TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

23 / 56
第二十一話「迷いは晴れました」

 

 

 

 耀と草汰の冷たい視線と、それから翔の何だか熱を帯びた視線を一身に受け、俺は店を後にした。

 二人で話せればどこでもいいというので、近所の大きな公園に向かう。森みたいな密度で生い茂る木々を見つめて、俺たちは遊歩道を歩く。

 

「………………」

 

「………………」

 

 気まずい! なんだこの沈黙! 

 一応来るまでの間に、「いい天気だな」とか「昼ご飯何食べた?」とか話題(とまでは言えないまでも、挨拶程度のコミュニケーションジャブ)は振ったものの、そこからの発展が何一つなかった。

 せめて本題に入ることができればよかったのだが、まだ人目のある場所だったし、なんというか、切り出しづらい雰囲気に負けた。

 

「もーちょい歩くとベンチがあるんだけど、そこで一回休むか」

 

「そうですね」

 

 木陰のベンチに座る。目の前の原っぱではちびっ子たちがワイワイとボールで遊んでいた。よく見ればその中にはみに状態のビーストも混ざっていて、なんだか、とても。

 

「……平和ですね」

 

「……だな」

 

 眠気を誘うような暖かな木漏れ日。賑やかな声と、牧歌的な光景。さっきまでしていたような恐ろしい企みや目論見が、水面下で進行している世界とは思えない。

 

「私は」

 

 と、アヤカが語り始めた。

 

「こんな光景を守るために、《機関》に入りました。勿論、闇札会を捕らえるのが私の中での最優先事項でしたが──私のような被害者を、これ以上生まないために」

 

「……ああ」

 

 家を追われ、家族を奪われ。

 そんな悲惨な体験をした彼女だからこそ、他人にそんな経験をさせまいという思いは、人一倍強いのだろう。

 

「立派なことだと思う。もし俺が同じ境遇になったら、他人のことなんて考えてる余裕がないから」

 

「むしろ逆です。他のことを考えて、あの辛い記憶に蓋しようとしていた、だけですから」

 

 そう言うと、彼女は憂いを帯びた顔で微笑んで、それから「先程の話なのですが」と間髪入れずに続けた。

 

「たしか、闇札会の幹部などが所有するダークデッキケースには、対応する闇のスピリットのアイコンが記されているのですよね」

 

「ああ……そうだけど」

 

「龍一、貴方が倒した闇札会のボスのアイコンは?」

 

「──龍、ドラゴンだった」

 

 鋭い牙を生やした、禍々しい龍のマーク。()()()はそれを、最終目標だと言っていたはずだ。()()()()、と。

 

 

「他に、そのアイコンを付けていた幹部の心当たりは?」

 

「いや……アイツだけだった、と思う」

 

「やはり……」

 

 顎に片手を当て、何かを考え込んでいる様子のアヤカは、少しして意を決したように口を開いた。

 

「私の家を襲ったローブの女のケースにも……その龍のアイコンが付いていました」

 

 ボス自ら、光円寺家を襲ったということか。アイツに襲われては、ひとたまりもないだろう。

 

「アイコンが付いているケースの場合、敗者は対応する闇のスピリットの元へ飛ばされる……私の父は、今その龍の元にいるはずです」

 

「そうだな」

 

「先日、龍一の同級生が受け取ったというマッドデッキケース……それを渡したのも、ローブの女だったんですよね?」

 

「ローブを被った女ってだけだよ、アイツかどうかはわからないし、むしろ違う可能性の方が高い」

 

「そう、ですよね……」

 

 アヤカはしょんぼりとした様子で、「すみません」と顔を伏せた。

 

「龍一たちが必死に倒したボスが、生きているかもしれないなんて──《機関》の人間として、間違っても思うべきではないのに」

 

「いや……そんなことないよ。アイツが生きてるなら、お父さんが生きてたっておかしくないもんな。機関員としては間違ってても、人としては正しい願いだろ」

 

 それに、と俺は続ける。

 

「もしアイツが暗躍してるなら、俺たちがもう一度倒せばいいだけのことだからさ」

 

「貴方は……強いですね」

 

「みんなのおかげでね」

 

「ありがとうございます。おかげで迷いは晴れました」

 

 アヤカが小さく頭を下げる。首元までかかる金髪が、風に揺れている。

 

「私も、見習わなければいけませんね。父を助けられるくらい、強くならないと」

 

 胸に手を当てて、アヤカはそう呟いた。その表情はどこか晴れやかで、それでいて決意に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。