TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない 作:織葉 黎旺
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「ハア、ハア……」
呼吸が荒い。身体が重い。
思わず膝を着く。闇のスピストで、
「苦しそうだね?」
目の前の女は、不思議そうに首を傾げながら言う。赤青黄緑と、カラフルに染まった髪束が揺れた。
「何故、キミがこうも追い込まれているのかわかるかい?」
「……俺が弱くて、お前が強いからだろ」
俺の言葉に、アイツは目を丸くする。そんな訳ないだろう、という嘆息が聞こえた。
「たしかにワタシは強いが、キミも別に弱くはないよ。キミとはそれなりに語り合ってきて、その知見の深さや洞察力、
続く言葉が、用意に察せられてしまって。
やめろ、そんな訳ない──と。そんな心の中の否定を打ち砕くように、奴は断言する。
「それはね、君のドラゴンが
「──それは」
それを──考えたことがないといえば、嘘になる。
アイツらは別に、元から今の姿だった訳ではない。出会った時点でそうなっていた子もいたけど、《アナザー》で純粋な龍として、翼をはためかせて、爪で切り裂いて、生物の頂点として生きてきたはずだ。
格闘技を見れば顕著なように、闘いにおいてはサイズとウェイトの差が大きく影響する。
スピリットに人の道理や、人が思う物理法則は通じないかもしれないが、人型の方が本来より強いなんてことはまずありえないだろう。
カードゲーム上でのテキストは、どちらの姿でも別に変わらない。だが、
俺の存在が、アイツらの未来を歪めているんじゃないか?
現に、今だって命を賭けたストラグルに付き合わせていて、さっきのターンもふに子とアンを苦しめた。
「キミだって、イヤなんじゃないの?
「…………そうだな、確かに最初は嫌だった」
ゆっくりと立ち上がり──これまでの道程を辿るように一歩ずつ、前に歩く。
「俺は普通のドラゴン使いになりたかった。強いドラゴンと絆を育んで、誰からも憧れられるような存在になりたかった。だから、可愛い女の子としか言えないようなドラゴン達に囲まれて、最初は困惑が勝ってたけど……でも。相手を薙ぎ倒していくコイツらの姿は間違いなく格好良いし、美しい」
それに。
「あいつらがそれを選んだのなら……答えてやるのがマスターだろうがッ!」
『──よく言ったッ!』
山札から引いたカードが、白く光り輝く。たしかな熱量を放つソレを、そのまま盤面に叩きつける。
「──《獄炎龍インフェルノ・ドラグーン》を召喚!」
*
「かかっ、あの時と同じく燃やし尽くしてくれようぞ」
「そうはさせないよ。一度タネが割れてるんだから、対策してくるのは道理だろう?」
「対策された程度じゃ止まらないのが、本当の強さって奴だろうが──見せてやれ、フェル!」
「うむ! まずはそやつの命を薪とする……!」
放たれた火球が《月影龍》を包む。が。
「『エナガード1』で耐えるよ」
「それでも破壊は破壊だ! 《獄炎龍》のBPとクオリアは上昇する!」
「うむ! 炎極滅龍爪……ッ!」
仰々しい技名と共に、フェルの長爪が奴の首元へと迫る。
「《コズミック・ムーン》で防御」
フェルと皇凪の間に、細身の龍が立ち塞がる。
「邪魔じゃ、退け……ッ!?」
「《コズミック・ムーン》の効果。1ターンに1度、防御時に自分と相手のライフの差×1000BPを上昇させる」
《月影龍》の背後に光が満ちていき、三日月程の光へと成長する。俺たちのライフの差は5。14000となってしまい、フェルの打点では届かない。
「更にこの時、攻撃してきたスピリットを、バトルの後破壊できる」
《月影龍》によって生み出された三日月から、無数の光の刃が放たれ、フェルの元へと飛ぶ。
「く、『エナガード1』……!」
「やられたが……しかし、もうお主を守る物はおらぬな?」
エナが一枚、フェルの身を守る盾となり、そして再び攻めるための目眩しとしての役割を果たした。
「プレイヤーに『2回攻撃』!」
「《コズミック・ムーン》の『誘導1』発動。ターン中1回、攻撃をこの子に向けるよ」
「なっ!?」
フェルの放った火球は、月の持つ引力に囚われ、そのまま掻き消される。もうこれ以上、俺にできることはない。
「……ターンエンド」
「終了時。《龍の祭壇》に、生命の火が灯る」
1、2、3、4……と周りを松明が囲み切り、そして中心に一本、大きな炎が灯った。
一本ずつ、俺たちを囲う火は消えていき、そして消えるごとに目の前の炎はより燃ゆる。
そして、遂に最後の一つすら消え、辺りを闇と──重圧が包む。
「そしてワタシのターンの開始時に溜まりきったカウンターと、私の場のすべてのカードを生贄に捧げ、ワタシは
目の前に、新たに炎が出現する。ソレは炎だというのに、暗く、黒く、そしてなにより──冷たかった。
「来たれ、蹂躙せよ──『
最初に見えたのは──その手に持つ巨大な槍。次いで、馬のような下半身と、禍々しい鎧を纏った、龍のような上半身。
「《
「──█████████」
しかしそこに意味はなく、ただ不気味な、言い表しようもない不安感だけが俺を襲う。
ただ一つ分かるのは、ソイツが放つ強い憎しみと──会話が通じないコイツを手懐けた、目の前の女の異常さだけ。
「うんうん、今日も機嫌良さそうだね」
「……わかるのかよ、ソイツの言葉」
「そりゃあアイボウだもの」
文脈に反して、音が同じだけのひどく空虚な言葉に聞こえた。奴は「ワタシがキミたちとの戦いで学んだことはね」と続ける。
「キズナの生む力の強さだよ。ソレがあれば、どんなモノでも乗り越えてゆけるんだろう?」
「お前らの絆って、何なんだ」
「おや。形ないモノを定義づけようとは無粋だね」
やれやれ、とお手上げを示すようなオーバーな身振り手振りをして、皇凪は嘆息した。
「仕方ない、教えてあげよう。キズナっていうのは要するに、相互扶助だろう? ワタシは力が欲しくて、カレは頭が欲しい。ほら、立派なキズナだ」
「それはただの利害の一致だろ」
それこそ形ない物に、偉そうなこと言えないけれど。
だが、その一点だけで懐柔できるほど『
少なくとも、皇凪がコイツを従えている──少なくとも並び立っている、という事実は変わらない。
「じゃあ、利害の一致で得られた力でも振りかざそうかな」
異形の龍が、手に持つ巨槍を構える。
それを真っ直ぐこちらへと投げると、それは細かく分裂し、俺の手足を地面に縫いつけた。
「《ドラグ・ランサー》はBP77777、クオリア7のスピリット。更に召喚後、次の相手のターンの終わりまで、相手は手札のコスト7以下のカードを使用することはできない」
「……名に
エナに8もカードはなく、0コストとして扱われるカウンタースペルは使えない。仮にこのターンを凌いだとしても、トップはほとんど機能せず、逆転の目なんてほとんどない。
「じゃあそろそろ、キミのすべてを奪おうか──《ドラグ・ランサー》、《インフェルノ・ドラグーン》を攻撃」
新たに手に持った黒い巨槍を、片手で軽々と振り回し、《
「我が倒れるだけならまだ……ッ、な!?」
「グハッ……!」
「『貫通』だよ」
フェルがこちらを振り向きながら、目を見開いて散っていく。俺たちは一本の槍に、同時に貫かれていた。胸を穿つ巨槍の衝撃に、肺が潰れたような錯覚を覚える。
いままでは、闇のスピストではないためか通常時に
しかし、これは違う。真に胸を穿たれたような圧迫感。傷口に走るのは、冷たいのに熱い、矛盾した槍の感触。
「『2回攻撃』」
再び、迫る槍。それがひどくスローモーションに見えて、前世まで遡った走馬灯でも見てしまいそうになる。暴れたくとも、両手両足は既に止められている。
『手も足も出ない、って感じ〜〜〜?』
『それでも
──目の前に、二つの影が現れた。