TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第三十六話「また会おうね同好の士」

「『ビースト暴走事件』って覚えてるか?」

 

「去年の春頃あった事件だよな!? 突然ビーストカードが暴れ出すようになる、ってヤツ」

 

「闇札会が裏で手を引いていた、と聞いています。目的は社会不安とビーストカードの地位の失墜、並びにスピリットと人間の()()

 

「ああ」

 

 大昌の指摘とアヤカの補足に頷く。イマイチピンと来ていなさそうな翔を見て、草汰が咳払いした。

 

「翔。ビーストカードを所有しているのは、スピスト人口の何割程度だと思う?」

 

「えーっと……は、半分くらい?」

 

「正解は一割程度。僕たちが珍しいだけで、実はビーストっていうのは、あまり目に入らない存在なんだ」

 

 だからこそ問題なのさ、と草汰は続けた。

 

「珍しいということは、触れ合う機会が少ないということに他ならない。『ビースト暴走事件』の際、暴走したビーストは精々物を壊したり、持ち主やその友達に軽い怪我を追わせる程度で済んでいた。だから個々の事件は大きな問題にならなかったのだけれど、それを見る()()()()の目が問題だった」

 

 実態を知らず、平時を知らない他人にとってみれば、ビーストという存在そのものが危険な爆弾に映ってしまう。そうなると分断は進み、一時期は《ビーストカードお断り》を謳うショップや大会も増えたし、街中を歩くだけで白い目で見られることもあった。

 幸か不幸か人型だからマシだったとはいえ、無論うちの子たちも例外ではない。余談だけど、看板娘がいないその時期の『ナッシュ』の売上は半端なく落ちたらしく、虎次おじさんは泣いていた。だからこそ、暇を持て余した『爆炎の猛虎(ボンバイガー)』が闇札会の捜索に乗り出すことになったのだけれど。

 

「前置きはこのくらいにして結論から言うと、事件の原因は、予防接種と称して打たれた注射にあった」

 

 スピリットの身体や、《アナザー》とこの世界のウィルスの差などによる問題を解決するため、ビーストカードには定期的な健康診断が義務付けられている。その際に、闇のスピリットの因子を植え付けられたのが暴走の原因だった。

 

「店長が発見したその共通点から、暴走したスピリットはいずれもある病院で注射を受けていたことが分かって、僕たちはそこを調べることにした」

 

 そこで俺たちは、アイツに出会ったんだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 病院という場所の都合もあって、人の出入りが激しいため、下調べ自体は簡単だった。証拠があるらしい部屋には当然のように電子ロックがついていたが、こちらには《機関》の元トップエージェントがいるため、その突破は可能だった。

 とはいえ解錠に多少の時間は要するため、俺達は陽動役として、警備の目を引き、部屋に辿り着かせないようにする役割を担っていた。

 

「ねえ、キミ」

 

 おじさんがセキュリティと格闘し始めてから数分。突然聞こえたその声に、俺は内心動揺していた。

 疚しいことをしているから焦った、という訳ではない。疚しいことをしているからこそ、注意深く周りを見ていたというのに、その声は死角の、しかもほとんど耳元で発せられたからだ。

 

「なんですか?」

 

 飛び出しそうになる心臓を抑えて、なんでもないように振り返る。

 そこにいたのは、看護服を着た女だった。着ている割に、どう考えてもコスプレとしか思えなかった。

 何故なら、金を基調として、七色のメッシュや多色の毛が混ざったロングヘアーも、貼り付けたような薄っぺらい笑みも、何よりその値踏みするような赤と青の双眸(オッドアイ)は、看護師が小学生に向ける者とは思えなかったから。

 

「迷子かな? 小児科は向こうだし、お見舞いならあっちだし、スピリット科ならそこだよ?」

 

「あー……実は、そうなんですよ。ツレとはぐれちゃって」

 

「ふ──ん」

 

 女が腰を曲げた。普通であれば子供に視点を合わせるための、親しみを持たせるための動作であるソレは、()()の精度を上げるために行っているとしか思えなかった。

 

「ツレっていうのは? ご家族かな? お友達かな? それともお手持ちのビーストちゃん? あっ、全部?」

 

「……ビーストです」

 

 全部、というのが真の正解だったが、むざむざ情報を与える必要はない。俺が行うべきなのは時間稼ぎだ。雑談に流れるなら、それはそれで重畳。

 

「参考までに、どんな子か教えてもらっても?」

 

「えっと……ドラゴンです」

 

「ほう!」

 

 ぐい、と彼女との距離が縮まった。こちらを見つめる瞳には先程までの怪しい色は籠もっておらず、純粋な輝きだけを放っていた。

 

「キミは将来有望だね。誰しも龍に憧れるものだが、認められることは早々ないものだからね」

 

「はは……ありがとうございます」

 

 ──ドラゴンというのは、言うまでもなく、神秘的で高貴な存在である。

 生物として極めて屈強である上、腕っぷしだけではない様々な力を持ち、知力まで申し分ない。スピリットカードが流通することは多いが、本体に認められることは稀なことである。翔の相棒のムーンライトのように、縁を大事にする個体もいるが。

 とはいえそれも、天運に愛されるドラゴン故の手段とも言える。

 

「ワタシも、いつかは認められたいものだ」

 

「お姉さんもドラゴンが好きなんですか?」

 

「大好きだよ。龍は()()()()だもの。爪は遍くすべてを切り裂けるし、翼は羽ばたき一つで矮小な人間を吹き飛ばせる。高位の龍は魔法だって使えるし、生物として最強と言っても過言じゃないもんな」

 

「わかります!」

 

 熱の入った語りに、その時の俺は心の底から共感した。

 

「何よりカッコいいですもんね……! 強さに更に品格も伴ってますし、東洋っぽいスリムでスタイリッシュなのもオシャレだし、西洋っぽいゴツくて力強いのもイイ!」

 

「少年、キミはいい審美眼を持っているね。銃しかり、剣しかり、洗練された兵器っていうのはカッコイイ。強いモノっていうのは、人を惹きつけてやまないのさ。それに比べて──」

 

 女は窓の方を見つめて、はあ、と嘆息した。何かあるのかと見つめてみたが、青い空と、反射した室内が映るばかりだった。

 

「そろそろかな? 楽しいお喋りに免じて、残ってるデータはあげるよ。もう概ね実験は済んで、次の段階に移るところだからね」

 

「え……!?」

 

「それじゃ、また会おうね同好の士(ドラゴンフリーク)

 

 振り向いた時には既に遅かった。本当に聞きたいことは何一つ聞けないままに、意味深な謎だけを残して、彼女は消えていた。

 それが、アイツ──虹崎皇凪(にじさきおうな)との因縁の始まりだった。

 

 

 

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