TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第四十三話「破壊からしか生まれないのだから」

 

 

「いやあ、やはりすごいものだね」

 

 かけられた声に、俺は肩を震わせて。極めて冷静に努めながら、ようやくこの時が来たかと振り返る。

 

「キミが足繁く通うのも納得だよ」

 

「……危なかったぜ。あともう少し遅かったら、飽きて帰るところだった」

 

「ワタシなら、一ヶ月だって飽きないけどな」

 

 虹色のロングブロンドを掻き上げて、アイツ──虹崎皇凪(にじさきおうな)は、俺の目の前にあるモノを見上げる。

 

 大きな頭。鋭い牙。巨大な体躯と、それを支える強靭な骨格。

 かつて地球上に存在していた、最大級の爬虫類──T・レックスの骨格標本である。

 

 皇凪は俺を見つめて、「それにしても、よくこんな無駄になるかもしれないことを続けたね」と言った。

 

 ──俺がこの数週間やっていたことは、極めてシンプルだ。

 休館日以外毎日この博物館に通って、恐竜の骨格標本を眺める、ただそれだけ。でも俺たちにとっては、十分すぎるメッセージだと思ったから。

 

「ワタシが、キミという餌に釣られる保証なんてなかったろうに。それどころかエージェントもつけずに一人でこんなところを彷徨(うろつ)いて、危険だとは思わなかったのかい?」

 

「それを言うなら、お前だってそうだろう。悪の組織の首領が、わざわざ敵に姿を見せる必要なんてないんだから」

 

「敵……ね。フフ」

 

 何がおかしいのか、歪めた口元を押さえて、「いや何、気づいていないならそれでいいよ。いまのところは、お互いにね」と言って、改めて化石を見上げた。

 

「恐竜を見る度に、このような生物を育んだ、地球の偉大さに思いを馳せてしまうね」

 

「よく言うぜ。お前は、その地球を壊す側だろうに」

 

「否定はしないよ。新しい物は、破壊からしか生まれないのだから」

 

 それは、以前にも聞いたことがある言葉だった。

 

「魚が水棲という性質を壊して両生類に進化したように、爬虫類が強大な力を持って恐竜と呼ばれるようになったように、哺乳類が天変地異を生き延びて霊長へと至ったように。破壊と誕生は、表裏一体だ」

 

 歴史上の、ひとつの大きな転換点。だから恐竜が好きなのだと。滅びても残り続ける()が愛おしいのだと、そうコイツは語っていた。

 

人類(ワレワレ)の転換点の一つ、『スピリット』という隣人への遭遇。それも、《アナザー》と地球を隔てる壁が、破られたからこそ生まれたものだ」

 

「それは──そうだな」

 

 否定はしない。この世界は、前世の世界よりも遥かに豊かだ。その繁栄が齎されたのは、スピリットや《アナザー》の資源の影響が大きい。

 

「だが、今その繁栄は停滞している。それは何故か!? ()()()()()()()()()()!! 我々に天敵はなく、天変地異は起きず、闘争(ストラグル)精神(スピリット)の中でしか行われない。それでは、劇的な成長なんてありえない」

 

「それが──お前の、本当の目的なのか」

 

「そうだよ。ワタシはね、()()()なんだ。世界征服なんてのは、結果的にそうなるというだけの過程に過ぎない。大事なのはその先なのだから」

 

 にんまりと、誰かに話したくて仕方なかったというように、皇凪は笑った。或いはきっと、そのためにコイツは来たんだろう。

 

「それもあるけど、違うよ? 目的を果たすためには、ワタシ自身に刺激を与えて、()()しなきゃいけないからね。障害も取り除けて一石二鳥という訳だよ」

 

 皇凪が、毒々しい虹色のデッキケースを掲げる。同時に、そこから無数の闇が解き放たれ、辺りに警報が鳴り始めた。

 

『近隣の方々に、スピリット対応機関よりお知らせです。すぐにその場を離れ、安全な場所に避難してください。現在、各地で《アナザー》との境界が破られ、無数のスピリットが出現しています。すぐにその場を離れ、安全な場所に避難を──』

 

「お前──一体、何をした」

 

「何かと聞かれれば、そうだね、()()かな」

 

 何でもないように、奴は答える。

 

「世界に弱者はいらない。弱者は進化しなければならない。なら一番手っ取り早いのは、障害を作ること。超えられなければ弱者だし、生き延びれれば強者の証だ」

 

 奴が何でもないように言ってのけた直後、どこか遠くで悲鳴が聞こえた。駆け出しそうになる気持ちを抑えて、目の前の女と対峙する。

 

「おや、行かなくていいのかな?」

 

「素直に行かせてくれるならそれでもいいんだけどな──お前から、目を離す訳にはいかない」

 

「フフ、それは嬉しいね」

 

 奴が掲げた虹色のデッキケースが、()()()()。すると俺達の周りの世界が色褪せ、目の前に対戦台(ストラグルボード)が出現した。

 

「邪魔が入らないよう、特殊な空間に招待させてもらったよ。それじゃあ、()ろうか?」

 

「ああ」

 

 深呼吸してデッキを構える。胸の中にあるのは、世界の命運がかかっているという重圧と、緊張と──それから、目の前の相手に勝ちたいという、純粋な闘争心だけ。

 

「レッツ・ストラグル!」

 

()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

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