TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない   作:織葉 黎旺

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第五十四話「それだけは絶対に違う」

 

 

 前の街を出てから一日。食料や水にはまだ余裕があるものの、俺たちはデカい問題に遭遇していた。それは──

 

「……そろそろ風呂入りたくね?」

 

 アナザーに飛ばされてから約三日。俺たちは、ずっとそのままの状態でいた。

 しかもあの熱帯雨林を越えてきているからな。自覚はないものの、恐らく相当すごいことになっている。仮にも大きな街に向かうのだから、その前に水浴びと洗濯くらいはしておきたい。

 

「それは勿体ないよ。ここまで熟成させてきているのだから、あともう少しがんばって至高の領域まで届かせないと──」

 

「お前は何の話をしているんだ?」

 

 ワインか何かだと思ってる? 

 腐ってきているって意味では間違っていないかもしれないが。俺の身体も、お前の性格も。

 

「でも川がないからな~、いくらなんでも飲み水を贅沢に使って水浴びする訳にはいかないからな~~」

 

 あーあ、とこれ見よがしに残念そうな態度を取って皇凪は言った。小芝居がムカつくため、こちらも一芝居打たせてもらうか。

 

「皇凪……正直、ちょっとニオうかも」

 

「え”っ」

 

 小さい断末魔と共に、彼女は口をあんぐりと開けて固まった。それからワナワナとマーブルデッキケースに触れ、一枚のカードに触れた。

 

「……現れよ、『滅びを刻む秒針(バニシング・カウント・クロック)』《(セブンス)アポカリプス・ドラグ・ランサー》」

 

『──██████』

 

「ちょ、お前……ッ!」

 

 主の求めに応じて、異形の龍が姿を現す。その降臨に大地は震え、空には暗雲が立ちこめ始める。

 

「悪いんだけどさ、ちょちょっとジャンプして、空から川とか湖とかありそうなとこ探してくれない?」

 

『……………………』

 

 歴史上『滅びを刻む秒針』に求められた仕事として、恐らく最もしょぼい役割が生まれた。

 

「『滅びを刻む秒針』に何命じてんだお前!?」

 

「だって他に頼める子いないしぃ、ランサーならこんなのおちゃのこさいさいだしぃ……あ、クサい口開いてごめんね……」

 

「く……」

 

 仮にも女性に、匂いというデリケートな指摘を行ったのが原因なため、強く言いづらい。せめて反抗してくれという想いを込めながらランサーを見れば、その四本の足で大地を踏み締めて、力強く跳躍した。

 

「マジか!?」

 

 雲に届きそうな程上空に飛んだ後、ランサーはそのままの勢いで着地し、大きなクレーターを作った。

 

「██████──!」

 

 そしてそのままの勢いで、手に持つ槍を一方向に投擲。

 第三宇宙速度で放たれた槍は、軌道上の物を遍く破壊し尽くし、どこかへと消えていった。

 

「……あっち、ってことか?」

 

「だろうね。ありがとうランサー、また呼ぶからね~」

 

『……██████』

 

 相変わらず何言ってるのかまったくわからなかったが、何を主張しているのかは伝わってくる。『こんなくだらないことに二度と呼ぶな』だ。

 

「うんうん、ランサーも久しぶりにワタシと会えて嬉しかったみたいだね」

 

「それだけは絶対に違う」

 

 言わぬが花、とばかりにランサーは消えていった。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 俺たちはランサーが生み出した破壊の傷痕に沿って歩いた。

 こう見るとやはり、世界を滅ぼし得るスピリットであることがよくわかる。

 俺と皇凪が両手を広げても余りある横幅に、俺の膝くらいまで抉られた大地。巻き込まれたスピリットがいないことを祈るばかりだ。

 

「もう絶対あんなことやらすなよ」

 

「え~」

 

 皇凪が口を尖らせた。仮にも己のスピリットなら手綱くらい握ってほしい。『川を探せ』とかいう命令で、なんでこんな結果が出力されるんだよ。

 

「まー許してあげてよ。きっとこれは、障害物を避けて最短で行かせてあげようとする、ランサーの粋な心遣いなんだからさ」

 

「お前の雑な心配りを責めてるんだよ」

 

「……お、なんか見えてきたんじゃない?」

 

 露骨に話を逸らしやがってと思いながら皇凪の指さした方を見れば、道の先、大地の抉れた部分に、水が流れ込んできている。

 近寄ってみれば、そこは湖のようだった。向こう岸が見えはするものの、そのまま突っ切るのは現実的ではないくらいに大きい。

 泳いでいる魚も見えるが、水質的にそこまで濁っているようには見えないし、身体を洗う程度なら問題はなさそうに見える。

 

「……煮沸すれば飲めるか? 流れのない水は危ない、みたいな話を聞いたことがあるけど」

 

「巡廻していない水はたしかにバクテリアや微生物が繁殖しやすくて危険とされているが、煮沸すれば大抵の菌は死滅するから問題はないかな。尤も、これは地球での常識であって《アナザー》で通ずるかはわからないけどね。ていうか、仮に巡廻してても自然界の水は野生動物の糞尿が混ざっている可能性があるし口を付けないのが安全だよ」

 

「なるほど。あとで火を起こしておくか」

 

 何気ない呟きに対し、完璧な回答が来た。

 ここ数日のセクハラで麻痺していたが、コイツはただの変態ではなく、悪の天才科学者兼秘密組織のボスなのだった。その知識力だけは感心に値する。

 

「ああちなみに、湖の水よりは安全性の高い飲料水の確保手段があって、これには龍くんの協力が必要になるんだけど──」

 

「絶対しない。俺先に身体洗ってくるから、お前は水を煮沸しておけよ」

 

「亭主関白……!」

 

 軽口は無視して、見られない程度に距離を取る。

 久方ぶりに、一人になった。水際に立って、澄んだ湖を眺める。

 

「……本当に大丈夫かな」

 

 先程の皇凪との会話を経て、湖の水質に若干不安が芽生え始めた。たしかに見た目は綺麗だが、実態がどうだかはわからない。喋ってみると残念な美人と、少しだけ似ている。

 

「……ん?」

 

 水面に映る自分の顔が波紋で揺れた。見れば、波紋の震源は遠く、湖の中央であることが分かる。次第に振動は湖面だけでなく、足元からも起こっていることがわかった。

 

「なんだ……!?」

 

 一際振動が強まり、俺は思わずよろけた。同時に、爆発みたいな水飛沫を立てながら、湖に巨大な何かが浮かび上がった。

 

(ちん)の神聖な泉を汚したのは、其方(そちら)か』

 

 ──それは流麗な龍だった。

 蛇のようにとぐろを巻いた、太い尾。

 全身を覆う、水よりも蒼く澄んだ、煌めく鱗。その鱗で装飾され、冠のようになった角。白い双眸は、怒りの色でこちらを見据える。

 何の話かと思ったが、恐らくランサーの一撃の話だろう。吹き飛ばした木々や土が、湖に流入しているだろうし。

 

「え、ええっと、俺っていうか、俺のツレがやったっていうか……」

 

『つまり、其方が悪いということで違いないな』

 

「違いあります!!!」

 

「違いありません!!!!」

 

 とばっちりすぎる。罰するならアイツにしてくれ──という願いを込めながら皇凪がいた方を向けば、もう隣に立っていた。

 

「申し訳ございません龍神様! ですがこれも、致し方なかったのです。ワタシたちは旅の者。数日飲まず食わずで身体を清めることもできず、この付近を彷徨っていたのであります。そんな中、なんとか見つけることができたのがこちらのステキな泉。龍神様、どうか愚かな我々の罪をお許しください……」

 

「………………」

 

 う、胡散臭すぎる。瞳に涙を潤ませての、芝居がかった大袈裟な立ち振舞い。

 虹崎皇凪という人間を知っていれば助走をつけて殴り飛ばしたくなるようなそんな仕草も、しかし目の前の龍には刺さったらしく『……情状酌量の余地をやろう』と、譲歩の姿勢を引き出すことに成功した。

 

「やたっ、龍神様ありがとー! じゃあこちらの男児(おのこ)が力を見せますので、勝った場合はどうぞお慈悲を!」

 

『朕に勝てたらな』

 

「ついでに飲み物とか、身体を清める場とかもお願いしていいかな~?」

 

『そのくらいお安い御用だ──ただ、朕に要求するということは、其方等もそれなりの対価を払う覚悟はあるのだろう?』

 

「勿論!」

 

『もし朕が勝ったら、其方等は人身御供だ』

 

「どんとこい!」

 

「おいその軽率に命賭けるのやめろ!!」

 

 自分の命だけを賭けて自分でストラグルするならそれでいいのだが、俺と一蓮托生な上に、どうせ今回も俺にやらせるのだから変なプレッシャーを掛けないでほしい。

 

「大丈夫だよ。死ぬ時ゃ一緒だし、ここで負けるならいずれにせよだし──何より、命賭けさせたんだからこの(ニョロニョロ)にも()賭けさせないと」

 

『其方……! 後悔するがいい……ッ!』

 

 水上に透明な足場とテーブルが現れ、俺はそこに飛び乗る。敵のテリトリーだろうがやるしかないぜ。

 

『「レッツ・ストラグル!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

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