TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第五十話「全然大丈夫だから安心して」

 

 

 

「なあ、皇凪」

 

「どうしたんだい、龍くん?」

 

 密林の中。草木を掻き分け、前へ前へと進む背中に、俺は疑問を投げかける。

 

「もしかして、道間違えてない?」

 

「………………」

 

 黒いインナーの背中に、汗が滲んでいる。それは決して暑さだけが原因じゃないように思えた。

 

「我々は道無き道を歩いているのだから、そこに『間違い』なんてないよ。むしろ歩いてきた道すべてが正しかったんだと断言できるほどの結果を残せればそれこそが正解ということになり──」

 

「あー、いや、ごめん大丈夫。任せきりだったし、全然しょうがないと思う」

 

 不安がっているが故の、饒舌な誤魔化しが見えた。本当に全然、責めるつもりはない。

 

「方角としてはたぶん、そこまで間違ってないよな。暑さも湿気も増してるから、緑の地から段々赤・青の地に近づいているのは確かだ」

 

「そうだね。ただ、いつまで経っても密林を抜けられていないし、何より──川が見つけられていない」

 

 腕に抱えたアウターで汗を拭きながら、皇凪は言った。

 昨日の夜から、まともな水分を摂れていない。たしか飯は一週間食わなくても何とかなるけど、水分は三日と持たずにダメになるんだっけ? 

 この暑さの中動き回っていることを考えると、リミットはもっと早いだろう。どうにか水分の確保手段を見つけないと……

 

「雨でも降れば早いんだけどな」

 

「気候的にはそろそろスコールが降りそうなものだが、そう上手くはいかないか。まあ、まだいくつか非常用の手段はある──差し当たって」

 

 皇凪は振り返って、舐めまわすように俺を見た。

 

「もし次にお手洗いたくなったら、遠慮せずワタシに言ってほしい。大丈夫、恥ずかしいのはお互い様だから」

 

「………………………………」

 

 絶対に水源を見つけよう。俺はそう誓った。

 

 

 

 *

 

 

 

 水源を見つけるよりも先に、もっと良い物が見つかった。

 長き密林を抜け、平野に差し掛かってきたところで見えた、遠くからでも分かる家らしき建造物の群れ。

 

「そこまで大きくはないが、ちゃんと町だね。村というほど閉鎖的ではなさそうなのも好都合だ」

 

 近づいてみれば、そこそこ賑やかな往来が見える。

 家は基本的に木造だが、やはりどこか地球の物と違うというか、なんかこう、家の構造が四角四面じゃなくて面白い。

 行き交う人々も、かなり多種多様だ。獣人や竜人などある程度人型の者もいれば、木の幹に顔が生えたようなスピリットや、虫みたいなのもいる。俺たちのような単純な人間(ヒューマン)は、見た限りではほとんどいない。

 

「だからといって浮く訳でもないのがすごいよねぇ」

 

 服装から言っても明らかに余所者のはずなのだが、いまのところ特に誰かに気に留められたりはしていない。

 流石人種入り乱れる《アナザー》といったところか。

 

「あの〜すいません。ワタシたち、お水飲めるとこ探してるんですけど〜」

 

 そんな中でも皇凪は躊躇いなく、手近なヒトに話しかけに行く。声をかけられた竜人は顔を顰めて、顎で手近にあった三角形の建物を指し示した。

 

「ありがとね」

 

 去り行く竜人の背中に投げキッスを押し付けてから、「よし行こう」と皇凪は歩き出した。何故数多の人間を落としてこられたのかの片鱗が垣間見えた気がする。

 

「ごめんくださーい」

 

 古い木の扉を開けると、外の光が室内に差し込んだ。照らされた薄暗い店内では、多くの客が顔を顰めたのが見えた。

 

「……いらっしゃい。見ない顔だな」

 

「旅人なもんで。ひとまず、お水もらっていい? フードとかは後で頼むからさ」

 

「…………」

 

 強面の店主にも臆せず、皇凪はオーダーを通す。入口側右端の席に陣取れば、明らかに奇異の視線を感じた。

 

「……水二つね」

 

「あ、あと麦酒とナッツと……龍くんなんかいるものある?」

 

「何か果物があればお願いしたいな」

 

「って感じで頼んだ」

 

「……あいよ」

 

「さて、と」

 

 俺たちは、一日ぶりの水に向き合う。正直店内の様相も、何故かヌルヌルする木のジョッキも、清潔感はあまりなくて少し抵抗はあるが、そんなことよりもこの渇きを潤すことの方が重要だった。

 

「はいカンパーイ!」

 

「か、乾杯」

 

 皇凪の掛け声に合わせて、反射的にジョッキを突き出した。コツンと軽い音が鳴る。

 そのまま口元に運んで、ゆっくりと喉を鳴らして飲む。生ぬるい水だったが、それでもいまの俺には十分すぎるほど美味しい。

 

「麦酒とナッツだ。果物は待っとけ」

 

「あざーす!」

 

「お前マジかよ」

 

 聞き間違いかと思って流していたが、普通に黄金色、泡だくだくの液体がやってきた。

 

「や、これはドレスコードみたいなもんよ。異邦人が酒場来て水だけ飲んでたら浮くじゃん? お酒飲めば現地の人と話しやすくなるし、決してワタシが《アナザー》産のお酒に興味があるわけじゃないからね?」

 

「コイツ……」

 

 ギリギリソレっぽい理由を付けているせいで納得しかけたが、ただ酒が飲みたいだけの人だった。

 皇凪はゴクゴクと喉を鳴らしてジョッキを煽り、「んっ……ぷはぁ、生き返るねえ!」とおっさん臭い仕草で、口元の泡を拭った。

 

「そこのねーちゃん、いい飲みっぷりだねえ!」

 

「でしょ〜!?」

 

 工作の甲斐あってと言うべきか、隣の卓に座っていた、狼らしき獣人に絡まれた。酔いというのはスピリットでも変わらないらしく、完全にへべれけの赤ら顔である。

 

「あんたらはどこから来てんだ?」

 

「ちょいと地球からね」

 

「へえ、そんな遠いところからこんな辺鄙な街に来るとはな。一体何用で」

 

「ん〜、まあヒトとモノ探しかな。この辺で、人型のメスドラゴンの目撃情報とかない?」

 

「竜人でなく人竜ってことだろ? どうだったか」

 

 

 狼獣人が、周りの席の奴らとコソコソと話し合う。

 やがて顔を見合せてニヤリと不気味な笑みを浮かべると、「わかった、オレにストラグルで勝てたら教えてやるよ」と言った。TCGアニメ特有の、カードの勝敗ですべてが決まる展開だ。

 

「ただし、アンタらが負けたら──」

 

「あ、ワタシは身包み剥いでもらっても慰みモノにしてもらっても屠殺してもらっても全然大丈夫だから安心して!」

 

「はあ!?」

 

 軽いノリでとんでもないモノを賭ける皇凪に、思わず驚愕の声を上げる。

 

「その代わり、勝ったらここの代金のお支払いもお願いしたいな〜」

 

「まあ、そこまで賭けてくれるならいいけどよ……」

 

 目の前の男たちも、いくらなんでもそれは流石に……という表情を浮かべつつ、承諾した。先に重い要求を出すことで軽い要求を通す、所謂ドアインザフェイス的手法だったのだろうか? 

 

「おい皇凪、わざわざ全賭け(オールイン)しなくたって……」

 

「全然いいよ〜。だって負けなきゃいいんでしょ?」

 

「そりゃお前なら負けないだろうけどさ」

 

「え、やるのはワタシじゃなくて龍くんだよ?」

 

「いやなんでだよ!? お前の運命が懸かってるんだからお前がやれよ!」

 

「ところがどっこい、やりたくてもやれないんだよね」

 

 皇凪はマーブルデッキケースを取り出し、そのまま振る。するとシャカシャカと、中身の詰まっていない軽い音がした。

 

「あ、そうか……この世界に飛ばされる時の……」

 

「そ。デッキの大多数はこの世界に散り散りになっちゃった。本当に大事なところは抱えてるから、パーツさえあればどうにか作り直せるんだけどね」

 

 彼女のカードが《滅びを刻む秒針(バニシング・カウント・クロック)》《(ファースト)》の開いた虚空に吸い込まれていったのを思い出す。

 

「とはいえ俺だって、アイツらがいないんだからまともなスピストはできないが……」

 

「だからほら、ここに丁度いいパーツがあるじゃん」

 

 もう一度、皇凪はデッキケースをシャカシャカと振る。

 しかし、それをするなら、どちらがデッキを回しても変わらないのでは? 

 

「ワタシがやると、()()する可能性があるからなー。ま、どうせやるならより()()人が出る方がいいでしょ」

 

 首元の十字架をなぞって、皇凪はうっとりとした表情を浮かべる。……なるほど、やるしかないらしい。

 渡されたケースから、彼女たちが抜けた枚数分、カードを借り受ける。

 

「──申し訳ない、おまたせした」

 

「全然いいぜ? まあ精々、酒の肴になってくれや!」

 

 店の中央に設置された対戦台にデッキを置く。辺りの空間が()()()され、カードが実体化する準備が整う。

 

「「レッツ・ストラグル!」」

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