TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない 作:織葉 黎旺
──俺の眼前で、巨槍の穂先が止まる。いや──彼女たちの身体で、見えなくなる。
『《龍の依代》の効果だよ〜〜〜』
『あるじが負ける時、
「アン、ふに子……!」
半透明の彼女たちが、俺を敗北から守り──そして、光の粒子となって消えていく。
『あるじ、負けてあの女の物になったら許さないかんね!』
『そーだよ、ますたーはもうあたしたちのものだからね〜〜〜』
「ああ──当たり前だぜ」
彼女たちの姿と、巨槍が消失する。
異形の龍は、構えを解いて彫像の如く固まる。
それは即ち、脅威が去ったことを意味していた。
「命拾いしたね、ターンを返そう──何かできれば、だけど」
手札は
「ワタシはね──前回の戦いで学んだんだよ。すべて制圧して、ご都合主義みたいな逆転を防げばいいって。そのために、時を止めたんだ」
俺の腕には、未だ小さな槍が刺さり続けている。
でも、こんなことをされなくてもきっと──ずっと前から、そうだったんだと思う。
「──皮肉だな」
「何?」
「前回の戦いから──俺たちの時は止まり続けてるんだよ。あの敗北に囚われるお前と、あの勝利を引き摺る俺。自信がなくなって、相棒たちの在り方にすら疑念を覚えて……なんならスピストから離れようとすらしてたんだぜ?」
『俺はもうスピストをしない』──なんて、幼稚な逃げ方もしていた。俺が馬鹿にされるのは別に良かった。でも、相棒たちを馬鹿にされたくなかった。
だがそんな俺を、もう一度連れ出してくれたのも、彼女たちだった。
「でも、俺の時は再び進み始めた。相棒たちと共に、壁を乗り越えて強くなって。その果てにある進化は、決してご都合主義なんかじゃない。勝利に向かった、努力の結果だ」
「能書きはもういいよ。何を言ったって、デッキトップは変わらないんだから──いや、姿を変えるつもりなのかな?」
俺は答えない。コイツには嘘だと思われるかもしれないが、俺は、都合の良い進化なんかに頼るつもりはない。
何故なら、引いてきた
「ドロー……! ッ、このカードのコストは墓地の6コスト以上のドラゴン1枚につき1下がる! 3軽減7コストで、
「なんだ、そのスペルは……!」
皇凪が、目を見開いて驚愕する。
これは、俺が相棒との絆で得られた新たな力。今、この瞬間のために秘していた隠し弾。
「元のコストが10だから、《
フィールドに、半透明な姿になった彼女たちの姿が現れる。こちらに振り返って頷き合うと、その身体は眩い光に包まれる。
「龍たちよ、その力の
──光が晴れる。
ミニスカートの赤いドレス。大きく露出したその胸元では、真紅のネックレスが鎮座する。
丈の長い、スリットの入った黄色のドレス。その耳元では、黄金のイヤリングが揺れている。
足先に向けて大きく膨らんだ緑のドレス。その首元では、翡翠のチョーカーが主張している。
「
「素晴らしい……! どんな力なんだい!?!?」
「『覚醒』は、アウェイクスペルを用いることで、条件を満たしたアウェイクスピリットを、アディショナルデッキから呼び出す効果だ」
アディショナルデッキは、『スピリット・ストラグル』初の
「これがキミたちの生んだ新たな可能性……! だが、その力は『
「届かせるさ……そのために、まずはあと一人呼ばないとな! 《
「やっぱり全員揃ってないと、ねっ!」
アンが軽やかに舞うと、光の扉が開き、そこから彼女が現れる。
青いマーメイドラインのドレス。青いオペラグローブの上には、蒼玉のブレスレットが付けられている。
「
「遅れ馳せながら、参戦させていただきまする」
「
相手の盤面には未だ、異形の龍が鎮座する。
BP77777という、巨大な壁。しかしそれも、目の前の彼女たちとなら、飛び越えていける。
「
《《
《《
《極輝龍アンフィスバエナ》BP14000/3
《極緑龍ファフニール》BP18000/4
「《極緑龍》の
「みんな、いっくよ〜〜〜」
ふに子が地面を叩くと、溢れたエナが自陣の力となっていく。
『覇気』があれば、指定BP以下の相手スピリットの効果を無視できる。『誘導』などにも引っかからなくなるため、これでデカブツとの戦いに集中できる。
「更に《極氷龍》の覚醒時効果。このスピリットのBP、クオリア分、相手スピリットのステータスを下げる!」
「我々の前で、頭が高いですよ木偶の坊」
リザが扇子を一薙ぎすると、猛吹雪が出現し、《Ⅶ》の手足を凍りつかせ、機動力を奪う。
ふに子の上昇込みで、リザのBPは25000。まだまだ大きいとはいえ、《Ⅶ》のBPを52777まで削ることができた。
「このままアタックフェイズといこうか。まずは《極緑龍》で皇凪に攻撃!」
「《ドラグ・ランサー》の『誘導5』発動。5回まで、彼が攻撃を引き受けるよ」
「流石に固いね〜〜〜」
ふに子の拳を、霜のついた巨槍で受け止め、《Ⅶ》は弾き返した。
「《極緑龍》には『2回攻撃』がある。《極氷龍》《極輝龍》の3体で同時攻撃」
「殴ってダメなら〜〜〜、これはどう?」
ふに子が大地を踏みしめると、彼女の足元を起点に草木が生い茂り、やがて《Ⅶ》の足を奪い、縛る枷となる。
「そこを妾がサポートして、と!」
それだけなら槍で振り払われてしまうが、アンが放つ閃光が《Ⅶ》の動きを妨げ、同時に草木を成長させ、より強い拘束となる。
「わたくしが、決めさせていただきます……!」
駆けて行ったリザが、すれ違いざま、目にも止まらぬ早さで扇子を振るう。彼女が通り過ぎると《Ⅶ》の身体を無数の斬撃が襲い、扇子が閉じられると同時に爆発した。
「『デッキガード3』で耐えるよ」
「まだまだ! 《極氷龍》《極輝龍》の『2回攻撃』! 《極炎龍》も同時攻撃だ!」
「切り裂き──」
「蹴り飛ばしっ!」
「薙ぎ倒すだけじゃッ!」
覚醒した三人の力任せな振る舞いは、それだけで『滅びを刻む秒針』の命にすら届く。
「『デッキガード3』だ。まだ一回分、ワタシの命には届かないよ?」
「《極炎龍》で『2回攻撃』。更に攻撃時効果で、一度だけ場のスピリット1体のBPをそのまま《極炎龍》に加算し、ターン終了時までそのクオリアと同じだけの『臨時X』を得る! 俺が選ぶのは勿論、《
「相手が強大であればあるほど……儂の炎はより燃えるッ!」
強敵との邂逅に、フェルの炎のボルテージは上がり、その色を黒く変貌させていく。
両手に黒炎を纏ったフェルは、それを三本爪のように伸ばし、《VII》の身を燃やし貫く。
「ハアッ!」
「『デッキガード3』で耐えよう」
しかし、その身体は無数のカードで再補填され、《Ⅶ》は攻撃を受ける前となんら変わらない姿で立ち続けている。
「フフ、たしかに強力ではあったけれど、やはり『滅びを刻む秒針』には及ばなかったかな?」
「何言ってんだ、まだ終わってないだろうが──《極炎龍》の覚醒中効果! 自分の場に、
「ハアアアア……ッ!」
再び黒炎を滾らせたフェルが、纏う炎を一点に集中させていく。
仲間の数だけ強くなる。俺たちの絆の、一つの到達点。
「
「嗚呼──これで、終わりか」
黒い炎が異形の龍に着弾し、そして、敵陣を焼き尽くさんと燃え広がっていく。
揺らめく陽炎の中で──彼女の口元が、少しだけ笑っているように見えた。