TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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大変お待たせいたしました。カードとバトル展開考えるのがいっちゃん時間かかる


第二十五話「ボクの美の前では路傍の石に過ぎない」

 

 

 

 

 

 決闘場にて、二人の人間が向かい合っていた。

 

「くっ……」

 

 一人は金髪ツインテールの少女、耀。

 

「このボクと闘ったのが運の尽きだね!」

 

 そしてもう一人は、セミロングの茶髪を右に流したナルシスト──周藤成史。

 

「裁きを与えよ、我が高貴なる龍……《アンフィスバエナ》!」

 

『クオオオオ……』

 

「やめてええええええ!!!!」

 

 耀に向けて、黒みを帯びた黄龍が、光線を貯める。それを止めようと観客席から身を乗り出すアン。

 

 

 何故こうなったのか。遡ること数十分前──

 

 

 *

 

 

 定休日の『ナッシュ』。静かなその店内で、俺たちは顔を突き合わせていた。

 

「……で、どうするんだよ」

 

「アタシ、海沿いがいい!」

 

「いや、山の方がいいだろう。マイナスイオンに包まれながらの方が、デッキ構築やプレイも捗るってものさ」

 

「おれは、強くなれるならなんでもいいぜ!」

 

「ボクも……みんなと楽しく過ごせるなら、なんでも!」

 

 俺達はいま、合宿の話をしていた。

《機関》の施設によるサポートを経て俺達は以前よりも強くなったが、ここからは個人で磨き、詰めていく段階である。

 夏休みが近いのもあって、それを活かして合宿をしようという話になったのだ。

 

「じゃあお前らで、ジャンケンとかして決めたらいいんじゃないか?」

 

「異論はないよ」

 

「そうね、それでいきましょう!」

 

 拳を握りしめた二人から、ゴゴゴと闘気が迸る。

 

「「最初はグー! じゃんけんポイっ!」」

 

「くっ、負けたわ……!」

 

「よし勝ったね。それじゃあ僕のターンからで」

 

「先手後手決めただけなんかい」

 

 流れるようにスピストが始まろうとしている。やれやれ、困ったものである。

 

 それを眺めていると、自動ドアが開く音が聞こえた。ちゃんと戸締りしていなかったので、営業日と勘違いした人が入ってしまったのだろう。一言謝って追い返そうと向かえば──例のナルシストプロプレイヤー、周藤成史がいた。

 

「いらっしゃい……と言いたいところなんですけど、今日定休日なんですよ。日を改めて来てもらってもいいですかね?」

 

「……彼女はいるかい?」

 

 何の話だろう、と首を傾げかけてから、ああアンの話かと察する。

 

「いや、今日はデッキの中ですけど──」

 

「彼女に、会いに来た。……違う、彼女を迎えに来た!!」

 

 そこでようやく、彼の様子がおかしいことに気づいた。元々変な人だったから分からなかったが、目元には深い隈が刻まれ、脱力したような猫背で過ごしている。

 その様子は、大昌くんが勝負を挑んできた時と同じだった。

 

「ちょっと、何の騒ぎ?」

 

 音を聞き付けてか、みんながこっちにやってきた。

 

「現マスターの少年! 姫を賭けて、ボクとスピストする栄誉を与えよう!」

 

 彼がポーズを決めながら持つデッキケースの色は、言うまでもなく濁っていた。

 

「いいぜ。叩き潰してや──」

 

「ダメっ!」

 

 デッキを構えた俺たちの間に、両手を広げた耀が割り込み、俺を睨んだ。

 

「勝てば済むからって、女の子を賭けたりしたらダメでしょうが! ねえアンタ、コイツとやりたいならまずアタシを倒してからにしなさい!」

 

 耀がビシッと周藤を指差して言った。彼はわなわなと拳を震わせてから、「うおおおおおおお!!!!!」と耳がキンキンするほどの大声で叫んだ。

 

「ベルゥィィィィィィグッド! その気高き心、美しい友情! 感動した!! よし、その提案、満を持して受けよう!!!」

 

「いいんかい」

 

 てっきりキレたのかと思ったけどそんなことはなかった。満を持してってなんだよ、勿体ぶってたのかよ。

 

「その美しい友情も、ボクの美の前では路傍の石に過ぎない……! キミを前菜(オードブル)にして、主菜(メイン)へのボルテージを上げていこうッ☆」

 

「前菜でお腹いっぱいにしてやるわ……いくわよ!」

 

「「レッツ・ストラグル!!!」」

 

 対戦台にデッキがセットされ、異世界への扉が開き、俺達は決闘場(バトルフィールド)へと誘われる。

 フィールドに広がるのは青い海。その上に浮かんで、二人は向かい合っている。

 

「先手はあげるよ、お嬢さん?」

 

「ありがたくもらうわ、ドロー! エナをチャージして、黄1エナを含む3コスト。アタシは手札から右中央に《晴天使(サニーエンジェル)アラエル》を召喚!」

 

 鷲のような姿の天使が、フィールドに舞い降りた。

 

「アラエルは召喚時、『治癒2』を持っているわ。召喚時に数値分のライフを回復する! これでターンエンドよ!」

 

 耀の【晴天使】デッキは、回復効果やそれによって誘発する効果を活かして戦うデッキ。まずは堅実にライフを稼いで様子見といったところか。

 

「ボクのターン! エナをチャージ。そして青1エナを含む3コストで、左中央に《タツノサーペント》を召喚しよう!」

 

 海底から水飛沫を上げて、下半身が蛇になったタツノオトシゴのようなスピリットが浮上してくる。飛沫は周藤の山札まで飛ばし、彼の手札まで運んだ。

 

「《タツノサーペント》が場に出た時、ボクは山札から1枚引くことができる。さて……」

 

 タツノサーペントのスタッツは3000/1。2000/2のアラエルを越えることができるが。

 

「ターンを終えようか」

 

 ここは様子見の判断。返しのターンを考えると、ここはブロッカーを残すべきだと判断したのだろう。

 

「アタシのターン! エナチャージ、黄2エナ含む4エナで、パッシブスペル《晴天使の祭壇(サニーエンジェル・アルタール)》を設置!」

 

 耀の陣営に、儀式的な装飾が彫られた豪華な祭壇が出現した。

 

「《晴天使の祭壇》は設置時に『治癒2』を発動する! 更に1ターンに1度、アタシのライフが回復した時に10以上だったら、山札の上から1枚を表向きでエナに置くわ!」

 

 継続的なリソースカードである。条件は厳しいものの、生かすと厄介なシステムカードだ。

 

「アタシはこれでターンエンド!」

 

「ボクのターン。エナチャージして、青2エナ含む4エナで《マネキサーペント》を右中央に召喚!」

 

 猫耳猫目の白蛇が、にゅるりと姿を表した。

 

「《マネキサーペント》は場に出た時に、ボクの種族に《蛇》を含むスピリットの数だけカードを引ける。場には2体の蛇スピリット、2枚ドローしてアタックフェイズ。《マネキサーペント》でプレイヤーへ華麗に攻撃☆」

 

「通すわ!」

 

《マネキ》のスタッツは4000/2。ライフを保つのが重要なデッキとはいえ、無為に犠牲を生む(チャンプブロックする)必要はないと判断したのだろう。

 蛇の牙が耀に迫り、障壁に阻まれ、ライフカウンターを減らした。

 

 

「ボクはこれでターンエンド」

 

「アタシのターン、ドロー!」

 

 耀はエナをチャージして6エナ目。大きなアクションに繋げられるコスト帯だ。

 

「黃3エナを含む6エナをレストして、右端に《晴天使ミカエル》を召喚!」

 

 フィールドに、四枚の翼を持つ天使が舞い降りる。

 

「《晴天使ミカエル》の召喚時効果! 直前のターンにアタシが受けたダメージと同じだけ『臨時』を得て、それと同じだけライフを回復する!」

 

 天使の翼が2枚、血のような赤色に染まった。4までという上限が設定されているとはいえ、瞬間火力の伸び方には目を見張るものがある。

 これによって《ミカエル》のスタッツは7000/5。

 

「《祭壇》の効果で1エナ増やして、アタックフェイズ! まずは《晴天使アラエル》で攻撃!」

 

「我が命で受けよう!」

 

《アラエル》が手に持つ槍を周藤へと向け、そのライフを削った。

《タツノサーペント》でブロックして返り討ちにすることも可能だったが、それをしなかったのは間違いなく《ミカエル》を止めるため。だが、耀がそれを見越していない訳もなく。

 

「カウンタースペル、《エンジェルブーツ》を発動するわ! アタシのクオリア2以下のスピリットの攻撃が通ったから、《晴天使ミカエル》に『飛行5000』を与える!」

 

 既に攻撃を終えていた《アラエル》が、走り込んできた《ミカエル》を槍で押し上げて、天高く飛翔させる。

 

「カウンタースペル、《尊き犠牲》を発動する! ボクの場のスピリットを破壊することで攻撃を無効にして、犠牲にしたスピリットのクオリア分ライフを回復させてもらおう!」

 

 破壊された《マネキ》のクオリアは2。回復の数値として大きいものではないが、5点の攻撃を止めたことを考えると偉い。これにより周藤のライフが10に戻った。

 

「……とはいえ、いくら何でも利益損失(ディスアド)がひどいね」

 

 ラウンドフレームの眼鏡をクイっと上げながら、草汰が言った。実際その通りで、カード2枚を使いながら攻撃を1回止めただけ。除去にすらなっていないソレは、動きとしてはとんでもなくお粗末な物だった。

 

「蛇の逸話を知っているかい?」

 

 滔々と、周藤は語り始める。

 

「蛇は神秘性・不死性の象徴さ。特にその最たる特徴として、これがある──カウンタースペル、《脱皮》を発動! ボクの場の種族に《蛇》を含むモンスターが効果で破壊されたので使えるよ。直前に死んだ蛇が、場に舞い戻る☆」

 

 爆発したと思われていたのは抜け殻に過ぎず──心なしか一回りデカくなった《マネキ》が、場に舞い戻った。

 

「戻ってきた《マネキ・サーペント》の効果! 場の蛇の数だけドローさせてもらおう!」

 

 一見ディスアドにしか見えなかった動きが、出た時効果(cip)を使い回すコンボに繋がった。《脱皮》を見せられたせいで効果除去への牽制にもなり、耀は相当動きづらくなる。

 

「私は……これでターンエンドよ」

 

「ボクのターン、華麗にドロー! ……フッ、いい引きだね」

 

 周藤は不敵に笑って、手札を二枚握った。

 

「このカードの召喚コストは、捨てた手札1枚につき2少なくなる! 手札2枚を捨てて4コスト軽減、青3エナを含む5コスト! 《彗星蛇シーサーペント》を右端に美しく召喚!!」

 

 海上(フィールド)に大きな竜巻が発生する。それの外周をなぞるように、巨大な蛇が上昇していき──そして飛沫を上げて着水した。

 

「召喚時効果で2枚ドロー! 更に《彗星蛇シーサーペント》は、ボクがカードを引いた時、引いた枚数以下のクオリアの相手スピリットを破壊できる! 大天使には退場願おうかッ☆」

 

「ミカエルは『エナガード1』で耐えるわ……ッ!?」

 

 蛇の吐いた水弾が、大天使を襲い、更に跳ねた飛沫が耀の元へと跳ねた。

 

「更に破壊したカードのクオリア分のダメージをキミに与えるよ! 続けてアタックフェイズ、《タツノサーペント》で《アラエル》に、《彗星蛇シーサーペント》で攻撃!」

 

 身体に巻きついた蛇の圧力で、天使たちの身体が砕け散る。

 

「《マネキサーペント》でダイレクトアタック!」

 

「くっ……きゃあっ!」

 

 巻きついた蛇の締め付けで、ライフカウンターにヒビが入る。

 

「ボクはこれでターン・エンドさ!」

 

 ライフ自体はお互い初期と同じ10。だが周藤の盤面にスピリットが3体いるのに対し、耀の盤面は0。圧倒的に不利な状況だった。

 

 だが、耀はまだ諦めていなかった。

 

「アタシは……負ける訳にはいかないのよ! ドロー!」

 

 勢いよくカードを引いた耀の目に、希望の火が灯った。

 

「カウンタースペル、《晴天使の祝福》発動! 相手の場に3体以上スピリットがいる時、お互いの場のスピリットのクオリア合計の差だけ、アタシはライフを回復するわ!」

 

《マネキ》が2、《タツノ》が1、《シーサーペント》が3。一気に6点のライフを得た。

 

「《晴天使の祭壇》の効果で1エナブースト。そしてアタシは、黄4エナを含む8エナをレストして!」

 

 耀の背後に、大きく神々しい翼が2枚広がった。

 

「《熾晴天使ラファエル》を中央左に召喚!」

 

「私が、貴女を護ります」

 

 降臨したのは、ロングブロンドの髪を稲穂のように靡かせる天使。

 

「《熾晴天使ラファエル》の召喚時能力発動! アタシはライフを1になるまで払って、《天使トークン》を場の上限まで生成する!」

 

「フッ、そんな雑兵で何ができるって言うんだい?」

 

 悪役になりきってでもいるのか、芝居がかった仕草でそう煽る周藤。

 

「この天使たちは、アタシの痛みに応じて強化されるのよ! 彼らはターン終了時まで払ったライフ1につき1000の攻撃力を得て、3につき『臨時1』を得る!」

 

 耀から溢れた光が天使たちに差すと、彼らはみるみるうちに大きくなり、それぞれの武器を構える。

 耀の払ったライフは15点。つまり、天使たちのスタッツはそれぞれ15000/5。相当強固な大軍だ。

 

「アタックフェイズ! まずは《熾晴天使ラファエル》で《タツノサーペント》に攻撃よ!」

 

「受けよう!」

 

 周藤(プレイヤー)への道筋を阻んでいた蛇が、熾天使の光に焼かれ塵となった。

 

「続けてトークン1体で周藤さんにアタック!」

 

「甘んじて受け入れようじゃないか!」

 

 天使の槍が周藤のライフカウンターを一気に5つ削る。これで、周藤の残りライフは5。つまり、

 

「こ、この攻撃が通ればもしかして……!」

 

「ああ! アイツ、プロに勝っちまうぜ!」

 

「……そうだといいけど」

 

 草汰の小さな呟きに、俺は静かに頷いた。

 

「もう1体の天使トークンで、とどめっ!!」

 

「カウンタースペル、《ラウンド・シールド》を発動しよう! 5点以上のダメージを0にさせてもらう☆」

 

 やはりそう上手くは運ばないらしく、攻撃は防がれてしまった。

 

「なら……ラファエル、《マネキサーペント》に攻撃して!」

 

「光を与えましょう──」

 

 ラファエルの『2回攻撃』で、盤面は《彗星蛇》のみとなった。

 

「カウンタースペル、《抜け殻》を発動! ボクの場の蛇スピリットが破壊されたから、《抜け殻トークン》1枚を生成するよ☆」

 

 もう1体天使トークンが残ってはいたものの、配置の問題で《彗星蛇》と《抜け殻》の2体が壁になっていて直接攻撃はできない。

 

「く、天使トークンで《彗星蛇》をアタックするわ」

 

「それは仕方ないね、受けよう」

 

「アタシは、これでターンエンド……終了時に、天使トークンの攻撃力は0に戻り、『臨時』も消えるわ」

 

 ボードアドバンテージを取る事には成功した。《抜け殻》はスタッツも0/0で基本的には壁にしかならず、いないも同然だ。

 

「ライフ1、怖いね……」

 

「耀のデッキには、回復系のカードも多い。それに天使トークンの壁もあるし、アタッカーのミカエルは『スピリットガード3』を持っている。彼女なら、きっとやってくれるさ」

 

 俺は草汰の言葉に頷いた。周藤の【ミッドレンジサーペント】は、重いデッキではないが軽いデッキでもない。エナの伸びきっていない現状だと、2体出せるかどうかというところだろう。面が埋まっていることで実質的に2回の攻撃を耐えられる現状、耀にターンが回ってくる可能性はある。

 

「ふむふむ、危機的状況だね……でも、逆境でこそ僕は輝く! ライトニングドロー☆」

 

「輝きじゃなくて雷撃じゃねえか」

 

 思わず突っ込んだが、残念なことに引きは良かったらしく、周藤がニヤリと笑った。

 

「うんうん、やはり運命のようだね! ボクたちは引かれあっている!」

 

「ま、まさか……!」

 

「黄2エナを含む5コストを払って、光臨!」

 

 雲の切れ間から舞い降りるのは、黒い鱗を持った細身の黄龍。

 

「舞え、《アンフィスバエナ》ッ☆」

 

「わ……わらわ!?」

 

 デッキから飛び出してきたアンが驚愕の顔で場を見つめる。タッチで黄色が差されているのは確認していたので、もしやとは思っていたが、最悪のタイミングで召喚されてしまった。

 

「効果は勿論、みんな知っているね?」

 

「……攻撃する時、全体に-2000を与える…………!」

 

「いぐざくとりぃぃぃ!! アタックフェイズに移ろうか! 《アンフィスバエナ》で、《熾晴天使ラファエル》に攻撃!」

 

 黄龍の放った光でトークン3体は消滅し、8000/2のラファエルは、目が眩んだ隙に翼の一撃で消滅した。

 

「くっ……!」

 

「このボクと闘ったのが運の尽きだね! 裁きを与えよ、我が高貴なる龍……《アンフィスバエナ》!」

 

「やめてぇぇぇぇぇ!!!」

 

 スピリットカードは分霊である。分霊で、カード化という形で契約に縛られているからこそ、スピストにおいては本体の意思よりもバトルが優先される。

 

「『2回攻撃』☆」

 

 黄龍は口内にエネルギーを集め──そしてそれを放ち、決闘場は眩い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

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