TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第五十三話「たとえ四肢が捥がれたって」

 

 

 

「あっつー……」

 

 最初の街を出て数時間。景色こそ密林から平原に変わったものの相変わらず、一番の敵は暑さだった。

 

「そろそろ休もっか」

 

 草原に座って、水を一口飲んだ。

 パタパタと、シャツの襟元を動かして空気を送る。生ぬるい風が汗で冷やされて、本当に少しだけ涼しい。

 

「……じゅるり」

 

 前言撤回。一番の敵は味方だった。

 隣から舌なめずりと、気温よりも熱い胸元への熱視線を感じる。よく女性が言う「胸見られてるのは分かる」みたいなのってこういうことなんだ、という嫌な学びがあった。

 

「いや、違うよ? ワタシはただ、そろそろ水分補給したいなと思っただけで。その上で水分は未だ貴重だから、なるべく節約するために代替案を実行するべきだと提案したいだけで」

 

「………………」

 

「ちょっと距離取らないでよ、お姉さん寂しいな~」

 

 皇凪の胸元で、十字架がカチャリと揺れた。なんでこれが『悪いこと』に入らないのか謎である。やっぱり誓約ミスったか? 

 首を傾げていると、俺の手を黒い手が包んだ。

 

「……御主人様、冷たい?」

 

「あ、ああ……ありがとう」

 

 メアの手は、手袋越しでもわかるくらいに冷たかった。その冷気に他の誰かを思い出しつつ、どう反応するべきか迷っていると、手は解かれて俺の首に回される。

 

「め、メア……!? 急に何を……!?」

 

「……触れる面積が多い方が、効率的」

 

 背中越しに伝わる、たしかに柔らかな感触。そして冷気。

 耳元での甘い囁きにゾクリと背筋を震わせれば「なるほど、龍くんは耳が弱いのか」と皇凪は口角を上げた。

 

「それなら片方空いてそうだし、ワタシがえっちな囁きでもしてあげようか?」

 

「マジでいらんからやめろ」

 

「まあまあ、そう遠慮せずに。ふー……カテナチオ♡」

 

「えっちじゃねえじゃん」

 

「え、そっちの方が良かった? 龍くんったらヤる気マンマンじゃん♡」

 

「うぜえ……!」

 

 決戦の時に勝るとも劣らない殺意が漲ってきた。背後からそっとメアが顔を出す。

 

「……御主人様。この女、刈る?」

 

「いや、()()大丈夫」

 

「龍くんったらヒドい、そうやって必要なくなったらワタシのことも捨てるなんて……!」

 

「…………!」

 

「お前にだけは言われたくない」

 

 人もスピリットも使い捨てみたいにしてのし上がってきた女が何を言う。皇凪はケラケラ笑って「いくらワタシでもそこまでヒドくはないよ。ただ、人と道具の線引きがハッキリしてるだけでさ」と言った。

 

「まあどっちだろうと、ワタシに利益を齎してくれるうちはそんなことしないよ。愛情を持って大切にします。あ、龍くんのことは、たとえ四肢が捥がれたって捨てないから安心して?」

 

「お前、いつからそんなんになっちゃったんだ……」

 

 その暗い瞳が恐ろしいよ。他のすべてに厳しい女が自分にだけ変な甘さを見せてくるのって、逆に怖い。

 

「…………捨てられないようにしなきゃ」

 

「……メア?」

 

「……なんでもない」

 

 小さな呟きは耳に届かなかった。誤魔化すように彼女は離れる。背中の体温は混ざり合って、すっかりぬるくなっていた。

 

 

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