TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない 作:織葉 黎旺
「今日のHR終わり。解散」
いつも通りドタバタと教室を飛び出していくガキ共を後目に、俺たちは頷き合った。
「今日もやるか」
「ええ、早く行きましょ!」
五人連れ立って向かうのは、ナッシュ──ではなく学校の北側にある裏山。その公園の隅にある倉庫のロックをカードキーで解除し、中にある掛け軸を捲って、その先に続く階段を降りていく。
「な、何回来ても秘密基地みたいでカッコイイよね」
「だよな!? おれも正直、めっちゃテンション上がってる!」
大昌たちの言葉に、俺と草汰も静かに頷く。耀だけたぶん首を傾げていると思うが、ごめん。これは男のロマンなのだ。
階段を下った先にあるエレベーターに乗ると、それが水平に移動し、数分経つと音を立てて開く。
そこはもう、《機関》の施設内だった。
「何回来ても謎のテクノロジーだな……」
どうやら《機関》の施設はこの街の地下全体に広がっているらしく、何だったら一種の地下都市みたいになっている。この前の豪邸地下は、研究メインの空間だったらしく、このフロアにはエージェントとしての活動に役立つジムや病院などの場所から、コンビニやファミレスまで備えている。ここは本当に秘密組織の施設か?
地下に入るための口は街中にあるらしく、先程の倉庫もその一つである。そんなに幾つもあってセキュリティ的に大丈夫なのかと心配になる。
「んじゃ各自適当に。五時半にここ集合な」
「今日は鍛えるわよ!」
「デッキに枠を作ったから、色の合うメタカードを探して……」
「大昌クン、ボクとバトルしてくれない? 昨日のリベンジをさせて!」
「いいぜ、今日もボコボコにしてやる!」
それぞれ、自分のやりたいことを極めようと散っていく。裏山エレベーターから直通で来れるここが施設の主要区画で、この広場みたいな場所のすぐそこに、ショッピングモールみたいに店舗が連なっている。
今日はどうしようかと迷ったが、昨日ちゃんと筋トレしたせいで筋肉痛がえぐいので、超回復を見越して休息日に決めた。とりあえず施設内を散策していたところ、ジムとプールの間に配置された、木の看板が目に入った。
「温泉か……いいな」
地下なのもあってか、しっかり源泉かけ流しらしい。サウナもあるのがベリーグッドである。
「サウナで汗かいて、整わせてから温泉を楽しむか」
浴室内にあるのかと思いきや、男湯と女湯の暖簾の間に『サ』の文字があった。ロウリュウとかもやるデカめのタワーサウナらしい。
更衣室でサウナ着に着替えて、サウナに向かう。早い時間なおかげか、広いサウナ室には俺以外誰もおらず、上から二段目の右端付近に腰掛けて、徐々に汗が滲む感覚を味わう。
「…………」
サウナに入っていると、考え事が捗る。デッキ構築とか、今後のトレーニングプランとか、闇札会のこととか。暑さでまとまらないながらも思考を凝らしていると、ふと扉が開いた。
「えっ」
「ふむ、これがサウナか。中々暖かくてよいな!」
「ねっ! リザはちょっとしんどそうだけど……」
「こ、此処に五分もいるのですか……?」
入ってきたのは、
「どうあるじ、整ってる?」
「いや、全然これから整わすところだけど……三人とも、どうしたんだ」
「どうしたもこうしたもあるか!」
頬を膨らませて、フェルが言った。
「主、最近我等に構わなさすぎじゃ!」
「ええ……? そう? ご飯のときとかめっちゃ喋ってるじゃん」
「逆に言えばその程度でしょ~? 最近はスピストもしてくれてないしさ」
「う、たしかに……」
「だからあるじには、わらわたちに構う義務があるってこと♪」
「わっ」
右端にするりとアンが滑り込んだ。そのまま右腕を取られ、左側にリザ、背後にフェルが座り、それぞれ腕を組んできたり抱きついてきたりしている。
「……動けないんですけど」
「主が逃げぬようにな!」
「暑いので、涼を取らせてください……」
「わらわはあるじとくっつきたいから♪」
頭と両腕に、サウナ着越しでも分かるくらいの膨らみが密着し、形を変えているのがわかった。少し服は湿ってきており、甘酸っぱい匂いが香る。
「ってかここ公共の場だから! 他の人も来るから!」
「ふ〜ん、公共の場じゃなきゃイイってコト?」
「……それは、いや、まあそっちの方がまだマシっていうか……」
「言質……頂きました……!」
ふらふらと、赤い顔のリザが扉に向かう。フェルとアンは俺の両脇をがっちり固め、ゆっくりと立ち上がらせた。
「えっ……俺これから、何されんの?」
「そりゃもう、公共じゃない場所での──裸のお付き合いでしょ!」
*
『サ』の暖簾の隣に、『家』の字の暖簾もあった。家族風呂まであるのかよ。
最初は当然渋ったし、旅館やホテルの例に漏れず記載されている有料の文字を理由に挙げたのだけれど、まさかの既に料金は払ってしまっているという。
「三人のなけなしのお小遣いを合わせて借りたかんね〜、折角だし入ろーよ!」
「女三人水入らずで入るのもいいだろうに。俺出資してないし」
「水臭いこと言わないの! あるじがいないと意味ないんだから!」
「そうじゃ! 三人だと我等が揉め出す恐れがあるぞ!?」
「ええ、間違いなくフェルと喧嘩します」
「そんなことで脅さないでもらっていい?」
……まあ、そこまで言われて断るのも申し訳ないので、折角借りてるし大人しく入ることにした。
脱衣場は想像に反して広かった。
「お前らは先に身体洗って湯船に入ってろ。あと絶対にタオル巻いとけよ! さもないと逃げるからな!」と命じて、俺は丁度死角にあったマッサージチェアに座って、足腰を揉まれつつ、衣擦れの音を全部掻き消した。
「主〜、もうよいぞ!」
浴室の方からフェルのくぐもった声が聞こえたので、恐る恐る覗く。既に三人とも広い浴槽に浸かっており、ほっと胸を撫で下ろしつつ身体を洗う。
「…………」
背中にめちゃくちゃ視線が刺さっている。おい、女三人いるんだから俺なんて気にせず姦しく歓談してくれ。
「旦那様の背中……流したい……」
「絶対断られるって。ってか抜け駆けなしだかんね?」
「風呂は気持ちいいのう……」
何かボソボソ喋っている気がするが、生憎シャワーのせいで何も聞こえなかった。
でも放っとくと背中とかを流されそうな気がしたので、さっさと身体を洗い終えてタオルを巻く。
「待たせたな」
ちゃぷ、と足を檜の浴槽内に沈めていく。うちよりも熱いから、水温は41℃くらいだろうか。
一気に身体を入れて、皮膚が焼かれるようなゾワッとする感覚を味わいながら、壁にもたれかかる。
「やっぱデカイ風呂っていいな……」
手足を伸ばし切れると、やっぱり解放感がある。最近は成長期だからか家の風呂が少しづつ狭くなってきてるし。徐々に水温が身体に馴染んできていて、ポカポカと熱が広がる感覚が大変心地良い。
「ね〜。しかも今日はわらわたちも一緒だもんね?」
「ああ……そうだな。貸し切ってくれて、ありがとう」
「どういたしまして♪」
前までだったら、いくら誘われても渋っていたと思う。
俺は身体が子供なだけで精神は大人だから、自分のスピリットたちに理性を働かせるべきだと思っているし、最近無理を通した《機関》の施設で不審な行動をするのもよくないから。
でも、前大昌に怒られたことで、俺だって楽しいことは楽しい、やりたいものはやりたいとしっかり表現するべきだと思えるようになった。いくら恥ずかしくても、俺を誘ってくれたスピリットたちに応えたくなった。
──何より、いつも、いつでもこうすることができる保証なんて、ないのだから。
「そういえばみんな、風呂場だと髪の印象変わっていいな」
フェルは普段硬めの尖った髪質なのが、水に濡れたことで柔らかくなってストレートロングみたいになっている。リザはポニーテールを水に付けないようにか頭にタオルを巻いていて、アンは編み込まれた髪をシニヨンにして大人っぽい印象を見せている。
「つまりどうじゃ!?」
「え? 印象変わっていいな〜って」
「そうではなくて……」
フェルが唇を尖らせたのを見て、なんだそんなことかとようやく察した。
「うん、似合ってて可愛いぞ。みんな綺麗だ」
「ふふん、当然じゃ!」
「ありがとうございます……」
「さんきゅ〜♪」
三人の顔は揃って赤い。それがお湯にのぼせた訳じゃないことくらい、俺にも分かっていた。
「すみません。ちょ、ちょっと休みます……」
と思ってたんだけど、一人しっかりのぼせていた。やけに静かだと思ったら。
赤い顔のリザが背もたれのある椅子に座った。そもそもが氷龍の彼女に、サウナから温泉の激アツコースは厳しかったのだろう。
暑いからか、彼女は椅子にぺたりとくっつきながら、空気を送るようにパタパタと手で自分の顔を仰ぐ。その度、タオル越しでも激しく主張する胸元が揺れて──
「あ! あるじがえっちな目してる!」
「してない!」
「しなさい!」
そんな理不尽な怒られ方することある?
誤魔化すように、じゃないけれど。しっかりと辛そうに見えたので、一度浴場を出て、水を取って彼女の元に戻る。
「大丈夫か? 水飲め水」
「旦那様……ありがとうございます」
先程よりはマシな顔になった彼女は、ごくごくと水を飲む。一滴口の端から零しながら「ご迷惑おかけしてすみません、お陰様でよくなりました……」と言った。
「暑いのダメなのに無理させて悪かったな」
「いえ……わたくしが、旦那様と共にありたかっただけですので」
へにゃりと普段の彼女からは考えられないような笑みを浮かべてから、彼女は荒い息を吐き、白い手を胸元に持っていく。
「はあ……熱い……」
見えかけた谷間に動揺して目を逸らすと、ニマニマしたアンと目が合った。
「ねえ、リザばかり見てないで……わらわのことも、見て?」
「なっ、抜け駆けはなしと言うておっただろう! わ、我だって……!」
「や、やめろ──────!」
タオルの結び目を解き、ゆっくりとタオルを下げ始めた二人。目を離したくても、金縛りにあったみたいに離せなかった。
そんな俺の身体を動かしたのは、更衣室で鳴り響いた着信音だった。
「電話だ! ゴメン!!」
ビショビショのまま脱衣場に戻って、ロッカーに入れておいたスマホを取り出すと、耀から電話がかかってきていた。
「もしもし」
『今どこで何してんのよ! アンタの決めた集合時間でしょうが!』
「あっ、やべ」
時計の針はいつの間にか五時半を回っていたらしく、もう五分も過ぎていた。
「ごめんみんな! 俺先に出るよ!」
「ん、りょーかい。わらわたちはリザをもう少し休ませてから帰るね」
身支度を整えてから、扉越しにもう一度声をかける。
「今日はありがとう。また来ような。次は……
「ふん、そのために早くあの寝坊助に起きてもらわねばな」
「ああ……」
のんびりしたあの子なら案外、本当に寝過ごしてるだけなんじゃないかと、そんなことを考えながら暖簾をくぐった。