。俺はもうどうでもいいんだけどさ、エロいカードって言い方やめろよ。普通に失礼だろうが」

 

「……エロいもんはエロいだろうが。それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 ──それはね、()()()()()()()()()()

 誰かに言われた言葉が甘かぶりしてリフレインする。俺の不甲斐なさが、俺だけでなくみんなのことまでも責め立ててしまう。

 

 嗚呼──だから、だから俺は嫌だったんだ。大会なんて、スピストなんて、しなきゃよかった。

 

 苦しくなる身体に、誰かの声が響く。

 

『──旦那様。こんな奴に、負けないでください』

 

「リザ……」

 

『わたくしたちはどう言われても構いません。それでも──わたくしたちが好きな姿でいることを、肯定してくれた旦那様の、その心だけは否定させたくありません』

 

『無論、我も同意だ!』

 

「ああ……ありがとう」

 

 胸の中が熱くなっていく。俺は、スピストから逃げればみんなを守れると思ってた。でも、それじゃ何の解決にもならないんだ。

 

「チッ、公式大会でコソコソビーストと相談か!? ジャッジ呼んでもいいんだぞ!?」

 

「いいぜ。お前の恫喝と人格否定も晒し上げるだけだからな」

 

「ぐっ……さっさとやれよ!」

 

「俺のターン」

 

 圧倒的な劣勢。ライフも手札もない。でも、()()()()()、ここでひっくり返せれば、それこそが()()()()()()()()()──! 

 

「青2、無色4マナで《氷竜ブリザード・ワイアーム》を召喚!」

 

『いざ、参ります』

 

「《氷竜》の能力! 召喚時、敵のスピリット全てを『フリーズ』する!」

 

『フリーズ』したカードは、ターンの開始時にスタンドせず、次の俺のターンまで攻撃できなくなる。こうなるとむしろ、広げた盤面がむしろ、行動の制約となる。

 

「な……ダリぃ! でも大丈夫だ、コイツらが壁になってるから次のターンを凌げば……!」

 

「《氷竜》は、『飛行5000』を持っている。BP5000以下にはブロックされないぜ……! そのまま攻撃してターンエンドだ!」

 

「ぐ、だがまだライフはある……!」

 

 カードを引いた大昌だったが、クオリア制限ギリギリなせいか特に行動せずにターンを終えた。クイックスペルやカウンタースペルでないことを祈りつつ、俺はフェイズの処理を行う。

 

「メインフェイズ。俺は、《獄炎龍インフェルノ・ドラグーン》を召喚!」

 

『活躍の時が来たようじゃな』

 

「アタックフェイズ。《氷竜》で《超破壊ロボ》を攻撃」

 

「わざわざロボを殴るのか!? ご自慢の『飛行5000』を忘れたのかよ!?」

 

「《獄炎龍》は自分のライフが3以下の時、相手スピリットが破壊される度にBPを2000、クオリアを1上昇できる!」

 

「は、なんだと!?」

 

 真ん中のデカブツが空いたことで、フェルは直接大将を殴れる……! 

 

「《獄炎龍》で大昌に攻撃。更に攻撃時効果で、このカードのBP以下の相手スピリットを1体破壊する!」

 

『消えろ有象無象ッ!』

 

 みにロボを破壊して、フェルのスタッツが11000/5まで上昇し、大昌のライフゲージを一気に削った。

 

「《獄炎龍》は『2回攻撃』を持っている」

 

「ク……ッ!」

 

『これで、終わりじゃあッ!』

 

「クソぉ……っ!」

 

 ──勝者、俺。無事決勝トーナメントに進出。

 

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