TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない 作:織葉 黎旺
「はあ、はあ……」
熱狂的な歓声と吹き荒れる砂埃の中、彼女は肩で息をしながら、両腕をだらりと弛緩させた。
爪の先は濁った赤に染まり、周りには虫の息の他人の群れが寝転ぶ。こんなことしている場合じゃないのに……
「…………ますたー」
*
「あ、ますたー久しぶり〜〜〜」
「ああ……無事に会えてよかった……!」
部屋に入ると、ふに子がいつもと変わらないふにゃふにゃした笑顔で俺を出迎えてくれた。
ここは闘技場の控え室。有料で闘士と話せるサービスがあったため、それを活用して会いに来たというわけだ。
客と闘士双方の安全のために、俺たちの間は石造りの格子で遮られている。
「ぜんぜん無事じゃないよ~~、毎日働かされるしホント最悪~~~、三食昼寝付きの生活が恋し~~~~」
「そんな生活は元からないだろ」
働かざる者食うべからずである。
闘技場での不穏な様子が心配だったが、杞憂だったのだろうか。
「話すことも聞きたいことも多すぎるけど、とりあえず、なんでこんなところで闘ってるんだ?」
「ん〜〜〜とね、飛んできてすぐ人攫いみたいなのに捕まって、抵抗もめんどくさいからそのまま流されてたら、ここに売り飛ばされてた〜〜〜」
「それは大変だったな……」
「一日に一回は戦わされるしさ〜〜、他の人と違って売られてきてるから自由がなくて、それ以外の時間はゴロゴロするくらいしかすることないし〜〜〜」
「できてるじゃん、三食昼寝付きの生活」
「労働がなければ最高だね〜〜〜」
「まあ──でも、お前がそうやって闘ってくれたおかげで、俺たちはお前を見つけることができたからな。ありがとう、ふに子」
「くふふ、どういたしまして〜〜〜。で、ますたーは今まで何してたの〜〜? 他にも誰かいるんでしょ〜〜〜?」
「ん、ああ。話すと長くなるんだけど──」
皇凪との再会。メアとの出会いを言葉を選んで伝えようとしたところで、面会室の扉が開いた。
「お、面会室ってこんな感じなのか。刑務所みたいで過ごしやすそうだね?」
「……………………」
入室したのは、話題に挙げようとしていた二人。顔を合わせた瞬間、ふに子の機嫌が悪くなったのが伝わってきた。
「……ますたー、女の趣味悪くなったね?」
「お前ら、表で待ってろって言っただろうが……!」
「だって説明した方が早くない? どうせ顔合わすんだしさあ」
合わせ方って物があるだろうが、と言ってやりたかった。しかし人の機微がわからない女は、そのまま不機嫌そうなふに子に向かい合う。
「お久しぶり、ドラゴン娘」
「なんであんたがそこにいるのさ、まな板女」
「ワタシはパッパに復讐して、ついでに世界を救うために、龍くんと旅をしているんだよ」
「アンもリザもフェルも、バラバラにアナザーに飛ばされちゃって、まだ合流できてないんだ」
「……だからって、この女はさあ〜〜〜〜」
「ふに子の気持ちもわかるけど、コイツにはかなり助けられてる。一応悪いことはできないようになってるし、ある程度信用してもいい」
「お、デレ期だ。ぺろぺろ」
「キッショ」
「チッ」
こちらに顔を近づけてくる皇凪を押さえつけていると、ふに子が大きな舌打ちをした。
「……じゃあ、そこの子は?」
「……わたしは、メア。御主人様の、
「合宿の時に拾った黒いカードがあっただろ? あのカードがメアで、俺がピンチになった時に助けてくれたんだ。いい子だぜ」
「…………ふ」
「……へ〜〜〜、そうなんだ〜〜〜〜」
どこか意味ありげな細目でふに子はメアを見て、それから瞳を伏せた。
「で、これからどうするか相談したいんだけど──」
「ん〜〜〜とね、ま〜あたしは一旦ここから離れなくていいかな」
「…………え?」
立ち上がったふに子は、手錠についた鎖をジャラジャラと鳴らして踵を返す。
「じゃ、がんばってね〜〜〜〜」
「ちょ……ちょっとまてふに子!」
こちらに振り向いたふに子が、小首を傾げて言った。
「え〜〜? なに〜〜〜?」
「がんばってね、ってどういうことだよ。だって、これから一緒に──」
「いらなくない?」
ふに子は淡々と言った。その瞳は据わっていた。
「性悪女が一緒で、更に新入りの子がいるんでしょ〜〜〜? じゃあ戦力としては十分だし、ここまでやってこれてるんだから、あたしはいなくても問題ないよね〜〜〜?」
「なっ、そんな訳ないだろ……!」
「そもそも、世界救うとかどうでもいいし〜〜〜、それはますたーたちに任せるよ〜〜〜」
「……お前、それ本気で言ってるのか……?」
「あたしが自分に正直なの、ますたーはよく知ってるでしょ〜〜? 本気だよ。いままで戦ってたのも別に世界が大事なんじゃなくて、みんなと、ますたーといたかったからだし〜〜〜」
「…………ぷっ」
隣で、皇凪が小さく笑みを漏らした。空気が一段階冷えたのを感じた。ふに子の放つ威圧感が、肌を粟立たせる程に強まった。
「何がおかしいの?」
「そりゃおかしいでしょ、ガキの癇癪じゃん。要するに、龍くん取られて寂しいから、
「はあ? ぜんっぜんそんなことないけど──」
「よく言うよ。龍くんと一緒にいるのがワタシたちじゃなくて、他のドラゴン娘どもだったらノリノリで着いてきたクセに」
「…………」
流石に図星だったらしく、ふに子は忌々し気な瞳を皇凪に向けるばかりで、口をきゅっと結んだ。
「色々あったしワタシのことが許せないのもわかるけどさあ、いまはそんな些細なことで争ってる場合じゃないじゃん? キミは龍くんと愉快な仲間たちさえ無事ならなんでもいいみたいだけどさ、うちのパパの企みが成功したらそんな大事な場所も壊されちゃうわけだし。一旦いままでの禍根は水に流して、ワタシとも仲良くしない?」
「…………ッ」
「…………ふに子。きっと、一緒にいられなかった間に色々ひどい目に遭ったんだと思う。闘技場で戦うお前の姿は、いつもと違ってとても苦しそうだった。そんな中でようやく再会できたと思ったら、昨日までの宿敵と一緒に戦えって言われて、腸煮えくり返るのもわかる。でも、俺にはふに子が必要なんだ」
「…………」
「たしかに皇凪は人間性の終わってるカスだけど、それでも味方としてはかなり信頼できるし、メアはめちゃくちゃいい子だ。でも、やっぱり俺にはお前たちが必要なんだ……!」
「……あーあ」
ふに子が、小さく溜息を吐いた。張り詰めた空気は気が抜けたみたいに霧散して、彼女は観念したみたいに笑った。
「あんたにまで説得されたら、あたしが意地張ってるのが馬鹿みたいじゃん。いいよ、世界ってヤツを救いに行ってやってもさ」
「ふに子……!」
「でも、その前に一つやってもらわなきゃいけないことがあるんだよね~~~」
ふに子の腕の鎖が、じゃらりと鳴った。いまだふに子をこの場に縛るもの。それは。
「足抜けしたい闘士が挑まされる
「──勿論、そんな門くらいこじ開けてやる」