TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第十四話「ちゃんと引き当ててね」

 

 

「俺のターン!」

 

 フェイズの処理を行いながら、手札のカードを眺める。引きが偏っていたおかげで半分ほどは旧知のカードだが、これから引く未知のカードのことも考えながら、落ち着いたプレイをしなきゃならない。

 

「俺は、《ベビー・ドラコキッド》を召喚。手札を1枚エナへ。更に黄色を含む2コストで、パッシブスペル《天龍創造》を発動。ターン終了だ」

 

「私のターン、ドロー! エナをチャージし、黒エナを含む3コストで《カース・ハウンド》を召喚ヤミ!」

 

 盤面に、この世全てを憎むような形相の黒い大型犬が出現した。

 

「《カース・ハウンド》は召喚時、相手の手札を1枚破壊するヤミ!」

 

 狂犬の吠え声に怯えたように、俺の手札から1枚が落下していった。黒属性の特長の一つ、手札破壊である。

 

「アタックフェイズ! 《カース・ハウンド》でプレイヤーに攻撃するヤミ!」

 

「……受ける」

 

《カース・ハウンド》のBPは3000/1。《ベビー》とは完全に同じスタッツだ。ブロックしてもいいのだが、既に手札破壊(ハンデス)されている以上、あの犬にこれ以上アドバンテージを稼がせる訳にはいかない。

 駆け出した狂犬が迫る。

 

「ぐっ──!」

 

 いつもなら攻撃は障壁に阻まれるが、今回はそんな都合のいい壁なんてない。

 身を守るように組んで出した腕に、狂犬の爪が刺さり、鋭い痛みが走る。クオリアが低いおかげで傷は浅いが、指まで滴る程度には出血している。

 

「……カウンタースペル、《雨降地恵(うこうちけい)》を発動。自分がダメージを受けた時、山札の上から1枚目を裏向きでエナゾーンに置く」

 

「ターンエンド、ヤミ」

 

「俺のターン。スタートフェイズに、パッシブスペル《天龍創造》の効果。俺がアップフェイズにカードを引く時、そのカードを表向きにできる」

 

「はっ、それになんの意味があるヤミ?」

 

「まだ天龍創造の効果は終わってない。自分が表向きのカードを手札に加える時、そのカードがドラゴンであれば、コストの半分ライフを回復できる。捲られたのは《ワンド・ドラコキッド》──ドラゴンだ。ライフを回復するぜ」

 

 天を舞った龍の翼から羽が落ち、それが傷口に触れると同時に癒えていく。

《ワンド》のコストは5。スピストで数字を半分する場合、基本的に切り上げされるので、この場合3点回復する。

 

「そのままドロー。エナをチャージして、黄2を含む5コストで《ベビー》を《ワンド・ドラコキッド》に成長(グロウアップ)

 

 あどけなかった仔龍は、とんがり帽子と杖を持った姿に成長した。6000/2と、中々立派である。

 

「《ワンド》の召喚時。山札の上から1枚目を表向きにして、それがドラゴンなら手札に加えるぜ」

 

 表向きになったのは、《アンフィスバエナ》。同じく5コストだ。

 

「《天龍創造》の効果で、もう一度ライフを3点回復する」

 

 削られていたライフは、一気に15点まで増えた。余裕はできたが、まだ突き放していきたい。

 

「アタックフェイズ! 《ワンド》で、《ハウンド》を攻撃!」

 

「通すヤミ!」

 

 二頭身の龍が杖を振るうと、そこから出た魔法の光線が狂犬を襲った。狂犬は星型のお菓子に変化し、《ワンド》はそれを美味しそうに齧った。

 

「《ワンド》は『ドレイン』を持っている! 相手にダメージを与えた時かスピリットを破壊した時、自身のクオリア分プレイヤーのライフを回復する!」

 

 ワンドの杖から出た光が、俺の身体を癒す。これで17点だ。

 よかった、俺があの得体の知れないお菓子を食べる仕様じゃなくて。

 

「これでターン終了だ」

 

「私のターン、ドローヤミー。エナをチャージして、黒2を含む4コストでカース・サーペントを中央右に召喚、そのまま効果発動! 墓地の『カース』を含むカードを表向きでエナゾーンに置いて、更にそのクオリア分、ライフを回復ヤミよー!」

 

 いい加減ヤミヤミうるさくて分かりづらいが、墓地のリソースを利用して堅実にアドバンテージを稼いできた。幸いスタッツは4000/3と、ほぼほぼ《ワンド》より弱い。

 

「アタックフェイズ、《サーペント》で焔龍一を攻撃ヤミ」

 

「通すぜ」

 

 毒々しい紋様の入った蛇が、その牙をこちらに向ける──が、今回はきちんと障壁に弾かれた。

 このゲームのライフの基準が10だからだ。10が健康体で、0という死に向かっていく。そう考えると、それ以上の状態で傷を負うのはおかしい、という解釈によるものらしい。

 

「苦痛に歪む顔が見られなくて残念ヤミね。ターンエンド」

 

「俺のターン。《天龍創造》の効果で山上を表向きにする」

 

 捲られたのは《白刃取り》。ドラゴンじゃないので外れだ。

 

「そのままドロー。エナをチャージして、《アンフィスバエナ》を召喚」

 

『ふん、妾の出番ね』

 

 盤面に、輝く鱗を持った龍が堂々と出現する。

 

「アタックフェイズ。《アンフィスバエナ》でプレイヤーに攻撃。攻撃時能力で、相手のスピリットすべてのBPを-2000する!」

 

「通すヤミ……!」

 

 龍が放つ光はスピリットたちの目を眩ませ、戦闘員の身体を焼く。

 

「『2回攻撃』だ! BPが0になった《サーペント》は破壊されるぜ」

 

「ライフで受けるヤミ! ぐぐぐぐぐ」

 

 端的ながらも、苦痛に満ちた声が聞こえた。当たり前だ、一気に4点のライフを失ったのだから。

 何かが焦げたような、嫌な香りが漂ってきている。できれば服の部分であってくれと祈りながら、俺は勝つために追撃を選択する。

 

「《ワンド》でプレイヤーを攻撃する」

 

「ぬわああああ!!!」

 

 龍が振るった杖が腕に直撃し、バキ、と嫌な音が響いた。折れてまではいないだろうが、確実に罅が入っただろう。

『ドレイン』で癒されるのを感じつつ、俺は戦闘員に問う。

 

「無駄に人を痛めつける趣味はない。いまからでも遅くないから、降参(サレンダー)してくれ」

 

「ハッ、世迷言を。そもそもこの勝負を挑んだ時点でこっちには後がないヤミ、少しでも可能性があるなら挑むヤミ!」

 

 悪の組織の戦闘員に主人公みたいなことを言われた。実際、その通りではある。まあ、それ以前に挑んでくるなというのがこっちの言ではあるが──

 

「……そうだよ、そもそも何で俺に挑んでくる? 組織を滅ぼしたから恨んでるっていうのはわかるが、だとしてもリスクと見合ってないだろ」

 

「いまの貴様が消耗しているのはお見通しヤミ。ドラゴンも揃っていない今ならワレワレでもワンチャンあるし、何よりそれが()の命令ヤミねえ!」

 

()……!?」

 

 つまり、残党を率いる何者かがいるってことか? 幹部もボスもほとんど再起不能なはずだが──一体誰が、

 

「おっと、無用なお喋りだったヤミね。死人に口無しということで、さっきのは冥土の土産にしてやるヤミ」

 

「ただの土産話にしてやるよ──ターンエンドだ」

 

「おっと、その前にカウンタースペル《背水の陣》を発動するヤミ。私が6以上のダメージを受けたターンの終了時、自分のライフを1にすることでクオリアとエナを2ずつ増やすヤミー!」

 

 山上2枚がエナゾーンに直送された。しかも都合が悪いことに両方黒エナだ。

 コストだからマシとはいえ、残りライフ1ともなれば、アレだけ元気だった戦闘員も憔悴して見えた。

 

「ハア、ハア……私のターン、ドロー」

 

 が──引いたカードを見て、奴は不気味に笑った。

 

「フン、計画通りの引きヤミよ」

 

「何を引いた……!?」

 

「黒4エナを含む7コストでプッシュスペル《窮鼠の大進撃》を発動!」

 

 エナを噛み砕いて、盤面にドブネズミの群れが現れる。

 

「《窮鼠の大進撃》の発動時、自分と相手のライフはそれぞれ、お互いのライフを足して2で割った数値になるヤミ!」

 

「な!?」

 

 俺のライフは17、奴のライフは1。つまり、お互いのライフは9点になる。しかもそれだけではない。

 

「この時、変動した数値分以下のクオリアになるまで、相手のスピリットを破壊できるヤミ! いい加減邪魔なスピリットたちにはお別れヤミ〜」

 

『汚らしいドブネズミごときが我が鱗に触れるなッ!』

 

《ワンド》と《アンフィスバエナ》を、鼠の集団が襲う。それぞれの体躯を覆い隠すほどに鼠が殺到した後、二体は爆発に包まれた。

 

「《ワンド》は『グロウガード』、《アンフィスバエナ》は『エナガード』で耐える!」

 

『な……何なの、いまの衝撃は……痛みは……ッ!』

 

《アンフィスバエナ》は、己の身体を見つめて、現実を疑うようにわなわなと震えていた。そうだ──彼女は、知らないのだった。

 

「……ごめん、《アンフィスバエナ》。伝えるのを失念していた。これはダークデッキケースを使用した闇のバトルであり、プレイヤーへのダメージは勿論、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──通常のスピリットカードは()()である。

 だが、ビーストカードは()()だ。ダメージが実体化する闇のバトルにおいて、その苦痛は計り知れない。俺達(プレイヤー)なんて、痛いと言ってもたかが知れている。

 

「おっと、まだ終わりじゃないヤミよ? 《窮鼠の大進撃》の破壊効果は、数値分まで()()()()()破壊できるヤミねえ!!」

 

「なんだって……!?」

 

 任意の回数、ということはガード系能力で耐えても()()()()()()()()、ということだ。変動値は8、《ワンド》と《アンフィスバエナ》のクオリアは2ずつ。ちょうど破壊されきってしまう……! 

 

『ヒ……ッ!』

 

 鼠の群れが再び、俺のクリーチャーたちへ群がる。刹那に匂った怯えも、恐怖も、すべてを群体が埋め尽くしていく。

 

『キャアアアアアッ!!!』

 

「ごめん、《アンフィスバエナ》……ッ!」

 

 俺の行動は、(いたずら)に彼女の苦しさを増幅させてしまうだけだった。あの頃から、何も成長できていない。思えば、前の決戦の時もそうだった。俺は、彼女を自分の盾にして──! 

 

「おっと、まだ効果は終わらないヤミよ? 《窮鼠の大進撃》で破壊したカードの数まで、《ラットトークン》を生成するヤミ!」

 

「なっ!?」

 

 盤面を鼠の群れが埋め尽くした。流石にスタッツは1000/1と低いが、シンプルな数の暴力……! 

 

「アタックフェイズ! ラットトークン、一斉に攻撃するヤミー!」

 

「く……ああああああ!!!!!!」

 

 鼠の群れが俺に群がって、全身に歯を突き立てる。闇のバトルにおいては()が直接傷つけられるらしく、服には微塵も傷がついていないのに、俺の全身は鼠の歯型だらけになり、だらだらと出血していた。

 

「これでターンを終了する。いいザマヤミね、焔龍一!」

 

「……俺の、ターン」

 

 ふらつく身体を無理やり動かして、ターンを進める。

 ライフを5まで減らされると、徐々に死の足音が近づいてくる。受けた痛みはやんわりと残っているし、心臓は常に高鳴っている。

 

「《天龍創造》の能力で、山上を表向きにする。トップのカードは《黄龍の奇術師》。コスト4のドラゴンだから、ライフを2点回復するぜ」

 

 いくつかの傷が癒え、痛みがマシになった。闇のバトルにおける回復は、苦しみが長く続くだけ、とも言えるが。

 

「《ベビー・ドラコキッド》と、《黄龍の奇術師》を召喚。《黄龍の奇術師》の効果。召喚時に自身を破壊することで、墓地に存在する、自分のエナ数以下のスピリット1体を特殊召喚できる。俺が呼び出すのは──」

 

 どう考えても、この状況で呼び出すカードは決まりきっていた。1枚で盤面を返せる札。それ以外はほとんどありえない、ありえないんだけど──

 

「──《ワンド・ドラコキッド》を、《ベビー》に重ねて成長。《ワンド》の召喚時効果で山上を表向きにする」

 

 デッキトップは《龍の恩恵》。コストがないので《天龍創造》の効果は発動しないが、ドラゴンなのでそのまま手札に加わる。

 

「このままアタックフェイズ。《ワンド》で《ラットトークン》1体を攻撃」

 

 ワンドの魔法が鼠を直撃し、その姿をクッキーへと変化させ、そのまま齧った。

 

「『ドレイン』でライフを回復」

 

 2点分──さっきの回復と合わせて、9点まで持ち直すことができた。

 

 

「ターンエンドだ」

 

「私のターン」

 

 引いたカードを見て、戦闘員はニヤリと笑った。

 

「《ラットトークン》をこれだけ残してよかったヤミか?」

 

「1000/1の低スタッツモンスターだ。盤面が埋まってる方がむしろ邪魔だろ、って判断だよ。その分回復を優先したんだ」

 

「フン、後悔することになるヤミよ──黒3を含む6エナと、盤面の《トークン》を3体破壊することで! 《カース・ゴーレム》を召喚するヤミ!」

 

 ゴゴゴ、と大きな音を立てて地面が揺れ、鼠たちのいた盤面に巨大な地割れが発生し、その下から禍々しいカラーリングの石の巨人が現れ、力強くその拳を突き合わせた。

 

「《カース・ゴーレム》は、コストを払った上で自分のスピリットを任意の数破壊して召喚することができるヤミ。まず、破壊したカードのBPとクオリアを吸収するヤミ!」

 

 鼠3体分の力を得て、巨人は一回り大きくなる。13000/6というとてつもないスタッツ。驚異以外の、何物でもない。

 

「更に、3体以上破壊して召喚した時、コストで破壊したカードの数まで相手の場のカードを破壊できるヤミ! 《ワンド・ドラコキッド》と《天龍創造》を破壊!」

 

「く……! 《ワンド》は『グロウガード』で耐えて、ドラゴンの破壊をトリガーにカウンタースペル『龍の恩恵』を発動。山札からカードを引いて、エナとクオリアも補強させてもらう」

 

「そんなのどうでもいいヤミ! このターンで終わるヤミからねえ! アタックフェイズ、《カース・ゴーレム》でプレイヤーに攻撃するヤミ!」

 

 巨人の目が光り、ドスドスと血を踏み鳴らしながら、こちらに駆ける。大きく歯を食いしばって、俺は覚悟を決めた。

 

「その攻撃は通す! ……ッ!?」

 

 巨大な拳が腹に突き刺さった瞬間、思考が停止した。

 肺が潰れたみたいな、とてつもない衝撃。息もできないまま数メートル後ろに吹っ飛ばされて、水切りの石みたいに身体が跳ねていく。呼吸が上手くできないのに、バウンドする度律儀に漏れ出る声が、何だか他人事みたいにおかしかった。

 

「イイザマヤミィ! もっと見ていたいけど、これで楽にしてやるヤミよ。《カース・ゴーレム》! 『2回攻撃』ッ!」

 

「……ッ……カ、ゥ」

 

 身体に鞭打って、少しだけ身体を起こして手札のカードを提示する。どうにかプレイできたようで、出現した盾が巨人の拳を弾いた。

 

「5点以上のダメージを受ける時に、それを0にするカウンタースペル《ラウンドシールド》か……命拾いしたヤミね。これでターンを終えてやるヤミ」

 

「…………ハ、ハッ……」

 

 何とか凌いだ。6点ものダメージを一括で受けたのは初めてだったが、本当に死ぬかと思った。まあ命の半分以上を消し飛ばすんだから当たり前か、たぶん腹の骨が何本か折れてるし、未だに呼吸も整わない。

 

「…………」

 

 それでも、ターンは進めなきゃいけない。チカチカする頭で、どうにかメインフェイズまで到達する。手札、やばいな。ああ、これは本格的にまずいやつだ。どうすればいいんだろう。どうすれば、よかったんだろう。

 

『……其方』

 

 ぼそり、と声が聞こえる。一瞬幻聴かと思ったが、《アンフィスバエナ》の物だった。

 

「……な、んだよ」

 

『何故、先程妾を呼ばなかった』

 

「さっきいった、だろ。ライフを回復したかった、って」

 

『嘘だ。其方は本当は、あの怪しいトークンを破壊したかったはずだ』

 

「………………」

 

『気遣ったのでしょう、妾を』

 

「……ワンドでアドバンテージを稼ぎたかったのも、本当だ」

 

『何故、そんなことをしたの』

 

「何故って、そりゃあ……好きな奴が苦しむところは、見たくないだろ」

 

 闇のバトルにおける相棒たちの悲鳴は、何回聞いたって慣れない。ましてや、俺の一挙手一投足で、彼女たちの苦しみが決定しているのだから。

 フェルもリザも、そして残り二人も、それは織り込み済みで戦ってくれていた。むしろ、主である俺と共に苦しんでくれると言っていた。しかしそれにしたって、限度はある。それを超えたから彼女たちは力を失っていたのだし──コイツは、記憶まで失っている。

 

「特に、今回のお前は巻き込んじまっただけだ。俺たちの因縁に、いまのお前は関係ない」

 

『……舐めるなッ!』

 

 ぐらついていた意識が、一気に現実に引き戻されるような声量で、彼女は激高した。

 

『其方が全力を出せないのは妾のせいだろうが。妾が奴等を置いてこさせたから、其方は慣れぬデッキで苦しんでいる。その分妾を扱き使うことこそ道理でしょう。あの程度の痛み、大したことはない』

 

「いや、でも──」

 

『でもも何もない! 妾だけを蚊帳の外にしないで頂戴! そうやって、其方はいつも一人で全部抱えて──』

 

 ハッとしたように、龍が息を飲むのがわかった。

 

『──そう。其方は、いつもいつもそうだった。優しいのは勿論認めるけども、相手を危険から遠ざけるだけが優しさじゃないんだよ?』

 

「……それでも、好きな奴にはなるべく苦しんでほしくないだろ」

 

()()()()()()方が、優しさって感じするでしょーが──って、()()()も言ったよね?』

 

「ああ──そうだったな」

 

 いつも通りのやり取りに、口角が自然と緩む。こんな危険な状況なのに、喜びが顔から離れてくれない。

 

「なら、一緒に戦ってくれるか?」

 

『勿論よ──ちゃんと、引き当ててね?』

 

「当たり前だ!」

 

 エナをレストして、手札をぶん投げる。

 

「4コストでプッシュスペル《龍の転生》発動! 墓地のドラゴンを3枚デッキに戻して、2枚ドローする。更にその中のドラゴンの数までエナをスタンドできる」

 

 運命を賭けたドロー、であるはずなのに、いまの俺は、微塵も負ける気がしなかった。

 

「両方ともドラゴンだ。2エナスタンドするぜ」

 

「ハッ、今更手札を増やして何になるヤミ!?」

 

「どうにでもなるさ。相棒さえいれば──!」

 

 黄3エナを含む6コスト。それが彼女の召喚に必要な対価。

 

「《輝龍アンフィスバエナ》を召喚!」

 

「呼ばれて飛び出ていざ推参!」

 

 踊り、舞うようにして彼女は現れた。

 腰までかかる、所々編み込まれた、錦糸のようなブロンドヘアー。褐色気味の肌は純白のニットに包まれており、その背中からは天使のそれのような白い翼と、尻尾が生えている。

 

「《輝龍》の効果! 召喚時に、このカード以外に使っていたカードのコスト分ライフを回復できる」

 

「ハ、今更回復したところで何も変わらないヤミよ!?」

 

「あるじの傷が癒えるから変わりますぅ〜。よしよしあるじ、よく頑張りました」

 

「うう……これどうにかならんかったの……?」

 

「文句言わないの!」

 

 近づいてきた彼女が俺の頭を撫でると、傷が癒えてだいぶ元気になってきた。問題は、恥ずかしいことくらいである。

 

「更に《輝龍》の効果。自分が体力を回復した時、その数値の半分まで『臨時X』を得る」

 

「テンションアガってきたー!」

 

 彼女のぷにぷにだった二の腕に少しだけ力こぶが生まれた。これで、彼女のスタッツは10000/3である。

 

「アタックフェイズ。《輝龍》で《カース・ゴーレム》に攻撃」

 

「打点が足りてないヤミよ!?」

 

「攻撃時効果で、相手スピリット1体のBPを-4000する!」

 

「なあッ!?」

 

「これならよゆーでしょ!」

 

 巨人のサイズがぐんぐんと縮み、鼠を糧にする前よりも更に小型になる。彼女はそれを翼の動きで翻弄し、伸びた爪で斬りつけて破壊した。

 

「だが《カース・ゴーレム》には『エナガード1』があるヤミ……!」

 

「《輝龍》の能力、攻撃で破壊したスピリットのクオリア分、ライフを回復する!」

 

「災い転じて福となす、ってね!」

 

 ライフが回復するということはつまり、()()()()()()()()()()()。6点を得て俺は健康体に戻り、彼女はムキムキになった。

 

「『2回攻撃』!」

 

「そぉーれっ!」

 

 更に縮んだ木偶の坊を、今度は打ち付けた翼で破壊した。またもやその分のライフと打点を得る。

 

「く、でもこのターンさえ凌げばいけるヤミ……!」

 

「次なんてないぜ。カウンタースペル、《ハイヒール・シャイニング》発動! このカードは、ターン中に7点以上ライフを得ていると使える!」

 

「あるじを虐めた恨み、晴らしたるかんね……!」

 

 カツンとヒールで地を蹴って、彼女は空高く飛び上がる。太陽を背に、その翼を金色に輝かせる……! 

 

「自分のスピリット1体の、クオリア分のダメージを相手に与える!」

 

「はあああ……! シャイニング・ブラスト!!」

 

「ぎゃあああああああああ!!!!!」

 

 翼から放たれた閃光が、悪を焼き、滅する。9点、戦闘員のライフとちょうど同じだけの数値。

 光が晴れた時、戦闘員はその場に倒れ伏していた。

 

「そんなに辛くないように加減してあげたかんね。感謝してよ?」

 

「……う…………」

 

 加減されていようが、いまいが、闇のバトルの末路は変わらない。

 ダークデッキケースから放たれた瘴気が戦闘員に纏わりつき、闇の炎となって燃え上がる。それが全身を包むと同時にゲートが開き、肉体も魂も、《アナザー》に住まう闇のスピリットへと捧げられた。

 

「さあ……次は誰がああなりたい?」

 

「きょ、強化なんて聞いてないヤミ! 一時撤退ッ!」

 

「「「「ヤミー!!!!!」」」」

 

 戦闘員たちはそそくさと走って、階段を駆け下りていった。屋上から、廃墟を出ていく彼らの姿をきちんと見送って、完全に去ったのを確認してから、俺はその場にへたりこんだ。

 

「はあ、しんどかった……」

 

「お疲れ〜、色々大変だったね」

 

 よしよし、といつの間にか顕現していた彼女が、俺の頭を撫でてくれた。さっきと違ってヒール効果なんてないはずなのに、なんだか不思議と落ち着いた。

 

「ほんとに大変だったよ。お前、昔はあんな感じだったんだな。いまはこんな感じなのに」

 

「あっ、あんまり弄らないでよ!? わらわにとって結構黒歴史なんだから! あのムッツリして近寄り難い感じが嫌で、頑張ってキャラ変したんだし!」

 

 一人称を除けば、別人かってくらい印象が違う。だけどそれも彼女のひたむきな努力の賜物なのだと知ると、なんだか愛おしく見えてきた。

 

「あっちはあっちで可愛かったけどな。ちょっとしたツンデレみたいな感じで」

 

「そ……そお?」

 

「まあ、お前の好きなようにいてくれや」

 

 遂に耐えられなくなって、俺はその場に寝っ転がって空を見上げる。茜色の空だ。そろそろ帰らなければいけないのに、とてつもなく面倒臭い。

 

「よっと」

 

「こんなところで正座したら服が汚れるぞ」

 

「こんなところで寝てる人には言われたくないかな?」

 

 髪の毛を守ってあげてるんだから感謝してよ? と、頭上から、ニット越しに声が聞こえた。寝心地の良さに思わず欠伸をしてから、ありがとう、と伝える。

 

「本当にいつも、ありがとう。こんな至らないマスターだけど、これからもよろしくな」

 

「ふふ、こちらこそよろしくね」

 

 笑った後に、そうだ、と思い出したように彼女は言った。

 

「ただいま──あるじ」

 

「おかえり──アン」

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