TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

30 / 56
第二十八話「ちゃんと労ってもらわないとね」

 

 

 気がつくと俺は、暗闇の中にいた。

 四方八方を薄闇に包まれた空間。宙に浮かびながらも手足は鎖のようなもので拘束されていて、身動ぎ一つ取ることができない。

 目を凝らせば、ここにいるのは自分だけではないことがわかる。同じように拘束された多くの人々が、苦悶の表情を浮かべながら並んでいる。特に多いのが、見覚えのある──闇札会の制服の奴等。

 

「ああ──そうか」

 

 これが、敗者の末路。今まで倒した敵たちの行先。どこにも行けず、なにも出来ず、ただ時間だけが流れていく地獄。

 今まで自分が、何かを守るために倒してきた相手全てがここにいる。この中にはきっと──アイツの姿もあるのだろう。

 

「……!?」

 

 無限の無の中で過ごすなんて、甘い考えだったと、俺は即座に気づく。

 深淵から、とてつもないプレッシャーが押し寄せてくる。存在だけで冷や汗をかいてしまうような、目を背けたくなる()()()。恐らくそれが、俺たちのエネルギーを吸っていたモノなのだと。そう理解した時にはもう遅くて。

 

「……グッ…………!?」

 

 息も出来ないような圧迫感。呼吸そのものが奪われてしまったような感覚。その中で踠くうちに、俺の意識は更に一段階闇に落ち──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!!!?」

 

 

 闇に落ちるっていうか、光に上がってきた。

 落ちるというならそう、夢に落ちていたらしい。それにしてはやけにリアリティーがあった──なんて思っていれば、未だに感じる息苦しさ。

 

 暑苦しさとずっしりとした重み。あんな夢を見た原因が、自分の上にあることに気づく。

 

 

「……おい、起きろ」

 

「んぅ〜〜〜〜〜?」

 

 息も絶え絶えに、彼女の身体を揺する。本当なら投げ飛ばしたいくらいの物だが、今の俺の身体では、彼女の恵体を動かすのは難しい。

 

 長年放置された雑草みたいに、伸び放題でうねうねした翠の長髪。洒落っ気よりも機能性を重視したことがよくわかる緑のジャージ姿。俺の物を盗んで使用しているせいでサイズは合っておらず、悲鳴を上げたチャック部分があらぬ方向に歪んでいる。

 

「よくも心配かけてくれたな……この寝坊助め」

 

「えへへ〜〜〜〜ただいま〜〜〜〜〜」

 

 へにゃりと口角を上げて、ファフニール──ふに子は笑った。

 

 

 

「ということで、ふに子が起きた」

 

「重役出勤過ぎますね」

 

「元気になってよかったー!」

 

「いや〜〜氷河期に洞窟で冬眠した時くらい寝たね」

 

 スケールがドラゴンすぎてよくわからん。

 三者三様の反応を見せるドラ娘たちの中で、フェルだけは露骨に悲しんでいた。

 

「くっ、ふに子がいなかったからおかわり五杯出来ていたというのに……! これでは三杯しか……!」

 

「いや十分だから」

 

 虎次おじさんが一番喘いでいるのが、店の経営ではなくドラ娘の食料問題であることは、声を大にして伝えたい。その分店で働いてくれてるし、俺も養われている立場だから何も言えないけど。

 

「……ま、まあ許す。其方がいないと、主も寂しそうじゃからな」

 

「フェル……」

 

「寂しいのは貴女も一緒な癖に、素直じゃないですね」

 

「なっ……盤面が空いてるのが嫌なだけじゃ!!」

 

「はいはい、そうだねー」

 

 諭すようにフェルの頭を撫でるアン。

 結局、素直になれないだけなのだ。俺が、彼女たちと戦うのを躊躇っていたのと同じように。

 

「まあ今日は、なんかイイもんでも作ってもらおうか」

 

『わーい!』

 

 揃って喜ぶドラ娘たち。基本的に、色気より食い気でやっている。

 

「あ、ますたー。そういえばなんだけどさ〜〜〜 」

 

「どうした?」

 

「今週末、ヒマならでかけよーよ〜〜〜」

 

「珍しいですね、ふに子が要望を出すなんて」

 

 ふに子は、基本的に怠惰で何もしないドラゴンである。食っちゃ寝してれば幸せという、本能に忠実な奴なのだ。

 

「あたしだって動きたい時はあるよ、基本は人任せだけどね〜〜〜」

 

「おっけ。どこ行きたいんだよ? 今のうちに人数分予約しとくわ」

 

「ん〜〜?」

 

 不思議そうに小首を傾げて、ふに子は翠玉の瞳で俺を見る。

 

「そんなのいらないよ〜〜〜、‎行き当たりばったりの方が小回りきくからね〜〜〜」

 

「でも人数が人数だからなあ」

 

「まあ、ますたあがデートプランガン決めしてきたいタイプなら任せるけどね〜〜」

 

「あー……ん?」

 

 言葉を噛み砕いて、それから疑問を咀嚼した。

 え、デートって言った? 

 

「当たり前でしょ〜〜〜、あたしも働いたんだから、ちゃんと労ってもらわないとね──たっぷりいただくよ?」

 

 そう言って彼女は、鋭い八重歯を覗かせて笑った。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。