TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第四十二話「俺達の今までの思い出を」

 

 

「久々のお出かけじゃあ!」

 

「こら、はしゃぐんじゃありません。旦那様にご迷惑でしょう」

 

「はいはい、離れないように手でも繋いで歩こっか?」

 

「え〜〜めんどくさい〜〜〜〜」

 

 ガヤガヤと賑やかにしながら、俺たちは繁華街に降り立った。

 土曜日だけあってめちゃくちゃ混んでいる。駅構内の銅像の周りなんか、待ち合わせらしき人間たちで一杯だった。

 それは駅を出ても同じで、五人で歩くにはかなり狭い。これに関しては、ドラ娘たちの姿勢も悪いが……

 

「もうちょっと譲り合いの精神とかない?」

 

「「?」」

 

 フェルとふに子が不思議そうに首を傾げた。二人は依頼人を守るSPくらいの距離感で、俺の両脇に陣取っている。

 リザとアンは、ギリギリ譲り合う気持ちがあるため謙虚だが、それでも二歩後ろにピッタリくっついて歩いてくる。いや、たしかに仲良く出かけようとは言ったけども。人混みを考えて郊外の方にすればよかったか? 

 

「まあいいか」

 

 大変なのは移動中だけである。それに、今日は大人数だからこそ楽しめる予定を考えているので……! 

 そのために行くべきベストな目的地は、既に押さえている。

 

 

 *

 

 

 放たれたボウルが、少し弧を描きながら並び立つピンの中心を穿ち、小気味良い音と共に十本一気に倒した。

 

「よっしゃ連続ストライク! ねえねえ、いまの見てたあるじ!?」

 

「ああ。流石!」

 

 喜ぶアンとハイタッチする。彼女はギャルっぽい見た目通りに、ボウリングもダーツもめちゃくちゃ上手かった。

 

「次、ふに子の番だよ」

 

「え〜〜、飛ばしてもいーよ〜〜〜〜」

 

「そんな機能ないから投げてきてくれ」

 

「ちぇ〜〜〜」

 

 のそのそ立ち上がったふに子は、ゆっくりとボウルを持ち上げ、所定の位置につき、そのまま大股の間からまっすぐ両手で射出した。ボウルはのそのそ真っ直ぐ進み、しっかりと全てのピンを倒した。

 

「これでいいんでしょ〜〜?」

 

「ふに子、やるじゃんか」

 

「えへへ〜〜、ますたーハイタッチね〜〜〜」

 

 なんか違う気もするが、まあ凄いことには変わりがないのでいいか。

 とはいえ二回目では、八本倒して終わった。流石にあんなやる気のない投球だと、続けて上手くはいかないらしい。

 

「我の番じゃな!」

 

 ふんす、と鼻息荒くしてフェルがレーンに立つ。ボウルを手に嵌めたまま、一回、二回と腕を回して、三回目に射出。

 

「おい、フェル!?」

 

 放たれたボウルは、レーンを転がらずに、レーンと平行に飛んでいった。真ん中のピン数本だけを吹き飛ばし、ピンが倒れるのとは違ったとても豪快な音が響いてきたが、これは本当に大丈夫なのだろうか。

 

「ボウルを投げるな、危ないから!」

 

「すまんすまん、手が滑った」

 

 申し訳なさそうにフェルは言った。ボウルに、地面を滑らせてほしい。

 幸い特に故障などはしなかったようなので、一旦そのまま続行することにした。二球目はガーターを滑っていった。

 

「わたくしの番、ですか」

 

 リザが立ち上がり、静かにレーンへと向かう。よくよく考えると振袖でボウリング場にいるのは違和感がすごいし、ちゃんとボウルを投げられるのか不安だが、それでも彼女はレーンに立った。

 

「ふ──!」

 

 ボウルを片手に、とと、と静かに助走を付け、今までの誰よりも流麗で無駄のないフォームで、ボウルをレーンへと放る──! 

 

『?』

 

 放たれたボウルは、勢いよく回転をつけて曲がり、左のガーターへと嵌って転がっていった。

 

「……成程、感覚は掴みました」

 

 戻ってきたボウルを握り、リザは再び鮮やかな投球を行う。が、今度は勢いよく右のガーターへと曲がった。

 

 ゆっくりとこちらに振り返るリザ。目を逸らすドラ娘たち。

 

「だ、旦那様の前でこんな不甲斐ない姿をお見せするなど……!」

 

「立派な投げ姿だったよ。ピンは倒せてなかったけど、フォームは綺麗だったし、練習すればきっといけるぜ」

 

「うう……ありがとうございます……♪」

 

 半泣きで崩れ落ちたリザの頭をぽんぽんと撫でて慰めていると、辺りから鋭い殺気を感じた。

 

「我なんてカッコイイ投法で五点も取ったのに……」

 

「え〜〜、あたしだって十八点も取ったよ〜〜〜」

 

「妾もストライクなんか取らずに、次からはもっとカッコよく投げようかな〜」

 

「いやごめん、みんなも凄かったって!」

 

 擦り寄るみんなの頭を撫でる。ボウルの投げすぎじゃなくて、両手の動かしすぎで筋肉痛になりそうだ。

 

 

 *

 

 

 そのあとも、俺たちは全力でアクティビティを楽しんだ。

 テニス、バレーボール、バッティングと身体を動かしたが、流石にドラゴン娘には勝てなかった。唯一卓球だけは俺が勝てた(ちょっと嬉しかった)。

 カラオケして熱唱して、フェルのシャウトにビビったりしたあと、俺たちは満喫し尽くした商業施設を出て、ご飯に向かった。

 

「肉! 食うのじゃ!」

 

「めんどーだから取りに行ってきて〜〜〜」

 

「野菜も取らないと駄目ですよ!」

 

「飲み物頼んどくね〜」

 

「一旦先付け焼いとくからな」

 

 焼肉の食べ放題は、焼き上がりまでの時間(ラグ)があるため元が取りづらいとされているが、好き勝手に肉を貪れる満足感を考えたら悪くないと思っている。

 特に、今回選んだのはちょっとお高い店のお高いコースである。肉を頼む時は、ショーケースの中に綺麗に並べられた肉の中から、量を指定して店員さんに取ってもらう。勿論霜が振っているのは当たり前で、希少部位みたいなあまり聞き馴染みのないお肉も多く、選び甲斐がある。

 

「くう、一度にこれしか取れんとは……!」

 

「いや多いって」

 

 フェルが山盛りになった肉の皿を抱えて帰ってきた。一応種類は散らしているみたいだが、たぶん、合わせて三十人前は下らない。お洒落な店にありがちな、肉の部位名が書かれた木の名札みたいなのが添えられているが、肉に埋もれているため存在感が薄い。

 

「すぐに火が通るカルビから焼くか。先付けはもつ食えるから盛るぞ」

 

『いただきます!』と声が重なった。塩やら胡椒やらタレやらレモンやら、思い思いの味付けと共にドラ娘たちは肉を口に運んで、頬を緩める。

 

「美味いのじゃ〜!」

 

「大変美味しゅうございます♪」

 

「中々イケてるじゃん!」

 

「ね〜〜、もう生でいいからお肉ちょうだい〜〜〜」

 

「ドラゴンの感覚で食おうとするな」

 

 だが言われて、サイドメニューの存在を思い出した。机上のタブレットを見れば、副菜の欄に桜ユッケが存在している。しかも食べ放題である。

 

「おまたせしました、桜ユッケですね」

 

「まってました!」

 

 カルビを食べ終え、ロースを焼いている間にユッケがやってきた。

 肉が焼けるまでの繋ぎとして優秀すぎる。しかも美味い。これにはドラ娘たちもニッコリ。

 

「おかわり頼んどいて〜〜〜」

 

「もう注文してる」

 

「流石主じゃ!」

 

 肉もしっかり焼けたので、各々のベストなタイミングで皿に盛る。フェルはレア、リザはウェルダン、アンはミディアムでふに子はまばらに乗せていく。

 

「いいぞ、自己ベストを更新できてる……!」

 

「ゲーム感覚でお肉焼いてるの?」

 

「効率良く焼き続けて、どれだけ数多くの美味い肉を周りに食わせられるかが焼肉の醍醐味だからな……!」

 

「え〜〜、それじゃ美味しくないでしょ〜〜〜、はい」

 

「むぐっ」

 

 口の中に、ふに子が皿の肉を突っ込んだ。コリコリとしたこの食感はタンだろうか。

 

「そうですよ。わたくしたちのことばかりではなく、旦那様もご賞味くださいませ」

 

 ふうふうと湯気の立つ肉を冷まして、リザはそれを俺の口の前まで運んだ。ふに子と違って突っ込まれた訳ではないから、遠慮しようかとも思ったけど、気恥ずかしさを感じながらもつい口を開いてしまった。ロースの肉汁が口の中に広がる。

 

「……美味い」

 

「あ、二人ばっかりずる〜い! 妾もあるじにあーんしたい!」

 

「我はされる方で頼むぞ!」

 

「あたしもさっきの分で食べさせてよ〜〜〜〜」

 

「いや、俺は肉を焼かないと……!」

 

『私たちとお肉とどっちが大切なの?』という無言の主張を感じ、逡巡の後、嘆息。大人しく、肉を焼くのを止めて為されるがままとなった。

 

 

 *

 

 

「いや〜美味しかったね!」

 

「うむ、腹八分じゃ」

 

「あと二時間くらい食べたかったな〜〜〜」

 

「誠に美味でございました。また行きたいですね」

 

「ウン、ソウダナ」

 

 確かにめちゃくちゃ美味かったし、満足感はとてつもない。ただ、先程の会計の数字が脳裏を離れなくなってしまった。俺のお小遣い一年分どころの騒ぎじゃない、お年玉含めてギリギリくらいか? 

 

 ──まあ、コイツらが満足してくれたなら何よりか。

 

「また、次の戦いが終わったら打ち上げで行くか。その時の会計は《機関》にツケちゃえ」

 

「どうせなら単品の焼肉屋行こーよ、高級なとこ〜〜〜」

 

「それならあるじが忙しなく働く必要もないもんね!」

 

「アレはアレで楽しんでるんだけどな」

 

 忙しいというのは、ある種の充実感を齎してくれる。特に、好きな人のために働くというのは。

 こんなの、絶対本人たちには言わないけれども。それでも彼女たちは、なんだか見透かしたみたいに笑って言った。

 

「主は頑張りすぎじゃ。偶には我等に任せてみてもバチは当たらん!」

 

「そうですわ。わたくしたちも、旦那様のお力になりたいのですから」

 

「任せないと働かない、怠け者もいるしね?」

 

「あたしを上手く使えないのが悪いよね〜〜〜」

 

 アンとふに子のコントじみたやり取りに、俺たちはくすりと笑った。

 

「そんな頑張り屋さんのマスターに、妾達からプレゼントがありまーす!」

 

 ポンとアンが手を叩く。するとみんながふに子を見つめて、彼女はダボッとしたパーカーの大きなポケットから、小さな小包を出した。

 

「はい、ますたー。開けてみて〜〜〜」

 

「ああ」

 

 丁寧な包装を破くと、その中から更に小箱が現れる。開けると、その中には──たしかな煌めきを放つ、小さな宝石(ダイヤモンド)のついた指輪があった。

 

「すごく綺麗だ……! ありがとう、でも高かったんじゃないか……?」

 

「あたしの住処に転がってたヤツだから大丈夫〜〜〜」

 

「加工費しかかかっておりませんわ。それに、わたくしたちの方こそいただいてばかりなので」

 

 真紅のネックレスが、紺碧のブレスレットが、黄金のイヤリングが、翡翠のチョーカーが輝いた。

 俺は、貰った指輪を右手の指に嵌める。最初からそうだったみたいに、なんだかしっくりきた。

 

「みんな、本当にありがとう。大切にする」

 

「指輪だけじゃなくて、妾達のことも、自分のことも大切にね?」

 

「もっと我等に頼っていいのじゃぞ?」

 

「もう十分、頼らせてもらってるよ」

 

 お互いに助け合い、頼り合うからこその相棒だろう。

 それに、相手のことを思い合うからこうやってお互いを温かい気持ちにし合える。指輪の冷たさが、徐々に温もりへと溶けていくのを、俺は静かに感じていた。

 

「…………」

 

 しかしだからこそ、目の前の壁に対して何も出来ない自分に不甲斐なさを感じる。

 戦闘(ストラグル)彼女(スピリット)たちの領域だ。俺達(プレイヤー)は、盤面を動かすことしか出来ない。

 それはある種の分業で、適材適所であり、お互いに出来ることを全力で熟すこと自体は正しい。だからこそ、自分が触れられない領域のもどかしさが目立つのだ。

 

「………………」

 

 デッキケースから、白紙のカードを取り出す。

 こればかりは、俺が触れられる領域ではない。TCG作品では稀に、人がカードに封印される展開なんかを見るけど、それこそ超常的な力で起こされるもので、一般人にできるものじゃないし……

 

「一日遊んでリフレッシュしたし、いまならいけるんじゃない? やってみよっか?」

 

「じゃあ……頼もうかな」

 

「おっけー!」

 

 提案に頷いて、公園のベンチにカードを置く。それを囲むようにドラ娘たちが立ち、まずは言い出しっぺのアンが手を翳した。

 

「はああ……!」

 

 ぷるぷると震わせた手から、何か温かなオーラが漏れ出ている気がする。アレが魂の一部なのだろうか。

 しかしそれはカードに定着することなく霧散し、アンの嘆息に繋がった。

 

「いやー上手くいかないね、悔しい!」

 

「次はわたくしがやってみます」

 

 リザがカードに触れ、そっと目を閉じる。周りに厳かで涼し気な、何かの儀式を行うような空気が広がるが、或いはこれがリザの魂の片鱗なのかもしれない。

 

「……すみません、やはり駄目ですね」

 

「あたしもやってみよ〜〜〜」

 

 ふに子がひょいとカードを掠め取って、一瞬だけ凄まじい気迫を出した。が、特に効果はなく、「無駄に疲れた〜〜〜」などと宣って、カードをベンチに放り投げた。一応貴重品なんだから大切に扱いなさい。

 

「我の番じゃな!」

 

 ふんす、と鼻息を荒くして、フェルがカードに両手を伸ばす。そのまま「ふぬぬ……!」と強く力む。

 

「ハアッ──!」

 

「おお……おお!?」

 

 フェルが力を入れた途端、カードは静かに輝き──そして、燃えた。

 

「ちょ、それはまずいって! シンプルに燃えてる! リザ、頼んだ!」

 

「お任せ下さいませ──はっ!」

 

 火には氷ということで、リザに命じて消火してもらう。

 幸い、すぐに止めたおかげか、パッと見はそこまで影響がなさそうだった。

 

「うう、すまんの……」

 

「大丈夫だ。頑張ってくれてありがとな」

 

 反省し、落ち込んでいる様子のフェル。珍しいその様子に、流石に叱るには忍びなくて、慰めるだけに留めてしまった。

 

「上手くいかないねー、やっぱり。妾達じゃ難しいのかな?」

 

「いや……きっと、そんなことはない」

 

 改めてカードを見つめる。これがマッドデッキケースを元にしているとしたら、もしかしたら──

 

「みんな、もう一回だけ頑張ってくれないか?」

 

 こくりと頷いて、みんなが俺を囲むように立つ。

 先程と同じく、みんなの魂のようなものを感じる。その温かさがたしかに伝わってくる。

 

「フェル、リザ、アン、ふに子。思い浮かべてくれ、俺達の今までの思い出を。嬉しかったことも、楽しかったことも、悔しかったことも全部」

 

 いままでの、みんなとの思い出を頭に浮かべながら──俺はその温かなものを、カードに注ぎ込むようにイメージする。指輪が街灯の下に煌めき、それからカードが熱を帯びた。

 

「だ、旦那様! カードが……!」

 

 手の中のカードが光を放つ。やがてそれは収まり、確かな形になった。

 

 マッドデッキケースの、()()()()()()()機能を思い出したため、これを上手く使えばいけるのではないか、と考えたのだ。

 魂という形ないものを扱うわけだし、かなり賭けではあったけど……上手くいった。

 

「ありがとう、みんなのおかげだ。これと、お前らの力があれば──アイツにだって勝てる気がする」

 

「どんなヤツが相手でも、そもそも負ける気ないけどね〜〜〜」

 

「特に、一度苦汁を舐めさせられた相手にはな!」

 

「絶対勝とう、勝ってまた焼肉だかんね!」

 

「ああ、絶対にな」

 

 決意を新たに、俺たちは歩き出した。何があってもきっと、相棒がいれば突破できると。そう信じながら。

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