TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第三十二話「仲間などいない方がいいと」

 

 

「夏だ! 海だ!」

 

『合宿だー!!!』

 

 ──ということで、夏。

 地元から電車で二時間。青い海と白い砂浜が広がる、とある合宿所までやってきた。

 勿論というか、ここも《機関》の保有地である。そのため交通費を除けば、経費はとてつもなく安く済んでいる。

 しかもプライベートビーチのため、貸切状態で最高だ。

 

「さて、じゃあやろうか」

 

 草汰の声に、男子陣が小さく頷き、デッキを取り出す。TCG世界の合宿で、海に来てやることといえば一つ。

 

「素振り百回、始めるよ!」

 

「「おー!」」

 

ぼく(おれ)のターン、ドロー!』という高らかな宣言と共に、勢いよく振った腕が空を切る音が聞こえてくる。プレイヤーの隣でビーストたちも同じ動作をしていて、かなり微笑ましい光景ではある。

 草汰は意外と論理的(ロジカル)じゃなくて肉体的(フィジカル)な男なのだ。

 

「まったく、これだから男子は」

 

 やれやれ、と言いたげなジェスチャーとともに、耀は溜息を吐いた。黄色いワンピースタイプの水着に身を包んだ彼女は、日傘の下、レジャーシートの上に座り、オシャレなカクテルみたいな色をしたジュースを飲んでいる。

 

「殊勝なことです」

 

 日焼け止めを全身に塗りながら、アヤカが満足気に頷いた。

 

「スピリットと共に行われる修行は、双方に良い影響を生み()()の切欠になりやすいと、《機関》の研究結果も出ています」

 

「……マジ?」

 

「マジです」

 

 俺の疑問符に、彼女は首肯で答えた。大人びた白のワイドブリムハットが小さく揺れる。

 

「流石アヤカちゃん! やっぱりああいう修行が一番大事よね、さあ私たちもいくわよラファエル!」

 

「筋肉痛にならない程度に頑張りましょう」

 

 砂浜を駆けていく耀とフワフワ追従していくラファエルがどんどん遠くなっていく。耀はアヤカのことをかなりリスペクトしているらしく、彼女の言葉は大体鵜呑みにするんだよな。

 そんなことを考えていると、粘着質な水音と、肌が擦れる音だけが隣から響いてくる。

 ついつい目を向けると、アヤカはひたすら日焼け止めを塗りたくっていた。白く細い手が、首、腕、胸元まで伸びたのを見て目を逸らす。

 

「ああ、失礼。肌が弱いものでして」

 

「いや、全然大丈夫だけど……」

 

 視線に気づいたらしいアヤカが、誤解を解くように言った。むしろ誤解を解きたいのはこちらだけども。決していやらしい目で見ていたわけではない。

 咳払いして誤魔化す。

 

「そういえば、合宿所のこと教えてくれてありがとな」

 

 今回の合宿の発起人というか、提案者は彼女だ。夏休みに入ったことで、俺たちが毎日のようにあの地下に入り浸っていたところ、同じく夏休みに突入していた彼女が、『折角なら環境を変えてみてはどうでしょう』とここを教えてくれたのだ。

 

「いえ、こちらこそ。お邪魔してしまい申し訳ありません」

 

「いやいや、邪魔なんてことないよ。仲間なんだから」

 

「──仲間」

 

 噛み締めるようにアヤカはそう呟いた。その表情は穏やかでありつつも、どこか複雑な思いを抱えているように見えた。

 

「少なくとも、俺たちはそう思ってるぜ」

 

「いえ、とても嬉しいです。ずっと一人でしたから」

 

 ワイワイと修行する(あそぶ)奴等を、二人で眺める。ドロー特訓は終わったらしく、何故か数名が海に突っ込んでいた。

 

「私には──強くなるためには、仲間などいない方がいいと、ずっと思っていました。でもそうではなかった。友と切磋琢磨することが、成長の道筋となることも多い」

 

 貴方たちと出会ったことで、それを学べました。

 アヤカはそういって、穏やかな微笑みを浮かべた。

 

「そうだな──俺も、そう思う。お前やみんなに出会えたおかげだ」

 

 俺はみんなと違うから────そう思って壁を作ってきた。

 でもその壁はみんなが取っ払ってくれた。耀は明るく連れ出してくれて、草汰は寄り添ってくれて、翔は憧れてくれて──

 大昌とアヤカは、思いっきりぶつかることで、俺の最後の壁を壊してくれた。遠慮とか躊躇いとか、そういった枷を外してくれたのだ。

 

「みんなで競い合い、頼りあって、もっと、もっと強くなろう。大切な物を守り──取り戻すために」

 

「勿論です」

 

 俺たちは決意を新たに頷きあった。

 遠くでスピストが始まったのを見て、「そろそろ俺たちも参戦しようか」とアヤカに提案する。

 

「そうしたいのは山々ですが、少し待ってください。まだ日焼け止めを塗り終えていないので」

 

「ああ、そっか。先に行って待ってるよ」

 

「手伝ってくれないのですか?」

 

 小首を傾げて彼女はこちらに背中を向けた。大人びた黒いビキニの紐が覗いている。

 

「手が届かないため、頼らせてください。仲間として」

 

「………………」

 

 何でもないようにそう言われると、俺の心が汚いだけに思えてきて。

 助けを求められる対象が遠いのを見て、俺は、観念して手をジェルで汚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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