TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない 作:織葉 黎旺
──細長い巨体が水面へと倒れ、噴水のような水飛沫が上がった。
『な、この朕が……ッ! 矮小な人の子ごときに……ッ!』
「悲痛な声も上がっておりますよ〜っと」
何のマジックか、沈まず水面に横たわる
「ねえねえ、いまどんな気持ち? 見下してたガキ共に負けてどんな気持ち?」
『く、殺せ……!』
「そんなヒドイことしないよ〜、ねえオヤブン?」
「誰が親分だ」
しかもどちらかと言えば酷いことしてるのは皇凪だし。『悪いことしない』の誓約はマジでどこに言ったんだ? 向こうも横暴だったからセーフってことか?
「さ、じゃあ約束の報酬タイムといこうか。一旦綺麗な水と、身体清められる場所──というか風呂みたいなの作ってもらっていい?」
『チッ……!』
蛟が額の角から光を放つと、湖の一角が動き、岩でセパレートされ、湯気が立ち上り始める。そんなことできるんだ。
「あと最後に──こっちは命賭けたんだからさ、魂の一欠片くらい出すのが筋だよね?」
『これ以上はないからな……! 疾く失せろ……!』
蛟が尻尾を翻すと、俺たちの手に、水飛沫と共に一枚のカードが降り注いだ。入手方法はヤクザじみていたが、貴重な戦力の確保である。
礼を言おうと思ったが、蛟の姿は既になかった。嫌われたものである。
「さて、これでようやく身体を洗えるね。とはいえスポンジもタオルもないこの状況では不便だろう。となれば、ワタシが柔肌を使って洗うしか──」
「先にお前の心を洗ってこい」
*
さっぱりしたところで、俺たちは次の目的地に向けて動き出した。
「蛟白竜、強かったな。負けて生贄にされててもおかしくなかった」
「そう? 龍くんなら余裕でしょ?」
「お前の俺への信頼はどうなってるんだ」
厳しい戦いだった。
最後のドローでアイツが来てくれなかったら、今頃俺達は水底に沈んでいた。
「ありがとな、メア」
「…………ん。当然」
振り向いて言えば、とことこ着いてきていたメアが頷いて答えた。表情は変わらないが、どこか満足そうに見えた。
「いやあ、流石だねメアちゃん。期待の星だねえ」
「…………うん」
妙な間と、声の冷たさがあった。何となく分かっていたが、メアは俺と皇凪で露骨に反応の差がある。
「いやいや本当に、メアちゃんがいなかったらワタシたちなんてとっくに野垂れ死んでるよ〜」
まだ出会って二日だし出会って二戦目だろうが、という言葉は飲み込む。実際メアがいなかったらどちらの試合も勝ててたか怪しいし、褒めているところにわざわざ水を差す必要もないだろう。
「……ご主人様を守るのは、道具として当たり前」
「ふうん、忠義者だねえ」
しかしそんな褒めの言葉も、メアの鉄面皮を剥がすにはいかないらしく、むしろ露骨なヨイショにあまりいい様子は示さなかった。
「でもワタシは、そんな忠義者には
いつも通りの、何かを企んでいそうなにやけヅラをこちらに向けて、皇凪は言った。
「……まあ、たしかにそれはそうか」
余計なことを、という気持ちもあるが、納得もある。
貰った恩は人だろうがスピリットだろうが返すべきだし、共にいてくれるヤツには、何かしてやれることを探すべきだろう。
「メア、何か欲しいものとかあるか? 俺にあげられるものなら、どうにかするけど」
「…………? 特に、ない」
「そ、そっか……」
手のかからない子である。それはそれで怖い。
「ご主人サマのことは気にせずなんでもいいんだよ〜。好きな食べ物とかないの?」
「……
「中々渋いセンスだな」
元の世界ならすぐにでも買ってきてあげたが、生憎ここは《アナザー》。牡丹餅どころか、餡子があるかどうかも怪しい。
「いまは難しいから、それはまた今度やるよ。他何かないか?」
「……ほか…………」
顎に軽く手を当てて、ううんと唸ったメアは、思い出したように目を見開いて腰を落とした。
「……頭、撫でてほしい」
「そのくらいなら、全然……」
片膝を着き、上目遣いでこちらを見るメア。少し躊躇いながらも、濡れ羽のような黒髪に手を伸ばす。
「……ん…………」
そのまま手を前後させると、メアは目を細め、されるがままになった。サラサラと滑らかな感触が手の中に残る。
「こんな感じでいいか?」
「……ん、続けて」
「はいはい」
普段の様子は忠犬のようだが、こうしているとまるで猫のようだった。喉を鳴らす訳ではないけど、微かに息を漏らしているのが分かる。
「いやあ、美しい主従の絆だねえ」
「おい、見世物じゃないぞ」
「え〜、いいじゃん減るもんじゃないし。ワタシのも見せてあげたでしょ?」
「ええ……? もしかして合宿の時の、
「でもアレは主の為を思って身を賭した、謂わば『月のうさぎ』ばりに美談になるべき話じゃ……!?」
「悲劇でしかないだろ」
「………………」
煽りのせいで無意識に手が止まっていたらしく、メアがこちらへ物欲しげな視線を寄越した。
「……あれは、とても美しかった。主人の為に身を賭す、道具のあるべき形」
「いやお前もそっち側なんかい!」
「でしょ? メアちゃんはよく分かってるね〜。ほら、龍クンが異端なんだよ?」
「ん。仕えるモノなら、当然の気概」
「そうだよ。そも、我々も主としての振舞いを常日頃から心がけてだね……」
あんなに気まずそうだったのが嘘みたいに、息ピッタリに二人は言葉を畳み掛ける。距離が縮まるのはいいことなんだけど、歪んだ主従論に基づいて仲良くなるのはどうなんだ。いっそのこと二人で組んだ方がいいんじゃないか?
その場の