TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない 作:織葉 黎旺
「負けましたわ〜!!」
キーッ! とハンカチを歯噛みして、彼女は地団駄を踏んだ。対してふに子は、勝ち誇ったように大きな胸を張る。
「むふ〜〜〜、これがあたしとますたーの力だよ〜〜〜」
「でも、良い
「ええ! 貴方たちにならこのケーキを譲れますわ」
ぱしっと握手を交わして、お互いの健闘を称え合う。スピストが終われば皆仲間なのだ。
「
「焔 龍一だ。次も譲る気はないぜ」
「あ〜〜〜〜〜!」
急にふに子が大声を上げて、スイーツコーナーの一角を指差した。
「ケーキが増えてる〜〜〜〜!!!」
「…………よかったな」
スピストしている間に、ケーキの在庫が補給されていたらしい。そりゃそうだろう、という言葉をすんでのところで飲み込んだ。
「オーホッホッホ! それならば、今度はどちらがより多くスイーツを食べられるか勝負ですわ〜!」
「え? 食べ物で遊ぶのはよくないと思うけどな」
「そ、そうですわね……」
ふに子は、据わった瞳で首を傾げた。食に関しては真剣な女なのである。
「それじゃますたー、コレ半分あげる〜〜〜」
「いや、俺はいいよ。ふに子が食べな」
「なーに言ってんの、二人で勝ち取ったんだから、二人で食べなきゃでしょ〜〜〜? はい、あ〜〜〜ん」
「んむっ」
そう言われ、そうされてしまうと食べざるを得なかった。
ふかふかのスポンジと、甘い甘い生クリーム。イチゴは酸っぱくって、決して俺の好みではない。
けれど。
「美味し〜〜〜?」
「……甘い」
「でしょ〜〜〜? ふふ、付いてるよ〜〜〜」
俺の頬を、ふに子の大きな指がなぞった。そこに付いた生クリームをそのまま口に運び、彼女はぺろりと唇を濡らした。
「な〜〜に、直接舐められたかったの〜〜〜?」
「んなわけないだろ……」
くすくすと揶揄うように笑って、ふに子はケーキを頬張った。
*
「もうこんな時間か〜〜〜」
「だな」
駅前のビル群は橙に染まり、帰る人と出かける人とが入り交じって混沌としている。俺たちは、帰るにはまだ早いと、喧騒から一歩離れたところでぼーっとしていた。
「楽しい時間はあっという間だね〜〜〜」
「……だな」
「つまんない時間は長いのにね」
ふに子は、どこか遠い目をしながら呟いた。
目の前では、マジシャン風の男が、肩に乗った鳩のスピリットと共に路上パフォーマンスを繰り広げている。
「みんなと出会ってからは、本当に毎日があっという間だよ〜」
「それなら何よりだよ」
「最近は、ちょっと長かったけど」
「……やっぱり、戦いの傷は深かったか」
「んーん、まあそれもあるけど」
つう、と肩の辺りを撫でられる。背中にぞわりとした感触が走った。
「ますたーに会えない時間が長かったから、ね?」
「俺たちも寂しかったよ」
「イケズだね〜〜〜〜」
くふふと笑って、ふに子は再び前を向いた。路上パフォーマンスは佳境に差し掛かったようで、マジシャンが布で隠した箱を、見物客が緊張の面持ちで見つめている。
「ねえ、ますたー。あたしさ、地元では《強欲龍》って呼ばれてたんだよね〜〜〜」
「やりたい放題やってる、お前らしいあだ名だな」
「でしょ〜〜〜? 巣に財宝溜め込んでダラダラしてただけなのにねえ〜〜〜」
「優雅な暮らししてんじゃん」
だからさ、と肩が掴まれる。樹海みたいに深く、
「大切なモノは、ずっと手元に置いときたくなる」
夕日を背にした彼女の顔に影が射す。俺の方へと手が伸びる。
それを掴んで、握り返して、絡め取って。
「俺も同じ気持ちだよ。お前を離すつもりはない」
鞄から、ギフト用にラッピングされた小さな箱を出す。ふに子はそれを受け取って、不思議そうに眺めた。
「……開けていいの〜?」
「勿論」
爪で包装に裂け目を入れ、丁寧にビリビリと剥がしていく。中には更に箱が入っていて、開けるとそこには。
「チョーカーだ〜〜〜!」
「コレ、お前に似合いそうだと思ってさ」
他三人のそれと同じ、安物だけど。
ただ、前の三人と違って、今回は予め用意しておく余裕があった。その分本人の反応が見れないから、ちゃんと喜んでもらえるか、少しだけ不安だったけれど。
「どう? 似合う〜〜〜?」
「ああ、最高だぜ」
きちんと大きめの物を買ったおかげで、サイズはピッタリ。黒いチョーカーの中心に埋められた緑の石が、ふに子によく似合う。
「
「喜んでもらえたなら、よかったよ」
首元を愛おしそうに撫でて、ふに子はにへらと笑った。