TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない 作:織葉 黎旺
歩ける庭園が付いているような、とんでもない豪邸。ソワソワする四人を他所に、俺はインターホンを押す。
「焔です、突然押しかけてすみません」
『
ゴゴゴと音を立てて、10tトラックも余裕で通れそうな大きな門が開いた。そのまま真っ直ぐ遊歩道沿いに、母屋の方に向かう。
「ねえ……! ナッシュで普通にスピストするんじゃなかったの!?」
耀が焦ったように言う。そうか、そういえば俺以外誰もここに来たことはないのか。
「俺たちが身内でやりあったところで
屋敷の扉を開き、自然光が微かに差し込むだけの暗い室内に進む。高級そうなカーペットを踏んで、右側の廊下の奥から三番目左手側の扉。そこに入り、中にあったエレベーターを網膜認証で起動させる。
チン、と軽い到着音と共に、エレベーターが開いた。
「わ……!?」
翔を始め、各々が驚いた反応を見せている。
地下には広大な空間が拡がっていた。俺たちのいるメインの通路の脇に、ガラス張りの様々な区画が分けられ、白衣の科学者が研究していたり、ビーストが何か検査を受けていたり、そしてスピストが繰り広げられたりしている。
「よく来ましたね、龍一」
「出迎えありがとな、アヤカ」
「いえ。丁度訓練が一段落したところでしたので」
そういった彼女は、タオルで頬の汗を拭っていた。少しだけ柑橘系の制汗剤の香りがする。
「それでは一先ず、《機関》の中を案内します」
ゆっくりと歩きながら、アヤカが説明を始めた。
「《機関》の施設は各地に幾つかあるのですが、ここが本部であり、地下に植物の根のごとく広がった構造をしています。これにより、襲撃などの際にも対応は容易となっています」
あのエレベーターが、縦の主根だ。セキュリティの問題で、一定以上のランクの構成員しか入れないフロアも無数にあるらしい。
「《機関》の主な活動は、
大昌の入院──もとい、事情聴取とその後のケアも、《機関》の仕事だった。
無論幼少期のアヤカの救助や、その後の支援も。
「アヤカさん。そういえば、前からずっと気になっていたのですが」
「なんでしょうか」
「龍一のおじさんの『
「ええ、機密性保持のため各自割り当てられます」
「アヤカさんのコードネームは何なのですか?」
「………………」
草汰の質問に、アヤカが固まった。
「機密性保持のためのコードネームですから、ここで宣言する必要はないかと」
「なるほど」
草汰が納得したように頷く。
なるほど。たぶんダサいんだな。あの間とぼかし方的に。全国チャンプにも意外な弱点があるものだ。
というか、ツラと名前が有名すぎて、変装とかしないとエージェント活動できなさそうだけど大丈夫なのだろうか。
「では軽く紹介を終えたところで、まずは筆記試験からいきましょうか」
「し……試験?」
翔がキョトンと首を傾げる。「言ってなかったのですか?」とアヤカ。
「悪い、普通に言い忘れてた。お前らにはこれから、機関のエージェントになってもらう」
『はあ!?!?』
「大丈夫です、試験といっても簡単なものですから」
「それは難しくなきゃ問題だろ」
秘密機関のエージェント試験だぞ。簡単に入れたらまずいだろうが。
いや、アヤカにとっては簡単ってだけの話かもしれないが……中学もいいとこ行ってるし……
「いえ、本当に簡単なものです。貴方たちは
*
等間隔上に机が並ぶ、教室のような部屋に通され試験を受ける。
問題用紙には本当にスピストのことしか書いてなかった。基礎的なライフ計算から、カード効果の処理、
「み、みんな試験どうだった?」
「九割は堅いかな。《アナザー》の知識問題だけ少し不安だけど」
「色ごとの文化とか地域ごとの生活の問題か」
「あ! それ思った、ラファエルに聞いてたところはどうにかなったけど、知らない話あったもん」
「ライガーの話、抽象的で要領を得ないからな……」
「ムーンライトと色々話しててよかった〜」
「教えてくれ、デストロイヤー……」
それぞれのビーストカードのことを思い浮かべながら、各々は安堵したり嘆息したりする。
「
「普通に生きてたらあんまり身につかないもんな」
異国文化みたいなものだ。ある程度有名所は分かっていても、ディープなところは周りに有識者がいるか、自分で確かめるしかない。
「次は身体測定と体力テストですね」
「えっ、まだやるの!?」
「当然です。エージェントに求められる物は多いので」
「悪いなみんな、全力で挑んでくれ。これ越えれないやつはホントに連れてけないから!」
そしてそのまま、身体測定、体力テストを終え──遂に実技試験。
「《
「《エクスサーベル・ライガー》、プレイヤーに攻撃!」
「《ムーンライト・クリアメタル・ドラゴン》で、アタックします!」
「やっちまえ! 《超破壊ロボ MAX・デストロイヤー》ッ!!」
それぞれの相棒が、試験官たちのライフゲージを削り切る。試合を終えたことで
「流石ですね。試験はこれで終了です」
「やっと終わったー!」
「結果ですが……」
ごくり、とみんなが息を飲んだのがわかった。手に持つタブレットを操作して、結果を確認したアヤカが口を開く。
「全員、合格です」
『やったああ!!!』
「ただ、各自それぞれ課題も見えましたので、研鑽を怠らないように。スコアシートは後で返却致します」
「無事全員受かったってことは……顔合わせか」
「ええ。総帥の元へ、ご案内します」
「そ、総帥……!?」
先程の通路の最奥にあるエレベーター。そこに乗り込み、タッチパネルにアヤカが何か記号のような物を打ち込むと、ゆっくりとエレベーターは上昇し、やがて止まる。
「総帥。彼らをお連れしました」
「うむ。入りなさい」
凛とした声が響くと、それを待っていたようにエレベーターの扉が開く。
部屋に入ってまず目につくのは、前面の壁に掛かった大きな赤いフラッグ。恐らく機関の物であろう、ライオンっぽいロゴが刻まれている。
そして──それを背に腕を組んで座る、流麗な銀髪をポニーテールでまとめた眼帯の美女。
「よく来た、少年少女よ。私が《機関》の総帥、ライカ・レベジェフだ」
「総帥……」
「おっと失礼。コードネームは『
「いえ……」
素知らぬ顔で言いつつも、アヤカの顔は少し赤くなっていた。厨二っぽい二つ名が恥ずかしいんだろう、たぶん。
総帥は、空気を引き締めるように軽く咳払いをし、鋭い瞳で俺たち全員を見つめる。
「ワタシから君たちに言うことは一つ──無茶はするな、だ。今日の試験で君たちの素養は分かった。だが、そもそも君たちは子供だ。危ない真似はするべきではないし、少なくともワタシたちが仕事を割り振ることはない」
今日コイツらはエージェントとして認められたが、それはあくまで
基本的には仕事はなく、あくまで機関員としての立場を保証するだけのもの。ほとんどハリボテのようなものだ。
「だが──キミ達は挑んでしまうのだろう? それを止め切ることは我々には難しいし、むざむざ命を捨てる馬鹿は救えない。ならばせめて、自衛できる強さを身につけろ。我々は、エージェントへのサポートならば惜しまない」
「あとで施設や受けられるサービスの詳細な説明を致します」
「……えーっと、つまりはどういうこと?」
耀が発した小声の呟きが、恐らく全員の心境を代弁していた。もう隠す必要もなくなったので、俺は今日の目的を話す。
「今日の試験はほとんど、《機関》のサポートを受けるための物だったんだよ。鍛える上でも設備の上でも、ここを使えるかどうかは大きいからな」
便利な身分証明書として運転免許証を使う、みたいな話だ。実際に運転するかどうかは別として、それを持ってると少し選択肢が広がる、というような。
「だからほとんどエージェントとしての仕事はないし、発行されるライセンスを見せれば
筆記試験の
「ああ。
世辞なのか本気なのかギリギリ分からないトーンで、総帥は言った。照れる小学生たちを微笑ましげに見つめてから続ける。
「疲れただろう。将来のことは置いておいて、今日はひとまず休むといい。アヤカ、送ってあげなさい」
「はい」
「焔龍一。キミには話がある、少し残りなさい」
「うん」
エレベーターは、静かに音を立てて下っていった。しっかり離れたのを確認してから、俺は口を開く。
「総帥。俺の我儘に、融通を効かせてくれてありがとうございました」
「礼ならワタシより、虎次に言うといい──ツテを当たって、相当真剣に頼んでいたようだから。ワタシは、部下たちの審議の結果に従ったに過ぎない」
たしかに、闇札会討伐の英雄の頼み故かもしれないが──と、総帥は笑って言った。
「そんな、滅相もないです」
「二人なんだ。外行きの口調はやめていいんだぞ? 龍くん」
「《機関》の総帥室でそんな舐めたことできないよ──ライカ姉」
「フッ、その方がワタシも話しやすい」
ライカ姉と俺には、前から面識がある。今でこそ機関総帥という堅苦しい立場だが、もう少し身分が軽い時期にはナッシュにも顔を出していたほどだ。
「闇札会とやり合っているのが小学生と聞いた時は戦々恐々としたものだが、その名を聞いて納得したものだ──懐かしい」
「ああ……俺、めっちゃ怒られたよね」
「当たり前だろう。今でも納得していないし、挙句の果てに、今回は友まで巻き込もうとしていると来ている」
「それは……」
「やるなら、徹底的に鍛えろ。一度の敗北で──否、敗北せずとも、弱ければ失う物があるのだから」
そう言って彼女は、左目の眼帯を少しだけ撫でた。彼女がここに来るまでに失った物を思うには、それで十分だった。
「そうだ──虎次は、元気か?」
「相変わらずヘラヘラしてるけど……連絡取ってないの?」
「ない。今回も、ワタシのところには来なかった……後輩とか部下には来たのに……」
さっきまでの威厳ある態度が一転、耳を倒したイヌみたいにしゅんとした様子で、ライカ姉は嘆息した。
「自分からすれば?」
「……立場上、そういう訳には…………」
「はいはい。おじさんには、ライカ姉が心配してたよって言っとくね。余裕できたらナッシュにも行ってあげなね」
「行けたら、行く……」
行かない人の発言だった。
俺もそろそろ表で待たせてるヤツらのところに行かなければならないので、「じゃ、もう行くよ。今日は本当にありがとうね」と踵を返す。
「まて、龍一」
「何?」
「最近の闇札会残党の動き……どうにもきな臭い。
「………………」
「何かあれば、必ず連絡しろ。可能な限り、大人を頼れ」
「わかった。本当に、気をつける」
帰りのエレベーターの中。俺は、守る物が増えた重圧を、少しだけ感じていた。