TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第四十八話「もう未来しか見てないよ」

 

 

「……ぅ…………ゲホッゲホッ!」

 

 腹部に感じる違和感に、大きく咳き込みながら目を覚ました。落下の衝撃で強かに打ち付けた背中も痛くて気になるが、そんなことを考えている場合ではない。

 

「ここは……」

 

 見上げた空の色は、いつも見上げているソレををローラーで更に薄く引き伸ばしたような水色。辺りには背の高い、深く生い茂るような木々が生えており、空気は湿気を帯びて重く、梅雨のようにジメジメと暑い。

 地球の熱帯雨林か──或いは《アナザー》のどこかか。どちらにせよ、状況が最悪なことに間違いはなかった

 

「そうだ、みんなは……!」

 

 祈るようにデッキケースを開く。が、そこにある彼女達のカードは、テキストだけが残されて、イラストが存在しない。

 本体の(ビースト)カードは、分霊の(スピリット)カードと違って、そこに宿る魂がなければ機能しない。つまり、宿るべき魂──本体の不在を意味していた。

 

「どうすりゃいいんだよ……」

 

 絶望的な状況に、膝を着きそうになる。

 右も左も分からない知らない場所で、頼れる相棒たちはいない。

 

 途方に暮れていたその時、ガサガサと、生い茂る草木を掻き分ける音が聞こえた。緊張と、人かもしれないというほんの少しの期待を持って、そちらを見つめる。

 

「…………!?」

 

 期待は、呆気なく裏切られた。茂みから顔を出したのは、大型の虎型スピリット。間違いなく通常の虎ではない。何故なら、普通の虎は首の周りで火の玉が回ったりしない……! 

 

『GRURURU……』

 

 良い獲物を見つけた、とばかりに虎は唸った。スピリットにも、話が()()()奴と、()()()()奴がいるが、コイツは間違いなく後者で──それはつまり、一巻の終わりを意味していた。

 

『GRAAAA!!!』

 

 処刑人の牙が、俺の喉笛を食いちぎらんと迫る。

 それでも、ここで死ぬ訳にはいかないと、格好悪くとも一歩引いて、後ろに転がるように躱す。

 ガチン、と硬いもの同士がぶつかり合う甲高い音が鳴った。初撃は無事に躱せたが、しかしそれだけだった。

 獲物が逃げることを知った虎は、まず動きを抑えようと、その鋭い爪をこちらに向けて──

 

『GRUUU!?!?』

 

「え……!?」

 

 虎が出した前足に、何かが刺さる。

 それは小さく、禍々しい形の三叉槍だった。見たことのある形状のソレに、目の前の驚異も忘れて振り向く。

 

「やれやれ。間一髪と言ったところかな?」

 

「皇凪……それに《(セブンス)》……!?」

 

 異形の龍と共に、ジャングルに似つかわしくない七色派手髪の女が立っていた。彼女は虎を指さすと、「キミに恨みはないけど、こちらを狩ろうってんなら──狩られても文句は言えないよね?」と、歯を見せて笑う。

 

「頼んだよ、《ランサー》」

 

「──██████」

 

 何か恨み言のようなものを発して、異形の龍は、手に持つ槍を投擲する。貫かれた虎は、小さく唸り声を上げて、それから静かに倒れた。ひとまず驚異は去った、のだろうか。

 

「……とりあえず、助けてくれてありがとう。でもなんで、お前がここに──」

 

「ああ、礼なんていいよ。ワタシは()()()()をしただけだからさ。聞きたいことは沢山あるだろうけど、一旦、さっきみたいな畜生が突っ込んでこないように、ちょっと準備させてもらおうかな」

 

 よく見ると皇凪は、薪を集めてきたようだった。一旦、ここでキャンプするということなのだろう。

 

「……何か手伝うことはあるか?」

 

「いいよ、サバイバルは門外漢でしょ? 疲れてるだろうし休んでなよ」

 

 疲れてるのはお前も同じだろうが──と言おうとしたが、やめた。さっきまでお互い敵同士だったのに、何を気遣いあってるんだか。

 

「……ここでキャンプするなら、クッション代わりに落ち葉でも集めてこようか?」

 

「まあ、それくらいならいいか。助けらんないから、離れすぎないように気をつけてね」

 

「おう」

 

 周囲を注意深く警戒しながら、落ち葉を集めて動き回る。不安や焦燥感を、脳裏から追い出すように。

 

 

 *

 

 

 暗闇の中に、聞いたことのない鳥の声と、パチパチと火が弾ける音が聞こえる。

 

「どうしたの、食べなよ。美味しいよ?」

 

「いや、まあ……」

 

 俺の手の中には、枝で突き刺された油の滴る肉串。これの出処が何かといえば、無論昼間倒した虎のスピリットである。

 

「雑魚が何イキって手ェ出してたんだよ、と昼間は思ったけど、自分から食糧になってくれて結果オーライだったね。たぶんこの辺をナワバリにしてた奴だろうから、こうやって美味しそうな死臭を撒き散らしとけば、他の獣避けにもなるし」

 

「…………」

 

 彼女の胸元で揺れる十字架を見て、悪いことできなくなったんじゃなかったっけ、と少し不安になったが、今回のはあくまで正当防衛だし、そもそも食うか食われるかの野生の戦いだから、殺生も悪判定ではない、ということなのだろう。そう考えると、いくつか抜け道がありそうな誓約を結ばせてしまった。

 

「あ、もしかして疲れて動けない? ワタシが食べさせてあげよっか? ほら、あ──────ーん」

 

「い、いただきます」

 

 余計なことをされる前に、手に持つ串にかぶりつく。

 思わず目を見開く。想像に反して、本当に美味い。よく肉食獣の肉は臭みがあるというけど、全然そんなことはなく、脂身が豊富で疲れた身体に染みる。ちょっとクセのある豚って感じだ。

 

「……美味い」

 

「でしょ? いやあ、最近料理勉強してた甲斐があったね。そのまま焼いただけだけど」

 

 けらけら笑って、それから皇凪はスイッチが切れたみたいに真顔になった。

 

「で、何から聞きたい? といっても、ワタシも全部わかってるわけじゃないから、答えられることは限られるけど」

 

「じゃあ、まずは……あの男、お前の父親って言ってたけど……一体なんなんだ?」

 

「虹崎王造(おうぞう)。どこにでもいる普通のマッドサイエンティストだよ。闇札会の裏ボスとも言えるね。趣味は人体実験とスピリット研究で、好きな物は支配と蹂躙。モルモットを改造し(いじっ)てる時が一番幸せらしくて、ワタシも昔スマートドラッグODさせられたな〜」

 

 良い思い出を語る時のイントネーションにドン引きしていると、「そもそもワタシ自身、実験の産物らしいからね。オスが良かったのにメスだったから、相当雑に扱われたけど。懐かしいなあ」などと、更に嫌な情報を吐かれる。

 

「ああ、別に同情も憐憫もいらないからね? 弱かったら子袋扱いで使い潰されてたかもだけど、ワタシは強かったから今ココにいる。今度こそ、もう未来しか見てないよ」

 

 未来──そうだ。俺たちは、これからのことについて考えなきゃいけないんだ。

 

「あの『滅びを刻む秒針(バニシング・カウント・クロック)』は?」

 

「ワタシも見たのは初めてだね。何か力を手に入れたらしいことは聞いてたんだけど、まさかあんな埒外のことをしてくるとはね。対応が後手に回ってしまった」

 

「《アナザー》と地球を繋ぐゲートを、あんな風に無数に出すとはな」

 

 そもそも、ゲートはある一定の行動により発生する。

 例えばスピスト。闘い(ストラグル)を通じて、スピリットの精神とプレイヤーの魂が共鳴することで、二つの世界は次元を超えて繋がる。

 スピリット自身が次元を歪めるほどの力を持っていれば、こじ開けることも可能らしい。イメージとしては魔人、あるいは合体戦士がやっていたアレだろうか。

 

「……え、そうじゃん。こんなところで足踏みしなくても、《(セブンス)》の力で帰れるんじゃないか?」

 

「可能ではある──が、かなり勝算は薄いだろうね」

 

 肉を噛みちぎりながら、皇凪は答える。

 

「そのレベルの力を解放すると、さしもの『滅びを刻む秒針』と言えども、暫く動けなくなる。実際、ワタシが行動に移るまでが長かったのもそのせいだからね。それに、いま地球に帰ったところで、もう一度こちらに送り返されるのが関の山だろう」

 

 それはそうか。しかしそうなると、俺たちが今すべきことは──

 

「ワガママ言って申し訳ないんだけどさ……一回、相棒たちを探しに行ってもいいか?」

 

「いいよ──というか、それはマストだね。キミはヤツらがいないと、力が発揮できないだろう? それに、同時並行でやるべきことがある」

 

「やるべきこと……?」

 

「『巡る歳月を支える長針(エターナル・サスティン・タイマー)』って知ってるかい?」

 

「いや、初耳だ」

 

「要は、()()()()版の『滅びを刻む秒針(バニシング・カウント・クロック)』だよ。世界に危機が迫った時に目覚め、その力で弱き者を助ける──とされている」

 

「それなら、俺たちの戦いも支えてくれりゃよかったのにな」

 

「ここで言う世界ってのは《アナザー》のことだからね。先の戦いは、地球がメインだったし。でも、次は違う」

 

 皇凪は、満天の星空を見上げて言う。

 

「王造の目的は、二つの世界の()()()()だ。すべてを手に入れて、ヤツは自分に都合のいい閉じた世界(ディストピア)を生み出そうとしている。そこは、ワタシが生み出そうとしていた混沌と違って──ヤツの想像を超えるものは出てこない、退屈でツマラナイ世界」

 

 彼女のやろうとしていたことも大概だが、まだ理解はできる。しかしヤツのそれは、私利私欲の暴走でしかない。

 

「だから、ワタシはパッパを倒すよ。勿論、龍くんも協力してくれるよね?」

 

「敵の敵は味方、って奴か。いいよ。もっとも、いまの俺には何もできないけど……」

 

「たぶん、そんなことはないけどね──まあいいや」

 

 皇凪はちらりと俺のデッキケースに目を遣った。『それでもデッキはあるだろ』とでも言いたかったのだろうか。

 それから、彼女は小さく欠伸して、葉っぱの布団に寝転がった。

 

「さ、明日も早いし寝よっか! 《ランサー》、火の番お願いね〜」

 

「──█████████」

 

「相変わらず何言ってるかわかんないけど、何かめちゃくちゃ恨み言を放っているのはわかるぜ」

 

かの『滅びを刻む秒針』に与えるべき命令ではない。しかし《ランサー》は、不満を言いつつも皇凪の対角線に陣取り、火と、その奥の闇を見つめる。コイツ、世界を滅ぼし得る闇のスピリットじゃなかったっけ? 

 

「うんうん、それもキズナの力だね」

 

「まあ、もうなんでもいいか……流石に俺も、疲れた」

 

 大きく伸びをして、その場に横になると。皇凪が、「えっ、何してんの? そんな硬いところで寝ても体力は回復しないし、風邪も引きかねないよ?」と真っ当な指摘をする。

 

「だからほら、お姉さんのところに来なよ」

 

「え…………」

 

 ぽんぽん、と人一人分のスペースを空けて、皇凪は葉っぱを叩く。

 

「大丈夫! 密着して寝ることは、サバイバルにおいて体温を逃がさないための大事な生存戦略だから! 誓約で悪いことはできなくなってるし、気にする必要ないって!」

 

 躊躇う俺のところに葉っぱごと転がってきて、皇凪は俺の身体を包むように抱きしめる。

 

「はあ、イイ匂い……ところで遺伝子的に相性の良い人間の匂いは好意的に感じられると言うけど、キミはどう思う? イイ匂い、する?」

 

「ギャー! おい離れろ!! なんか甘ったるくて嫌だ!!!」

 

「え、ワタシ、クサイ……?」

 

 ──こうして、気の休まらない夜は更けていく。

 待っていてくれ、相棒、仲間たち。この試練を乗り越えて、絶対にもう一度会おう──! 

 







ここまで読んでいただきありがとうございます。ひとまず、これで第一部完結とさせていただきます。

この場で話すには長くなるため、第一部終了までの所感や、今後の更新につきまして、活動報告でちょっとお話させてもらいます。先んじて言っとくと、今後もこの小説は更新されますので、わざわざリンクを踏まなくても大丈夫です!

無事第一部完結まで運べたのは読んでくださる皆様のおかげです!
感想、高評価など、いただいたリアクションが励みになりました。今後ともよろしくお願いします!

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=334575&uid=89411
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