TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第三十一話「ずっと手元に置いときたくなる」

 

 

「負けましたわ〜!!」

 

 キーッ! とハンカチを歯噛みして、彼女は地団駄を踏んだ。対してふに子は、勝ち誇ったように大きな胸を張る。

 

「むふ〜〜〜、これがあたしとますたーの力だよ〜〜〜」

 

「でも、良い決闘(ストラグル)だったぜ」

 

「ええ! 貴方たちにならこのケーキを譲れますわ」

 

 ぱしっと握手を交わして、お互いの健闘を称え合う。スピストが終われば皆仲間なのだ。

 

砂藤 菓紙子(さとうかしこ)と申します。次こそは負けませんわよ!」

 

「焔 龍一だ。次も譲る気はないぜ」

 

「あ〜〜〜〜〜!」

 

 急にふに子が大声を上げて、スイーツコーナーの一角を指差した。

 

「ケーキが増えてる〜〜〜〜!!!」

 

「…………よかったな」

 

 スピストしている間に、ケーキの在庫が補給されていたらしい。そりゃそうだろう、という言葉をすんでのところで飲み込んだ。

 

「オーホッホッホ! それならば、今度はどちらがより多くスイーツを食べられるか勝負ですわ〜!」

 

「え? 食べ物で遊ぶのはよくないと思うけどな」

 

「そ、そうですわね……」

 

 ふに子は、据わった瞳で首を傾げた。食に関しては真剣な女なのである。

 

「それじゃますたー、コレ半分あげる〜〜〜」

 

「いや、俺はいいよ。ふに子が食べな」

 

「なーに言ってんの、二人で勝ち取ったんだから、二人で食べなきゃでしょ〜〜〜? はい、あ〜〜〜ん」

 

「んむっ」

 

 そう言われ、そうされてしまうと食べざるを得なかった。

 ふかふかのスポンジと、甘い甘い生クリーム。イチゴは酸っぱくって、決して俺の好みではない。

 けれど。

 

「美味し〜〜〜?」

 

「……甘い」

 

「でしょ〜〜〜? ふふ、付いてるよ〜〜〜」

 

 俺の頬を、ふに子の大きな指がなぞった。そこに付いた生クリームをそのまま口に運び、彼女はぺろりと唇を濡らした。

 

「な〜〜に、直接舐められたかったの〜〜〜?」

 

「んなわけないだろ……」

 

 くすくすと揶揄うように笑って、ふに子はケーキを頬張った。

 

 

 *

 

 

「もうこんな時間か〜〜〜」

 

「だな」

 

 駅前のビル群は橙に染まり、帰る人と出かける人とが入り交じって混沌としている。俺たちは、帰るにはまだ早いと、喧騒から一歩離れたところでぼーっとしていた。

 

「楽しい時間はあっという間だね〜〜〜」

 

「……だな」

 

「つまんない時間は長いのにね」

 

 ふに子は、どこか遠い目をしながら呟いた。

 目の前では、マジシャン風の男が、肩に乗った鳩のスピリットと共に路上パフォーマンスを繰り広げている。

 

「みんなと出会ってからは、本当に毎日があっという間だよ〜」

 

「それなら何よりだよ」

 

「最近は、ちょっと長かったけど」

 

「……やっぱり、戦いの傷は深かったか」

 

「んーん、まあそれもあるけど」

 

 つう、と肩の辺りを撫でられる。背中にぞわりとした感触が走った。

 

「ますたーに会えない時間が長かったから、ね?」

 

「俺たちも寂しかったよ」

 

「イケズだね〜〜〜〜」

 

 くふふと笑って、ふに子は再び前を向いた。路上パフォーマンスは佳境に差し掛かったようで、マジシャンが布で隠した箱を、見物客が緊張の面持ちで見つめている。

 

「ねえ、ますたー。あたしさ、地元では《強欲龍》って呼ばれてたんだよね〜〜〜」

 

「やりたい放題やってる、お前らしいあだ名だな」

 

「でしょ〜〜〜? 巣に財宝溜め込んでダラダラしてただけなのにねえ〜〜〜」

 

「優雅な暮らししてんじゃん」

 

 だからさ、と肩が掴まれる。樹海みたいに深く、(あお)い瞳が、こちらを覗いている。

 

「大切なモノは、ずっと手元に置いときたくなる」

 

 夕日を背にした彼女の顔に影が射す。俺の方へと手が伸びる。

 

 それを掴んで、握り返して、絡め取って。

 

「俺も同じ気持ちだよ。お前を離すつもりはない」

 

 鞄から、ギフト用にラッピングされた小さな箱を出す。ふに子はそれを受け取って、不思議そうに眺めた。

 

「……開けていいの〜?」

 

「勿論」

 

 爪で包装に裂け目を入れ、丁寧にビリビリと剥がしていく。中には更に箱が入っていて、開けるとそこには。

 

「チョーカーだ〜〜〜!」

 

「コレ、お前に似合いそうだと思ってさ」

 

 他三人のそれと同じ、安物だけど。

 ただ、前の三人と違って、今回は予め用意しておく余裕があった。その分本人の反応が見れないから、ちゃんと喜んでもらえるか、少しだけ不安だったけれど。

 

「どう? 似合う〜〜〜?」

 

「ああ、最高だぜ」

 

 きちんと大きめの物を買ったおかげで、サイズはピッタリ。黒いチョーカーの中心に埋められた緑の石が、ふに子によく似合う。

 

首輪(チョーカー)か──くふふっ、ありがとねますたー。大切にする〜〜〜」

 

「喜んでもらえたなら、よかったよ」

 

 首元を愛おしそうに撫でて、ふに子はにへらと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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