TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第五十一話「おやすみなさい、いい夢を」

 

 

 

「お、ストラグルだ! どっちが勝つか賭けようぜ」

 

「そりゃ狼の方だろ! 人間(ヒューマン)のガキは見るからに弱そうだ」

 

 突然始まったスピストに、店内の客が盛り上がる。よくあることなのか、スムーズに賭けの対象にされている。

 

「下馬評の分で、先攻はくれてやるよ」

 

「なら遠慮なく貰うぜ。ドロー、アップ、エナチャージ、メインフェイズ。俺は3コストで《トラベル・ドラコキッド》を中央左に召喚」

 

 盤面に、大きなキャリーケースを引き摺る竜の子供が現れた。開けたケースの中から、キラキラ光るエナが飛び出す。

 

「《トラベル》の召喚時効果で、山札から1枚目をエナチャージ。俺はこれでターンエンドだ」

 

「オレのターン! 俺は赤1を含む3エナで、《群れを成すワーウルフ》を召喚。召喚時効果で『分裂1』!」

 

「なんだ……!?」

 

 荒々しく現れた狼獣人の影から、もう一体獣人が飛び出し、フィールドのど真ん中で《トラベル》にガンを飛ばす。

 

「攻撃力とクオリアを1回半分にして、減少後の数値と同一ステータスの『トークン』を『特殊召喚』する!」

 

「なるほど、厄介な能力だねえ」

 

 皇凪が分析するように呟いた。

 序盤戦においては、物量が物を言う場合が多い。《群れを成すワーウルフ》の元のスタッツは4000/3と一般的サイズ感だが、この状況においては2000/2(端数は繰り上げられるため)が2体いる方が面倒だ。

 こちらの《トラベル》は、ブーストの分で2000/2と低スタッツだ。片方は相打ちを取れるが、もう片方の攻撃は確実に通る。それに……

 

「アタックフェイズ。《ワーウルフ》と『トークン』でお前に攻撃だ!」

 

「《ワーウルフ》本体は《トラベル》でブロック」

 

 獣人が振りかざした爪を、仔竜は鞄で受け止める。そのままお互い、相手を倒さんと得物を構え直すが。

 

「カウンタースペル《プライドバトル》発動だ。自分のスピリットがバトルする時、そのBPを+3000する!」

 

 獣人が放った咆哮に気圧され、仔竜は得物を落とす。その隙を見逃さなかった獣人は、仔竜を八つ裂きにする。

 

「更にバトルしたスピリットのバトル前のBPが同じだった場合、オレは1枚ドローできる! こんなもんかあ、ターンエンド!」

 

「俺のターン」

 

 脳筋なように見えて、色々と考えられている。素のスタッツで勝ってる《ワーウルフ》がそのまま殴らず分裂したのは、《リベンジバトル》のドロー効果を活用するための調整的意味合いもあったのか。

 

「俺は手札から、2コスト払って《龍鱗研ぎ》を発動。《ドラゴン》の含まれるカードを1枚レストしたから、次に召喚するドラゴンのコストを4軽減する。赤2、青1と合わせて7コスト」

 

 消費したエナから炎が噴き上がり、渦を巻く。それが弾けるように形を変え、龍の形を成した。

 

「《太陽龍コロナ・プロミネンス》を召喚」

 

『GRUAAAAA!』

 

「ちっ、面倒そうなのが出たな」

 

 中央右に、炎の体の龍が舞い降りる。炎で形作られたソレが勇ましく吠えるが、しかし──あんなに焦がれたはずの龍なのに、不思議と俺の心は揺らがなかった。

 

「《太陽龍》の召喚時効果。お互いの場の、BP3000以下のスピリットすべてを破壊する」

 

「チッ」

 

 狼獣人たちが、熱光に焼かれて消えていく。『分裂』は小回りの効く便利な能力かもしれないが、スタッツが下がる分こういった火力除去に弱い。

 

「そのままアタックフェイズだ。《太陽龍》でプレイヤーに攻撃」

 

「く、通す!」

 

「『2回攻撃』」

 

「攻撃後、カウンタースペル《成功雨読(せいこううどく)》《クオリアップ!》をそれぞれ発動するぜェ! このターン受けたダメージの半分だけ、エナと、クオリア上限を上昇させてもらう!」

 

 四点与えてるから、二点ずつ上昇か。なるほど、なんとなくしたい動きが見えてきた。

 

「ターンエンドだ」

 

「オレのターン……フッ、このターンで終わらせてもらうぜ」

 

 狼獣人は自信満々にカードを構え、盤面に投げつける。

 

「オレは赤緑2エナずつを含む6コストで、《連携する炎獅子》を召喚!」

 

「げっ」

 

 盤面に現れたのは、炎の(たてがみ)を持つ巨大なライオン。丁度昨日見たソレに、思わず顔を顰める。

 

「カウンタースペル《彩色剣備(さいしょくけんび)》発動。コストの支払いに色マナ2色以上、または色マナ4枚以上を要求するスピリットを召喚したから、達成した条件1つにつき『臨時』を獲得だァ!」

 

 スタッツが一気に10000/6と驚異的な値になった。だが、これだけではまだ負けない。

 

「アタックフェイズ! 《連携する炎獅子》でテメエに攻撃! 攻撃時効果だぜェ!」

 

 炎獅子が吼えると、熱量で陽炎が生まれる。そうして生まれた陽炎は実体を持ち、気づけば俺は囲まれていた。

 

「ターン終了時までBPが+2000され、更に『分裂2』だ。しかも、2回の分裂に成功していれば、このターン俺の場のスピリットすべてに『2回攻撃』が与えられるんだぜェ!」

 

 三体の炎獅子が場にいるが、能力が四分の一になった関係で、一体あたりのスタッツは3000/2。それだけ見ると大したことがなさそうだが、攻撃時効果のパンプも考えると、実質的なサイズはかなり大きい。

 

「その攻撃は受ける……!」

 

 迫る獅子の牙に、昨日のトラウマが蘇るが、幸い身体に響いたのは仮想質量(ソリッドビジョン)的衝撃だった。

 

「『2回攻撃』だ。一体目の分身も続けえ!」

 

「それも通す!」

 

 痛みはないが、その熱気と、身体を抉られるような衝撃は強くなっていく。これが本場の闘い(ストラグル)。早くも、残りライフはたったの2。

 

「分身の『2回攻撃』! これで終わりだァ!」

 

「《太陽龍》の『誘導1』発動。その攻撃をコイツが受け止める!」

 

 2回の攻撃で、分身のBPは7500まで上昇している。つまり、BP7000の《陽光龍》は破壊されて──

 

「破壊時効果発揮。手札から、《月影龍ルナ・クレセント》をコストを支払わずに召喚!」

 

 弾けた炎が消えた時、そこには流麗な三日月型の、蒼き龍が存在していた。

 

「《月影龍》の召喚時能力で、トークン一体をレストさせてもらうぜ」

 

「チッ、命拾いしたな。ターンエンドだ」

 

 とはいえかなりギリギリだ。相手のライフを削れているとはいえ、相手の盤面には壁が並び、おそらく防御用のリソースも抱えられてしまっている。《月影龍》は召喚時効果を除けば『ドレイン』くらいしか持っておらず、勝負を決め切ることは難しい。

 

 ──つまるところ。

 

「このドローにかかってる、ってことか……! 俺のターン!」

 

 勢いよく振り抜いた腕。その先にある、俺たちの命運を分けるカードを見る。

 その色は──漆黒。

 

「え……?」

 

 積んだ覚えのないカード。しかし何処か()()()()()()ソレに動揺する隙に、カードから出た黒い靄が俺のエナをレストする。

 

 声が聞こえた。

 

『……黒含む、7コスト。あなたのスピリットを破壊して、色エナを代替』

 

《月影龍》が、悲鳴を上げて闇に沈んでいく。そしてその闇から、禍々しい()()が浮かび上がってきた。

 

『……覚醒(アウェイク)スペル《空無覚醒(あくむかくせい)》を発動。アディショナルデッキから、覚醒(アウェイク)ウェポン《ナイトメア・ブラッドサイス》を装備』

 

「わっ!?」

 

 それは血のように赤黒く、歪んだ形状の鎌だった。ソレが独りでに、俺の元へと飛んでくる。

 危険を感じ、身を守るように手を伸ばすと、手の中に夜のように冷たい感触。恐る恐る見れば、俺は鎌を握り締めていた。

 

『……装備時効果。盤面の、最もBPの高いスピリットを破壊』

 

「ぐうっ!?」

 

 ──いや、鎌()俺を握り締めていると言った方が正しいか。

 柄の部分から伸びた黒い手が、俺の指を離さない。そしてそのまま、鎌は炎獅子の首へと伸びる。指先から伝わる、骨の抵抗。硬い肉の感触。

 

『……アタック。《ナイトメア・ブラッドサイス》で、クリーチャーに』

 

「止ま、れ……!」

 

 どうにか鎌の動きを止めようとするが、俺の膂力ではビクともしない。結局、また鎌は炎獅子の生命を断つ。

 

『……『連鎖1』発動。スピリットを破壊した時、隣接する面にいる、ソレのBP以下のスピリットを破壊』

 

「んなっ!?」

 

「うッ……!」

 

 振り抜いた鎌が、反対にもう一薙ぎ動く。ずっと重い鎌を抱えていた負担と、その無茶な挙動に、肩が悲鳴を上げる。

 

『……盤面にスピリットがいないから、覚醒条件達成。廻覚醒(リープアウェイク)

 

「は……!?」

 

()()()()()()。光は龍の髑髏のようなシルエットを象ってから収縮し、そして人型になった。

 

 腰までかかる濡れ羽色の髪。黒いヴェールの上からでも分かる、物憂げな藍色の瞳。一文字に固く結ばれた唇。胸元の開いた、喪服のように黒いドレス。死人のように真っ白い肌。

 その冷たい掌が、俺の手を包んでいた。

 

「……初めまして、御主人様」

 

「は、初めまして」

 

 馬鹿みたいにオウム返ししてから、状況も発言も飲み込めていないことに気づく。

 

「君はいったい……?」

 

「……わたしは、《悪夢龍ナイトメア・デスリーパー》。御主人様の刀──否、鎌」

 

「ヒッ……!?」

 

 そう言って、彼女は対面の狼獣人を睨んだ。気温が数度下がったような錯覚を覚える。

 

「命じて、御主人様」

 

「──よくわからないけど、いまは有難く頼らせてもらう。《悪夢龍》のBPは、ターン中にスピリットが破壊された回数×2000上昇する!」

 

「……ふ、っ……!」

 

《悪夢龍》が鎌を後ろ手に回すとその切っ先は伸び、より巨大になる。破壊されたのは4回、8000のBP上昇だ。

 

「《悪夢龍》は『共鳴3000』を持っている。BP3000につき1のクオリアを得るため、BP18000のいまはクオリア6!」

 

「……これなら、あなたに届く」

 

 彼女がふわりと飛び立ち、鎌を構えた。

 

「《悪夢龍》でプレイヤーに攻撃」

 

「……おやすみなさい、いい夢を」

 

「ぐああああっ!?」

 

 横薙ぎに振られた鎌で、獣人は吹き飛んでいった。

 ──勝者、俺。

 

 

 

 

 

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