TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない 作:織葉 黎旺
「いやあ、やはりすごいものだね」
かけられた声に、俺は肩を震わせて。極めて冷静に努めながら、ようやくこの時が来たかと振り返る。
「キミが足繁く通うのも納得だよ」
「……危なかったぜ。あともう少し遅かったら、飽きて帰るところだった」
「ワタシなら、一ヶ月だって飽きないけどな」
虹色のロングブロンドを掻き上げて、アイツ──
大きな頭。鋭い牙。巨大な体躯と、それを支える強靭な骨格。
かつて地球上に存在していた、最大級の爬虫類──T・レックスの骨格標本である。
皇凪は俺を見つめて、「それにしても、よくこんな無駄になるかもしれないことを続けたね」と言った。
──俺がこの数週間やっていたことは、極めてシンプルだ。
休館日以外毎日この博物館に通って、恐竜の骨格標本を眺める、ただそれだけ。でも俺たちにとっては、十分すぎるメッセージだと思ったから。
「ワタシが、キミという餌に釣られる保証なんてなかったろうに。それどころかエージェントもつけずに一人でこんなところを
「それを言うなら、お前だってそうだろう。悪の組織の首領が、わざわざ敵に姿を見せる必要なんてないんだから」
「敵……ね。フフ」
何がおかしいのか、歪めた口元を押さえて、「いや何、気づいていないならそれでいいよ。いまのところは、お互いにね」と言って、改めて化石を見上げた。
「恐竜を見る度に、このような生物を育んだ、地球の偉大さに思いを馳せてしまうね」
「よく言うぜ。お前は、その地球を壊す側だろうに」
「否定はしないよ。新しい物は、破壊からしか生まれないのだから」
それは、以前にも聞いたことがある言葉だった。
「魚が水棲という性質を壊して両生類に進化したように、爬虫類が強大な力を持って恐竜と呼ばれるようになったように、哺乳類が天変地異を生き延びて霊長へと至ったように。破壊と誕生は、表裏一体だ」
歴史上の、ひとつの大きな転換点。だから恐竜が好きなのだと。滅びても残り続ける
「
「それは──そうだな」
否定はしない。この世界は、前世の世界よりも遥かに豊かだ。その繁栄が齎されたのは、スピリットや《アナザー》の資源の影響が大きい。
「だが、今その繁栄は停滞している。それは何故か!?
「それが──お前の、本当の目的なのか」
「そうだよ。ワタシはね、
にんまりと、誰かに話したくて仕方なかったというように、皇凪は笑った。或いはきっと、そのためにコイツは来たんだろう。
「それもあるけど、違うよ? 目的を果たすためには、ワタシ自身に刺激を与えて、
皇凪が、毒々しい虹色のデッキケースを掲げる。同時に、そこから無数の闇が解き放たれ、辺りに警報が鳴り始めた。
『近隣の方々に、スピリット対応機関よりお知らせです。すぐにその場を離れ、安全な場所に避難してください。現在、各地で《アナザー》との境界が破られ、無数のスピリットが出現しています。すぐにその場を離れ、安全な場所に避難を──』
「お前──一体、何をした」
「何かと聞かれれば、そうだね、
何でもないように、奴は答える。
「世界に弱者はいらない。弱者は進化しなければならない。なら一番手っ取り早いのは、障害を作ること。超えられなければ弱者だし、生き延びれれば強者の証だ」
奴が何でもないように言ってのけた直後、どこか遠くで悲鳴が聞こえた。駆け出しそうになる気持ちを抑えて、目の前の女と対峙する。
「おや、行かなくていいのかな?」
「素直に行かせてくれるならそれでもいいんだけどな──お前から、目を離す訳にはいかない」
「フフ、それは嬉しいね」
奴が掲げた虹色のデッキケースが、
「邪魔が入らないよう、特殊な空間に招待させてもらったよ。それじゃあ、
「ああ」
深呼吸してデッキを構える。胸の中にあるのは、世界の命運がかかっているという重圧と、緊張と──それから、目の前の相手に勝ちたいという、純粋な闘争心だけ。
「レッツ・ストラグル!」
「