TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない 作:織葉 黎旺
気がつくと俺は、暗闇の中にいた。
四方八方を薄闇に包まれた空間。宙に浮かびながらも手足は鎖のようなもので拘束されていて、身動ぎ一つ取ることができない。
目を凝らせば、ここにいるのは自分だけではないことがわかる。同じように拘束された多くの人々が、苦悶の表情を浮かべながら並んでいる。特に多いのが、見覚えのある──闇札会の制服の奴等。
「ああ──そうか」
これが、敗者の末路。今まで倒した敵たちの行先。どこにも行けず、なにも出来ず、ただ時間だけが流れていく地獄。
今まで自分が、何かを守るために倒してきた相手全てがここにいる。この中にはきっと──アイツの姿もあるのだろう。
「……!?」
無限の無の中で過ごすなんて、甘い考えだったと、俺は即座に気づく。
深淵から、とてつもないプレッシャーが押し寄せてくる。存在だけで冷や汗をかいてしまうような、目を背けたくなる
「……グッ…………!?」
息も出来ないような圧迫感。呼吸そのものが奪われてしまったような感覚。その中で踠くうちに、俺の意識は更に一段階闇に落ち──
「……はっ!!!?」
闇に落ちるっていうか、光に上がってきた。
落ちるというならそう、夢に落ちていたらしい。それにしてはやけにリアリティーがあった──なんて思っていれば、未だに感じる息苦しさ。
暑苦しさとずっしりとした重み。あんな夢を見た原因が、自分の上にあることに気づく。
「……おい、起きろ」
「んぅ〜〜〜〜〜?」
息も絶え絶えに、彼女の身体を揺する。本当なら投げ飛ばしたいくらいの物だが、今の俺の身体では、彼女の恵体を動かすのは難しい。
長年放置された雑草みたいに、伸び放題でうねうねした翠の長髪。洒落っ気よりも機能性を重視したことがよくわかる緑のジャージ姿。俺の物を盗んで使用しているせいでサイズは合っておらず、悲鳴を上げたチャック部分があらぬ方向に歪んでいる。
「よくも心配かけてくれたな……この寝坊助め」
「えへへ〜〜〜〜ただいま〜〜〜〜〜」
へにゃりと口角を上げて、ファフニール──ふに子は笑った。
「ということで、ふに子が起きた」
「重役出勤過ぎますね」
「元気になってよかったー!」
「いや〜〜氷河期に洞窟で冬眠した時くらい寝たね」
スケールがドラゴンすぎてよくわからん。
三者三様の反応を見せるドラ娘たちの中で、フェルだけは露骨に悲しんでいた。
「くっ、ふに子がいなかったからおかわり五杯出来ていたというのに……! これでは三杯しか……!」
「いや十分だから」
虎次おじさんが一番喘いでいるのが、店の経営ではなくドラ娘の食料問題であることは、声を大にして伝えたい。その分店で働いてくれてるし、俺も養われている立場だから何も言えないけど。
「……ま、まあ許す。其方がいないと、主も寂しそうじゃからな」
「フェル……」
「寂しいのは貴女も一緒な癖に、素直じゃないですね」
「なっ……盤面が空いてるのが嫌なだけじゃ!!」
「はいはい、そうだねー」
諭すようにフェルの頭を撫でるアン。
結局、素直になれないだけなのだ。俺が、彼女たちと戦うのを躊躇っていたのと同じように。
「まあ今日は、なんかイイもんでも作ってもらおうか」
『わーい!』
揃って喜ぶドラ娘たち。基本的に、色気より食い気でやっている。
「あ、ますたー。そういえばなんだけどさ〜〜〜 」
「どうした?」
「今週末、ヒマならでかけよーよ〜〜〜」
「珍しいですね、ふに子が要望を出すなんて」
ふに子は、基本的に怠惰で何もしないドラゴンである。食っちゃ寝してれば幸せという、本能に忠実な奴なのだ。
「あたしだって動きたい時はあるよ、基本は人任せだけどね〜〜〜」
「おっけ。どこ行きたいんだよ? 今のうちに人数分予約しとくわ」
「ん〜〜?」
不思議そうに小首を傾げて、ふに子は翠玉の瞳で俺を見る。
「そんなのいらないよ〜〜〜、行き当たりばったりの方が小回りきくからね〜〜〜」
「でも人数が人数だからなあ」
「まあ、ますたあがデートプランガン決めしてきたいタイプなら任せるけどね〜〜」
「あー……ん?」
言葉を噛み砕いて、それから疑問を咀嚼した。
え、デートって言った?
「当たり前でしょ〜〜〜、あたしも働いたんだから、ちゃんと労ってもらわないとね──たっぷりいただくよ?」
そう言って彼女は、鋭い八重歯を覗かせて笑った。