TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第四十五話「あいつらがそれを選んだのなら」

 

 

 ***

 

 

「ハア、ハア……」

 

 呼吸が荒い。身体が重い。

 思わず膝を着く。闇のスピストで、生命(ライフ)が風前の灯火になるとここまでキツイのか。さっきのターン、ふに子が、アンが、俺を守ってくれたおかげでまだ生きているが……

 

「苦しそうだね?」

 

 目の前の女は、不思議そうに首を傾げながら言う。赤青黄緑と、カラフルに染まった髪束が揺れた。

 

「何故、キミがこうも追い込まれているのかわかるかい?」

 

「……俺が弱くて、お前が強いからだろ」

 

 俺の言葉に、アイツは目を丸くする。そんな訳ないだろう、という嘆息が聞こえた。

 

「たしかにワタシは強いが、キミも別に弱くはないよ。キミとはそれなりに語り合ってきて、その知見の深さや洞察力、闇札会(ワタシたち)を嗅ぎ回ろうという度胸は評価してきた。なら、差を分けるのは一点しかないだろう?」

 

 続く言葉が、用意に察せられてしまって。

 やめろ、そんな訳ない──と。そんな心の中の否定を打ち砕くように、奴は断言する。

 

「それはね、君のドラゴンが()()だからだ。だってそうだろう? 鎧のような鱗、刃のような翼を、脆弱な人の似姿に落とし込んでまで扱う必要はない」

 

「──それは」

 

 それを──考えたことがないといえば、嘘になる。

 アイツらは別に、元から今の姿だった訳ではない。出会った時点でそうなっていた子もいたけど、《アナザー》で純粋な龍として、翼をはためかせて、爪で切り裂いて、生物の頂点として生きてきたはずだ。

 

 格闘技を見れば顕著なように、闘いにおいてはサイズとウェイトの差が大きく影響する。

 スピリットに人の道理や、人が思う物理法則は通じないかもしれないが、人型の方が本来より強いなんてことはまずありえないだろう。

 

 カードゲーム上でのテキストは、どちらの姿でも別に変わらない。だが、()()する時はどうだろうか? 本来と違う姿で、100%の成長ができるのか? 

 俺の存在が、アイツらの未来を歪めているんじゃないか?

 現に、今だって命を賭けたストラグルに付き合わせていて、さっきのターンもふに子とアンを苦しめた。

 

「キミだって、イヤなんじゃないの? 同好の士(ドラゴンフリーク)としては邪道じゃん。わざわざ人なんかにならなくても、そのままでいいのに」

 

「…………そうだな、確かに最初は嫌だった」

 

 ゆっくりと立ち上がり──これまでの道程を辿るように一歩ずつ、前に歩く。

 

「俺は普通のドラゴン使いになりたかった。強いドラゴンと絆を育んで、誰からも憧れられるような存在になりたかった。だから、可愛い女の子としか言えないようなドラゴン達に囲まれて、最初は困惑が勝ってたけど……でも。相手を薙ぎ倒していくコイツらの姿は間違いなく格好良いし、美しい」

 

 それに。

 

「あいつらがそれを選んだのなら……答えてやるのがマスターだろうがッ!」

 

『──よく言ったッ!』

 

 山札から引いたカードが、白く光り輝く。たしかな熱量を放つソレを、そのまま盤面に叩きつける。

 

「──《獄炎龍インフェルノ・ドラグーン》を召喚!」

 

 

 *

 

 

「かかっ、あの時と同じく燃やし尽くしてくれようぞ」

 

「そうはさせないよ。一度タネが割れてるんだから、対策してくるのは道理だろう?」

 

「対策された程度じゃ止まらないのが、本当の強さって奴だろうが──見せてやれ、フェル!」

 

「うむ! まずはそやつの命を薪とする……!」

 

 放たれた火球が《月影龍》を包む。が。

 

「『エナガード1』で耐えるよ」

 

「それでも破壊は破壊だ! 《獄炎龍》のBPとクオリアは上昇する!」

 

「うむ! 炎極滅龍爪……ッ!」

 

 仰々しい技名と共に、フェルの長爪が奴の首元へと迫る。

 

「《コズミック・ムーン》で防御」

 

 フェルと皇凪の間に、細身の龍が立ち塞がる。

 

「邪魔じゃ、退け……ッ!?」

 

「《コズミック・ムーン》の効果。1ターンに1度、防御時に自分と相手のライフの差×1000BPを上昇させる」

 

《月影龍》の背後に光が満ちていき、三日月程の光へと成長する。俺たちのライフの差は5。14000となってしまい、フェルの打点では届かない。

 

「更にこの時、攻撃してきたスピリットを、バトルの後破壊できる」

 

《月影龍》によって生み出された三日月から、無数の光の刃が放たれ、フェルの元へと飛ぶ。

 

「く、『エナガード1』……!」

 

「やられたが……しかし、もうお主を守る物はおらぬな?」

 

 エナが一枚、フェルの身を守る盾となり、そして再び攻めるための目眩しとしての役割を果たした。

 

「プレイヤーに『2回攻撃』!」

 

「《コズミック・ムーン》の『誘導1』発動。ターン中1回、攻撃をこの子に向けるよ」

 

「なっ!?」

 

 フェルの放った火球は、月の持つ引力に囚われ、そのまま掻き消される。もうこれ以上、俺にできることはない。

 

「……ターンエンド」

 

「終了時。《龍の祭壇》に、生命の火が灯る」

 

 1、2、3、4……と周りを松明が囲み切り、そして中心に一本、大きな炎が灯った。

 一本ずつ、俺たちを囲う火は消えていき、そして消えるごとに目の前の炎はより燃ゆる。

 そして、遂に最後の一つすら消え、辺りを闇と──重圧が包む。

 

「そしてワタシのターンの開始時に溜まりきったカウンターと、私の場のすべてのカードを生贄に捧げ、ワタシは(ちから)を呼び出す」

 

 目の前に、新たに炎が出現する。ソレは炎だというのに、暗く、黒く、そしてなにより──冷たかった。

 

「来たれ、蹂躙せよ──『滅びを刻む秒針(バニシング・カウント・クロック)』」

 

 最初に見えたのは──その手に持つ巨大な槍。次いで、馬のような下半身と、禍々しい鎧を纏った、龍のような上半身。

 

「《 (セブンス)アポカリプス・ドラグ・ランサー》」

 

「──█████████」

 

()()が、何か言葉を発した。ように見えた。

 しかしそこに意味はなく、ただ不気味な、言い表しようもない不安感だけが俺を襲う。

 ただ一つ分かるのは、ソイツが放つ強い憎しみと──会話が通じないコイツを手懐けた、目の前の女の異常さだけ。

 

「うんうん、今日も機嫌良さそうだね」

 

「……わかるのかよ、ソイツの言葉」

 

「そりゃあアイボウだもの」

 

 文脈に反して、音が同じだけのひどく空虚な言葉に聞こえた。奴は「ワタシがキミたちとの戦いで学んだことはね」と続ける。

 

「キズナの生む力の強さだよ。ソレがあれば、どんなモノでも乗り越えてゆけるんだろう?」

 

「お前らの絆って、何なんだ」

 

「おや。形ないモノを定義づけようとは無粋だね」

 

 やれやれ、とお手上げを示すようなオーバーな身振り手振りをして、皇凪は嘆息した。

 

「仕方ない、教えてあげよう。キズナっていうのは要するに、相互扶助だろう? ワタシは力が欲しくて、カレは頭が欲しい。ほら、立派なキズナだ」

 

「それはただの利害の一致だろ」

 

 それこそ形ない物に、偉そうなこと言えないけれど。

 だが、その一点だけで懐柔できるほど『滅びを刻む秒針(バニシング・カウント・クロック)』は甘くないだろう。

 少なくとも、皇凪がコイツを従えている──少なくとも並び立っている、という事実は変わらない。

 

「じゃあ、利害の一致で得られた力でも振りかざそうかな」

 

 異形の龍が、手に持つ巨槍を構える。

 それを真っ直ぐこちらへと投げると、それは細かく分裂し、俺の手足を地面に縫いつけた。

 

「《ドラグ・ランサー》はBP77777、クオリア7のスピリット。更に召喚後、次の相手のターンの終わりまで、相手は手札のコスト7以下のカードを使用することはできない」

 

「……名に(たが)わなすぎだろ」

 

 エナに8もカードはなく、0コストとして扱われるカウンタースペルは使えない。仮にこのターンを凌いだとしても、トップはほとんど機能せず、逆転の目なんてほとんどない。

 

「じゃあそろそろ、キミのすべてを奪おうか──《ドラグ・ランサー》、《インフェルノ・ドラグーン》を攻撃」

 

 新たに手に持った黒い巨槍を、片手で軽々と振り回し、《(セブンス)》は、それをフェルめがけて投擲する。

 

「我が倒れるだけならまだ……ッ、な!?」

 

「グハッ……!」

 

「『貫通』だよ」

 

 フェルがこちらを振り向きながら、目を見開いて散っていく。俺たちは一本の槍に、同時に貫かれていた。胸を穿つ巨槍の衝撃に、肺が潰れたような錯覚を覚える。

 いままでは、闇のスピストではないためか通常時に決闘場(バトルフィールド)を用いた時に味わうのと同じ、仮想質量(ソリッドビジョン)的な衝撃しかなかった。

 しかし、これは違う。真に胸を穿たれたような圧迫感。傷口に走るのは、冷たいのに熱い、矛盾した槍の感触。

 

「『2回攻撃』」

 

 再び、迫る槍。それがひどくスローモーションに見えて、前世まで遡った走馬灯でも見てしまいそうになる。暴れたくとも、両手両足は既に止められている。

 

 

『手も足も出ない、って感じ〜〜〜?』

 

『それでも問題ナシ(モーマンタイ)! 妾たちには、角でも尻尾でも出せるから!』

 

 ──目の前に、二つの影が現れた。

 

 

 

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