TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

36 / 56
第三十四話「遺言が長ぇんだよ」

 

 

「ワタシのターン、ドロー」

 

 綾吊(あやつり)の3ターン目。

 命がかかっているとは思えないほど静かに、戦況は進んでいく。

 こちらはいつも通り《ベビー・ドラコキッド》と《ドラグ・フィールド》の設置で、エースの着地に向けた準備を進めている段階。対する綾吊は、服と同じく黒色のカードを使用し、パッシブスペルや墓地肥やしで展開の準備を進める。

 

「ワタシは、黒を含む4エナで、中央左列に『傀儡廻(くぐつまわし)見習いウィリー』を召喚します」

 

 ゆらゆらとした動きと共に、体に見合わない大きなシルクハットを被った少年が現れる。

 

「ターンを終えます」

 

「俺のターン」

 

 きな臭いスピリットだ。4コスト1000/1という、コストに対して明らかに低いスタッツ。恐らく何らかの強力な効果を持っている。黒という色を考えると、恐らく破壊時に起動するだろう。となると、動きを止めたい。

 

「俺は青2エナを含む6エナで、《氷龍ブリザード・ワイアーム》を召喚!」

 

「手堅く参りましょうか」

 

「《ドラグ・フィールド》の効果で、ドラゴンが出たから山札からエナチャージ。更に、《氷龍》の召喚時効果で《ウィリー》を『フリーズ』」

 

「策略ごと凍らせて差し上げます」

 

 リザが扇を一振りすれば、舞う吹雪でウィリーは氷像と化した。

 

「アタックフェイズ。《氷龍》で攻撃!」

 

「通しましょう」

 

「はあっ!」

 

「…………」

 

 放たれた氷の礫が綾吊を襲うが、奴は卓上でプレイしている時のように、何の反応も示さない。ライフ減少が真なる(ダメージ)に変わる、闇のストラグルにおいて、これは極めて異質なことだった。

 

「ターンエンドだ」

 

「ワタシのターン」

 

 淡々と、慣れた手つきで、それでいてスムーズに、ターンの処理が進んでいく。緊張感を感じさせないことが不気味で、俺は少しカマをかけてみることにした。

 

「なあ、お前は()()()の部下なんだよな?」

 

「ええ。ワタシは、己の全てをあの方に捧げております」

 

「それなら、何故あの戦いには出てこなかったんだ」

 

「情報戦のつもりですか?」

 

 流石に露骨すぎたか。「いや、少し気になっただけだ」と誤魔化したが、疑いの目がこちらを向いていた。

 

「クフフ、いいでしょう。冥土の土産に教えてあげます。恥ずかしながら、件の戦争の際には、まだワタシはあの方の素晴らしさを拝領する前でして。ですから、参戦できなかったことを非常に苦々しく思っているのです」

 

 つまり、前回の戦いの時点では闇札会にいなかったということ。

 やはり闇札会のボス、諸悪の根源のあの女は……! 

 

「ですから──あのお方の邪魔をした、貴方を屠れるこの時を、ずっと心待ちにしておりました。是非、甘美なる絶望を味わいくださいませ」

 

 俺の思考と動揺を他所に、綾吊は恭しく右手を胸に当ててお辞儀して、それからカードをプレイした。

 

「ワタシは黒含む3コストを支払い、クイックスペル『等価交換の剣』を発動。自分スピリット1体を破壊することで、相手スピリット1体を選んで破壊できます。ワタシは《傀儡廻見習いウィリー》と《ベビー・ドラコキッド》を指定します」

 

 少年が何処からか現れた剣に腹を貫かれると同時に、《ベビー》の腹部の同じ部分にも刺し傷が現れ、2体は絶命した。

 

「クソ、警戒して止めておいたのに……!」

 

 しかも破壊の仕方がきな臭い。『エナガード』を持っているとはいえ、リザではなく、ほぼ用済みのベビーを破壊するなんて。

 

「破壊された《傀儡廻見習いウィリー》の効果発動」

 

「あっ……!」

 

「リザ!?」

 

 何処からか降ってきた細い糸が、リザの身体に付き、磔にされたような姿勢を取らせる。

 

「相手のスピリット1体に、『傀儡(くぐつ)カウンター』を置きます。このカウンターが置かれたスピリットは『傀儡』となり、相手の意思で攻撃/防御できず、効果は無効化されます」

 

 実質的な置物と化すということか。しかし、それだけに留まらないような、とてつもなく嫌な予感がしていた。

 

「アタックフェイズ。ワタシは、パッシブスペル【オースティンの傀儡劇場】の効果を発動します。『傀儡』1枚のクオリアを1点上昇」

 

「え……!?」

 

 リザの姿勢が変わった。起立の姿勢から、ギクシャクとぎこちない動作で歩かされて──こちらに近づいてくる。

 

「更に1ターンに1度、相手の『傀儡』を持つスピリット1枚で、攻撃することができます。《氷龍ブリザード・ワイアーム》で、プレイヤーを、攻撃っ♪」

 

「い、嫌……ッ!」

 

 ──冷たく、重い拳が腹部に刺さった。

 きゅ、と肺から絞り出されたような声が漏れる。倒れ伏したくなるのを無理矢理堪えて、リザの肩に手を置く。

 

「……だい、じょうぶだから……気にすんな」

 

「そんな、そんなわけないです……! わたくし、が、旦那様を……この手で……!」

 

「ぜんぜん、こんなの痛くない……お前の受けたダメージより、マシだよ」

 

 リザは優しい娘だ。ダメージが実体化する環境で、自分の手で仲間を傷つけてしまったことは、自分自身の痛みより余程傷つくだろう。糸で操られているにも関わらず、ぷるぷると全身が震えている。もし自由だったら、自傷すら行っていたと思う。

 

「傷つけて、ごめんな」

 

「そんなの……! むぎゅっ!?」

 

「はい、時間切れです」

 

 抱き寄せようとした腕の中から、リザは消えた。糸で引き寄せられたらしく、盤面上のあるべき場所に戻された。

 

「いやあ、泣ける展開ですね。主従の絆とはかくあるべきというお手本を見せられたようで、涙がちょちょぎれるかと思いました。とはいえこれ以上の傷の舐め合いは蛇足ですので、一度口を塞がせてもらいます」

 

「…………!」

 

 こちらを見るリザの口は、一文字に固く閉ざされている。だというのに目は大きく開かれ、そこからは大粒の雫がボロボロと零れていく。

 

「そこで静かに、伝わらない謝罪でも懺悔でもし続けてください。その絶望が! 悲哀が! 物語にビターな深みを生みますので♪」

 

「……はあ」

 

 深く息を吐いてから、俺は、絞り出すように言う。

 

「さっさとターンを回せよ……遺言が長ぇんだよ」

 

「それは失礼しました。ワタシのターンはこれで終了です」

 

「俺のターン」

 

 久方ぶりに、胸の内がグツグツと熱く煮え立っている。仲間を玩具のように弄ばれて、黙っていられるような人間はいない。コイツだけは、絶対に倒す。

 

「リザ、いま解放してやるからな……俺は4エナ払って《バドラタッチ!》を発動。《氷龍》を山札に戻し、それと同じか1大きいコストで違う色のドラゴンを場に出す!」

 

「旦那様……申し訳ございません。お心遣い、痛み入ります」

 

「《刻輝龍アンフィスバエナ》を召喚!」

 

「敵討ちと洒落こみますかっ♪」

 

 腕を組んで、純白の黒ギャルが盤面に降臨する。

 

「《バドラタッチ!》の効果で、ライフを3点回復する。アタックフェイズだ。《刻輝龍》で攻撃!」

 

「ワタシはカウンタースペルを──おっと」

 

「《刻輝龍》の攻撃時/防御時効果で、このターン俺が回復した数値以下の手札のカードは使えないぜ!」

 

「これはリザの分!」

 

 アンの放った閃光が、綾吊を焼く。

 

「それからマスターの分!」

 

 素早く駆け寄り、彼女の拳が綾吊の腹へと刺さる。

 

「《刻輝龍》の『ドレイン』で俺は、4点のライフを回復している。計7点以上の回復をトリガーに、カウンタースペル、《ハイヒール・シャイニング》を発動! 《刻輝龍》のクオリア分のダメージを相手に与える!」

 

「そして……わらわの怒りッ!」

 

 天高く飛び上がったアンが、その勢いを乗せた全力の蹴りを綾吊にお見舞いした。

 

「ターンエンドだ」

 

「……やれやれ」

 

 綾吊は服についた土埃を払い、ゆらゆらとフラつきながら立ち上がる。表情こそ変わらないが、死の淵にしてようやく、綾吊の様子に乱れが出た。

 状況としては、相手の残りライフは2点。対してこちらは、計7点の回復で、13点まで持ち直している。

 

「雨降って地固まる──みたいな安っぽい絆が、一番反吐が出るんですよね」

 

 ターンが返ってくればきっと、と、心の奥で少しだけ期待してしまっていた。

 

「全部操って、ぐちゃぐちゃに壊したくなる」

 

 しかし、そんな期待をへし折るように、綾吊からはドス黒いオーラが漏れ出る。

 

「ワタシのターン。ワタシは、黒3エナを含む8コストで、《慢心の傀儡廻(くぐつまわし)オースティン》を召喚」

 

 フィールドに、深くシルクハットを被った、不気味な笑みの長身が現れた。

 

「ターンに1度、盤面にスピリットが登場した時、手札を1枚捨てることで、《慢心の傀儡廻オースティン》は相手のスピリット1体に『傀儡カウンター』を置きます」

 

「や……ッ!」

 

「クソが……!」

 

 アンが縛られ、先程のリザと同じような磔状態にされた。

 

「アタックフェイズ。まずは、《慢心の傀儡廻オースティン》でプレイヤーに攻撃」

 

「ぐっ!?」

 

 オースティンが何かを放つような仕草をすると、肌に細く、燃えるような痛みが走った。有刺鉄線のように鋭い糸が肌を撫でたようだった。

 

「まずは4点。更に、《オースティンの傀儡劇場》の効果で、クオリアを2点上昇させた《刻輝龍アンフィスバエナ》で、プレイヤーに攻撃♪」

 

「あるじ、ごめん……!」

 

「気にすんな……ッ!?」

 

 勢いよく振り上げられた足が、脇腹へと刺さった。一気に8点のダメージ、ライフは5点まで減る。だが、綾吊の場にはもう攻撃できるカードはない……! 

 

「終わり、と思いましたか? 黒1コストで、クイックスペル《屍越え》を発動。自分のスピリットを1体破壊し、その後、スピリット1体をスタンドできます」

 

「『ガード』効果での耐久込みで殴れる回数を増やす戦法か……!?」

 

「ええ、察しがいいですね。《慢心の傀儡廻オースティン》を破壊」

 

「ぅッ!?」

 

「アンっ!?」

 

 綾吊が指を鳴らすと同時に、アンが倒れ伏した。

 

「《慢心の傀儡廻オースティン》は『傀儡ガード3』を持っています。場を離れる際、他の傀儡を切り捨てれば生き延びられるのですよ。丁度いいところに傀儡があって助かりましたね」

 

「卑怯にも程があるだろ……ッ!」

 

「更に、《慢心の傀儡廻オースティン》の前では、壊れた傀儡すらも有効に活用されます」

 

 今度はオースティンが指を鳴らす。するとアンの身体が爆発し、熱と閃光が俺の身体を焼いた。

 

「相手の《傀儡》が場を離れた時、1ターンに1度だけそのクオリア分のダメージを与えられます。さて、それでは幕引きといきましょうか? 《慢心の傀儡廻オースティン》で、プレイヤーに攻撃」

 

「カウンタースペル、《龍の遺志》発動! 破壊されたドラゴンのクオリア分、ライフを回復する……! ぐ……ッ!?」

 

 放たれた糸が首に巻き付き、俺の身体をキリキリと締め上げる。じたばたと藻掻こうにも、宙に浮いてしまった足では地面を蹴ることすらできず、苦しさと無力感に脳が支配されていく。

 

「……ぅ、ゲホッゲホッ!!」

 

 意識を失うすんでのところで、糸は俺を解放した。喉が乾ききって、咳が止まらない。本当に死ぬかと思った。目頭が熱くなり、視界が滲む。

 

「あーあ、あとちょっとで楽になれたのに、勿体ないですねえ。それでは、ターンエンドです。最後のターンをどうぞ」

 

「……おれの、ターン」

 

 肩で息をしながら、どうにか立ち上がる。

 状況はかなり不利になってしまった。ライフ自体はどちらも風前の灯だが、問題はあの《オースティン》だ。

 手札コストを要するとはいえ、カウンターを乗せる能力は本体の召喚時効果(cip)ではなく、俺がスピリットを出した時にも誘発する。しかも、何らかの手段で《オースティン》か、傀儡カウンターを乗せられたスピリットを除去されてしまえば、効果ダメージで負ける可能性が高い。シビアな状況である。

 でも────

 

「お前みたいなやつに負けるわけにはいかない! ドロー!」

 

 俺は、引いたカードを見てから、手札のカードをプレイする。

 

「緑2エナを含む7コストで、《緑龍ファフニール》を召喚!」

 

「出番だよぉ〜〜〜」

 

「召喚時効果発揮! 山札から2枚、裏側でエナチャージ」

 

「ですが、《慢心の傀儡廻オースティン》の効果で、手札を捨てて『傀儡カウンター』を乗せさせて頂きます」

 

「カウンタースペル、《龍の覇気》発動。自分のドラゴンが効果の対象になった時、俺のライフが3以下ならそれを無効にできる!」

 

「あたしたちをさ〜〜〜……あんまり舐めんなよな?」

 

 ふに子がプレッシャーを放つと同時に、地面から生えてきた木が彼女の身体を覆うようにして糸から守る。これで、傀儡とならずに済んだ。

 

「甘いですねえ。ワタシはいま捨てた、《傀儡廻バーゲン》の効果発動。このカードが手札から捨てられた時に、場に傀儡カウンターが乗ったカードがない場合、このカードにカウンターを乗せて『特殊召喚』できます。更に更に、《オースティンの傀儡劇場》がある時、相手はターン中1度は必ず《傀儡》を含むカードを攻撃しなければなりません」

 

 つまり、実質的な攻撃ロック。どちらを殴っても《オースティン》の効果が発動してライフを削られる、詰みの盤面。

 

「さあ、大人しくサレンダーでもしますか?」

 

「しねえよ。絶対にぶちのめす」

 

 手札の最後の1枚を、俺は見せつける。

 

「3コストでプッシュスペル、《登龍門》を発動! 盤面のドラゴンを1枚選び、それよりコスト+2以下のドラゴンを1枚、重ねて場に出す。顕現しろ──《(こく)緑龍ファフニール》!」

 

「久々に、本気出しちゃうよ?」

 

 光に包まれたふに子の姿が変わる。緑のアクセントが入った、オーバーサイズのフリフリとしたワンピース。髪も編み込まれ、普段と違いお淑やかな印象を与える。その首元には、エメラルドの宝石が入ったバングルがあった。

 

「バトルだ。《殻緑龍ファフニール》でお前に攻撃」

 

「むざむざ死にに来ましたか?」

 

「ぶちのめすって言ってるだろうが。攻撃時効果発揮! ()()()!」

 

「いただきまーす♪」

 

 ふに子が、己の周りに漂うエナを()()()()。そうして満足気にお腹を叩くと、「おっけ〜〜、充電完了〜〜〜」とサムズアップして見せた。

 

「《殻緑龍》はターンに1度、自分のエナを墓地に置くことで、その種類に応じた効果を発揮できる。いま置いたのはスペルだ、そのコスト分ライフを回復する」

 

「フ……ですが墓地に置かれたのはカウンタースペルのようですね。コストがない以上、回復はないはずです」

 

「それでいいのさ──この効果でカウンタースペルを墓地に置いた時、発動条件を無視して発動できるからな!」

 

「《龍星群》、いくよ〜〜〜」

 

 ふに子が放ったエネルギー波が、空から無数の弾丸になって降り注ぐ。本来なら自分のドラゴンが3体以上破壊されたタイミングでないと使えないカウンタースペル。その効果は──

 

「相手スピリットすべての効果を無効にし、そのうち1枚を破壊する! これで『傀儡ガード』も、《オースティン》の効果も無効だ!」

 

 龍の力は、邪なモノを祓う。死して尚その意思は人を導くのだ。

 盤面が壊滅したのを受けて、それでも綾吊は不気味に笑う。

 

「クフフ……」

 

 しかしその表情は、先程までのニヤケヅラに比べたら余程人間らしかった。悔しがっているのか悲しんでいるのか、その真意までは伺い知れなかったが。

 

「ふに子──『二回攻撃』」

 

「消えな、下郎」

 

 ふに子の拳が、綾吊の身体を、糸の切れた人形のように地に伏せさせた。

 

 ──勝者、俺。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。