TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない 作:織葉 黎旺
薄闇が包む、夜の海岸。
その中で煌々と、火が燃え盛っている。
「よし肉焼けた! 食っていいぞ、ニンジンとタマネギはまだダメだ、ピーマンとしいたけはもう少しでいける」
「龍一クンありがとう! い、いただきます!」
「あ! おい、それはおれが育ててた肉だぞ!」
「はあ? 名前書いてないのが悪いんでしょーが!」
「うん、相変わらず龍一の焼き加減は完璧だね」
ガヤガヤと賑やかに、バーベキューが進んでいく。その様子に満足しながらトングで食材の並びを整えていると、アヤカがそっと隣に来て「龍一、そろそろ代わりましょうか」と声をかけてくれた。
「焼くばかりでほとんど食べられていないでしょう」
「いや、大丈夫だよ。俺いま、めちゃくちゃ充実してるから……!」
鉄板という
何より、俺が間違いなく一番上手く焼けるので。
「アヤカの方こそ、もっと食った方がいいぜ? 遠慮してると食い意地張ったヤツらに全部取られちまうからな」
それに、食べとかないとたぶん
「わかりました。……無理しないでくださいね?」
「おう、ありがと」
少し焦げた肉をせしめ、ガリガリとした香ばしい食感と香りに舌鼓を打つ。この特権のために焼いてるみたいな所があるからな。
*
「さて、それじゃ本日のメインイベント始めるわよ!」
海岸に面した宿舎、更にその後ろの裏庭で、虫の声をBGMに、懐中電灯だけを持って、俺たちは輪になっていた。耀の声で全員が静かになったのを見計らって、草汰が滔々と語り始める。
「──この先の裏山に古い伝説があってね。戦国時代に敗軍の将と、その相棒のスピリットが逃げ込んで、無理心中を果たしたらしい。その場所はいま小さな祠になっているんだけど──」
一呼吸置いて、周りを見回して、それから草汰は言った。
「──出るんだって」
「で、出るっていうのは……」
「夜、スピストプレイヤーと相棒スピリットが、その祠を通りがかると……無念の中死んだ、彼らの霊が」
「ヒッ!」
「あくまで噂だけどね」
懐中電灯に照らされた草汰の眼鏡が光る。その奥にある瞳は見えない。
「それじゃ、肝試しを始めようか。各自相棒と一緒に山を登って、中腹にある祠にお供え物をして帰ってきてね。道沿いに照明を置いてあるから、迷わないようそれに沿って進んでね」
舗装されていない山道に街灯はなく、足元には最低限の光源として豆電球みたいな明かりが置かれて、光に釣られた虫がバチバチと激突している。そっちの方が怖いかもな。
「祠にはある
草汰が握った阿弥陀を引くと、そこには6の文字。1を引いた(余った1になった)草汰自身から順に、山道へと向かっていく。
「うん、まあ特に何事もなかったね」
「ふ、ふん。こんなの見かけ倒しよね!」
「む、ムーンライトが明るく光ってくれてなかったら、絶対無理だったよ……!」
「多少暗いって程度なら、屁でもねえぜ……」
「…………早く帰りましょう」
以上、各位のコメントである。
青い顔をしたアヤカが俺の傍にトトトッと寄ってきたのを見て、庇護欲なのか母性本能なのかよくわからないものを感じながら、アンカーたる俺は山道を歩き出す。
「……っていうか、本当に俺はこれでいいのか?」
「む? 何も間違ったことしてないじゃろ?」
「夜の山道は危険ですからね。我々が旦那様をお守りいたします」
「賑やかな方が楽しいしね〜♪」
「ね〜〜〜、誰かおんぶ〜〜〜〜」
『絶対嫌だ』という全員の気持ちが伝わってきた。
他のみんなと比べて、俺だけ相棒が多すぎる。この人数で同時に向かうのは、もう肝試しじゃなくてナイトハイキングだろ。
もたれかかってきたふに子を小突いて、ドラ娘たちと山道を上る。思ったよりキツくなってきた勾配を感じながら、足元の灯りを頼りに進むこと数分。途切れる灯りの手前に、小さな祠が見えた。
「これか……」
石造りの、こじんまりとした特徴のない祠である。
懐中電灯で照らすと、微かに苔むしてるのがわかった。人里離れた場所にあるし、あまり手入れされていないのだろう。
軽く手を合わせて、改めて祠を見る。中央には観音作りの扉があって、恐らく中に御神体が入っているのだろう。その下の台座に何か落ちている。これが件の
「…………カード?」
暗い上に黒いせいで、テキストもイラストもよく分からない。しかし他にそれっぽいものもないから、一旦それを手に取って、来た道を戻ろうと踵を返す。
「……ッ、ますたー。気をつけた方がいーよ、嫌な予感する」
ふに子だけでなく、ドラ娘全員が不安そうだったり真剣な面持ちでこちらを見つめていた。ただならぬ状況に、警戒しながら夜道を進む。
「お初にお目にかかります」
「……ッ!?」
反射的に一歩後ろに飛び退いた。警戒していたにも関わらず、声は突然、真正面から響く。落とした懐中電灯に照らされて、男の黒いシルエットが現れた。
「ワタシは、
「……そいつはどうも」
恭しくお辞儀する綾吊は、この真夏だっていうのに黒いスーツとロングコートを着込み、それでいて汗一つかかずに涼しい顔をしている。
最早コイツが心霊と言っても過言ではないが、コイツが生きている人間であることは、手元の黒いデッキケースが証明していた。
「
「どうせ待つ気はないんだろ」
「ええ」
既に俺たちは、闇の瘴気に囲まれている。勝者が決まるまで出られない──生者が決まるまで出られない、命を賭けることを強制するフィールド。
それは即ち旧型──ダークネスデッキケースの能力だった。
「レッツ・ストラグル!」
「デス・ストラグル」
負ければ何もかも失う、肝が冷えるどころではない戦いが始まった。