TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第二部
第四十九話「任せておきなさいって」


 

 

 

 ──それは初めて、スピリット・ストラグルに触れた時のこと。

 

『お前もそろそろ、触ってみるか?』

 

『──うん!』

 

 幼い頃から、カードを見て育ってきた。ショーケースに並ぶキラキラとしたカードはみんな、カッコよくて美しくて、それを慣れた手つきで扱う虎次おじさんのことも尊敬していた。

 

『これがスピリットカードで、こっちがスペルカード。んで、アイテムカードってのがあって──』

 

 教わったことは、水をかけたスポンジみたいに、ぐんぐんと吸収できた。

 ルールまで一通り覚えたところで、おじさんが『これ、やるよ。プレゼントだ』と、新品のパックをくれた。

 

『ありがとう!』

 

 

 蛍光灯の下で、それはキラキラと輝いて見えた。

 宝箱から大切な物を取り出す時みたいに、丁寧に切り口を開ける。《SS(スピリット・ストラグル)》と端的に書かれた裏面を捲り、何が入っていたのかを確認すると──

 

『──其方が、我を引き当てし者か?』

 

 刹那、店内に渦巻く熱気。目の前に浮かび上がる、紅き龍。

 カードが実体化するなんて、()()()()()()()()()()()()()

 無意識のうちにそう思ったことで、俺は思い出した。

 俺はかつて、カードゲームが好きなだけのただの学生だったこと。だからこんなの──こんなの、()()()なんじゃないかって。

 

 

 

 *

 

 

 

「そろそろ起きなよ、寝坊助さん」

 

「……はっ」

 

 頬にめり込む指の感触で、反射的に飛び起きた。皇凪がニヤニヤと、薄ら笑いでこちらを見つめている。

 

「キミ、朝弱いタイプなんだ? 意外とカワイイね」

 

「……疲れてたんだろ。普段は、もっと早い」

 

「なるほどねえ」

 

 皇凪は、火に薪を焚べながら納得したように頷いた。

 

「だから(うな)されてたんだ。一人で喋ってるから何事かと思ったよ」

 

「……悪い、眠りの邪魔したな」

 

「いや、良いアラームだったよ」

 

 パチパチと、木が弾ける音が聞こえる。昨夜から燃え残っていた墨が、灰になっているのが見えた。

 

「……俺は、なんて言ってた?」

 

「まさかキミが、と思うような意外なことを言っていたよ。妥当ではあるがね」

 

 教える気はない、と、性格の悪い笑顔が言外に告げていた。

 まあ別に、それならそれで構わない。初戦寝言だ、捏造されるよりマシと思って流そう。

 

「──で、これからどうする」

 

 昨日の肉の残りを噛みながら、俺はそう聞いた。

 恥ずかしながら、俺は《アナザー》のことに関しては何も詳しくない。教科書で触れられる程度の情報と、スピリットたちから聞き齧った知識しかない。『相棒たちを探す』『歳月を巡り支える長針(エターナル・サスティン・タイマー)を見つける』という大目標はあれど、そのためにどう動くかの指針となる、小目標が組み立てられない。

 それを考えるなら、《アナザー》に干渉し、一度はこの世界に囚われた皇凪の方が適任である。

 

「知っての通り《アナザー》は地球よりも遥かに広大で、文明レベルもまちまち。地球人(ワタシたち)と交流し友好的なやつもいれば、昨日の奴(コレ)みたいに話の通じない獣もいる。未だに地図も大まかな物しかできていないくらいだが、ここまで分かりやすいとある程度どこにいるかは分かる」

 

 

 皇凪が周りを見渡す。鬱屈とした樹海。熱気。高い湿度。

 

 

「緑の地。その中でも、赤の地・青の地寄りの辺りか」

 

《アナザー》には、概ね五つの特徴を備えた地方が存在する。それがスピストで言う五つの色である。

 とはいえ、赤の地に住んでるから赤色、と決定される訳ではない。国のように厳密に分かれている訳でも、陣営に別れて争っている訳でもないため、結局は本人の資質で決まりがちである。

 

「パパが選んだ場所としては、かなり上等なんじゃないかな。少なくとも、人間が生存できるし」

 

 俺一人なら猛獣に食い殺されて死んでいたが、まあ極寒の氷雪地帯とか灼熱の砂漠に比べれば、たしかに生存率は高いか。

 逆に言えば、相棒たちはそのような過酷な環境に置かれている可能性が高いが……もう、信じるしかない。

 

「まず最優先なのは、情報収集だね。『歳月を巡り支える指針』も、君の相棒の行方も、地球や《アナザー》の情勢も、我々は何も分からない。話の通じる奴との遭遇と、そういった情報が集まってくる街への移動はマストだろう」

 

「心当たりはあるのか?」

 

「詳しい地理は分からないが、各地の色の境目には交易で栄えた都市があるはずだ。ここなら丁度、赤青、青緑、赤緑のいずれも目指せる」

 

 何処に着くかは分からないけど、と皇凪は続けた。

 地図がなく、土地勘もない以上はしょうがない。気候の変化などで、ある程度どこに向かっているかは読めるかもしれないが。

 

「まずは川を目指そっか。水に関しては最悪その辺の木を切りつければどうにかなるかもしれないけど、毒の有無がわからないしね。文明は川沿いで栄えるのが筋だし、一石三鳥くらいあるよ」

 

「ああ」

 

 火や食事の後始末をして、移動の準備を整えた皇凪に、俺は、言うか迷ってから、それでも正直に話す。

 

「……右も左も分からない中、お前がいてくれるのは、正直めちゃくちゃ頼もしいぜ。ありがとう」

 

「え、早くもデレ期来た? そんなんじゃ旅を終える頃には結婚だよ?」

 

「それは絶対にない」

 

「ふ〜ん、それはどうかな?」

 

 ニヤニヤ笑って、それから彼女は、パチリと紅蒼のオッドアイでウィンクする。

 

「──ま、この天才科学者皇凪ちゃんに任せておきなさいって」

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